調査報道で実績を積み上げている筆者が、兵士の日記やスケッチなどの「1次資料」を使って、南京事件を題材に切り込む。本書は、その調査のプロセス、結果、考察の記録である。
筆者のフェアなスタンスや真摯な努力は理解できるし共感するが、数か月の調査でこの歴史的事件について真相を明らかにするというのは、なかなか困難な仕事だ。より幅広い史料の検証や読み込みが必要だと思うので、歴史好きにはやや欲求不満が残る。
一方で、筆者ならではの強い思いを感じる一冊ではある。筆者は当時の報道管制が引かれた報道の姿と、はた目からは見えない「上からの」圧力で委縮するジャーナリズムを重ね合わせる。「真実を伝えるべきジャーナリズム」の今のありように、筆者の危機感が滲み出ている。
事件の被害者の規模は別として、事件が捏造とする修正主義の方々に対する批判も適格だ。「私ども日本人としてのね、浮かばれないというか、国益が明らかに害されたまま、国民がですよ、国際社会の中で顔向けできないようになっているのではないかな、と思ってます」(p261)と自民党原田氏が発言したらしいが、国民が国際社会の中で顔向けできないようになっているのは、南京事件のせいではなくて、南京事件をねつ造だというようような政治家の先生が日本にはまだたくさんいるからだということが、彼らはわかってない。
目次
第1章 悪魔の証明
第2章 陣中日記
第3章 揚子江の惨劇
第4章 兵士たちの遺言
第5章 旅順へ
終章 長い旅の終着