環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

原発は持続可能な社会の電源としてふさわしいか  ⑫(最終回)私の素朴な疑問

2012-08-13 06:35:11 | 原発/エネルギー/資源
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⑫(最終回)私の素朴な疑問 (2007年4月23日)

 4月10日から始めた「原発を考える」シリーズも今日で12回となりました。私の環境論に基づく「原発に対する基本的な考え」を皆さんにお伝えできたと思いますので、今回でいったんこのシリーズを終わります。

 シリーズを終わるにあたって、いかに日本のマスメディアがスウェーデンの原発政策をミスリードするのかを具体的に見ておきましょう。次の記事は1988年年6月9日の朝日新聞の夕刊に掲載された記事です。同様の記事が他紙にも掲載されていました。(図12‐1)


 この記事を読んで、私はこの記事はスウェーデンの原子力政策に関心を持つ人々に誤解を与えるのではないかと懸念し、朝日新聞の「論壇」に、私が理解するスウェーデンの最新の状況を投稿しました。私が初めて「原発問題」を日本の社会に問いかけたきっかけは、およそ20年前、1988年8月10日の朝日新聞に投稿したこの「論壇」でした。(図12‐2)

この記事を拡大するにはここをクリック

 この投稿記事に真っ先に反応したのは、意外にも、当時、反原発・脱原発運動を進めていた方々ではなく、政府の科学技術庁でした。新聞掲載の翌日か2日後に、科学技術庁の原子力担当課長(?)から職員に講演して欲しいとの依頼を受けました。

 それ以来、私は日本とスウェーデンの原発の動向をウオッチしてきました。この「原発を考える」というシリーズを終わるに当たって、いまなお、十分な回答を得られていない私の率直な疑問を提示しますので、皆さんも一緒に考えてください。なお、これらの疑問は私の最初の本『いま、環境・エネルギー問題を考える』(ダイヤモンド社、1992年7月)に収録されています。

疑問:その1
 1990年12月23日に発表されたわが国の総理府の「原子力に関する世論調査」によれば、調査対象の90%が原発に不安を感じるが、64.5%は原発の必要性を感じているそうです。一方、スウェーデンの世論調査では、自国の原発に不安を感じるのは常に調査対象の30~40%程度で、1980年の国民投票でも投票者の60%弱が12基までとの上限があるものの「原発容認」に票を投じていました。

 2010年における原発を発電容量で「現在の2倍以上(110万Kw級原子炉で40基分相当)」にするという目標を1990年6月に設定した日本と、2010年には原発を「ゼロ」にするという目標を10年前に掲げて様々な試みを行ってきたスウェーデンとの間に「原発」に対する考え方の大きな相違があるのは何故なのでしょうか?

 
疑問:その2
 日本の原子力関係者の一部には、スウェーデンはそのエネルギー政策で〝苦悩あるいは迷走〟しているという表現を好む向きがあります。

 私に言わせれば、順調に稼働し、しかも自国の原発技術に対して政府や国民がかなりの信頼を寄せている原発を廃棄し、しかも自然破壊の原因となる水力発電のこれ以上の拡張を禁止し、さらに、環境の酸性化の原因とされる化石燃料の使用に厳しい規制を要求する国民各層の意見を反映して策定された「国のエネルギー政策」を、そのような判断基準を持たない国の視点で現象面だけを見れば、「苦悩しているように見える」のは当然でしょう。

(1)もし原発が環境に対してクリーンであるならば、20年以上も硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)に起因するとされる「環境の酸性化(日本では〝酸性雨問題〟と言います)」に悩み、しかも

(2)二酸化炭素(CO2)の排出にも最も厳しい姿勢を示しているスウェーデンが、順調に稼働し信頼されている原発を〝苦悩あるいは迷走〟しながらも廃棄しようとするのは何故なのでしょうか?

