環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

昨年の「偽」と今年の「変」 12月のブログ掲載記事

2008-12-31 10:23:07 | 月別記事一覧
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12月のブログ掲載記事

1.昨年の「偽」と今年の「変」 12月のブログ掲載記事(2008-12-31)

2.スウェーデン社民党党綱領に示された「環境認識」と私が理解した「スウェーデンの行動原理」(2008-12-30)

3.100年に一度の経済危機?、未曽有の経済危機?、今年の国会で成立した法律は?(2008-12-29)

4.もう一つのスウェーデンに学べ② 予算編成の新システム(2008-12-28)

5.もう一つのスウェーデンに学べ 「地方財政の進路選ぶ地図(2008-12-27)

6.2007年 国民一人当たりGDP スウェーデンは8位、日本は19位(G7で最下位)(2008-12-26)

7.2010年のODA試算 日本最下位 ODA対GNI比 スウェーデン1位、日本最下位(2008-12-25)

8.エコロジカルに持続可能な社会「緑の福祉国家」の3つの側面(2008-12-23) 

9.竹崎 孜さんが伝える「スウェーデン」:その社会的側面と経済的側面に関する最新情報(2008-12-21) 

10.危機の時代 どうする日本 スウェーデン型社会という解答②(2008-12-17) 

11.危機の時代 どうする日本 スウェーデン型社会という解答(2008-12-16) 

12.環境問題を忘れた「早急な金融危機の解決策」は更なる「大危機」を招く?(2008-12-13) 

13.ドイツとポーランドが「今日の化石賞」受賞、欧州のNGOが環境政策ランキングを発表(2008-12-11) 

14.雑誌「世界」(2009年1月号)の特集「大不況」に登場する識者の環境意識、ほとんどなし(2008-12-08)

15.日本がなぜ、「今日の化石賞」を受けるのか? 経済成長、エネルギーの消費、CO2排出の整合性なき政策(2008-12-07)

16.2008年COP14で 日本が「今日の化石賞」を受賞(2008-12-05) 

17.連続公開講座のお知らせ 2009年1月18日(日)(2008-12-03 )

18.朝日のシリーズ企画「環境元年」 第6部 文明ウオーズが今日から始まる(2008-12-01)


今日はまさに今年最後の日です。米国発の100年に一度と言われる大変深刻な「グローバルな経済危機」に直面して、日本とスウェーデンの両国民の心境は次のようでしょう。



なぜなら、昨日のブログにまとめた行動原理に従って、スウェーデン政府は世界に先駆けて「最適と考えられる対応策(当たり前と考えられること)」を、スピーディに、透明性を持って、包括的に、そして眼の前の対策だけでなく、システマティックに対応しているからです。


ところで、今年の日本の状況を漢字一文字で表すと「変」だそうです。この漢字を選んだ主催者は「変」の字にいろいろな意味合いを託しているようですが、選ばれた「変」はオバマ米次期大統領が選挙戦で掲げた「Change」(日本語では変革というような訳があたえられているようです)のように、「行動を伴って、困った既存の状況」を変えていこうという積極的な意味はなく、「日本の社会は変だ、おかしい」いう社会の現状を現象的にあらわしている「変」にすぎないのではないでしょうか。



今となっては、まことに心もとないのですが、私のかすかな記憶では、米国の大統領選でクリントン元大統領も「Change」という言葉を掲げていたと思います。

では、昨年は何という字だったでしょうか? そして、昨年の大晦日のブログで私が何を書いたか、それを振り返る機会をつくって、新年を迎えたいと思います。

35年の虚しさ:1972年の「GNP至上反省」と2007年の「偽」、でもまだ希望はある! 
(2007-12-31)


それでは、来年また、再会しましょう。
よいお年を。

スウェーデン社民党党綱領に示された「環境認識」と私が理解した「スウェーデンの行動原理」

2008-12-30 11:16:19 | 政治/行政/地方分権
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今年もあと一日を残すだけとなりました。私は1973年以来、スウェーデンと日本の環境問題とその対応を同時進行でウオッチしてきました。2007年1月1日から始めたこのブログも新年には3年目に入ることになります。

スウェーデンと出会って35年、私は先月初めて「スウェーデン社会民主党(社民党)党綱領」を読む機会を得ました。そして、そこに描かれていることの多くがみごとなまでに現実の社会で実現されていることを知り、感動しました。私が35年間苦労して理解したスウェーデンとその環境政策とその成果(このブログでは、63回にわたって書き続けた「市民連続講座:緑の福祉国家」)がこの社民党の党綱領の中に「グリーンなスウェーデン福祉国家」のタイトルで大筋が描かれていたのです。これは私にとって大発見でした。安心と安全な社会は民主主義の国では政治家と官僚と国民が協力してつくるものなのですね。
 
私が参照した「スウェーデン社会民主党党綱領」は北海道大学大学院法学研究科教授・宮本太郎さんの訳によるもので、その全文が社団法人 生活経済政策研究所発行の『生活研ブックス16』(2002年12月10日発行)に「ヨーロッパ社会民主主義論集(Ⅳ)」として収録されています。
今日は今年最後のブログですので、「スウェーデン社会民主党党綱領」に書かれている「環境」の部分を紹介しましょう。


