その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

茶目っ気爺さんノリントンの変態べト5 N響定期Cプログラム

2013-10-26 09:56:15 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


 内輪ネタですが、ロンドン滞在時のクラシック・ブログ仲間の間で、変態指揮者と言えばロリン・マゼール氏と決まっておりました。特に、一昨年のシーズンのマーラー生誕150年にちなんだフィルハーモニア管マーラー・チクルスでは、毎回、マゼールさんがどんな変態ぶりだったかが話題でありました。さて今日の指揮者はロジャー・ノリントンさん。ツイッタ―を拝見していると、かなり意表をついた指揮をなさるということは窺い知ってはおりましたが、まさかマゼール氏に勝るとも劣らない、これほどの変態指揮者とは初めて知りました。

 トップバッターのレオ―レ。それほど聴きこんだ曲ではないのですが、冒頭からえらいスローペース。こんな曲だっけなあ~と首を傾げて聴いておりましたが、中盤過ぎからは通常ペースに戻った感じ。オペラの「フィデリオ」は全くもって真面目過ぎて面白くありませんが、ノリントンさんはこの序曲をスケール感豊かに、まさにこれから始めるドラマが目に浮かぶような音楽を聞かせてくれました。
 
 2曲目は、これまたベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。ここではノリントンさんの変態ぶりはオーケストラの配置にありました。ピアノは蓋を外して、舞台前方の真ん中から舞台奥に向けて置いてあります。なのでピアノ演奏のラルス・フォークトさんは聴衆に背中を向けて座ります。そして、オーケストラは舞台中央を囲むようにほぼ円形に並びます。ですからヴァイオリンは聴衆に後ろ斜め姿を見せるような形です。そして、ノリントンさんはどこに居るかと言うと、舞台中央。ノリントン氏を中心にオーケストラとピアノが取り囲んでいるような陣形です。ノリントン氏は観客に正面を向きつつ、後ろに座る管陣も振り返りながら、360°全方位を使った指揮です。

 それにしても、このお爺さん、楽しそうに棒を振りますね。力を入れない脱力系の指揮ぶりですが、表情豊かで余裕がある。棒の上げ下げは、まるで空中を浮遊する綿を手で受け止めるような繊細なところもあります。ちょい悪な印象も持つ茶目っ気たっぷりな雰囲気は、真面目一辺倒な感じがする先月の指揮者ブロムシュテッドさんと好対照です。

 しかし、ノリントン爺さんに劣らず、ラルス・フォークトさんのピアノは見事でした。質実剛健かつ柔軟さも持ち合わせた、正攻法のピアノ演奏です。奇をてらったところは全く感じないと言って良いストロングスタイル。その指から紡がれる音楽は、強く、そして時に優しい。決して「俺のピアノを聴け!」というぐいぐい押してくるようなアプローチではなく「この音楽の素晴らしさを味わってほしい」と言わんばかりの確実で正確な演奏。そして、その音楽は聴いていて「この音楽が聴けて良かった、本当にありがとう」と思わせてくれるものでした。

 そして、休憩挟んでべト5。これはもう変態の本領発揮。第一楽章からこんな「運命」聴いたことがないと言いきれるほど、緩急自在、強弱無尽の演奏。最初からホントに目が点になりました。第一楽章は特急演奏。それも、ただ早いだけでなく、微妙なスピードコントロールや強弱のアクセントがついて音楽が立体的。冒頭から聴衆を驚かせるに十分です。第一楽章終了とともに自然と拍手が起きたのも納得です。(ノリントンさんも後ろを振りかえって、なんか嬉しそうでした)

 第2楽章以降もサプライズの連続。「おっと、こう来たか~」と唸ってばっかし。完全にノリントン爺さんのペースにはめられた感じでした。 そして、そのノンリントンの細かい芸をしっかり受け止め、応えるN響もさすがです。木管を其々4名も揃えた迫力抜群の演奏は、いつものN響の落ち着いた感じがする音とは異なった晴やかなものでした。三階E席での鑑賞ですがNHKホールが全然広く感じないです。

 驚愕の30分余りが終わると、夢から醒めたような大拍手。なんかサーカスでも見た感じ。ノリントン爺も、オーケストラを讃えつつ、ニコニコと盛大な拍手を受け止めていました。

 それにしても、その時代の奏法を踏まえたノン・ヴィヴラート奏法で有名なノリントン氏ですが、今日の演奏を当のベートーヴェンさんが聴いたらどう思うのでしょうか?プログラムのインタビュー記事で、ノリントン氏がベートーヴェンは「魂が揺り動かされる崇高なものではなく・・・最高に面白いゲームのようなもの」と言っているのを地で行く演奏会だったわけですが、是非、ベートヴェンさんの意見をきいてみたいものです。

 「大いに感動!」と言うよりも「あ~、楽しかった!」という感想がぴったりの演奏会でありました。




NHK交響楽団 第1765回 定期公演 Cプログラム
2013年10月25日(金)開演 7:00pm

NHKホール
ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番 作品72
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37
ベートーヴェン/交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」

指揮:ロジャー・ノリントン
ピアノ:ラルス・フォークト

No.1765 Subscription (Program C)
Friday, October 25, 2013 7:00p.m. (doors open at 6:00p.m.)

NHK Hall

Beethoven / “Leonore”, overture No.3 op.72
Beethoven / Concerto No.3 c minor op.37
Beethoven / Symphony No.5 c minor op.67

Roger Norrington, conductor
Lars Vogt, piano


<雰囲気だけでも>


※最後に一言・・・
 たまに自由席のE席で、隣席にカバン等の私物を置いて席をブロックしてる、自分勝手な輩がいる。今日の私が座った席の隣席にもカバンが置いてあって、誰のだろうと思っていたら、結局その更に隣の席の人のものだった。右サイドのゾーンではあるがD席ゾーンと隣り合わせの前から2列目の席でE席としては最良のエリアだったので、もしかしたら座りたい人も居たかもしれない。前にも似たような常識に欠けた音楽ファンが居た。こんな自分勝手な人は来ないで欲しい。


コメント (4)
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