疑問:その3
200年を越えるという情報公開制度の歴史を持つスウェーデンで、国際的に見ても
 (1)最大限の安全対策
 (2)最大限の廃棄物対策
 (3)徹底した原発労働者の放射線被ばく防護対策
 (4)原発の安定した順調な稼働実績
 (5)徹底した原発施設の一般公開
 (6)原発情報の積極的な公開と提供
などに加えて、十分な「PA活動(国民の合意形成活動)」を続けてきたにもかかわらず、1989年4月に東京で開かれた日本原子力産業会議の第22回年次大会で、スウェーデン原子力産業会議の会長に「スウェーデンでは『PA活動』が成功しなかった」と言わせしめたのは何故なのでしょうか?
 

疑問:その4
 日本の高校社会科の教科書における原発の扱いにも問題があります。この件を報じた1990年7月1日付けの朝日新聞の記事をみますと、私は「原稿本」の表記が正しく、文部省の指示にしたがって修正した「見本本」は誤りであり、修正は改悪であると思います。(図12‐3)


 疑問に思う方は日本の原子力委員会が編集している『原子力白書(平成元年版)』の13~14ページのスウェーデンの項を参照してください。原子力白書はかなり正確にスウェーデンの状況を記述しています。

 仮に、この記事の「見本本」の表記が正しいとすれば、スウェーデンのエネルギー政策の行方に一喜一憂(?)することもなければ、何組もの調査団をわざわざスウェーデンまで送り、類似の関心事項を繰り返し調査するような無駄は必要ないと思いますがいかがでしょうか? 

疑問:その5
 皮肉なことに、スウェーデンの原子力技術の水準の高さを最もよく知っているのは、日本ではほかでもない、原子力の専門家の方々です。 原子力エネルギーが環境に対してクリーンかどうか、あるいは環境にやさしいかどうかは1991年8月12日の朝日新聞の記事「原子力への課税提案へ」という記事や業界誌の週刊『エネルギーと環境』の1991年7月11日号の「原発もCO2課税の対象に、波紋投げる」という記事をみれば、明らかでしょう。

 原子力エネルギーが環境にクリーンと言うなら、あるいは環境にやさしいと言うなら、スウェーデン以外の工業先進国、たとえば、米国、英国、ドイツ、フランスなどが原子力エネルギーの利用にこれまで以上に積極的にならないのはなぜなのでしょうか?

 もう一度繰り返しますが、これらの疑問は私が15年以上前からいだいてきた疑問です。化石燃料に乏しく、輸入石油への依存度が高いという点で、かつては日本と似た立場にあった北欧の先進工業国スウェーデンの動向やEUの動向に適切に応えることこそ、 日本の原子力関係者に求められていることではないでしょうか?



原発は持続可能な社会の電源としてふさわしいか  CO2削減効果はない「原発」

2012-08-12 12:20:24 | 原発/エネルギー/資源
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11 CO2削減効果はない「原発」  (2007年4月22日

 4月10日のブログ「1 まずは、皆さんへの質問」 に掲げた「21世紀の電源としての原発の論点」で8つの論点をあげましたが、今日はそのうちの一つ「環境にやさしいか」について検証します。具体的には原発にCO2削減効果があるかどうかです。

★原発にはCO2削減効果はまったくない

 まず、私がはっきり申し上げておきたいことは、「原発は発電時にCO2を排出しない発電装置」ではありますが、原子力推進者が主張するように、「CO2の排出削減装置」ではありませんので、「原発にはCO2を削減する効果はまったくない」ということです。

 次の図をご覧ください。この記事は「原発は発電時にCO2を排出しない発電装置」であると言っているにすぎません。(図11‐1)
 

 原発とCO2の削減に関する私の主張は次のとおりです。(図11‐2)


★あえて、原発のCO2削減効果を主張したいのなら……

 原発自体にCO2削減効果がないにもかかわらず、それでもCO2の削減に原発が有効であることをあえて主張したいのであれば、原発がつくりだす膨大な電力を生み出すために必要な化石燃料の使用を、原発の運転開始と同時に中止することです。このような措置をとれば、化石燃料は原発により置き換えられたことになりますので、原発の設置によって「CO2の排出量は削減された」とみなしてもよいでしょう。

 こうすることによって、CO2の削減は可能になるでしょうが、同時に私たちは、現在十分に解決できていない原発特有のマイナス面(安全性、核廃棄物、核拡散、労働者被曝、廃炉、核燃サイクルなどの放射線がかかわる問題や温排水などの難問)とそれに対処するための「膨大なコスト」をさらに抱え込むことになります。そして、事故が起きた場合には、さらに……