労働運動の発展:平等観の拡張
1970年以降、環境政治や平等問題が社会民主主義の政策においてより重要な要素になってきた。環境論議は、非搾取的な経済を求める社会民主主義の古典的な要求と連動している。また、平等を進める政策は、社会民主主義の包括的平等を志向するイデオロギーから、当然発展してくるものである。こうした二つの議論は、社会分析をさらに深化させることにもなった。

a 環境
民主主義の状況と経済を分析するにあたっての中心的問題は依然として労使間での権力と資源の分配の問題である。しかし、環境問題が示しているのは、民主主義的な経済もまた搾取的になりうるということである。それはどのような場合かと言えば、経済が今日の福祉のために生み出す資源のその量的な側面だけが目標として掲げられ、自然資源のうえでどれほどのコストがかかったのか省みられない場合である。環境面での要求は、所有のあり方を問わず、また生産の帰結がどのように配分されるかにかかわりなく、経済権力をめぐる議論にもう一つの重要な次元を付け加えるものである。

環境政策はさらに、再分配にかかわるまた別の政策原理、すなわち世代間の再分配という原理も含んでいる。今日の世代は、自らの福祉のためだからといって、来るべき世代の生活の基盤となる資源や物的環境を疎かにする権利はない。こうした観点からすれば、社会民主党は環境政党でもある。

b.平等(略)
c.エスニシティ(略)
d.差別(略)



以上は、「スウェーデン社会民主党党綱領」から抜粋したものですが、以下は私の35年にわたるスウェーデンの環境政策のウオッチの過程で、私自身が発見し、理解した「スウェーデンの行動原理」です。これは大変普遍性の高い原理で、閉塞感溢れる現在の日本でも応用可能だと思います。

さらに付け加えれば、
●スピード
●透明性
●包括的(総合的、ホリスティック・・・・・)
●システム思考

ということになるでしょう。これらはいずれも日本に欠落している特性です。

新年のブログはスウェーデン社会民主党党綱領に記された「グリーンなスウェーデン福祉国家」をご紹介することから始めましょう。
 

それでは、皆さん、よいお年を。

100年に一度の経済危機?、未曽有の経済危機? 今年の国会で成立した法律は?

2008-12-29 12:18:40 | 政治/行政/地方分権
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今日はまず、次の図をご覧ください。去る2月25日に閉幕した第170回国会で成立した法律を報じています。第170回は、今年9月24日に召集された「臨時国会」で、会期は12月25日までの93日間(当初は11月30日までの68日間)でした。



次の2つの図は第169回国会で成立した法律と条約を示しています。第169回国会は、今年1月18日に召集された「通常国会」で、2008年1月15日に閉会した第168回国会「臨時国会」からわずか3日の間に召集された。会期は、6月15日までの150日間が予定されていたが6月21日まで延長されました。




第168回国会は、2007年9月10日に召集された臨時国会で、会期は、2008年1月15日までの128日間でした(当初は昨年11月10日までの予定で、その後12月15日まで延長され、最終的には年を超えて今年の1月15日まで再延長されました)。



今年の国会は極めて変則的でした。今年の国会の具体的な成果を示す「成立した法律」を上に掲げましたが、皆さんに注目していただきたいのは「改正」と冠した法律が圧倒的に多いことです。


21世紀も20世紀と同じような「経済成長」をめざすのであれば、これは非常に合理的なやり方と言えます。しかし、50年後の社会が今の社会を拡大・延長した方向にありえないとしたら、とるべき行動は違ってくるはずです。


既存の法律が社会の変化に耐えられなくなったとき、その骨格部分は変えずに、不都合になった箇所だけ現状に合わせるような「改正」を施すだけでは「現状肯定」にすぎないと思います。20世紀型の社会を21世紀型の新しい社会に変えていくことにはならないでしょう。また、「継続審議」とは要するに、 「先送り」ということでしょう。


皆さんは日本のこの現象をどう考えますか。私は日本社会が「現行社会(20世紀型社会)」の維持に精一杯で、「21世紀の新しい社会である持続可能な社会」に向けた行動がほとんど無きに等しい状況にあるのだと思います。

20世紀の社会と21世紀の社会は質的に異なることを政策担当者や政治家は意識し、行動に移さなければなりません。ちなみに、スウェーデンは21世紀を迎えるにあたって10年かけて環境関連法の見直しを行い、21世紀の新しい社会の構築のために「環境法典(Environmentl Code)」(1998年成立、99年1月1日施行)を成立させたのです。



関連記事

混迷する日本② 臨時国会閉会 21世紀の新しい社会を作る法律ができない(2008-01-16)

混迷する日本⑨ 「持続可能な社会」への法体系が未整備な日本、環境分野も(2008-01-23)

21世紀前半にめざすべき「持続可能な社会」の構築への法体系が未熟な日本(2007-12-19)


もう一つのスウェーデンに学べ② 予算編成の新しいシステム

2008-12-28 12:35:13 | 政治/行政/地方分権
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昨日のブログで、神野直彦さんが「スウェーデンの年次報告書の作成」に触れ、このような作業が日本の地方財政の改善に役立つ、と提案されていることをご紹介しました。

これは私の認識では、下の図に示したように、スウェーデンが21世紀前半の社会を想定し、1996年に実施した「新しい予算編成システム」に関することだと思います。

そうであれば、12月16日のブログで取り上げた「危機の時代 どうする日本」という中央公論(2009年1月号)の特集記事に「スウェーデン型社会という解答」 をお書きになった藤井 威さんの著作「スウェーデンスペシャル Ⅰ 高福祉高負担政策の背景と現状」(新評論 2002年6月10日 発行)のp146~149にかけて、このことが「(2)予算プロセスの改革」と題して簡潔にまとめられておりますので、その部分をご紹介します。



関連記事

財政再建に成功したスウェーデン①(2007-08-11) 

財政再建に成功したスウェーデン②(2007-08-12)

もう1つのスウェーデンに学べ 「地方財政の進路選ぶ地図」

2008-12-27 13:05:12 | 政治/行政/地方分権
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私は2006年2月に 『スウェーデンに学ぶ持続可能な社会-安心と安全の国づくりとは何か』(朝日新聞社 朝日選書 792) を上梓しました。そして、この本の「おわりに」で、次のように書きました。


