環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

竹崎 孜さんが伝えるスウェーデン: その「社会的側面」と「経済的側面」に関する最新情報

2008-12-21 15:07:48 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
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12月16日17日のブログでご紹介した雑誌『中央公論』(2009年1月号)の特集「危機の時代、どうする日本」に掲載された藤井 威さんの論文「スウェーデン型社会という解答」に続いて、今日は、竹崎 孜さんの最新著 『貧困にあえぐ国ニッポンと貧困をなくした国スウェーデン』(あけび書房 2008年11月1日 第1刷発行)をご紹介しましょう。



著者の竹崎 孜さんの略歴は次のように書かれています。


この略歴を拝見すれば、竹崎さんはスウェーデンの「社会的側面」「経済的側面」の最新の状況を私たちに伝えてくださることができる最適の方と言えるでしょう。

この本は、次のような章建てになっています。
●はじめに
●Ⅰ章 「小さい政府」のもとで貧困にあえぐ日本
●Ⅱ章 国や自治体の役割はそもそも何か
●Ⅲ章 貧困と格差をなくした「大きい政府」
●Ⅳ章 スウェーデン経済と企業の社会的責任
●Ⅴ章 新しい社会システムの追求と模索
●Ⅵ章 山積する問題と今後の課題
●あとがき

竹崎さんは、この本の「まえがき」の最初と最後で、次のように書いておられます。


「福祉大国スウェーデン」-多くの人びとはまず、そう口にするであろう。しかし、誤解を恐れずに言えば、スウェーデンを「福祉の充実した福祉大国」と表現するのは正確ではないと筆者はとらえている。正確には「貧困をなくした生活大国」と表現すべきであろうと考えている。

・・・・中略・・・・・

もちろん、スウェーデンが未完成の国であることはいうまでもないが、将来を左右するのは国民の意思であり、政治の方向性である。スウェーデンでは総選挙投票率が80%以上に及ぶ。それほどまでに政治への国民の関心が高いのは、民意が反映されやすい比例代表制のためでもあり、「信頼できる政治」 「国民ための政治」が当たり前になっていることの証しでもあろう。

日本のあり方について、本書が読者の皆様とともに考え合う一助になれば幸いである。



そして、「あとがき」の最後を、次のように結んでおられます。


日本に限らず、国民の生活問題は政治と密着しており、政治の質の改善がないかぎり、生活の安定や向上は望めないし、その鍵となっているのが、国民の政治への関心であろう。そのような意識が、このスウェーデンシリーズによって広まれば、微力を反省しながらも、著者としてはうれしい限りである。


竹崎さんは、この本の「まえがき」でも「あとがき」でも、そして、もちろん本文でも、「政治」の大切さを重要視しておられます。私は竹崎さんのこの姿勢に強く賛同します。皆さんもすでにご承知のように、私のブログのタイトルは

「経済」「福祉」「環境」、不安の根っこは同じだ!
「将来不安の解消こそ」、政治の最大のターゲットだ、

だからです。

私は竹崎さんのこの本のタイトル「貧困にあえぐニッポンと貧困をなくした国スウェーデン」に興味を持ち、購入し、読みました。私が認識していた「緑の福祉国家スウェーデン社会的側面と経済的側面」に対する最新の状況が竹崎さんの専門的な視点を通して見事に再現されていました。「ニッポン」と「スウェーデン」を対比した本のタイトルの付け方も興味のあるところでした。私ものこのブログでテーマは異なりますが、両国を対比するようなタイトルをつけたことがあるからです。

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 「国際機関への提案が多い国」と「国際機関からの勧告を受けることが多い国」(2007-06-06) 

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危機の時代、どうする日本 スウェーデン型社会という解答(2)

2008-12-17 12:13:14 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
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昨日のブログで次のように書きました。 


藤井さんのお考えの大きな変化に基づくこの「スウェーデン型社会という解答」という論文は、閉塞感に充ち溢れ混迷が続く「現在の日本社会への解答」であると同時に、私が長年疑問視してきた「スウェーデン社会に対する日本の経済学者やエコノミスト、評論家などのもっともらしいが、あやしげな言説」への明確な解答とも言えるものでした。


今日は過去に日本の経済学者・エコノミストや評論家からどのような批判が出されていたのか確認しておきましょう。

「高福祉・高負担」が成り立つためには、高い経済水準が維持される必要があります。スウェーデンの国民一人当たりのGDPは1960年には世界3位(日本22位)で、スウェーデンはこの時点で、すでに世界の最貧国から十分に豊かな国に変身していました。70年は2位(日本18位)、80年は3位(日本17位)、90年は5位(日本8位)、2003年は8位(日本9位)となっています。そして、最新の状況は次のとおりです。 

