環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

25年前に原発格納容器のベント用にフィルターを設置した国と、“安全神話”でいまだ設置ゼロの国

2012-03-27 21:33:48 | 原発/エネルギー/資源
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 このブログを開設したのが2007年1月1日でしたから、今年は5年目に入ったことになります。ブログを初めて5日目の2007年1月5日に「予防志向の国」(政策の国)と「治療志向の国」(対策の国)というタイトルの記事を書きました。予防志向の国とはスウェーデンのことで、治療志向の国とは日本のことです。今日は、改めてこのことを考えてみます。格好の判断材料があるからです。

 まずは、今日の東京新聞の1面掲載の記事「フィルターいまだゼロ」と題する記事をご覧ください。


 続いて、2面の解説記事「廃棄フィルター未設置 世界の『常識』備えなし」をご覧ください。この記事の中では、フランスやスイスの原発では当たり前の設備になっていると書かれています。

 原発の排気筒につけるフィルターについては、このブログでも以前取り上げましたが、スウェーデンの原発ではすべての原子炉にこの種のフィルター「フィルトラ・システム(FILTRA SYSTEM)」あるいは「類似のFILTRA-MVSSおよび他の事故緩和対策」が1988末までに完了しました。設置の動機は1979年の米国スリーマイルズ島原発事故の教訓からです。まず、「FILTRA SYSTEM」がデンマークのコペンハーゲンに近いバルセベック原発の2基の原子炉に設置され、1985年より稼働し始めました。1989年までに残りの10基の原子炉すべてに「FILTRA-MVSS」が設置され、同時に他の事故緩和対策がとられました。

このブログ内の関連記事
東日本大震災:東電会長 廃炉認める(朝日新聞 朝刊)、放射能封じ 長期戦(朝日新聞 夕刊)(2011-03-31)

もし、福島第一原発の原子炉格納容器にスウェーデンの「フィルトラ・システム」が設置されていたら(2011-07-20)

毎日新聞 福島1号機 東電ベント不調報告(2011-07-22)

ネット上の関連記事から
諸外国の苛酷事故対策設備の状況(平成2年6月8日 原子力安全委員会)

発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて>(平成4年5月28日 原子力安全委員会)



 NHK&出版のメディアミックス誌『月刊 ウィークス』の1989年10月号に「理想国家スウェーデン 迷走する脱原発路線」というタイトルの取材記事(p136~141)が掲載しています。この記事のp141でスウエーデンの「フィルトラ・システム」を報告すると共に、「日本の原発安全神話」を象徴する次のようなエピソードが紹介されています。

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 この装置も実は、対岸のコペンハーゲンの反原発運動を意識してつられたものだが、すでに、国内のすべての原子力発電所に設置済みだ。これに対して、日本では、 “原発の大事故は起きないことになっている”ため、このようなフィルター装置は現在稼働中の37基には一つも設置されていない。
 そう言えば、スウェーデンの取材中こんなことがあった。ある原子力発電所の幹部から「日本でもしチェルノブイリ級の原発事故が起きたら、どんな対策をとるのか」と質問されたのに対し、取材に同行した電気事業連合会のスタッフは、「原子炉の型が違うので、日本ではチェルノブイリのような大事故は起きない。従ってそうした対策は考えていない。可能性があるとしたら、ヒューマン・エラーが考えられるので、運転員の教育を通じて事故防止に努めている」と答えた。
 このあまりにも日本的な模範解答は、西側に通じにくかったと見えて、質問者は、「機械に絶対安全はありえない。人間だってミスしないとはかぎらない。それが人間だ」とつぶやいて、口をつぐんでしまった。
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 この事例からも示唆されますように、両国の間には「原子炉の安全性に関する基本認識」に対して20年以上の開きがあることがわかります。 昨年3月11日に起きた東京電力福島第1原発の大事故はこの認識の相違を見事なまでに明らかにしました。  

     
 余談ですが、バルセベック原発の2基は1999年11月30日、2005年5月31日にそれぞれ閉鎖され、現在スウェーデンで稼働中の原子炉は10基となっています。


★「予防志向の国」と「治療志向の国」

 日本は「何か目に見えるような問題が起こってから対応を考える、つまり、病気になってから治療する」というパターンを繰り返してきた国です。一方、スウェーデンは人間に被害が出てから行動を起こしたのでは大変コストが高くなる、特に、社会全体のコストが非常に高くなるという認識から、「予防できることは予防しよう」という考えで行動してきた国です。