「スウェーデンをまねしろ!」というのが本書のメッセージではありません。21世紀のグローバルな市場経済の荒海を、先頭を切って進む「スウェーデン号」の「行く先」と「操船術」を真剣に検証してほしいというのが、本書を書いた第1の目的です。国際社会の動きにたえず振り回されている感がある日本の「21世紀前半のビジョンづくり」のために――。スウェーデン号は精巧なコンパス(科学者の合意)と強力なエンジン(政治家主導の政府)を搭載した新造船で、最新の海図(自然科学的知見)をたよりに、みごとな操船術(社会科学的知見と実現のための政策)を駆使して、最終目的地である「緑の福祉国家」をめざします。

1996年9月17日、乗員・乗客884万人を乗せたスウェーデン号は、「21世紀の安心と安全と希望」を求めて周到な準備のもとに目的地である「緑の福祉国家」へ向けて出港し、現在、順調に航行を続けています。 航行中予期せぬ難問に遭遇し、場合によってはグローバル化の荒波に呑み込まれ、沈没してしまうかもしれませんが、順調に行けば、目的地に到着するのは2025年頃とされています。

人類の歴史のなかで私たちが初めて直面する「少子・高齢化問題」や「環境問題」への対応に、「共通のコンパスと最新の海図」がないまま、国民が国の将来を憂い、不安と焦燥感からそれぞれの立場で「できることから始める」のはたいへん危険です。よかれと思ってやったことが、全体として、経済学者がいう「合成の誤謬」を招きかねないからです。


この「あとがき」の中で、航行中予期せぬ難問に遭遇し、場合によってはグローバル化の荒波に呑み込まれて、沈没してしまうかもしれませんがと書きました。現在進行中の「米国発の金融危機に端を発したグローバル経済の危機」 (マスメディアでは“100年に一度の経済危機”とか“未曾有の経済危機”などと、最大級の表現が使われています)は、まさにここで言う「予期せぬ難問」と言ってよいでしょう。

「精巧なコンパスと最新の海図」を装備し、強力なエンジンを搭載した新造船「スウェーデン号」がこの大難関をどのように乗り切るか、そのみごとな操船術によって、目標値である「緑の福祉国家」に到達できるだろうとは思いますが、底知れぬ「津波」のエネルギーの前に不安も多いにあります。


昨日の日本経済新聞が22~26ページにわたって全面広告の形で「自治体公会計ディスクロージャー広告特集」を組んでいます。26ページには「08年度公会計改革首長部会・研究部会報告」と題して「自治体アニュアルリポートのあり方を議論」という記事があります。この公会計改革研究会の座長は東京大学教授の神野直彦さんです。



この記事の22ページに、神野直彦さんの「地方財政の進路選ぶ地図 スウェーデンに学べ」があります。スウェーデンは地方自治の分野でも世界のリーダーです。


神野さんがおっしゃる「スウェーデンに学べ」とは私の理解では、スウェーデンの21世紀前半のビジョンである「緑の福祉国家」の社会的側面の進化を意味しています。このことについては、明日、説明を加えたいと考えています。 

関連記事

「エコロジカルに持続可能な社会」(緑の福祉国家)の3つの側面(2008-12-23)

2007年 国民1人当たりGDP スウェーデンは8位、日本は19位(G7で最下位)

2008-12-26 11:15:05 | 経済
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昨日のブログで、OECDの試算によると、「2010年のODAの対GNI比はスウェーデンが1位であるのに対し、日本が22カ国中米国と並んで最下位となる見通し」という報道を紹介しました。

今日は、「2007年の国民1人当たりのGDPがスウェーデン8位、日本が19位(G7で最下位)」という12月25日に内閣府が発表したデータを紹介します。世界全体のGDPに占める日本の割合は8.1%となったそうです。一方スウェーデンは7位となっています。

関連記事

危機の時代 どうする日本、 スウェーデン型社会という解答(2)(2008-12-17) 

日本の一人当たりGDP OECD30カ国中18位、そして・・・・・(2007-12-27)

2010年のODA試算 日本最下位、ODAの対GNI比 スウェーデン1位、日本最下位

2008-12-25 11:32:41 | 経済
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このところ、日本のマスメディアは米国発の経済危機の広範な影響とそれに伴う不況の報道で大わらわのもようです。このような状況下で、12月22日の朝日新聞の夕刊が「2010年のODA」のOECD試算の結果を報じています。

ここでも、スウェーデン(1位)と日本(最下位)は正反対の位置づけにあります。

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06年のODA実績 GNI比 スウェーデン1位、日本18位(2007-04-04) 

エコロジカルに持続可能な社会「緑の福祉国家」の3つの側面

2008-12-23 17:42:10 | 市民連続講座:緑の福祉国家
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このブログでは、2007年1月11日から6月2日までおよそ半年かけて63回にわたって、スウェーデンが21世紀前半にめざすエコロジカルに持続可能な社会「緑の福祉国家」をどのように構築するか、その理念と行動計画を具体的に検証してきました。

関連記事

市民連続講座:緑の福祉国家1 ガイダンス(2007-01-11)

市民連続講座:緑の福祉国家63(最終回) 改めて、緑の福祉国家の概念を

毎日新聞 今週の本棚 小西聖子・評 『スウェーデンに学ぶ持続可能な社会』


1996年に掲げられた「緑の福祉国家の構築」というビジョンの目標年次は2020年頃ですから、今日(2008年12月23日)はすでに、ちょうど目標年次の中間点に差しかかっていることになります。そして、順調にその成果が得られているようです。

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「希望の船出から11年」-経済も、福祉も、環境も・・・・・