関連記事

日本の一人当たりGDP OECD30カ国中18位(2007-12-27) 


高負担に耐えながら、20世紀のスウェーデンはこのように、高い経済水準を維持してきたのです。しかし、いつも順風満帆であったわけではなく、70年代には、「旧スウェーデン・モデル」に対する批判が相次ぎました。早稲田大学社会学部の岡沢憲芙さん は、『スウェーデンの政治――デモクラシーの実験室』(共著、早稲田大学出版部、1994年)で、批判は次のように要約される、と分析しています。




これらの批判は、藤井さんが「スウェーデン型社会という解答」で例示した批判と見事に重なっています。 


そして、私が2000年に出した結論は次のようなものでした。

この結論は8年経った2008年12月の今現在でも変わりませんが、奇しくも藤井さんの最新の論文「スウェーデン型社会という解答」が、私の疑問へ解答を与えてくださったということなのです。


危機の時代、どうする日本 スウェーデン型社会という解答

2008-12-16 22:36:30 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
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いま発売中の雑誌「中央公論」の2009年1月号が「特集●危機の時代、どうする日本」と題して、p97からp132にわたって、次のような座談会と3本の記事を掲載しています。

座談会 金融危機、遠のく総選挙、バラマキ・・・・・・    
麻生・小沢で難局を乗り越えられるか(p98~107)
    塩崎恭久(衆議院議員・元官房長官)、枝野幸男(衆議院議員)、田原総一朗(ジャーナリスト)

金融立国でもモノづくり信仰でもなく
グローバリズムの呪縛から目を覚ませ(115~108)
東谷 暁(ジャーナリスト)

赤字拡大のアメリカと黒字消滅の日本に自覚はあるか(p119~116)
大場智満 国際金融情報センター理事

消費税引き上げ・高福祉がもたらすもの
スウェーデン型社会という解答(p120~132)
藤井 威 みずほコーポレート銀行顧問・元駐スウェーデン大使


今日は、藤井 威さんの「スウェーデン型社会という解答」に注目します。執筆者の藤井さんは現在、みずほコーポレート銀行顧問で、論文の最後にある略歴によりますと、1940年東京生まれ。東京大学法学部卒業。大蔵省主計局次長、経済企画庁官房長、大蔵省理財局長、内閣内政審議室長、駐スウェーデン大使兼ラトビア大使、地域振興整備公団総裁を経て2004年7月より現職。著書に『スウェーデン・スペシャル』など、となっております。

略歴を拝見する限り、藤井さんは高度経済成長期の日本およびその後現在にいたるまで日本の社会の中枢で官僚としてご活躍になられた方ですので、今回の論文は非常に説得力のある論文だと拝察します。この論文はそのタイトル「スウェーデン型社会という解答」が示唆するように、混迷する日本の現状を意識しながら、スウェーデンを分析し、日本の将来の方向を明らかにした示唆に富んだ論文となっています。

ご興味のある方にはこの論文を読んでいただきたいのですが、この論文の概要を知るために小見出しを掲げておきます。

小泉改革の光と影
高福祉高負担国家への道-スウェーデン
高福祉高負担国家はなぜ元気なのか
     ①産業構造・雇用構造の変動
     ②福祉国家における出生率の上昇
     ③福祉国家の所得格差是正効果
     ④福祉国家の地域格差是正効果
日本の可能性



この論文のなかに、スウェーデン大使としてスウェーデン経済社会の実態を詳しく知るにいたって、藤井さんのお考えが大きく変わったという記述があります。この部分は大変大事なところです。



藤井さんのお考えの大きな変化に基づくこの「スウェーデン型社会という解答」という論文は、閉塞感に充ち溢れ混迷が続く「現在の日本社会への解答」であると同時に、私が長年疑問視してきた「スウェーデン社会に対する日本の経済学者やエコノミスト、評論家などのもっともらしいが、あやしげな言説」への明確な解答とも言えるものでした。

過去にどのようなスウェーデン社会に対する批判が日本の経済学者やエコノミスト、評論家から出されていたのか 次回で紹介しましょう。  



そして最後に、「日本の可能性」と題した部分では、スウェーデンの現状を踏まえながら、日本の将来を分析しておられます。日本の進むべき将来の方向が示されていると思います。


ここで、私がとくに強調しておきたいことは、藤井さんが「スウェーデン型社会という解答」でお書きになったスウェーデンの現状はまさに、私のブログの中心的テーマである「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)の3つの側面「社会的側面」、 「経済的側面」および「環境的側面」のうち、最初の2つの側面を表しているのです。