 しかし、実際には原発をつくるだけで、化石燃料の削減はなされていないようです。これではCO2は削減できません。次の図をご覧ください。(図11‐3)


 1990年4月に運転を開始した柏崎刈羽原発5号機から、97年7月運転開始の玄海4号機まで、15基の原発が90年代に新設され、稼働してきましたが、この間に日本のCO2排出量は10%強も増加しています。この10年間に石油、水力、地熱、新エネルギー、再生可能エネルギーの供給量はまったく同じです。変化があるのは、石炭と天然ガスと原発の増で、総エネルギー供給量は増えています。

 そして、この間に原発は15基増えており、CO2排出量は1億トン以上(10.1%)増えています。このことは、原発と化石燃料との置き換えがまったくなされていないことをはっきり示しています。

 なお、2006年末までに原発はさらに3基増え、1990年から18基が稼働しているにもかかわらず、CO2の排出量も90年代に比べてさらに増えています。

 逆に、次の記事は「必要な電力の供給量を維持するために、停止した原発が化石燃料を燃やす火力発電で置き換えられた」という趣旨の記事内容となっています。ですから、私の推測通りの結果が出ているのです。(図11‐4)



  以上の理解は、次の図からも支持されるでしょう。(図11‐5)

 さて、もう一度、「原発はCO2の削減に有効か」を皆さんにお尋ねします。次の2つの相反する意見を私のコメント抜きで紹介します。前者は1990年当時の電気事業連合会会長・那須翔さんの発言です。後者は1991年の東京大学教授・鈴木篤之さんの発言で、核廃棄物の専門家であられる鈴木篤之さんは現在、原子力安全委員会の委員長を務めておられます。みなさんで考えてみてください。(図11‐6および7)









原発は持続可能な社会の電源としてふさわしいか  ⑩「持続可能な社会」のエネルギー体系とは

2012-08-10 07:25:11 | 原発/エネルギー/資源
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⑩「持続可能な社会」のエネルギー体系とは (2007年4月19日)

 4月10日から始めた「原発を考える」のシリーズも今日で10回目を迎えることになりました。原発の本質的な問題を考えるために、私はあえて、これまで原発事故には触れてきませんでした。そして、4月10日のブログの最後に、次のように書きました。
 
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 ここに掲げた論点は、原発の問題点として、電力会社の不祥事の問題は一切取り上げていません。私がここで議論したいことは原発の本質を議論するために、「原発が正常に稼働しており、原発に対する安全性向上に向けたさまざまな技術開発が常に着実に行われており、電力会社も真剣に対応している。情報公開は完全に確保され、電力会社の不祥事は一切ない。」という前提での議論です。
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★「原発」に対する私の結論
 そして、原発に対する私の結論は、たとえ上記のような条件が整っていたとしても、3月11日のブログ「新しい経済発展の道をめざして」昨日のブログ「原発と持続可能な社会―その2」の最後に書きましたように火力発電と原発の増大は、ますます「持続可能な社会への軟着陸を難しくすることになる」ということです。 


★原発トラブル

 2007年3月30日に電力各社が経済産業省原子力安全・保安院に提出した報告書から、70年代から2001年にかけてさまざまな不祥事を繰り返していたことがわかります。(図10-1および図10-2)



 ですから、これまで検証してきた原発の本質に加えて、この図表のような不祥事や事故の現状を考えると、原発は「21世紀の持続可能な社会」の電源としてふさわしくないことは明らかだと思います。


★「持続可能な社会」のエネルギー体系とは

 それでは、「持続可能な社会」のエネルギー体系としては、どのようなエネルギー体系が望ましいのでしょうか。私は次のように考えます。

 21世紀前半の社会を支える技術体系は、そのエネルギー体系に左右されます。20世紀に頂点を極めた近代工業の高い経済性は、「すぐれた技術力にある」と考えがちですが、これらの技術はすぐれた一次エネルギーである「石油」「石炭」「天然ガス」などの化石燃料や電力に支えられたもので、化石燃料が入手しにくくなれば、現在の高度な技術は役に立たなくなり、現在のような高い経済性は期待できないことを理解しなければなりません。