スウェーデンが考えるエコロジカルな持続可能な社会「緑の福祉国家」には、

①社会的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
②経済的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
③環境的側面(環境を大切にする社会であるための必要条件)

の3つの側面があります。

スウェーデンは福祉国家を実現したことによって、これら3つの側面のうち、「人間を大切にする社会であるための必要条件」つまり「社会的側面」と「経済的側面」はすでに満たしているといってよいでしょう。

しかし、今後も時代の変化に合わせて、これまでの社会的・経済的な制度の統廃合、新設などの、さらなる制度変革が必要になることはいうまでもありません。
社会的側面では、21世紀前半社会を意識して、90年代に99年の「年金制度改革」(従来の「給付建て賦課方式」から「拠出建て賦課方式」への転換)をはじめとするさまざま社会制度の変革が行なわれました。
経済的側面では、70年以降、「エネルギー成長(エネルギー消費)」を抑えて経済成長(GDPの成長)を達成してきました。

このような視点に立てば、12月16日にご紹介した藤井 威さんの論文「スウェーデン社会という解答」や12月21日ご紹介した竹崎 孜さんの最新著『貧困にあえぐ国ニッポンと貧困をなくした国スウェーデン』が私たちに伝えるスウェーデンの最新情報は、「緑の福祉国家」の「社会的側面」と「経済的側面」の最新情報とみなすことができます。

このお二人がまったく触れなかった「環境的側面」を、私が著書『スウェーデンに学ぶ持続可能な社会』私のブログで63回にわたって検証してきたと言ってもよいと思います。


竹崎 孜さんが伝えるスウェーデン: その「社会的側面」と「経済的側面」に関する最新情報

2008-12-21 15:07:48 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
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12月16日17日のブログでご紹介した雑誌『中央公論』(2009年1月号)の特集「危機の時代、どうする日本」に掲載された藤井 威さんの論文「スウェーデン型社会という解答」に続いて、今日は、竹崎 孜さんの最新著 『貧困にあえぐ国ニッポンと貧困をなくした国スウェーデン』(あけび書房 2008年11月1日 第1刷発行)をご紹介しましょう。



著者の竹崎 孜さんの略歴は次のように書かれています。


この略歴を拝見すれば、竹崎さんはスウェーデンの「社会的側面」「経済的側面」の最新の状況を私たちに伝えてくださることができる最適の方と言えるでしょう。

この本は、次のような章建てになっています。
●はじめに
●Ⅰ章 「小さい政府」のもとで貧困にあえぐ日本
●Ⅱ章 国や自治体の役割はそもそも何か
●Ⅲ章 貧困と格差をなくした「大きい政府」
●Ⅳ章 スウェーデン経済と企業の社会的責任
●Ⅴ章 新しい社会システムの追求と模索
●Ⅵ章 山積する問題と今後の課題
●あとがき

竹崎さんは、この本の「まえがき」の最初と最後で、次のように書いておられます。


「福祉大国スウェーデン」-多くの人びとはまず、そう口にするであろう。しかし、誤解を恐れずに言えば、スウェーデンを「福祉の充実した福祉大国」と表現するのは正確ではないと筆者はとらえている。正確には「貧困をなくした生活大国」と表現すべきであろうと考えている。

・・・・中略・・・・・

もちろん、スウェーデンが未完成の国であることはいうまでもないが、将来を左右するのは国民の意思であり、政治の方向性である。スウェーデンでは総選挙投票率が80%以上に及ぶ。それほどまでに政治への国民の関心が高いのは、民意が反映されやすい比例代表制のためでもあり、「信頼できる政治」 「国民ための政治」が当たり前になっていることの証しでもあろう。

日本のあり方について、本書が読者の皆様とともに考え合う一助になれば幸いである。



そして、「あとがき」の最後を、次のように結んでおられます。


日本に限らず、国民の生活問題は政治と密着しており、政治の質の改善がないかぎり、生活の安定や向上は望めないし、その鍵となっているのが、国民の政治への関心であろう。そのような意識が、このスウェーデンシリーズによって広まれば、微力を反省しながらも、著者としてはうれしい限りである。


竹崎さんは、この本の「まえがき」でも「あとがき」でも、そして、もちろん本文でも、「政治」の大切さを重要視しておられます。私は竹崎さんのこの姿勢に強く賛同します。皆さんもすでにご承知のように、私のブログのタイトルは

「経済」「福祉」「環境」、不安の根っこは同じだ!
「将来不安の解消こそ」、政治の最大のターゲットだ、

だからです。

私は竹崎さんのこの本のタイトル「貧困にあえぐニッポンと貧困をなくした国スウェーデン」に興味を持ち、購入し、読みました。私が認識していた「緑の福祉国家スウェーデン社会的側面と経済的側面」に対する最新の状況が竹崎さんの専門的な視点を通して見事に再現されていました。「ニッポン」と「スウェーデン」を対比した本のタイトルの付け方も興味のあるところでした。私ものこのブログでテーマは異なりますが、両国を対比するようなタイトルをつけたことがあるからです。

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「環境問題をリードしてきた国」と「そうでなかった国」(2007-12-04) 

あべこべの国 日本とスウェーデン(2007-09-20) 

フォアキャストする日本、バックキャストするスウェーデン① 「未来社会の構想」(2007-07-20) 

フォアキャストする日本、バックキャストするスウェーデン② フォアキャスト vs バックキャスト(2007-07-21) 

フォアキャストする日本、バックキャストするスウェーデン③ 21世紀はバックキャストが有効(2007-07-22) 

 「国際機関への提案が多い国」と「国際機関からの勧告を受けることが多い国」(2007-06-06) 