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市民連続講座:緑の福祉国家3 スウェーデンが考える「持続可能な社会」(2007-01-13)

北欧はここまでやる。 週刊東洋経済1月12日号が特集

2008-01-07 22:15:25 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
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最寄りの駅のキオスクで「北欧はここまでやる・ 格差なき成長は可能だ!」という大変派手な見出しのビジネス雑誌を見つけました。「週刊東洋経済」(東洋経済新報社 2008年1月12日号)で、今日が発売初日です。



特集の内容は、このブログでも数回掲載した「環境問題の社会的な位置づけ」(下図)が示す「日本における数々の社会・経済問題がなぜ北欧諸国ではうまく機能し、成果を上げているのかを日本の現状と対比しながら解説したものです。 
 

総ページ142ページ中、この特集に40ページ(p36~77)が割かれています。経済専門のビジネス誌とはいえ、これほどのページ数を割きながら、 「環境問題への北欧の対応」に触れた部分がまったくないのはどういうことなのでしょう。20世紀と同様に、日本の代表的な経済専門のビジネス誌も今なお「経済活動」と「環境問題」は別物と考えているのでしょうか。 私が注目したのはこの特集記事そのものよりも、この雑誌のp28の「編集部から」の記述でした。最初の図の赤網をかけた部分です。
 
特集記事を担当した企画者に「アドバイスをした多くの方々」と称される識者(エコノミスト?、その道の専門家?)は未だ20世紀的発想の域から抜け出ていないのでしょうか。赤網をかけた部分は北欧諸国にできて日本にできない問題に直面すると必ず出て来たセリフです。20年以上前から、言われ続けているこのセリフがまだ生きているとは・・・・・

このような発言をする「日本の識者」には90年代に始まり、2000年には顕在化した「国際社会の大潮流の変化の意味」が理解できないのではないでしょうか。

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総務省の「高齢者推計」と厚労省の「労働力推計」

2007-11-22 21:34:48 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
 

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今年1月1日に開設したこのブログの記事が、今日(326日)で400本目となりました。私の主な関心事は日本が「持続可能な社会(平たく言えば、安心と安全な希望のある社会)」に向かうにはどうしたらよいかを考える材料を多くの方に提供することです。具体的には、ブログのタイトルが示しますように、「環境」「経済」「福祉」、不安の根っこは同じだ!、つまり、「将来不安の解消」こそ、政治のターゲットだ、という視点から日本を見ていこうということです。

今日の朝日新聞の朝刊には総務省の「日本の75歳以上の高齢者の推計人口」が、夕刊には一面トップで「労働力人口推計」が報道されています。いずれも「日本の将来の不安」を暗示するようなデータで、政治の総合力が必要とされる案件です。


この記事の赤網をかけた部分に、「労働人口は、15歳以上で働くか職を探している人の数で、減少すると経済成長にマイナスの影響を与える」とあります。この種の推計結果をみると私がいつも思い出すのは、縦割り行政の下で策定される 「時の政権が策定する経済政策」との整合性です。近いところでは、2005年に竹中平蔵・経済財政大臣の下で策定された「日本21世紀ビジョン」との整合性です。このビジョンの目標年次は2030年です。この種のデータが十分な整合性を持って考慮されていない21世紀ビジョンであるなら、何のためにこのようなビジョンを策定するのでしょうか。



詳細は政府の経済諮問会議のHPをご覧ください。


関連事項

治療志向の国の「21世紀環境立国戦略」(6/4) 





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福田政権への期待、国民年金保険納付率、生活保護過去最高、 100歳以上3万人、教育予算比率低い日本

2007-10-09 22:10:37 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
 

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問合せ先

持続可能な国づくりの会<緑と福祉の国・日本>

メール     greenwelfarestate@mail.goo.ne.jp
 
ウェブサイト http://blog.goo.ne.jp/greenwelfarestate



今日もばらばらなデータを示して、皆さんご自身で「日本の現状」をよく考えていただきたいと思います。このようなデータを取り上げたのは、 「持続可能な社会」(安心と安全な国)というのは環境的側面だけでなく、社会的側面や経済的側面があるからです。今日もあえて私のコメントはつけません。












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日本の地方分権:医療の広域化

2007-09-04 08:06:24 | 少子高齢化/福祉/年金/医療


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今日はまず、次の記事をとくとご覧ください。今日の朝刊に載った比較的小さな記事です。