 日本の水俣病の経験からもわかるように、水俣病という公害病は50年以上前に起り、1956年に公式に認められた病気です。しかし、患者の方々は高齢となり、今なお、この病気で苦しんおられる方がおりますし、裁判でもなかなか決着がつきません。この間に支払われたお金は大変な額にのぼるでしょうが、それでも、一度失われた健康は修復不可能です。
 
 これまでに公表された様々な資料をながめてみますと、明らかに「治療よりも予防のほうが安上がりである」と言えると思います。今、私たちが直面している環境問題やエネルギー問題は治療志向の国では対応できない問題ですので、日本を「治療志向の国」から「予防志向の国」へ転換していかなければなりません。


このブログ内の関連記事
「治療的視点」と「予防的視点」:摩擦の少ない適正技術を(2007-06-12)

「不安でいっぱいだが、危機感が薄い国」 と 「危機感は強いが、不安は少ない国」(2011-07-10)



★現実主義の国「スウェーデン」

 スウェーデンは非常に現実的な国です。原理・原則を大切にし、当たり前のことを当たり前のこととして実行してきた国です。日本のように言葉が飛び交い、行動が先送りされがちな国とは違って、国民の合意の下に公的な力によって行動に移してきた国です。

 私はスウェーデンを真似するべきだとは思いません。真似をしようとしても、できるものではありません。スウェーデンにはスウェーデンの歴史と文化、それに福祉国家を築き、それを支えている土壌があります。同じように、日本にも日本の歴史と文化、土壌があります。異なる道を歩んできた両国が今、共通の環境問題やエネルギー問題に直面しているのです。

 両国は共に20世紀に世界が注目する経済的な成功を治めた国ではありました。ここで、両国が経済的に成功した原動力を考えてみましょう。いろいろな理由が考えられますが、私は両国の発展の原動力は同じではなく、むしろ正反対だったと思っています。キーワードは「不安」です。スウェーデンは公的な力によって、つまり社会システムによって、国民を不安から解放するために安心・安全・安定などを求めて経済的発展を進め、生活大国をつくり上げたのに対し、わが国は不安をてこに効率化・利便さをもとめて経済大国と呼ばれるまでに経済的発展をとげたのです。激しい「競争」が不安を作り出す大きな原因であることは容易に理解できるでしょう。

 両国は、環境問題やエネルギーの分野では「世界をリードし続けてきた国」と「そうではなかった国」でした。ですから、スウェーデンが、今、考え、実行に移していることを検討することにより、私たちはもう少し環境問題やエネルギー問題の本質に近づくことができるのではないかと思います。

 そのような考えから、私はこのブログを書いています。私の提言は「自分の国のことは自分たちで真剣に考えよう」ということです。環境問題やエネルギー問題は世界共通の、しかも、これまでにどの国も解決したことがない人類史上最初で最後の大問題だと思うからです。

 スウェーデンは日本では福祉国家として知られていますが、意外に理解されていないのはこの国が「現実主義の国」、現実に立脚した国であるということです。日本では、スウェーデンを“理想主義の国”と考える人がかなりいるようですが、私はそうは思いません。“理想主義の国”だと思っていると時々“スウェーデンは理想郷ではない”というよう興味深い投書に遭遇し、スウェーデンの別な面を知って、戸惑ったり、ある種の安堵感をおぼえる方もいらっしゃるようです。

「Reality is the Social Democrat’s worst enemy.」(現実は社民党の最大の敵である)」という故パルメ首相の言葉があります。社民党は1932年の結党以来、社会の問題点、つまり現実を絶えず先取りしながら、現実を改良し、現在の福祉国家を築き上げたのです。福祉ほど私たちの日常生活に密着した現実的な課題はないでしょう。

 現在の福祉国家の枠組みを作ったのは社民党の長期単独政権でしたが、2006年からは穏健党を中心とする中道右派の4党連立政権となりました。2010年9月19日の総選挙の結果、中道右派政権が2014年まで政権を続投することになりました。今後の中道右派政権の「福祉政策」と福祉国家を支える「エネルギー政策」をウオッチしていく必要があります。


 日本と違って、スウェーデンのエネルギー政策をウオッチするには、次の視点が重要です。
   
    スウェーデンのエネルギー政策の将来を理解するカギは政策の中にあるのではなく、政治の中にある。
    我々にとって、民主主義はどんなエネルギー政策よりも重要である。(1989年4月 T.R.イャールホルム)