 「予防志向の国」(政策の国)」と「治療志向の国」(対策の国)(2007-01-05) 

危機の時代、どうする日本 スウェーデン型社会という解答(2)

2008-12-17 12:13:14 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
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昨日のブログで次のように書きました。 


藤井さんのお考えの大きな変化に基づくこの「スウェーデン型社会という解答」という論文は、閉塞感に充ち溢れ混迷が続く「現在の日本社会への解答」であると同時に、私が長年疑問視してきた「スウェーデン社会に対する日本の経済学者やエコノミスト、評論家などのもっともらしいが、あやしげな言説」への明確な解答とも言えるものでした。


今日は過去に日本の経済学者・エコノミストや評論家からどのような批判が出されていたのか確認しておきましょう。

「高福祉・高負担」が成り立つためには、高い経済水準が維持される必要があります。スウェーデンの国民一人当たりのGDPは1960年には世界3位(日本22位)で、スウェーデンはこの時点で、すでに世界の最貧国から十分に豊かな国に変身していました。70年は2位(日本18位)、80年は3位(日本17位)、90年は5位(日本8位)、2003年は8位(日本9位)となっています。そして、最新の状況は次のとおりです。 

関連記事

日本の一人当たりGDP OECD30カ国中18位(2007-12-27) 


高負担に耐えながら、20世紀のスウェーデンはこのように、高い経済水準を維持してきたのです。しかし、いつも順風満帆であったわけではなく、70年代には、「旧スウェーデン・モデル」に対する批判が相次ぎました。早稲田大学社会学部の岡沢憲芙さん は、『スウェーデンの政治――デモクラシーの実験室』(共著、早稲田大学出版部、1994年)で、批判は次のように要約される、と分析しています。




これらの批判は、藤井さんが「スウェーデン型社会という解答」で例示した批判と見事に重なっています。 


そして、私が2000年に出した結論は次のようなものでした。

この結論は8年経った2008年12月の今現在でも変わりませんが、奇しくも藤井さんの最新の論文「スウェーデン型社会という解答」が、私の疑問へ解答を与えてくださったということなのです。


危機の時代、どうする日本 スウェーデン型社会という解答

2008-12-16 22:36:30 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
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いま発売中の雑誌「中央公論」の2009年1月号が「特集●危機の時代、どうする日本」と題して、p97からp132にわたって、次のような座談会と3本の記事を掲載しています。

座談会 金融危機、遠のく総選挙、バラマキ・・・・・・    
麻生・小沢で難局を乗り越えられるか(p98~107)
    塩崎恭久(衆議院議員・元官房長官)、枝野幸男(衆議院議員)、田原総一朗(ジャーナリスト)

金融立国でもモノづくり信仰でもなく
グローバリズムの呪縛から目を覚ませ(115~108)
東谷 暁(ジャーナリスト)

赤字拡大のアメリカと黒字消滅の日本に自覚はあるか(p119~116)
大場智満 国際金融情報センター理事

消費税引き上げ・高福祉がもたらすもの
スウェーデン型社会という解答(p120~132)
藤井 威 みずほコーポレート銀行顧問・元駐スウェーデン大使


今日は、藤井 威さんの「スウェーデン型社会という解答」に注目します。執筆者の藤井さんは現在、みずほコーポレート銀行顧問で、論文の最後にある略歴によりますと、1940年東京生まれ。東京大学法学部卒業。大蔵省主計局次長、経済企画庁官房長、大蔵省理財局長、内閣内政審議室長、駐スウェーデン大使兼ラトビア大使、地域振興整備公団総裁を経て2004年7月より現職。著書に『スウェーデン・スペシャル』など、となっております。

略歴を拝見する限り、藤井さんは高度経済成長期の日本およびその後現在にいたるまで日本の社会の中枢で官僚としてご活躍になられた方ですので、今回の論文は非常に説得力のある論文だと拝察します。この論文はそのタイトル「スウェーデン型社会という解答」が示唆するように、混迷する日本の現状を意識しながら、スウェーデンを分析し、日本の将来の方向を明らかにした示唆に富んだ論文となっています。

ご興味のある方にはこの論文を読んでいただきたいのですが、この論文の概要を知るために小見出しを掲げておきます。

小泉改革の光と影
高福祉高負担国家への道-スウェーデン
高福祉高負担国家はなぜ元気なのか
     ①産業構造・雇用構造の変動
     ②福祉国家における出生率の上昇
     ③福祉国家の所得格差是正効果
     ④福祉国家の地域格差是正効果
日本の可能性



この論文のなかに、スウェーデン大使としてスウェーデン経済社会の実態を詳しく知るにいたって、藤井さんのお考えが大きく変わったという記述があります。この部分は大変大事なところです。



藤井さんのお考えの大きな変化に基づくこの「スウェーデン型社会という解答」という論文は、閉塞感に充ち溢れ混迷が続く「現在の日本社会への解答」であると同時に、私が長年疑問視してきた「スウェーデン社会に対する日本の経済学者やエコノミスト、評論家などのもっともらしいが、あやしげな言説」への明確な解答とも言えるものでした。

過去にどのようなスウェーデン社会に対する批判が日本の経済学者やエコノミスト、評論家から出されていたのか 次回で紹介しましょう。  



そして最後に、「日本の可能性」と題した部分では、スウェーデンの現状を踏まえながら、日本の将来を分析しておられます。日本の進むべき将来の方向が示されていると思います。


ここで、私がとくに強調しておきたいことは、藤井さんが「スウェーデン型社会という解答」でお書きになったスウェーデンの現状はまさに、私のブログの中心的テーマである「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)の3つの側面「社会的側面」、 「経済的側面」および「環境的側面」のうち、最初の2つの側面を表しているのです。


関連記事

市民連続講座:緑の福祉国家3 スウェーデンが考える「持続可能な社会」(2007-01-13)

環境問題を忘れた「早急な金融危機の解決策」は、更なる「大危機」を招く?