次の記事がこの問題の背景伝えています。

この種の問題は全国どこでも起こりうる日常的な生活に密着した出来事です。ですから、今回の奈良県知事と舛添厚労大臣との面会の結果、舛添さんが示した「医療の広域連携強化」が、奈良県の問題の解消のためだけではなく、地方分権の強化の中で広く全国的に制度化されることを期待します。

このような事件に接すると、思い出すのがスウェーデンの「地方分権の理念」とその理念に基づいた制度の構築です。事件の起こる2日前の8月27日のブログ「地方分権 国と地方の役割分担」 で、次のように書きました。

スウェーデンは少ない人口にもかかわらず、世界で最も非中央集権的な基礎自治体(288のコミューン=市町村)があり、日常生活に密着した各種の責任を担っています。スウェーデンの地方分権の理念は、「行政の決定は、できるかぎりその影響を受ける人々の近くでなされるべきである」という点にあります。

そして、国と地方の力関係を示す「砂時計モデル」を紹介し、「医療については、その技術的水準を保つことが地方自治体(市町村)の規模ではむずかしいと考えられているので、全国20のレン(日本で言えば「県」)が対応している」と書きました。



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進化してきた福祉国家⑦  他の先進工業国の「福祉(政策)」との質的相違

2007-08-29 15:31:01 | 少子高齢化/福祉/年金/医療
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今年1月1日にこのブログを開設して以来、今日は306本目の記事となります。8月13日の「進化してきた福祉国家① 世界の最貧国から世界で最も豊かな福祉国家へ」を掲載してから昨日まで、何か一つ最も重要なことを書き忘れていたのではないかと思い続けてきました。

それは、「福祉」という言葉の意味が、スウェーデンと他の国(特に欧米諸国および日本)では質的に大きく異なるということです。

今思えば、この質的相違をもっと早く皆さんにお知らせすべきであったと反省しています。この相違が理解できないと昨日のブログのテーマであった「官庁の地方分散と福祉」の内容を十分にご理解いただけなかったかもしれません。





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財政再建に成功したスウェーデン②(8/11) 



8月21日のブログで紹介した訓覇法子(くるべのりこ)さんの著書『スウェーデン人はいま幸せか』 (NHKブックス 1991年))に続いて出版されたもう一つの著書『現地から伝えるスウェーデンの高齢者ケア:高齢者を支える民主主義の土壌』(自治体研究社、1997年1月5日発行)の中にその質的な相違が実に明確に記述されています。





欧米諸国は上の図の①~③のいずれかに分類され、「社会保障国家」と呼ばれています。私たちが「福祉国家」と認識しているデンマークも訓覇さんの定義にしたがえば、「社会保障国家」で、福祉国家ではありません。 先進工業国の中で
 「福祉国家」 と呼ばれるのは、スカンジナビア3国(スウェーデン、フィンランド、そしてノルウェー)ということになります。

スウェーデンのマルメ大学総合病院リハビリテーリングセンターで作業療法士をされておられる河本佳子さんはスウェーデンと日本の相違を次のように考えておられます。



★日本はどこに

ところで、訓覇さんの分類には日本が登場しません。④ではないことは確かですので、①~③のどこかにということになるのでしょう。①でしょうか。再確認しておきたいのですが、訓覇さんの本が出版されたのが1991年ですから、この本で使われたデータは90年頃まで、つまり、15年前の欧米の状況を示していると考えられます。

以下の日本の事例は訓覇さんの本の出版以後の日本の状況を示すものです。




 「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある」という憲法第25条の規定を具体化したのが1950年制定の「生活保護法」だとのことですが、以下に示した行政の対応や事例をみると憲法が求める条件を法律制定後50年近く経った現在でさえも満していないといえるのではないでしょうか 「すべての国民を対象とし、国民最低生活保障ではなく、一定の生活水準を保障する」というスウェーデンの考え方と日本の考え方の開きの大きさに愕然とするのは私だけではないでしょう。








なお、この事例は埼玉県の場合ですが、なんと1日で行政の決定を翻しています。





「生活保護にも人間の視点を」という投書に示された日本の状況と、訓覇さんが定義する 「福祉国家」スウェーデンの状況(すべての国民を対象とするスウェーデン型福祉国家の強みは、保障の普遍性やレベルの高さだけでなく、人々に受給者、貧困者、社会的脱落者などという烙印を社会が押さないことにある。すべての人が同等の価値を有する民主主義が、社会の重要な価値観に据えられているからである。)との質的相違はとてつもなく大きいと思います。

20世紀の「生活保護の状況」に加えて21世紀に新たに生じた「少子高齢化」に伴う年金・医療・介護など福祉全般にわたる、スウェーデンと日本の落差は、たんに「国民負担率」で示される差以上のものがあります。この10年間で日本の状況はどの程度改善されたのでしょうか。それとも悪化しているのでしょうか。

