元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ぼくの大切なともだち」

2008-10-29 06:34:44 | 映画の感想(は行)

 (原題:Mon Meilleur Ami)やっぱり、いい大人が“親友を作ろう!”と意気込んでも無駄なのだろう。特に社会人になってからは100%無理だと言える。親友を作れるのは学生時代だけだ。ビジネスの場では友人関係は存在しない(あるのは利害のみ)。たとえ仕事とは関係のない趣味や隣近所との付き合いであっても、皆生活の糧を得るため何らかの利害関係が発生する事業所や団体に属しているか、あるいはそれらと取引する主体にコミットしている以上、損得抜きの腹を割った付き合いなんか出来るはずもない。

 しかし、それでも“親友を作るのだ!”と強く念じれば、近いシチュエーションには持って行けるのかもしれない。それを示したのが本作だ。やり手の美術商であるフランソワ(ダニエル・オートゥイユ)は、自分の誕生パーティーで同席した者達から“あなたには友人がいない”と指摘される。ならば当月中に親友を連れてくるぞと啖呵を切ったものの、周りを見渡すと誰も自分を好いてくれていないことに気付き愕然とする。やがて偶然出会ったサービス精神旺盛なタクシードライバー(ダニー・ブーン)に“友達を作る方法を教えてくれ!”と頼み込むハメになる。

 早速そのタクシーの運ちゃんはフランソワに見ず知らずの人に話しかけるような特訓を仕込むようになるが、ハッキリ言ってそういうことは営業マンの手練手管であっても友人作りのノウハウにはまるで合致しないのだ。ここから予想が付くように、この運転手にも友達と呼べる相手などいないこと明らかになる。

 映画はそこから美術品の壷の盗難ネタやらフランソワとその娘の芳しくない親子関係などが織り込まれ、不器用な二人が友人関係を形成するためのすったもんだが描かれる。逆に言えば、それだけ腹をくくってトラブルに巻き込まれることも厭わず相手のために東奔西走しなければ、友情などゲットできるはずもないのだ。社会人にとって、そこまでやれというのは無理だろう。何とか二人が親友同士みたいな案配になろうとも、その後に“世間のしがらみ”とやらで疎遠になっていく場合も大いに考えられる。そんなものなのだ。

 パトリス・ルコント監督は過去に「タンデム」などでヘタレな男同士の連帯感を描いて実績を挙げたが、今回もさすがの手際である。適度なギャグも折り込み、面白うてやがて悲しき中年男達の生き様をシニカルに綴る。クライマックスのクイズ番組(ミリオネア)の場面も結構盛り上げてくれるし、オートゥイユとブーンの演技も万全だ。

 さて、学生時代以外に親しい友人を作れる時間があるとするならば、それは老後かもしれない。一切のしがらみから自由になり、もしも失う物も何もない境遇になれば、同類相哀れむがごとき友情めいたものも発生する可能性はある。あまりパッとしない話だが、それでも孤独よりは数段マシなのだ。それを期待して年を重ねるというのも、悪くないではないか(笑)。
コメント
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