元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「第9回九州ハイエンドオーディオフェア」リポート(その4)

2012-04-02 06:30:13 | プア・オーディオへの招待
 国産のスピーカーに対しては点が辛い私だが、本イベントでは珍しく納得できる音を出す日本製のスピーカーを2機種見つけた。ひとつはTAOCのFC4500である。TAOCは鋳鉄製品メーカーであるアイシン高丘が手がけるオーディオ・ブランドで、当初は鋳鉄製のスピーカースタンドなどを発売していたが、約10年前からスピーカーもリリースするようになった。

 ただし、発足当時の同社のスピーカー作りはあまり感心出来るものではなかった。鋳鉄メーカーらしい高剛性の構造で見た目の重量感はあったが、出てくる音はゴツゴツとした色気も何もない無愛想なもの。そのせいで長らく私はTAOCのスピーカーを敬遠し、試聴もしていなかったのだ。ところが、久々に接した同社の製品は、かなり音が練り上げられている。変に硬いところや特定帯域に強調感を加えたようなケレン味はなく、フラットでしなやかだ。弦楽器もヴォーカルもスムーズに鳴る。安定感のあるエクステリアも相まって、海外製品に対する競争力も期待出来よう。



 もうひとつはECLIPSEの新製品TD510zMK2である。ECLIPSEはカーステレオ等で知られる富士通テンが展開するブランドで、10年あまり前から家庭用のスピーカーも開発するようになった。タイムドメインと呼ばれる音響理論に則った同社の製品は、卵形のユニークな外見をしている。そのスタイルは国産品では珍しく垢抜けており、グッドデザイン賞も獲得しているほどだ。

 しかし前述のTAOC同様、最初にリリースされた時の印象は芳しいものではなかった。とにかく音色が暗くて潤いがない。艶も温度感もない。これはピュア・オーディオ向けではなく、AVシステム用に過ぎないと思ったものだ。ところがこの新作は、完全に一皮剥けている。滑らかに包み込むような音場が特長で、不自然に刺激的な部分はどこにもない。音像もシッカリしていて立ち上がりが速い。価格はペア40万円弱とそんなに高くはなく、しかもスピーカースタンド込みだからリーズナブルとも言える。ドライヴしていたONKYOのセパレートアンプとの相性も良く、デザインも含めて要注目の製品だ。

 さて、他にもいろいろな機器を試聴したのだが、ひとつひとつ書いていくとキリがないので、まことに恐縮だが端折らせていただこう(おいおい ^^;)。最後に印象に残ったスタッフのコメントを2つ紹介したい。まず、某国内大手メーカーの管理職が言ったセリフ。詰めかけた参加者の前で“私どもは、主に団塊世代およびその上の方々を相手に、今後も商売を続けていく所存です”と堂々と述べたのだ。

 確かに団塊世代は小金は持っている。でも、彼らはこれから耳が遠くなる一方なのだ。そんな層を重視したところで、目先の利益は得られるかもしれないが、やがては尻すぼみである。どこの業界でもそうだが、新しいマーケットを開拓せずに“内向き”のビジネスに終始している企業に明日はない。そもそも、ピュア・オーディオのブームを体験しているのは40代から上である。しかも、現役世代の40代・50代は景気が悪くて金回りが良くない。退職金だって満足にもらえるかどうか分からないのだ。このままでは10数年後に団塊世代がこの世から“退場”し始めるようになれば、ビジネスも終わりである。その意味でくだんのスタッフの言いぐさは噴飯物でしかない。



 次に、輸入代理店の中堅社員が話してくれたことを挙げたい。某家電量販店で新作スピーカーのデモを行った際、終了後に若い女性がその社員に近寄り“とても素晴らしい音で、感動しました”と告げたそうだ。別に彼女はそのスピーカーに対してのみ好印象を抱いたわけではなく、ピュア・オーディオのシステムに接するのが初めてで、ミニコンポやDAP以外で音楽を楽しむ手段が存在することを知って嬉しくなったということだ。

 その社員も“とても幸せな気分になった”と喜んだらしいが、本来はこういうオーディオの楽しみを知らない若年層や女性に切り込んでいくことがマーケティングの王道ではないのか。若い者はCDを買わない、女性はメカに弱い、そもそも多くの者が音の悪い圧縮音源で満足している、だから団塊世代を相手にするしかない・・・・という単純な思考では未来が見えるはずもない。

 いくらクォリティの低いダウンロード音源が大手を振って罷り通っていようとも、少しでも良い音で聴きたいと思っている若者や女性は確実にいる。そういう層を掘り起こすのが業界の役目であるはずだ。私見だが、メーカーもディーラーもその努力をしていないように思う。

 今回のフェアに集まったのは、見たところ多くが60歳以上だ。法外な値段の付いた機器の展示会もオーディオファンにとって楽しいのは事実だが、業界全体の発展を考えると真に有意義なイベントだとは言い難い。本当に必要なのは「ハイエンドオーディオフェア」ではなく、幅広い層を対象とした「ローエンドオーディオフェア」なのだ。

(この項おわり)
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