2008-12-13 19:22:21 | 環境問題総論/経済的手法
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12月8日のブログで、雑誌「世界」(2009年1月号)の「特集 大不況-いかなる変革が求められているか」に登場する識者がこのテーマを議論するときに、「21世紀の経済成長」の最大の制約要因であるはずの「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点がどの程度意識されているかを調べてみました。その結果、この80ページにおよぶ特集の中で、わずかにお一人、大阪大学の小野さん が「環境投資」の重要性を主張されているにすぎなかったのです。

この特集の趣旨は次のように書かれています。

    
米国の住宅バブル崩壊に端を発した金融危機は、瞬く間に世界に広がり、米欧を中心とした金融機関の損失は計5.8兆ドル(約550兆円)、損失比率は17.9%に及ぶという試算もある(みずほ証券08年11月24日)。各国政府・中央銀行は協調して、金融機関への公的資金導入、政策金利引き下げなどを矢継ぎ早に行い、金融システムの安定化を図っているが、混乱は収まっていない。

金融危機は実体経済の危機に転化し、日米欧の先進国経済はかつて経験したことのない同時マイナス成長の時代に入ろうとしている。GMなど米国の自動車産業だけでなく、トヨタなども販売不振に陥り、09年3月の業績予想では、売上高2兆円のマイナスという。モノが売れなければ貿易が急減し、経済が縮小すれば倒産が増え、失業率が上昇する。米国では10ヶ月で110万人が職を失った。

まさに未曾有の大不況の到来である。折しも、変革(チェンジ)を掲げたバラク・オバマ氏が次期米国大統領に選ばれた。変革は8年前のブッシュ時代に対してだけでなく、70年代以来30年にわたった新自由主義の時代に対する決別と転換でなければならない。グローバルな危機には、グローバルな対応が必要とされている。人々が餓えたり、基礎的な医療や教育が受けられなかったり、家を失って彷徨ったり、家族が離散せざるをえなかったりすることがないようにするために-いかなる変革がいま、必要なのか。
    

この特集記事が模索している「答え」を見つけるために掲げた上記の特集企画者の基本認識「70年代以来30年間にわたった新自由主義の時代に対する決別と転換でなければならない。グローバルな危機には、グローバルな対応が必要とされる」は大変明確であり、的を射ていると思います。

しかし、この特集で「金融危機」について「いかなる変革がいま、必要なのか」を問われている日本の識者の中に、「資源・エネルギー、環境問題」の意識がきわめて薄いことは大問題です。けれども次の報道をみれば、やむをえないことかもしれません。


 


「これまで、日本の環境対策は、世界の最先端を走っていると思っていた」とおっしゃる小村武・日本政策投資銀行総裁の“率直な驚き”は印象的です。この驚きこそ「日本の政・財界が共有している意識」といってよいでしょう。この事実は、環境問題に対する日本のリーダーの考え21世紀になってもいまだに「公害の域を出ていないこと」を見事に証明しています。

関連記事

私の環境論16 環境問題への対応、輸入概念でよいのか!(2007-01-26) 


日本の「金融と環境問題のかかわりの意識」と「それに基づく行動」が国際社会の中で大変遅れていることがおわかりいただけるでしょう。

関連記事 

私の環境論7 「環境問題」は「公害問題で」はない(2007-01-17) 

年度末にあたって、改めて環境問題とは(2008-03-29) 

私の環境論19 環境問題の「原因」も「解決」も経済のあり方、社会のあり方だ!(2007-02-02)

21世紀の資本主義、その行方は???(2008-03-30)  

日本の社会を構成する「主なプレーヤーの問題点」(3)経営者、政治家そして官僚(2008-10-03) 



同じようなことが「省エネ」という概念にも見られます。「日本の省エネ」と「国際社会の省エネ」の相違を次の記事でご確認ください。


関連記事
不十分な日本の「省エネルギー」という概念、正しくは「エネルギー効率の改善」という概念だ!(2007-11-26)




ドイツとポーランドが「今日の化石賞」受賞、 欧州のNGOが環境政策ランキングを公表

2008-12-11 21:51:36 | 温暖化/オゾン層
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12月5日のブログで、日本がCOP14で「今日の化石賞」を受賞したこと、7日のブログでは、日本がなぜ、「今日の化石賞」を受ける回数が多いのか?、その時々の事情ではなくて、受賞しやすい傾向を私なりに考え、お伝えしました。

今朝の毎日新聞によりますと、ドイツが「今日の化石賞」特別賞を受賞したそうです。この賞の創設(1999年)以来、日本は48回受賞、ドイツは今回で2回目の受賞です。


また、この日の毎日新聞夕刊によりますと、欧州のNGO「ジャーマンウオッチ」と「CANヨーロッパ」が環境政策ランキングを公表したそうです。この記事によると、最高位はスウェーデンで、66.7点、日本は57か国中43位で47.1点でした。



関連記事

温暖化対策実行ランキング スウェーデン1位、 日本42位

雑誌「世界」(2009年1月号)の「特集 大不況」に登場する識者の環境意識、ほとんどなし

2008-12-08 18:35:00 | 環境問題総論/経済的手法
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11月29日のブログ「私の環境論 経済危機と環境問題のとりあえずのまとめ」 で、 「21世紀の経済成長」の最大の制約要因であるはずの「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点がインタビューを受けた10人の識者に意識されているかどうかを調べた結果を掲げました。