1999年に100万人を超えた生活保護受給者数は2005年には142万人に増加したそうですから、事態は改善されていないものと思われます。

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対照的な日本とスウェーデンの「債務残高」と「国民負担率」(3/18)



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進化してきた福祉国家③ 20世紀の「福祉国家」の基本的な考え方

2007-08-15 10:53:52 | 少子高齢化/福祉/年金/医療

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スウェーデンは米国と同じように、日本に比べると個人の自立性が高く、自己選択、自己決定、自己責任の意識が強い国です。


20世紀のスウェーデンは、国や自治体のような共同体の公的な力や、労働組合のような組織の力を通して、個人では解決できないさまざまな社会問題を解決してきたのに対し、米国は、個人の力による解決に重きを置いてきました。米国が、個人の力に根ざした競争社会であるのに対して、スウェーデンは「自立した個人による協力社会」をめざしてきました。

条件整備が整っていない「競争」は、これまでスウェーデンではあまり好ましいこととは考えられていませんでした。日本で、好ましいかどうかは別にして、「競争」という要因が社会を動かす大きな力になってきたのとは対照的です。日本の産業界では、「競争」と「効率化」が経済成長の要因と考えられています。効率を高めるためには、競争が最も効果的だといわれています。日本の経済紙・誌が好んで使う「生き残り」という言葉がありますが、「生き残る者(勝者)がいる」ということは同時に、「敗者(犠牲者)を出す」ことも意味しています。
 
このあたりは、日本とスウェーデンの社会に対する考え方が異なっている点の一つでしょう。「競争」の原理を採用すると、勝っている場合はある程度いいのですが、それでも、かなりの緊張を強いられます。人間の社会ですから、スウェーデンにもさまざまな競争があるのは当然ですが、その程度は、日本に比べてそれほど強くないといえるでしょう。
 
スウェーデンが60年代に築き上げた「福祉国家」(「旧スウェーデン・モデル」と呼ぶことにします)の基本的な考えは、つぎの3点に要約できます。

①スウェーデンの福祉制度はすべての国民を対象にしていること。日本のような国民の「最低生活保障」ではなく、「一定の生活水準」を保障するもので、「基礎所得保障」と「所得比保障」を組み合わせたものといえる。
②すべての国民が外国人を含めて基本的な安心感を保障されていること。
③80年代までのスウェーデンは、福祉社会の維持・発展を非常に高い税金で運営してきたこと。このことは日本で、「高福祉・高負担」として知られている。





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再び年金制度:年金毎年通知 欧米が先行 

2007-07-19 10:16:26 | 少子高齢化/福祉/年金/医療


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7月15日のブログ「スウェーデンの年金制度に学ぶ④ 最終回」で一通りの制度の紹介を終わりました。日本では2004年に続いて再び「年金制度改革」の必要性が浮上しています。与野党問わず、7月29日の参院選挙の争点に掲げているからです。

マスメディアが報ずる記事に、「日本の困った現状」を伝えるとともに「海外では」あるいは「欧米では」と題してしばしば国際社会との比較記事が載ることがあります。この場合の「欧米」は21世紀に入って7年も経つというのに、相も変わらず具体的には英、独、仏、伊、米に限定されているといってよいでしょう。もっとも最近、「欧米」というときには「EUおよび米国」を意味する傾向が強まってはいますが。

このような国際比較の記事の中に、たまにはスウェーデンが登場する機会があります。これらの記事に登場するスウェーデン情報は断片的ではありますが、私がこれまで書いてきたブログと読み合わせていただければ、さらに一歩スウェーデンの現実に近付けると思います。そのような意味から、今後も断片的な記事を意識的に拾い集め、皆さんに提供しようと考えています。

さて、今日は昨日の日本経済新聞が掲載した「年金の現状を国民へ伝える通知」についてです。次の記事をご覧ください。

まず目に飛び込んでくるのは「欧米が先行」という見出しです。この記事は次のようなリードで始まります。
日本で明らかになった年金5000万件の記録漏れは世界的にも例のない異常な事態だ。欧米では個人に割り当てた番号による管理が浸透。ミスの早期発見とトラブルへの迅速な対応が可能で、大きな問題に発展するケースは少ない。参院選挙で各政党が制度の改革案を打ち出す中、海外の仕組みには今後の日本に役立つヒントが多い。

「欧州」のところにスウェーデンの状況が次のように書かれています。
●英国は納付不足の人だけが通知の対象となるが、スウェーデンはさらに情報提供を徹底。18歳以上の全国民に1999年から保険料納付記録や予測給付額を毎年、通知している。