 21世紀初頭のエネルギー政策で最優先すべき政策課題は、最終エネルギー消費を抑制する「省エネ政策」でなければなりません。ここで注意しなければならないのは、3月16日のブログ「環境効率性、そして、効率化と省エネの混同」と3月17日のブログ「日本はほんとうに省エネ国家なのか、評価基準の見直しを!」で指摘しましたように、日本の省エネの概念が「効率化や原単位」をベースに考えていることです。この考えを改め、省エネの概念を「最終エネルギー消費の削減」に変えなければなりません。

 その上で、21世紀前半にめざすべき日本のエネルギー体系の構築には次のような視点が必要です。

①現行のエネルギー体系のもとでは、投入したエネルギーのうち有効利用されているエネルギーは3分の1で、残りの3分の2は廃熱として損失となっている。このエネルギー体系そのものの改善なしに、需要に応じてエネルギー供給を増大させることは、環境への人為的負荷をさらに高めることになる。したがって、まず現行のエネルギー体系を改善し、省エネルギー化に努めて最終エネルギー消費を抑制する。

②その上で、既存の化石燃料や原発の利用を現状に凍結し、「新しいエネルギー利用技 術(燃料電池、コジェネレーション、ヒートポンプ、クリーン・エネルギー自動車など)」や「自然エネルギー」で既存の化石燃料と原発を段階的に代替して(置き換えて)いく。

めざすべき目標は、ただ「自然エネルギー(再生可能なエネルギー)の導入促進」をすることではなくさらに進んで、21世紀の望ましい社会である「持続可能な社会」を支える、 「再生可能なエネルギーによる新しいエネルギー体系の構築」である。

報道機関向けに部分公開された「東京電力本店と福島第一原発の現場を結ぶTV会議」

2012-08-07 09:47:41 | 原発/エネルギー/資源
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 今朝の朝日新聞一面に掲載された「報道機関向けに部分公開されたTV会議」の記事は「ベントできるならさ、おい吉田。ベントできるんだったら、もうすぐやれ、早く」と、東京電力本店にいた元副社長の早瀬祐一顧問が福島第一原発の吉田昌郎所長に指示したという緊迫感と臨場感あふれる書き出しで始まっています。

 私にとってのこの記事の最初のキーワードは「ベント」です。このブログでも原発の過酷事故における「ベント」の重要性と、そのベント・システムに放射性物質の大気への放出を防止するフィルターをつけたスウェーデンの予防的な考え方を紹介しました。

このブログの関連記事
25年前に原発格納容器のベント用にフィルターを設置した国と、“安全神話”でいまだ設置ゼロの国(2012-03-27)


 もう一つのキーワードは「早瀬祐一顧問」です。「早瀬さん」は今朝の朝日の記事では元副社長という肩書きがついておりましたが、私が初めて早瀬さんのお名前を知ったのは17年前のことでした。当時の早瀬さんは電気事業連合会(電事連)の原子力部長でした。東京電力から電事連に出向していらしたのですね。

このブログの関連記事
原発は持続可能な社会の電源としてふさわしいか  原発と持続可能な社会―その2(2007-04-18)


 私は2007年4月18日のブログの終わりに、次のように書きました。

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 私の考えでは、2050年の世界は現在の産業経済システムの下で、経済活動を拡大した状況ではありえないということです。早瀬さんが個人として、あるいは電気事業連合会が組織として、2050年頃の社会をどのようにイメージしているのかぜひ伺いたいと思います。

 あまり難しい議論はこの際必要ありません。基本的な考え方は次のとおりです。

 「現行の産業経済システムの下で経済の持続的な拡大が今後少なくとも50年以上は続くということが確実であり、環境問題にはあまり配慮しないというのであれば、現行の産業経済システムを支えているエネルギー体系を構成する火力発電と原発の増大はそれなりに合理性があると思います。けれども、そうではなさそうだというのであれば、3月11日のブログ「新しい経済発展の道をめざして」 に書きましたように、「火力発電と原発の増大はますます持続可能な社会への軟着陸を難しくすることになる」ということです。
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