これまでに登場した10人の識者のうち、21世紀の「世界の経済危機の行方」を論ずる際に、「資源」、「エネルギー」および「環境」という実体経済を直接支えている要因に触れた識者は経済学者のスティグリッツさんと元首相の中曽根康弘さんのお二人しかおりませんでした。

今日発売の岩波書店の雑誌「世界」の2009年1月号が「大不況-いかなる変革が求められているか?」を特集しています。特集のタイトルに魅かれ、購入し、読んでみました。この特集では著名な学者やマスメディアでおなじみのエコノミストが登場しますので、「21世紀の経済成長」の最大の制約要因であるはずの「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点が意識されているかどうかを調べてみました。

この特集は141ページから223ページまでの80ページが割かれています。内容は次のとおりです。

対談 いま、ケインズを読む意味
宇沢弘文(東京大学名誉教授)、間宮陽介(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点はなし。

改めて問う、小泉-竹中路線とは何だったのか
高杉 良(作家)
「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点はなし。

世界不況vs家計 貯蓄こそ防御の王道
荻原博子(経済ジャーナリスト)
「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点はなし。

シンポジウム:経済危機の深度と震度-いかなる政策が有効か

第Ⅰ部 危機はなぜ起きたのか、その影響は    

    報告 世界金融危機の進展と世界経済へのインパクト 河合正弘(アジア開発研究所所長)
    討議 小野善康(大阪大学社会経済研究所教授)、河合正弘(アジア開発研究所所長)、浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)、
        原田 泰(大和総研常務理事チーフエコノミスト)、水野和夫(三菱UFJ証券チーフエコノミスト)、小峰隆夫(法政大学社会学部教授 司会)「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点はなし。

第Ⅱ部 政策的対応はどうあるべきか
    報告 長期景気循環と政策の考え方 小野善康(大阪大学社会経済研究所教授)
    討議 
討議の中で、小野善康さんが「だから、私が何年も前から主張しているのは環境です。環境投資は生産性を上げない。けれども雇用を作って、国民の生活は快適になる。しかも、今後、世界は絶対に環境投資が必要ですから、重要な戦略産業となる。いまでこそ、国土交通省はいろいろ批判されていますが、高度成長期の建設省や運輸省は日本の発展の星だった。そこで土木技術にものすごい産業政策をやったわけで、日本は世界一の土木技術を持った。いまでは途上国援助でも土木産業が多い。まさにそれを環境でやれというのが私の主張です。」と述べておられます。 

討議の中でただ一人、小野さんが「環境の視点」を意識されていることを私は大いに評価しますが、小野さんの考えが「将来も今までのような経済成長を維持しつつ、環境への投資を積極的に行う」というのであれば、私の小野さんに対する評価は急落します。環境への視点があるとは言っても、この発想は90年代に十分な議論がないまま日本社会に定着してしまった感がある「エコロジー的近代化論」の発想の域を出ていないと思うからです。 

関連記事
 
エコロジー的近代化論(環境近代化論)(2007-03-14) 

エコロジー的近代化論の問題点(2007-03-15) 

ドイツの環境政策を支える「エコロジー的近代化論」(2007-03-16) 


第Ⅲ部 日本経済はどうなるか
    報告 世界金融危機の日本への影響 アメリカなき世界をどう生きるか 原田 泰(大和総研常務理事チーフエコノミスト)
    討議
「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点はなし。

第Ⅳ部 世界経済のパラダイムが変わるのか 
    報告 金融危機が突きつけるもの 浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)
    討議
「資源」、「エネルギー」および「環境」の視点はなし。

つまり、この80ページにおよぶ特集「大不況 いかなる変革が求められているか?」の中で、わずかにお一人、大阪大学の小野さんだけ「環境投資」の重要性を主張されているにすぎないのです。

この特集の中の高杉良さんの論文「改めて問う、小泉-竹中路線とは何だったのか」の「はじめに」を取り上げます。

この論文では、論文のタイトルから容易に想像できますように、小泉純一郎・元首相、竹中平蔵・元経済財政担当大臣への厳しい批判とニュースキャスターの田原総一朗さん への厳しい目が向けられています。高杉さんは「月刊現代」(2002年12月号)でも「憂国提言 竹中大臣を即刻クビにしろ」という論文を書いておられますので、「世界」(2009年1月号)の批判論文にも迫力があります。

私のブログでも過去に、 「環境問題の視点」からこの3人を取り上げたことがあります。

関連記事

2001年5月7日の小泉首相の所信表明演説(米100俵の精神)、9月27日の2回目の所信表明演説(2007-09-13)

2002年2月4日の小泉首相の施政方針演説(2007-09-12)

パラダイムの転換とはいうけれど(2007-02-13)

正月番組「地球温暖化」:サンデープロジェクト他(2008-01-09) 

94年の朝まで生テレビ:評論家 田原総一朗の「環境認識」(2007-01-28)

日本がなぜ、「今日の化石賞」を受けるのか? 経済成長、エネルギー消費、CO2の整合性なき政策

2008-12-07 16:00:10 | 温暖化/オゾン層
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一昨日のブログで
、今年もまた、日本が不名誉な「今日の化石賞」を受賞したことを紹介しました。今日は、「世界に冠たる省エネ国家、環境技術を有する国」などという政府関係者や一部の評論家の勇ましい発言にもかかわらず日本がなぜ国際NGOからこの種の賞を与えられるのかを具体的な例で考えてみましょう。




結論を先に言えば、日本の「省エネや環境技術」の定義あるいは判断基準が国際NGOと異なるからです。私がこのブログですでに明らかにしましたように、「日本の省エネ」という概念が意味するところは「エネルギーの効率化」であり、環境技術は「公害防止技術」だからです。これらの概念の相違は日本の省エネや環境関連法に由来するものだと思います。