「通知の仕組み 日本も導入を」と題する駒村康平・慶応大学教授のコメント欄には次のように書かれています。
●年金の加入歴について諸外国では、年に一度通知を受けて本人がチェックできる仕組みがある。こうした取り組みは1990年代後半から始まった。ドイツ、スウェーデン、米国、カナダなどで導入されており、過去の記録が正しいかどうか確認できる。・・・・・・さらにスウェーデンでは加入歴と併せて将来の給付見込みまで分かるようになっている。これは年金制度改革をすべて終えたからこそできることだ。・・・・・

関連記事

7月10日のブログ:誰でも参加したくなる「1999年施行の」新公的年金制度」③


日本で「不祥事」あるいは「困ったこと」が起こるたびに、マスメディアにはこの記事の見出しにあるような「欧米が先行」という趣旨の文字が踊る機会が多いように思います。ここでもう一度、ブログのカテゴリーとして掲げた「予防志向の国」と「治療志向の国」をおさらいしておくことにしましょう。

●スウェーデンと日本の違いは、「予防志向の国」と「治療志向の国」、言い換えれば、「政策の国」と「対策の国」といえるだろう。スウェーデンは公的な力で「福祉国家」をつくりあげた国だから、社会全体のコストをいかに低く抑えるかが、つねに政治の重要課題であった。そこで、政策の力点は「予防」に重点が置かれ、「教育」に力が入ることになる。
 
●一方、これまでの日本は、目先のコストはたいへん気にするが、社会全体のコストにはあまり関心がなかったようである。90年代後半になって社会制度からつぎつぎに発生する膨大な社会コストの「治療」に、日本はいま、追い立てられている。



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スウェーデンの年金制度に学ぶ④(最終回)

2007-07-15 15:54:50 | 少子高齢化/福祉/年金/医療


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6月23日から始まった「少子・高齢化問題」への対応(特に高齢化問題への対応としての年金問題) を、今日でひとまず終了します。

私は、6月30日のブログ「保険料と給付のバランス」 の最後に、次のように書きました。
●2004年6月5日、年金改革関連法案は自民党、公明党が強行採決を行ない、賛成多数で大混乱のうちに可決、成立しました。成立した年金改革法は、政府・与党が「100年持つ制度」といっていた内容とはほど遠いものでした。日本の年金制度が将来、国民に安心感をもたらすか、さらに国民を不安に陥らせるかは 日本の国民の意識と現在の政治的決定にかかっています。

あれから3年経ったにもかかわらず、私が懸念していたように、日本が抱える「年金制度」の課題が何一つ解決されないまま、現在に至っています。しかも、事態は3年前よりもさらに悪化しています。今年2月には、“宙に浮いた年金記録問題”が発覚しました。6月30日の毎日新聞がこれまでの事情の推移をよくまとめています。



そして、この記事の最後のところで、いつものように、スウェーデンが登場します。

●年金改革の成功例として、スウェーデンが挙げられる。そのポイントは内容ばかりでなく、与野党が8年かけ、意見の違いを超え改革を遂げた点にある。日本は3年の歳月を空費し、団塊の世代が次々に定年を迎えている。北欧の「先人」に学び、抜本改革に向け、与野党は利害を切り離した論議を始める時ではないか。

さて、このところマスメディアの報道は、7月29日(日)の参院選挙を意識して再び「年金問題」に焦点を合わせています。こうした中で、7月6日の朝日新聞が「年金、自助か、最低保障か」と題して、たいへんわかりやすい図を掲げています。



この記事の解説を要約すると、次のようになります。

カナダはA案のような税による老齢所得保障をしているが、受給には10年以上の居住、満額受給には40年居住と条件があり、所得調査もある。スウェーデンは年金が一定水準に満たない場合に差額分を補うB案のやり方で、所得調査などはない。

自民、公明両党は今の社会保険方式を堅持する立場、これに対し、民主、共産、社民の各党が提唱するのが、税金を使った「最低保障年金」の制度で、老後の最低限の生活費用は公的年金でまかなえるようにしようという考え方だ。

●ただ、同じ最低保障でも、すべての国民に一律に支給する考え方(A案)から納めた保険料に応じた年金を基本にしながら、それでも年金額が少なくなる人に不足分を補う考え方(B案)まで幅がある。

●共産、社民はA案の考え方だが、民主党は全国民が同じ所得比例年金に加入して、所得に応じてきちんと保険料を納めることとセットで、年金額の少ない人を中心に最低保障をするB案に近い考えをとりつつ、A案のような「基礎部分は税でまかなう」という主張も選挙公約に掲げていて、あいまいさが残る。

