元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「名もなきアフリカの地で」

2009-01-24 06:36:59 | 映画の感想(な行)
 (原題:Nirgendwo in Afrika)2001年作品。1930年代末から40年代にかけて、迫害を逃れてドイツからケニアに渡ったユダヤ人一家を長女の視点から描く、当該年度のアカデミー外国語映画賞受賞作。監督は「ビヨンド・サイレンス」などのドイツの若手女流カロリーヌ・リンク。

 監督が女流のせいかどうかわからないが、登場人物、特に母親(ユリアーネ・ケーラー)に対する扱いが辛辣な点が興味深い。最初は文明から隔絶されたアフリカの生活に馴染めず文句を言い、弁護士の職を解かれて雇われ農場主に身をやつしている夫(メラーブ・ニニッゼ)をなじる。かと思えば、数年経ってケニアの生活に慣れてくると、今度は戦争が終わったドイツに帰ろうとする夫に猛反対。その間にも(事情があるとはいえ)イギリス人将校や夫の僚友と浮気三昧だ。

 ただし、それを作者は殊更指弾したりはしない。逆境に置かれた人間の意志薄弱さを丹念に描くことにより、よくある“反戦映画”や“ユダヤ人受難映画”のルーティンにはまり込むことを巧妙に避けている。戦争が起こったからすべての家族が一律に不幸になるのではなく、それぞれ戦時には戦時の事情を抱えて懸命に生きているのだという、いわば当たり前のことを真摯に綴っている。また、それにより一家に対するケニア人コックの醒めたようでいて実は敬愛を込めた態度がより印象付けられるのだ。

 カロリーヌ・リンクの演出は「ビヨンド・サイレンス」と比べてかなり進歩しており、起伏のあるストーリーの大河ドラマを力業で見せきっている。アフリカの風景と野趣にあふれた音楽も魅力。
コメント
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