元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「蛇にピアス」

2008-10-10 06:37:08 | 映画の感想(は行)

 予想通りの凡作だった。蜷川幸雄は演劇界では大物らしいが、少なくとも映画では満足できる仕事をしていない。そもそも彼が初めて映画を撮ってから20数年が経過しているのにまったく進歩の後が見られないのは、最初から映画監督の才能がなかったと断言してもよかろう。それにしても不思議なのは原作者の金原ひとみが蜷川に映像化を依頼したことだ。金原はよっぽど映画に対して疎いのか、あるいは二人の間に特別なコネが存在したのか知らないが、いずれにしても誉められたことではない。

 この映画のダメなところは、ワイセツ度が限りなく希薄なことだ。SMだの全身ピアスだのといった異様な嗜好を持つ男二人と、興味本位でその不気味な世界に飛び込む若い女という設定ならば、いくらでも扇情的な映像が撮れるはずだが、本作には見事なほど何もない。ただのっぺりとした微温的な画面が延々と続くだけだ。

 もちろん、センセーショナルな題材をわざと“引いた”ように描く方法もあるとは承知しているが、これはそんな能動的な演出意図など微塵も感じさせない。ただ監督がヘタだから退屈な場面の羅列に終わったということでしかないだろう。原作の持つインモラルな禍々しさなど全くなく、切迫した状況の中でヒロインの純情が匂い立つという玄妙な構図も望むべくもない。

 舞台設定も最低で、渋谷ってこんなに魅力のない扁平な街だったのかと思うほどロケーションに奥行きがない。ハッキリ言って、テレビドラマ以下だ。それをカバーするかのような冒頭の“無音でのカメラ移動”など、恥の上塗りである。

 さて、あらかじめ低調だと分かっていたこの映画をどうして観る気になったのかというと、吉高由里子が主演していることだ。「きみの友だち」で見せた激ヤバな雰囲気で本作をどう乗り切っているのかと期待していた。しかし残念ながらこれも不発だ。人材豊富ないわゆる“U-23”の若手女優の中でも珍しい“身体を張れるタイプ”なのだが、健闘してはいるもののグッとくるようなエロさは希薄。昔のロマンポルノの女優陣の艶技と比べればだいぶん後れを取る。

 もっともそれは彼女自身の問題ではなくて、監督の演技指導が不十分なせいであろう。しかも、あのフニャフニャ声でモノローグまで披露しているのは大減点。そういうのは全部カットして映像で見せないと何のための映画化か分からないではないか。

 高良健吾、ARATA、あびる優といった脇のキャストも凡庸。作劇に重みをつけるために、もっと極悪な面子を持ってくるべきではなかったか。原作は面白いのでいずれ別のスタッフ・キャストでリメイクしてもらいたい。その際はぜひ原作者も顔を出して欲しい。
コメント
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