環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

「予防志向の国」(政策の国)と「治療志向の国」(対策の国)

2007-01-05 20:37:07 | 社会/合意形成/アクター
1972年6月の第一回国連人間環境会議でのスウェーデンにとっての最も重要な論点は、「環境の酸性化」(日本でいう「酸性雨問題」。化石燃料の燃焼によって生じた硫黄や窒素の酸化物が、国内のみならず国境を越えて、他国の環境に与える影響のこと)でした。

この会議からの教訓の一つとして、スウェーデン環境保護庁は、翌年の73年からワシントンと東京のスウェーデン大使館に「環境問題専門の担当官」を置くことを決めました。そして、私がその任に就くことになったのです。73年2月から私の新しい仕事が始まりました。

この決定に、スウェーデンの環境問題に対する基本認識の一端を垣間見ることができます。その理由はつぎに述べるように単純明快です。大使館での私の職務内容を記した書類には、つぎのように書かれていました。

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近年、世界の先進工業国は技術導入、技術移転などを通じて製品を生産しており、 途上国も先進工業国からの技術移転による生産活動をしているので、生産工程や そこで使用される原材料やエネルギーは基本的には似たようなものになってきて いる。

  そうだとすれば、スウェーデン国内で公害が起これば、類似の生産工程を持つ他 の先進工業国や途上国でも類似の公害が起こる可能性があるし、逆に、他国で 起こった公害はスウェーデンでも起こる可能性がある。したがって、不幸にして スウェーデン国内で先に公害が起これば、その原因を分析し、他国の政府にスウ ェーデンの経験を提供することにより、その国の公害を未然に防ぐことができる はずである。

また、どこかの国でなんらかの公害が先に起こった場合には、その原因を分析し、 その結果に基づいて行政が早めに対策をとれば、スウェーデン国内で同種の公害 が起こることを未然に防ぐことが可能になる。そのためには、情報を早めに交換 するために常駐の「環境問題専門の担当官」が必要である
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自国の体験と他国の体験を交換することにより、行政が早めに対応すれば「公害は未然に防げる」、あるいは「防げないまでも、被害を最小限にとどめることができるはずである」というわけです。さらにいうと、「公害」に対しては「治療よりも予防のほうが社会的コストは安くなる」という考え方です。

第一回国連人間環境会議と並行してストックホルムの環境広場で開かれた、民間の「ダイドン(大同)会議」に日本から出席した、水俣病やカネミ油症などの被害者を目の当たりにして、スウェーデンの政府や国民は、この「予防対策を重視した環境問題に対する基本的な考え方」の正しさを確信することになったのです。これは33年前のスウェーデン政府の決定です。

スウェーデンと日本の違いは、「予防志向の国」「治療志向の国」 、言い換えれば、「政策の国」「対策の国」といえるでしょう。スウェーデンは公的な力で「福祉国家」をつくりあげた国ですから、社会全体のコストをいかに低く抑えるかがつねに政治の重要課題でした。そこで、政策の力点は「予防」に重点が置かれ、「教育」に力が入ることになります。

一方、これまでの日本は目先のコストはたいへん気にするが、社会全体のコストにはあまり関心がなかったようです。90年代後半になって社会制度からつぎつぎに発生する膨大な社会コストの「治療」に、日本はいま、追い立てられているのです。


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