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日本がなぜ、「今日の化石賞」を受けるのか? 経済成長、エネルギー消費、CO2の整合性なき政策

2008-12-07 16:00:10 | 温暖化/オゾン層
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一昨日のブログで
、今年もまた、日本が不名誉な「今日の化石賞」を受賞したことを紹介しました。今日は、「世界に冠たる省エネ国家、環境技術を有する国」などという政府関係者や一部の評論家の勇ましい発言にもかかわらず日本がなぜ国際NGOからこの種の賞を与えられるのかを具体的な例で考えてみましょう。




結論を先に言えば、日本の「省エネや環境技術」の定義あるいは判断基準が国際NGOと異なるからです。私がこのブログですでに明らかにしましたように、「日本の省エネ」という概念が意味するところは「エネルギーの効率化」であり、環境技術は「公害防止技術」だからです。これらの概念の相違は日本の省エネや環境関連法に由来するものだと思います。

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次の図をご覧ください。



2003年2月15日付の朝日新聞の全面広告に、2002年12月10日に東京の日本青年館で開かれたエネルギー・シンポジウムの様子が掲載されています。茅陽一さん(東京大学名誉教授)が日本の地球温暖化対策がいかにむずかしいかを説明しておられます。

茅さんのご専門は「システム制御工学とその社会・エネルギーシステムへの応用」、また茅さんは政府の総合資源エネルギー調査会の会長(当時)であり、日本のエネルギー政策を左右する重要な立場におられた方です。「地球が有限」であることを前提に経済のあり方を見直すべきであることを提唱した、「ローマクラブ」の有名な報告書「成長の限界」(1972年)にも、かかわっておられました。

この図では、これまでのGNP(なぜ、GDPでなく、GNPという指標を使っているのか不明ですが)の推移から現状をフォアキャスト(延長・拡大)して2010年のGNPを推定しています。CO2の推移をそのままフォアキャストすれば、GNPと同様に並行して急上昇するはずですが、この図では2010年のCO2は1990年レベル以下に削減するように描かれています。 

これは日本政府が2002年6月4日に「地球温暖化防止京都議定書」を批准し、議定書の目標を達成するために、2010年頃までにCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減することを国際的に公約したからです。

茅さんは「日本で発生しているエネルギー起源の炭酸ガスCO2とGNPの推移は、ほとんど並行的です。つまり経済が成長すれば、当然それだけいろいろな生産が増える。そうすると消費も増えて、それぞれから出てくるCO2は増えてしまう。ところがCO2の目標値は下げなければいけない。一方、GNPは増やすのが政府の目標です。この両方を達成するには、点線のように、両方に分かれなければいけない。その対策として、まず第一に政府は石油換算にして約7千万キロリットルの省エネルギーを掲げました。これは全家庭で消費しているエネルギー量に匹敵します。それを産業、民生、運輸部門でそれぞれ実施します」と説明しておられます。

茅さんのご説明では、地球温暖化対策の3本柱として約7千万キロリットルの省エネに加えて、新エネルギーの利用と原発の利用を述べておられます。

茅さんの発言を正確にフォローするために、上の図の枠をつけた部分を拡大してみます。



このことは、政府の目標であるGNPを下げないために、仮に「産業部門、民生部門の業務、運輸部門のエネルギーの消費量を現状のまま」と仮定すると、日本のすべての家庭で車や家電製品をいっさい使うことができないばかりでなく、電灯もつけられない、ガスでお湯も沸かせないなど、まさに江戸時代以前の生活に戻るしかない、というたいへんなエネルギーの削減が日本では必要である状況を示唆していることになります

太陽光発電や風力といった新エネルギーの利用を3倍にするといっても、すでにこのブログでも取り上げたように、これらの新エネルギーは稼働中にCO2を排出しない電源ではありますが、CO2削減装置ではありません。原子力も同様です。つまり、茅さんのご説明ではCO2を削減することは論理的にも無理な話なのです。 

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2002年12月10日に開催されたこのフォーラムから6年経った現在の状況を改めて検証しますと、茅さんのご説明が不適切極まりないものであったことがおわかりいただけると思います。ということは、日本政府の温暖化対策が不適切に策定されているといってもよいでしょう。次の図をご覧ください。


この図は、『暴走する地球温暖化論 洗脳・煽動・歪曲の数々』(池田清彦、伊藤公紀、岩瀬正則、武田邦彦、薬師院仁志、山形浩生、渡辺正 著 文藝春秋 2007年12月15日 第1刷 発行)の「はじめに-頭を冷やそう」のp5に掲載されている渡辺正さん作成の図です。この図は京都議定書の基準年(1990年)から18年経過したにも関わらず、日本のGDPとCO2の排出量が並行のままであり、デカップリングしていないことを示しています。

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さらに次の2つの図をご覧ください。日本政府の最新データと日本の電力事業者の最新のデータが渡辺さんの示した傾向をはっきりと裏付けています。




今日最後に見ていただきたいのは、京都議定書の基準年(1990年)から16年間のスウェーデンの経済成長(GDP)と一次エネルギーの推移を表したデータです。2002年12月10日のエネルギーフォーラムで茅さんがめざした「経済成長と一次エネルギーのデカップリング」がスウェーデンでは見事に実現されていることがおわかりいたたけるでしょう。




日本の現状は、「21世紀に私たちが望む便利で快適な社会」をめざしているとは到底思えません。この現状は、政府の目標である「GNP(あるいはGDP)の拡大」とそれを達成する手段としてのエネルギー政策、その結果としてCO2が増えることとの間に、政策的な大矛盾があることを示す以外の何ものでもなく、問題の解決をいっそうむずかしくしています。いかがですか。この説明で、日本の現状がいかに絶望的であるかがおわかりいただけたことでしょう。


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