元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アンカーウーマン」

2008-10-01 06:43:43 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Up Close & Personal )96年作品。思うのだが、テレビのニュースキャスターが本番中に“私見”を述べるのは良いことなのだろうか。特定のスタンスをワザとらしく取るアンカーマンは、その行為自体が視聴者に対する“誘導尋問”なのだということに気付いているのか・・・・いや、たぶん知っている。それによって視聴者が喜んで視聴率が上がればいいのだ。この傾向は30年前のNHKの「ニュースセンター9時」の磯村某から始まった。“私事ではございますが・・・・”と前置きして、自己の見解を滔々と述べる態度のデカさに視聴者は驚いたものだ。それまではニュースというものは事実だけをコメントなしで読むだけで、新聞で言う“社説”に当たるものは「ニュース解説」として別の番組としていたものだ(古いなあ、トシがばれるぞ)。

 で、私の考えだが、キャスターのコメントは不要だと思う。特に政治・外交に関する事象に対してのセンチメンタルな論評は百害あって一利なしと確信する。でもそれじゃ誰もニュース見ないし・・・・。だからといって、ニュースをショーとして仕立てなければ見ないような人間など時事問題を語る資格はない、という極論に行き着くのも芸がないし・・・・。

 ともあれ、駆け出しの女性キャスター(ミッシェル・ファイファー)が、敏腕プロデューサー(ロバート・レッドフォード)の助けを借りて全米キー局のアンカーウーマンとして出世していくまでを描いたこの映画、ニュースをショーアップさせるための、なりふり構わぬノウハウが多数紹介されている。アメリカのアンカーマンは大変な高級ポストであることは知られているが、その実、単独のスクープはできず多数のクルーに支えられていることも示される。レッドフォード扮するプロデューサーは“ニュースは正論を言うように”と彼女に指導するが、リベラル派の彼でも、ある一つのスタンスの側からの番組作りをしていることがわかる(つまり、中立ではない)。

 レッドフォードが追求する硬派ネタはボツになるが、偶然に刑務所の暴動に遭遇した彼女の捨て身の取材でそのネタが生きてくるという、映像至上主義の皮肉。キャスターの主義主張より彼女の髪型や服装で白黒付けたがる視聴者のレベル。テレビをめぐる問題は要領良く盛り込まれてはいる。

 でも、映画はロマンティック路線を取っており社会派の鋭さは最後まで見せない。2大スターの共演のラブストーリーのネタのひとつにテレビが取り上げられただけ、という感じだ。レッドフォード自身の監督作「クイズ・ショウ」の切迫さにはとても及ばない。たぶん彼にしても、次回演出作の資金調達のため出たのではないか(おいおい)。

 ジョン・アヴネットの演出は凡庸で、前半なんかアクビが出た。可もなく不可もない映画だが、ファィファーのキュートさとセリーヌ・ディオンによる主題歌だけで入場料のモトは取れるかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする