元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事」

2008-04-09 06:43:09 | 映画の感想(あ行)
 (原題:The Age of Innocence)93年作品。これは珍しい19世紀の“アメリカ貴族階級”を描くイーデス・ウォートンの大河小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した。1870年ニューヨーク。ヨーロッパのそれと変わらない保守的な上流階級の社交界が舞台。若手弁護士ニューランドは名家の娘メイと婚約した身でありながら、彼女の従姉妹でスキャンダルには事欠かないエレンにも惹かれていく。

 ロバート・デ・ニーロのアクの強い演技やハーヴェイ・カイテルの狂的な眼差しやジョー・ペシの人をくった表情など、それまでのスコセッシ映画には欠かせないモチーフがどこにも見当たらない。ニューランドに扮するのはダニエル・デイ・ルイス、メイはウィノナ・ライダー、エレンはミッシェル・ファイファー、さらに脇を固める演劇畑の渋い面々など、前例のないキャスティングである。ハデなアクション・シーンも、ねっとりした濡れ場もなし。ここにあるのは贅を尽くしたセットとエルマー・バースタインの流麗な音楽、芸達者な俳優たちの抑制の効いた演技、落ち着いた色調の画面である。スコセッシの作風を感じさせるのは、流れるような、と言うにはあまりにも神経症的な、縦横無尽に走り回るカメラワークのみ。

 観終わって考えてみると、この映画の主眼は主人公のダメさ加減ではないだろうか。格式ばった社交界をバカにしつつ、スキャンダル・メーカーとは名ばかりで実は夫の理不尽な行為に絶えられなくなり出戻っただけのナイーヴなエレンに同情を示し、現状を打破しようと走り回るが、結局は女房の尻に敷かれ、ドラマが進むにつれその優柔不断さを露呈させていく。「眺めのいい部屋」でデイ・ルイスが演じた貴族にどこか通じるものがある。

 ところが、この皮肉な人間ドラマをじっくりと描く醍醐味はほとんどない。たぶん原作はかなりの長編なのだろう。ジョアン・ウッドワードによる過剰なナレーションが全編に流れるが、これを“ナレーションなどない方がいい”とする一部の評論家の意見は筋違いである。ナレーションがなくてはストーリーが全然わからないのだ。長編を無理矢理に圧縮したダイジェスト版みたいな印象で、バタバタとしたあわただしい展開はいただけない。スコセッシは「グッドフェローズ」(90年)で“巨匠”になってしまい、こういう大作も撮りたくなったのもわかるが、似合っているとは言い難い。

 デイ・ルイスとファイファーは予想通りの好演だが、ウィノナ・ライダーの可愛らしさにはマイってしまった。今ではパッとしない彼女だが、本作でのパフォーマンスに限っては相当にヴォルテージが高い。オスカー候補になったのも当然か。
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