環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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あべこべの国  日本とスウェーデン

2007-09-20 10:37:53 | 社会/合意形成/アクター
 

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過ぎ去った20世紀も、これから歩む21世紀も日本とスウェーデンは、現在までは多くの分野で「あべこべの国」の様相を呈しているように思います。それは社会に対する「価値観の相違」と将来に対する「判断基準の相違」と言ってもよいのかもしれません。

「環境問題スペシャリスト」を肩書(日本で唯一人?)として使用している私がなぜ、このブログで経済や財政、社会の仕組みを取り上げるのかと問われれば、私の環境論では「環境問題は、私たちが豊かになるという目的のために行ってきた経済活動の結果、必然的に目的外の結果が蓄積し続けているもの」 、平たく言えば、「昔から環境と経済は切ってもきれない関係にある(識者は90年代中頃から「環境と経済の統合」など言い始めましたが)と考えているからです。

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最近、神野直彦さん(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 専攻は財政学)の最新著「財政のしくみがわかる本」(岩波ジュニア新書566 2007年6月発行)を読みました。神野さんに初めてお目にかかったのは2001年か2002年頃でした。その時、神野さんが「スウェーデンは学問が政策に生かされている国なのですね」という趣旨のことをおっしゃっていたことを印象強く覚えています。



この本の中で、国際比較のために使われている図に日本とスウェーデンの「あべこべの国」の様子がはっきりわかる図表が3枚ありましたので、紹介します。それぞれの国の「社会」を国際比較するための図では、多くの場合がそうであるように、日本と米国の対極にスウェーデンがあり、その間にドイツ、イギリス、フランスなどのEU主要国があるという図式がここにも表れています。


1枚目のこの図は、「3 税はどんなしくみになっているのだろう」という章に登場する図で、私たちに馴染みのある「国民負担率の内訳の国別比較」です。


神野さんの説明: 

まず、アメリカは個人所得課税つまり所得税のウエイトが高いけれども、社会保障負担は低く、付加価値税もないため消費課税は低くなっています。スウェーデンは所得税も付加価値税も社会保障負担も、いずれも高くなっています。これは、それぞれの社会観をあらわしています。
日本の租税負担からわかることは、国民の最低生活を保障していく責任を政府がひきうけていないということです。というのも、個人所得課税のウエイトがいちじるしく低いからです。とはいうものの、国民がおたがいに助けあって生きていこうという考え方も弱いと言っていいと思います。

ドイツとフランスを見ても、個人所得課税の負担は日本よりも大幅に高いのです。つまり、豊かな人々もそれだけ高い負担をしているからこそ、貧しい人々に消費課税の負担のを求めることができるのです。スウェーデンにいたっては、個人所得課税のウエイトが高く、政府が国民に最低生活どころか標準生活を保障しているといえます。もちろん、それだからこそ、貧しい人々にも消費課税の高い負担を求めることが可能なのです。


2枚目のこの表は、「5 借金は財政どんな意味をもつか」という章にある表で「財政収支と債務残高の国別比較」です。 


神野さんの説明:

たしかに日本の財政赤字はGDP比で6.1%と高くなっています。しかし、純利払費は1.5%と低いのです。もう一つ重要なことは、日本政府はひじょうに多額の借金をしていますが、その一方で多額の資産(財産)を持っていることです。そこから収入が大幅に上がってくるのです。表5・1を見れば、総債務残高も高いのですが、資産も多いことがわかります。総債務残高から資産をさしひいた純債務残高は、78%とかなり低くなっていますね。

第二次大戦後、先進諸国は、黄金の30年といわれるような高度成長をなしとげました。その高度成長の果実を、スウェーデンなどは福祉施設に使いました。日本はすべて対外債権、お金の貸し付けとして残しているのです。毎年、国際収支は黒字になっています。その日本の黒字はすべて、外国からお金をとれる権利としてもっているのです。

したがって、将来の世代には、使い道がないといってもいいほどのお金が、インドネシアやアメリカなどから入ってくることになります。私たちは将来の世代に負担を残すどころか、大きな財産を残しているということです。