この記事に掲げられて図を見ると、「現行」から、将来は「A案」あるいは「B案」のどちらかを選択するかのような図式となっていますが、それでよいのでしょうか。 「現行」よりは「A案」のほうが一歩前進なのかもしれませんが、「A案」はスウェーデンの旧公的年金制度とほぼ同じでスウェーデンが「21世紀の年金制度としてふさわしくない」と判断したものです。  「B案」はスウェーデンの新公的年金制度です。  

参院選挙後、ずさんな年金記録問題とは別に、もう一度真剣に日本の年金制度を議論する必要があるのではないでしょうか。

今日の朝日新聞の朝刊に、年金問題の専門家で一橋大学教授であられる高山憲之さんのインタビュー記事が載っていました。高齢化問題の最終回にふさわしい記事ですので、紹介します。




●5千万件もの年金記録が宙に浮いてしまった。年金の歴史の中で経験したことがない最大の危機だ。どんなにきれいな制度をつくっても、実務がついていけなければ、絵に描いた餅になる。

●いずれにせよ、大事なことは職員がやる気を持って組織が説明責任を果たし、法令を守るようにすること。年金の制度以前の問題で火を噴いているのだから、制度論は2番手のテーマということになる。 



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スウェーデンの年金制度に学ぶ③

2007-07-13 07:44:17 | 少子高齢化/福祉/年金/医療


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2007年6月現在、EUに加盟している27カ国には、それぞれの歴史と固有の文化があります。また、20世紀から引きずってきた国際的なつながりや利害関係も多く存在します。そのようななかで、私たちに残された時間がほとんどないとはいえ国際社会に共通の「持続可能な社会」の枠組みをつくりあげるのは至難の業です。

そのうえ、「持続可能な社会」に対する認識にも、先進国間で大きな隔たりがあります。このようなときに、新しいシステムをつくりだして社会を変えることを得意とするスウェーデンは、大きな役割を果たすことができます。
 
1995年1月1日にEUに加盟したスウェーデンの理念と行動は、EUの環境戦略をリードし、その経験は、2000年3月のEUの「米国に対抗する新しい経済モデル策定の合意」の基礎に生かされています。
 
2000年1月に提案された「第6次EU環境行動計画案」は、2001年から2010年までの10年間のEUの環境戦略を方向づけるものですが、その内容は、スウェーデンが1988年に策定した「90年代の環境政策」と題する国のガイドラインに、きわめて類似しています。

「スウェーデンは環境分野でEUの10年先を行く」
といっても過言ではありません。
 

ですから、いま、スウェーデンが国家目標として掲げている「緑の福祉国家の実現」は、「旧スウェーデン・モデル」が賛否両論はあったものの20世紀の世界の福祉政策にとってのモデルであったのと同じように、21世紀前半の「持続可能な社会のあり方」を先駆的に提案するものといってよいでしょう。緑の福祉国家の社会的側面を支える「新公的年金制度」も緑の福祉国家の実現をめざす重要な要素です。
 


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スウェーデンの年金制度に学ぶ②

2007-07-12 11:01:34 | 少子高齢化/福祉/年金/医療


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スウェーデンは、経済成長を前提にした1960年の「国民付加年金制度」の限界を強く認識し、全政党の合意のもとに、21世紀前半に予想される厳しい経済・社会的変化にも十分に耐えられる「21世紀の新年金制度」をつくりあげました。

年金制度改革のフロント・ランナーであるスウェーデンには、参考にするモデルがありませんでした。そこで、スウェーデンは自ら考え、国民の合意のもとに、「概念上の拠出建て賦課方式」と呼ばれる世界に先駆けた新しい年金制度を考え出したのです。



この年金制度改革は、今年1月11日から始め6月2日に終わった市民連続講座「スウェーデンの挑戦:緑の福祉国家」で62回にわたって検証した、スウェーデンの21世紀前半社会のビジョン「緑の福祉国家」の社会的側面を構成する重要な要素でもあります。    
 
次の図は「緑の福祉国家」(生態学的に持続可能な社会)の枠組みを示したものです。


次の図は「緑の福祉国家」の3つの側面のうち、最初の側面である「社会的側面」の分野で90年代に行われた主な変革を示します。


この図の最後にある「99年の年金制度改革」というのがこのブログで紹介してきたスウェーデンの「新公的年金制度」です。1995年1月1日に、スウェーデンはEUに加盟しました。したがって、それ以降のスウェーデンの福祉制度は、EUの影響を直接的に、あるいは間接的に受けることになります。
 


