元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミス・ポター」

2007-10-11 06:43:06 | 映画の感想(ま行)

 (原題:MISS POTTER )ヒロインの婚約者の姉にエミリー・ワトソンが扮していることから、後半には彼女が正気を失ってドロドロとした展開になるのかと期待していたが・・・・そういうシーンはまったくなかった(爆)。このように、本作はドラマ的に盛り上がると思われるモチーフを徹底して排除している。

 20世紀初頭のイギリスを舞台にした、「ピーター・ラビット」でお馴染みの天才的絵本作家ベアトリクス・ポターの伝記映画。30歳を超えても独身を貫いていた彼女の屈折した心情とか、作品を生み出す際の内面的葛藤とか、保守的な両親との確執とか、そういう見応えのありそうなネタは見事なほど無し。婚約者との出会いと別れのくだりなど、事実を追っていくだけでも感動路線に仕立て上げられるのだが、そのあたりもあっさりと流すのみ。いつ波瀾万丈の展開になるのかと待っている間に、93分の短い上映時間は過ぎてしまう。

 では面白くないかと言えば、そうでもない。これが観ていて非常に楽なのだ。必要以上に緊張して画面に対峙することはなく、スンナリと話は進んでゆく。よく考えれば我々が伝記映画(あるいは小説)に接する際に、起伏のあるストーリーを期待しすぎる傾向があるのではないか。

 誰が不幸に陥ったとか、苦悩に苛まれたとか、それは確かにドラマティックではある。でも、一方で主人公やその周辺の人物の悲運を見るのは辛くもあるし、有り体に言えば面倒臭く感じてしまうのだ。出来ることなら、それほどの紆余曲折もなく淡々と進んで欲しい・・・・といった観る側の隠れた願望にあっけらかんと応えてみせた、ある意味で侮れない映画だと言える。

 監督は「ベイブ」等のクリス・ヌーナンだから、描写も陽性一辺倒でこの場合は好ましい。レニー・ゼルウィガーは彼女のキャリアの中で屈指の好演。ユアン・マクレガーやビル・パターソンなどの脇のキャストも悪くない。アンドリュー・ダンのカメラによる、素晴らしい英国の自然の風景。ナイジェル・ウェストレイクの格調高い音楽。ブリティッシュ・トラッドの薫り高いアンソニー・パウエルの衣装デザイン。CG処理により動き出す絵本のキャラクター達も可愛らしい。

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