元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「心の羽根」

2012-04-23 06:41:55 | 映画の感想(か行)
 (原題:Des plumes dans la tete )2003年作品。幼い息子を失い、精神破綻状態になった主婦がたどる長くて孤独な心の旅を描くベルギー映画。これが長編デビュー作になったトマ・ドゥティエール監督の映像感覚と編集テクニックに注目だ。

 映画の冒頭の、カワセミが水中の魚を捕食する画像を仰角(魚の視点)でとらえたショットをはじめ“命が突然奪われる”というイメージを野生動物の生態を通した暗喩で度々表現しているが、挿入のタイミングが絶妙であるため、観客に意図を見透かされる余裕を与えない。

 それ以前にバードウォッチャーであるというドゥティエールの、自然の風景を切り取るセンスはなかなかのもので、寒色系のフィルターを通した映像の数々はどれも清涼な美しさに満ちている。



 狂言廻しのような役割で登場する“三人組の合唱隊”がヒロインの危うい内面のメタファーになっていることや、葬儀のシーンから室外の場面へと映像が切り替わるあたりの演出の意外性など、ともすれば一本調子になりがちな話の運びを、あらゆるテクニックを駆使して引っ張っていく姿勢は見上げたものだ。セリフを必要最小限に抑えているのも効果的である。

 映画は後半、ヒロインと周囲から疎外されている孤独な若者とのやり取りが中心となるが、その決着の付け方には正直驚かされる。この作者の冷徹な視線は、最後まで微塵も揺るがないのだ。

 主役のソフィー・ミュズール(元々は舞台女優らしい)の熱演も要チェック。たぶんフランソワ・オゾン監督の「まぼろし」との共通性を指摘されるだろうが、こちらの方がずっと先鋭的であると思う。
コメント
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