関連記事

不十分な日本の「省エネルギー」という概念、 正しくは「エネルギー効率の改善」という概念だ!(2007-11-26) 

日本はほんとうに「省エネ」国家なのか? 評価基準の見直しを!(2007-03-17) 

永井孝尚のMM21:幻想の省エネ大国・日本(2008-01-22)  


私の環境論7 「環境問題」は「公害問題」ではない(2007-01-17) 

日本の国づくりの議論を混乱させる2つの指標 「国民負担率」と「環境効率」(2007-03-16)  


次の図をご覧ください。



2003年2月15日付の朝日新聞の全面広告に、2002年12月10日に東京の日本青年館で開かれたエネルギー・シンポジウムの様子が掲載されています。茅陽一さん(東京大学名誉教授)が日本の地球温暖化対策がいかにむずかしいかを説明しておられます。

茅さんのご専門は「システム制御工学とその社会・エネルギーシステムへの応用」、また茅さんは政府の総合資源エネルギー調査会の会長(当時)であり、日本のエネルギー政策を左右する重要な立場におられた方です。「地球が有限」であることを前提に経済のあり方を見直すべきであることを提唱した、「ローマクラブ」の有名な報告書「成長の限界」(1972年)にも、かかわっておられました。

この図では、これまでのGNP(なぜ、GDPでなく、GNPという指標を使っているのか不明ですが)の推移から現状をフォアキャスト(延長・拡大)して2010年のGNPを推定しています。CO2の推移をそのままフォアキャストすれば、GNPと同様に並行して急上昇するはずですが、この図では2010年のCO2は1990年レベル以下に削減するように描かれています。 

これは日本政府が2002年6月4日に「地球温暖化防止京都議定書」を批准し、議定書の目標を達成するために、2010年頃までにCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減することを国際的に公約したからです。

茅さんは「日本で発生しているエネルギー起源の炭酸ガスCO2とGNPの推移は、ほとんど並行的です。つまり経済が成長すれば、当然それだけいろいろな生産が増える。そうすると消費も増えて、それぞれから出てくるCO2は増えてしまう。ところがCO2の目標値は下げなければいけない。一方、GNPは増やすのが政府の目標です。この両方を達成するには、点線のように、両方に分かれなければいけない。その対策として、まず第一に政府は石油換算にして約7千万キロリットルの省エネルギーを掲げました。これは全家庭で消費しているエネルギー量に匹敵します。それを産業、民生、運輸部門でそれぞれ実施します」と説明しておられます。

茅さんのご説明では、地球温暖化対策の3本柱として約7千万キロリットルの省エネに加えて、新エネルギーの利用と原発の利用を述べておられます。

茅さんの発言を正確にフォローするために、上の図の枠をつけた部分を拡大してみます。



このことは、政府の目標であるGNPを下げないために、仮に「産業部門、民生部門の業務、運輸部門のエネルギーの消費量を現状のまま」と仮定すると、日本のすべての家庭で車や家電製品をいっさい使うことができないばかりでなく、電灯もつけられない、ガスでお湯も沸かせないなど、まさに江戸時代以前の生活に戻るしかない、というたいへんなエネルギーの削減が日本では必要である状況を示唆していることになります

太陽光発電や風力といった新エネルギーの利用を3倍にするといっても、すでにこのブログでも取り上げたように、これらの新エネルギーは稼働中にCO2を排出しない電源ではありますが、CO2削減装置ではありません。原子力も同様です。つまり、茅さんのご説明ではCO2を削減することは論理的にも無理な話なのです。 

関連記事

自然エネルギーにCO2削減効果はあるだろうか?(2008-01-14)

原発を考える⑪ CO2削減効果はない原発(2007-04-22) 


2002年12月10日に開催されたこのフォーラムから6年経った現在の状況を改めて検証しますと、茅さんのご説明が不適切極まりないものであったことがおわかりいただけると思います。ということは、日本政府の温暖化対策が不適切に策定されているといってもよいでしょう。次の図をご覧ください。


この図は、『暴走する地球温暖化論 洗脳・煽動・歪曲の数々』(池田清彦、伊藤公紀、岩瀬正則、武田邦彦、薬師院仁志、山形浩生、渡辺正 著 文藝春秋 2007年12月15日 第1刷 発行)の「はじめに-頭を冷やそう」のp5に掲載されている渡辺正さん作成の図です。この図は京都議定書の基準年(1990年)から18年経過したにも関わらず、日本のGDPとCO2の排出量が並行のままであり、デカップリングしていないことを示しています。

関連記事

日本の「温暖化懐疑論」という現象(1)(2008-09-24) 

日本の「温暖化懐疑論」という現象(2)(2008-09-25) 


さらに次の2つの図をご覧ください。日本政府の最新データと日本の電力事業者の最新のデータが渡辺さんの示した傾向をはっきりと裏付けています。




今日最後に見ていただきたいのは、京都議定書の基準年(1990年)から16年間のスウェーデンの経済成長(GDP)と一次エネルギーの推移を表したデータです。2002年12月10日のエネルギーフォーラムで茅さんがめざした「経済成長と一次エネルギーのデカップリング」がスウェーデンでは見事に実現されていることがおわかりいたたけるでしょう。




日本の現状は、「21世紀に私たちが望む便利で快適な社会」をめざしているとは到底思えません。この現状は、政府の目標である「GNP(あるいはGDP)の拡大」とそれを達成する手段としてのエネルギー政策、その結果としてCO2が増えることとの間に、政策的な大矛盾があることを示す以外の何ものでもなく、問題の解決をいっそうむずかしくしています。いかがですか。この説明で、日本の現状がいかに絶望的であるかがおわかりいただけたことでしょう。