元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「石内尋常高等小学校 花は散れども」

2008-11-08 06:34:01 | 映画の感想(あ行)

 新藤兼人監督の“枯淡の境地”が垣間見える一本。すでに96歳になり、いまだ映画を撮っていること自体が不思議に思えるこの巨匠の新作は、立派なコメディであった。

 広島県・石内尋常高等小学校で、全身全霊で生徒と向き合う担任の教師と個性豊かな生徒達との触れ合いを描く序盤からして、キャストの大仰な演技とオフビートな展開で笑わせてくれる。30年後の同窓会で集まる元生徒達は、それぞれ年齢がバラバラだ。自身をモデルにしていると思われる元学級委員で今は脚本家の主人公と、彼に想いを寄せていた女生徒で今は料亭の女将との逢瀬は、クサい芝居を笑いに昇華させたような爽快感が漂う。果ては脳梗塞で倒れた件の教師を看病する妻は、白髪こそ目立つが顔は若いまんまである(爆)。

 通常ならばそれらの不手際を指弾するところだが、この監督の手にかかれば、すべて許してしまいたくなる。おそらく、新藤監督の頭の中では同窓生の年代がまちまちであっても全く意に介さないのであろう。昔のクラスメートとの“よろめきドラマ”も勝手な願望。いつまでも若い教師の妻は、作者が“こうあって欲しい”と思った結果に過ぎない。

 前の「三文役者」と同様、物理的な整合性を飄々とねじ曲げて、それでも映画的興趣を失わないこの超ベテラン監督の“余裕”が全編にみなぎっている。また、このライト感覚溢れる作劇の中にフッと挿入される戦争の悲惨さを示すエピソードも、それゆえ強く印象に残るのである。

 教師役の柄本明は絶好調。前半の、無鉄砲さで騒動を引き起こす闊達さから、老齢になってからの枯れ具合まで実に楽しそうに演じている。同窓生の中では飛び抜けて若くてルックスが良い(とされる)主人公には豊川悦司が扮していて、ここも作者の勝手な願望かと思い苦笑してしまった。彼と大竹しのぶとのワザとらしい芝居は他の映画で見せられるとブーイングの嵐だろうが、いわばファンタジーの世界である本作では違和感はあまりない。

 そして大杉漣は「エクステ」での怪演を思い出すようなヤンチャぶり。悲惨な役柄なのだが、世俗を突き抜けたような明るさが感じられるのは(監督の演技指導もあるのだろうが)サスガと言うしかない。六平直政や川上麻衣子などの脇のキャストも申し分ない。

 さて、自伝のシリアスな面を“部下”の山本保博監督が撮った「陸(おか)に上った軍艦」に託し、コミカルなテイストをこの映画で表現した新藤監督のフィルモグラフィはここで大団円になるのだろうか。私としてはもう一本、「北斎漫画」みたいな娯楽作をキメてもらいたいと思う。
コメント
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