(原題:Mirrors )物足りない。鏡をモチーフにしたホラー篇ならばいくらでも恐い映像が撮れそうなものだが、凡庸な展開に終始。観賞後には当分は鏡を覗くのが恐くなるように観客に仕向けるほどの尖ったホラー描写は、最後まで出てこない。
思うに、これは作者(監督と脚本はアレクサンドル・アジャ)のイマジネーションの貧困ぶりが如実に現れているのだろう。昔から鏡をネタにした怪異譚は少なくない。それは、単に鏡の前にある画像を映し出すという物理的なものだけではなく、左右が逆になる等、現実とは似て非なる“もう一つの世界”を喚起させる小道具としての存在感ゆえである。たとえば、もしも鏡に映った自分の姿が実際の自分とは違う行動を取ったとしたら・・・・と考えるだけでも肌に粟立つような気分になる。
でも、この映画にはそんな日常の中に現出する恐怖の陥穽といった思い切った仕掛けが全然見当たらず、描写自体は過去のホラー映画でよく見かけたようなパターンばかり。事件の発端となった火災現場後の大きな鏡は典型的ゴシック風味だし、惨劇シーンは恐怖よりもグロ度を強調しているようで、観ていて盛り下がるばかり。大きな音を立てて驚かすという芸のない方法も脱力する。
よく考えてみたら全体の流れは「リング」の二番煎じとも言えるし、子供が犠牲になりそうになるあたりは「ポルターガイスト」シリーズとも似ている。ラストのオチなんかジョン・カーペンター監督の「パラダイム」(87年)と似てないこともない。オリジナリティの面からも難があると言えよう。
そもそも、誤って同僚を射殺してしまった元警官である主人公の“心の闇”の表現を通り一遍に済ませてしまったのが痛い。彼には元々怪異現象を呼び込む素地があった・・・・という筋書きにすると、もうちょっとドラマに厚みが出てきたかもしれない。
主演のキーファー・サザーランドは頑張っているが、エキセントリックな度合では(今のところ)父親のドナルドにはとても及ばない。もっと精進が必要だろう。対して妻を演じるポーラ・パットンは「デジャヴ」でも見せた美しさが今回も活きている。最近のアメリカの女性芸能人って黒人の方に美人が目立つね(^^)。