元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「書道ガールズ!! わたしたちの甲子園」

2010-06-06 06:45:56 | 映画の感想(さ行)

 高校の部活を題材に取り上げ、なおかつ出演が成海璃子と山下リオなので、どうしても印象が少し前に観た「武士道シックスティーン」とダブってしまうのだが(笑)、こっちの方が面白い。まず勝因の一つは、書道というネタを採用したことである。

 NHKドラマ「とめはねっ!」でも分かるように、書道は意外と絵になる。特に本作で描かれる書道パフォーマンスは、撮りようによってはかなり盛り上がる素材だ。ヴィジュアル面で映えれば、登場人物達の“成長”が一目瞭然となり、またそれによってスムーズな作劇が容易になる。

 もうひとつの“手柄”は、舞台を地方都市に置いたことである。かつては製紙業で栄えながら、折からの不況で寂れる一方である愛媛県の四国中央市。商店街はシャッターを降ろし、住民の表情にも覇気がない。ここで主人公達は何とか書道パフォーマンスで町興しに一役買おうとするのだが、この動機付けに(実話ということもあるけど)不自然さはなく、映画の求心力を高めている。

 つまりは「武士道シックスティーン」の欠点であった“画面上での訴求力の低い題材を選んだこと”および“舞台背景に個性がないこと”を完全に埋めているのだ。別にこれは、二本の映画の比較のみについて言えるのではない。テーマとバックグラウンドの設定は、映画作りにおける大事な要素である。これらをクリアすれば、あとは何とかなるのだ。

 ストーリー展開とキャラクター配置は、スポ根もののルーティンを素直にトレースしている。書道家の父親の下で求道的な“書の道”を目指す部長(成海)と、彼女の友人であり皆で楽しむことを第一義的に考えている部員(桜庭ななみ)、そして書の才能はありながら家庭の事情でドロップアウトし、書道部を斜に構えた立場から見つめる者(山下)という主要3人の性格付けは目新しさはないが、観ている側をスムーズに物語に引き込む無理のなさがある。

 最初はバラバラだった彼らが、やがて一致団結して大舞台で活躍するという筋書きは定番だが、キャスト陣の頑張りもあってクライマックスはかなり盛り上がる。巨大な半紙に文字と格闘するシーンは吹き替え無しだ。対戦相手チームのパフォーマンスも(こっちは本物であるが)素晴らしい。

 猪股隆一の演出はこれといった特徴はないが、余計なケレン味を廃した正攻法のもの。自然な進行ペースを守り、ギャグの振り方にもワザとらしさはない。脇を固める高畑充希と小島藤子もイイ味を出しているし、宮崎美子や金子ノブアキ、森本レオといった大人の出演陣もそれぞれ見せ場を与えられ、全体的なバランスを取ることも忘れていない。とにかくウェルメイドな佳篇であり、観る価値はあると言える。
コメント
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