元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「リダクテッド 真実の価値」

2008-11-04 06:43:37 | 映画の感想(ら行)

 (原題:REDACTED)観ていて鼻白むような映画だ。イラク戦争の拠点であったサマラで、地元の少女を駐屯していた米兵がレイプして惨殺した実話(とされる出来事)を、ドキュメンタリー・タッチで再現しようというのが本作の狙い。しかし、描き方が単純に過ぎてさっぱり盛り上がらない。

 たまたまその部隊に映画業界を目指す若い兵士がいて、持参したビデオカメラで日常を撮っている間に事件に遭遇してしまうというシチュエーションそのものが安易極まりない。元々このレイプ犯は本国では“お尋ね者”扱いで、こういう奴らを無理矢理に戦線に送ってしまうのは問題である・・・・と言いたいのだろうが、そんなのは直截的に説明されても“ああそうですか”と相づちを打つしかないだろう。

 もっとドキッとするような人間のダークサイドをえぐり出す工夫は考えつかなかったのか。これでは“悪者が戦場に行ったら、やっぱり悪いことをした”という語るに落ちるような構図しか提示出来ていないではないか。旧態依然たる“戦争は常軌を逸した場所です”とかいうスローガンの連呼のごとき芸のない展開に、中盤以降は眠気を抑えるのに苦労した。

 それでも映像派のブライアン・デ・パルマ監督らしく、ここではざらついたホームビデオの画面やYOUTUBE等の動画サイトを多数織り交ぜ、即物的な似非ドキュメンタリーとしてのいかがわしさを出そうと腐心はしている。しかし、これもまったくの不発。挿入のタイミングやカット割りが脱力してしまうほど退屈なのである。残虐場面のケレン味なんかをもっと出しても良かったのではないか。かつてホラー映画で鳴らしたデ・パルマとも思えない凡庸な画面の連続は、彼の力量の衰えをハッキリと認識できるものでしかない。

 ベトナム戦争を題材に同様のネタを扱った「カジュアリティーズ」(89年)での切迫度はどこにも見当たらない。少なくともマイケル・ムーアの「華氏911」には完全に負けている。ポール・ハギスの「告発のとき」にも遠く及ばない。これではいけないと思ったのか、ラストでは実際のイラクでの惨劇を含めたスチール写真が延々と並べられるが、これらの映像の方が本編のドキュメンタリーじみた内容よりもずっとインパクトがある。要するに、何のために作られたのか分からないシャシンである。
コメント
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