ただし、世界の歴史の中で、大きな軍事力ももたずに、ここまで借金を外国に認めた国はないのです。アメリカやインドネシアが「借金を返さない」と言ったら、どうやってとってくるのかということは、誰も心配していません。しかし、そのほうが本来は重要な話のはずです。


そして、3枚目のこの図は、「8 財政の未来像をえがく」という最終章にある図で、「政策分野別社会支出(対国民所得比)の国際比較」と名付けられています。この章は、将来の財政の方向性を考えるための章です。


神野さんの説明:

図8・1を見てください。日本はスウェーデンやドイツ、フランスなどのヨーロッパの国々とくらべて、年金は医療保険は半分以上の数値になっています。しかし、児童手当と高齢者福祉サービスの数値は極度に低くなっています。つまり、育児サービスと高齢者福祉サービスが大きく遅れていることが、はっきりとわかりますね。もちろん、愛情は別です。政府が責任をもつのはサービスで、愛情は家族の責任であり、コミュニティの責任です。

最終章の一番最後の「財政を民主主義の手にゆだねる」と題した項は、この本に示された神野さんのお考えの「まとめ」と考えられる部分です。大切なことなので全文を引用させていただきます。

X X X X X 
私たちが財政の未来を考えていく上でもっとも重要なことは、財政を民主主義の手にゆだねるということなのです。民主主義の手にゆだねるということは、国民が意思決定に参加できる公共の空間を、できるだけ多く、分断してつくっておくということです。

どういう社会を形成するか、どういう生活を形成するかという決定権限を、国民に多くゆだねることが民主主義です。

私は、民主主義は二つの原則から成り立っていると考えています。一つは未来は誰にもわからないという原則。もう一つは、人間には誰でもかけがえのない能力があるという原則。この二つが民主主義の原則だと思います。

この二つの原則から出てくる結論は、私たちの社会の未来をどうするのかという選択は、すべての社会の構成員がかけがえのない能力を発揮しておこなうべきだということです。共同意思決定に未来の選択をゆだねたほうがまちがいがない、まちがいが少ないという確信が民主主義だ、と私は思っています。

財政は、民主主義にもとづいて営まれる経済であり、市場社会は市場経済と財政という二つの経済によって構成されている、とお話ししました。私たちは日本の社会を活性化しようとすれば、この二つの経済を活性化することが必要です。
市場経済の活性化のみを求めても、けっして市場社会は活性化しません。市場経済を活性化するには、民主主義の活性化が必要であり、市場経済と民主主義がおたがいに手をとりあっていかないと、市場社会はけっして活力を生み出しません。

市場経済は効率を要求し、格差を容認します。一方、民主主義は公平を追求し、格差の是正を要求します。私たち財政学者は、効率と公正をいかに融合させるのかということに心を砕いてきました。市場社会の政策には、効率と同時に、公平・公正という価値基準が重要であるということをわすれてはならないというのが、私たちの財政学の過去からの教えなのです。

そして私たちの未来を決めていくのは、結局のところ、この本を読んでいるあなたを含めた私たち一人一人だということを忘れてはならないのです。
X X X X X


①私のコメント
神野さんは「政策分野別社会支出(対国民所得比)の国際規格」の図で、「つまり、(日本は)育児サービスと高齢者福祉サービスが大きく遅れていることが、はっきりとわかりますね」とおっしゃておられます。 そして、年金問題は大混乱です。

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私のコメント②
そして、神野さんの結論は「市場経済と民主主義がおたがいに手をとりあっていかないと、市場社会はけっして活力を生みだしません」とおっしゃておられます。以前のブログで、私は「民主主義の成熟度ランキング」を紹介したことがあります。覚えていらっしゃいますか。スウェーデンが1位、ドイツ13位、米国17位、日本21位、英国23位、フランス24位でしたね。神野さんのおっしゃる条件「市場経済と民主主義、あるいは効率と公正の融合」にもっともかなうのはスウェーデンでしょう。

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