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スウェーデンの年金制度に学ぶ①

2007-07-11 04:53:01 | 少子高齢化/福祉/年金/医療


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日本でいま議論している年金制度は、基本的には「税方式」ですが、スウェーデンの新年金制度は「保険料方式」です。税方式を採用すると、「拠出」と「給付」の関係が切れてしまい、公平性が保たれなくなるでしょう。 
 
日本がスウェーデンの「新年金制度」に学ぶときには、制度そのものの違いのほかに、両国の社会状況にさまざまな違いがあることと、将来に対する考え方に大きな違いがあることを理解しなければなりません。ここでは、年金制度改革とのかかわりでつぎの3点を挙げておきましょう。


女性の社会進出に大きな違いがあります。スウェーデンでは、1960年の旧年金制度施行の3年後の63年には、すでに20歳から64歳の女性就労者が63%(男性就労者は93%)で、89年には85%(男性90%)まで上昇して、現在に至っています。

②1971年の「税制改革」によってスウェーデンでは、夫婦双方に勤労所得がある場合、従来の「総合課税方式」(夫婦を一所得単位と見なし、両者の所得の合計額を課税対象として取り扱う方式)から、「分離課税方式」(夫婦を分離し、別々の所得単位として課税する方式)に切り替えました。この税制改革は、女性の経済状態を独立したものにし、前述の89年の数字からも明らかなように、女性の就労率を高めるために貢献したといえるでしょう。

③スウェーデンの合計特殊出生率は、2004年には1.71(同年の日本は1.29)で、2010年には1.80程度まで上昇し、その後、安定すると想定されています。合計特殊出生率の上昇は、女性の社会進出を促進し、男女が平等に働くことができる安心で安全な社会をつくるための総合的な政策を実施した結果、自然発生的に生じた副次的な現象だといえるでしょう。

決して、低下しつつある出生率を引き上げるのが目的で行なったわけではありません。政策を実施した結果として、付随的に出生率が上がったのです。 


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誰でも参加したくなる「1999年施行の新公的年金制度」③

2007-07-10 08:09:15 | 少子高齢化/福祉/年金/医療


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1999年春、スウェーデン社会保険庁は新年金制度の周知徹底を図るため、国民の半数以上に当たる約500万人の現役世代(勤労者、学生など)に、オレンジ色の封筒入りの手紙(オレンジレター)を送り、新年金制度の説明と各人が年金受給開始年齢の61歳、65歳、70歳に達したときに受け取る給付額の見通しを示しました。この通知はその後毎年1回、2月に送られてきます。

これは、国民に給付額の目安を知らせ、給付不安を解消すると同時に、自己責任による老後の人生設計を、時間的余裕を持って考える安心感を保障するためでした。

2000年1月から、新年金制度による給付が開始されました。新制度への完全な移行は、20年かけて段階的に実施されます。毎年、旧制度による給付の20分の1を新制度による給付に置き換えて、新規年金受給者が実際に受給する給付額が算出されるので、新制度導入後の最初の20年間、年金受給世代は旧制度の年金と新制度の年金を、それぞれ部分的に受給する形となります。
 
1954年生まれの現役世代が年金受給年齢を迎えたときには、新制度に基づく年金の割合は20分の20、つまり、旧制度に基づく年金の割合はゼロ(20分のゼロ)となるので、新制度が完全に適用されるのは、54年以降に生まれた年金受給世代からということになります。
 
スウェーデンの新年金制度の概要をご理解いただけたでしょうか。
2004年3月25日に放映された「NHKスペシャル――年金③」(再放送)での大澤真理さん(東京大学経済学部教授・社会保障制度の専門家)の説明は、たいへんわかりやすいものでした。ご発言の要点をまとめました。

●スウェーデンの制度は働き方のいかんにかかわりなく、すべての人が同じ条件で同じ一つの制度(収入に応じて保険料を払い、払った保険料の総額に応じて給付を受け取る単純明快な所得比例制度)に参加します。ただし、低所得者のために税金でもってまかなわれる最低保障制度があります。
 
●給付水準は現役の手取りの38%にすぎません。それでも、非常に老後の安心が保障されているのは、医療、介護、住宅保障といったサービス保障が充実しているから現金支給は多くなくてもすむのです。現金給付以外のところで再配分が行なわれていれば、むしろ現金を給付する制度は負担と給付のあり方が非常に単純明快な完全業績主義であるほうが、皆が払って支えようという気になるのではないかと私は思っています。
 
スウェーデン方式は業績主義的で自由主義的制度です。アメリカ型は低所得者に厚いという意味ではじつは社会主義的な制度、日本の制度のあり方も社会主義的制度です。



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