元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ディック・トレイシー」

2008-11-03 07:29:24 | 映画の感想(た行)
 (原題:Dick Tracy)90年作品。1920年代の架空の街を舞台に悪者ギャングたち相手に大活躍する刑事ディック・トレーシーを描いた冒険活劇。監督・主演はウォーレン・ベイティ。

 原作は1930年代から新聞に連載されたコミックスだ。となると思い出すのが同じコミックスの映画化である「バットマン」である。あのシリーズは舞台装置に凝りまくり、原作の世界を再現しようとしていたが、この「ディック・トレイシー」もアプローチの仕方は同じ。書き割りの背景にミニチュアの都市、漫画的メーキャップを施した登場人物、すべてが原色に彩られた空間はファンタジーの世界だ。SFXが非常に見事で、カメラがまた素晴らしい。撮影はヴットリオ・ストラーロである。ストラーロといえば「地獄の黙示録」や「コットンクラブ」のカメラマンである。光と影の強烈なコントラスト、さらに登場人物の性格に合わせた色彩の使い方は絶妙で、これはもうベイティの映画というよりストラーロの作品といっていいほどカメラが多くを語る一編である。

 しかし、映画自体はさっぱり面白くない。まず、ストーリーが退屈である。そしてアクション・シーンがまったく盛り上がらない。雑誌の資料によると、原作コミックの味を存分に出すため、マンガのコマ割りとそっくりなカット割りを多用したという。だから活劇場面でも何やら画面が固定されており、映像が弾んでこない。いくら原作に忠実といってもコミックスと映画は違う。映画らしい盛り上がりを無視して原作をなぞってみてもどうにもならないと思う。

 それから主人公ディック・トレイシーのキャラクターが面白くない。デクの棒といった感じで、マジメ一本槍の退屈な男である。トレイシーよりギャングのボスのアル・パチーノの方が見せ場が多い。加えて酒場の歌手に扮するマドンナやトレイシーの助手となる少年キッドという面白い登場人物もいたりするので、ますますもって主人公の出る幕がなくなってしまっている。監督もアクション・シーンの下手なベイティよりロバート・ゼメキスとかリチャード・ドナーあたりの手堅い演出家が担当した方がより盛り上がったのではないだろうか。
コメント
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