元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ドゥ・ザ・ライト・シング」

2008-04-11 06:32:58 | 映画の感想(た行)

 (原題:Do The Right Thing)89年作品。スパイク・リー監督の出世作にして最良作。ある暑い夏の日、舞台はブルックリンの黒人街の一角で、DJ一人でやっているラジオ局とダニー・アイエロ演じるイタリア人が経営するピザ屋、その向かいに韓国人夫婦の食料品店がある。そこにたむろする連中の行動を描いた映画。なおリー監督は俳優として出演もしている。

 冒頭のタイトル・バックがカッコイイ。グラマーなジョーイ・リー(スパイク・リーの妹)がパブリック・エネミーの“ファイト・ザ・パワー”にのってボクシングのファイティング・ポーズやレオタード姿で踊りまくる。映像と音楽が一体となった素晴らしい躍動感! これをみるだけでもこの映画の価値はある。

 登場人物がなんともユニークで魅力的だ。スパイク・リー扮するムーキーはピザ屋の店員だが仕事の合間にガールフレンドと会うことばかりを考えている。ピザ屋の主人サルは長年この街で店をやってきたのが自慢だが、短気ですぐにバットを振り回す。その息子二人は店を手伝っているが、気の弱い弟は黒人嫌いの兄に押えこまれているのが不満だ。騒々しい活動家バギン・アウト、巨大なラジカセを持って街をうろつくラジオ・ラヒーム、飲んだくれの老人ダ・メイヤー、パラソルの下に座り込んで猥談にふける3人のオッサンなどなど、映画はこういう連中のユーモラスなエピソードの積み重ねで展開する。

 しかし、平和に見えるこの街もバギン・アウトとサルのちょっとした争いからアッという間に暴動事件へと発展する。この落差が観る者にショックを与える。平和なように見えても心の奥底にだれしも名状しがたい差別意識を持っているというのがこの映画のテーマかもしれない。でもそれにしてもあまりに唐突で違和感を覚えるのも確か。そこにいくまでの対立の構図の描き込みが今一歩だとも言える。

 当時のハリウッド映画によく登場する黒人がややステレオタイプで物足りなかった(たとえば「グローリー」に出て来る黒人兵士なんてその最たるもの)のに対し、等身大の黒人像を描いているのはたいしたものだ。黒人同士の対立なども挿入し、単純な“白対黒”の構図にしていないのもエライ。

 音楽の使い方、カラフルな色彩感覚などに非凡なものを感じさせる本作。リー監督は最近全然パッとしないが、今一度こういうヴォルテージの高いシャシンをモノにしてもらいたいものだ。
コメント
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