環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

2006年に 「原発批判派」 になった武田さんは、3年後の2009年には再び “原発推進派”へ変心?

2013-06-23 16:04:51 | 原発/エネルギー/資源
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 1972年にスウェーデンの首都ストックホルムで開催された「第1回国連人間環境会議」以来およそ40年にわたって、国際社会における日本とスウェーデンの「環境政策およびエネルギー政策」や「振る舞い」を同時進行でフォローしてきた私は、武田邦彦さんの最新のエネルギー分野のお考えを理解しようと思い、武田さんの著書『エネルギーと原発のウソをすべて話そう』(産経新聞出版 平成23年6月8日 第1刷発行 平成23年9月7日 第5刷発行)を読みました。



 この本の著者略歴には「内閣府原子力委員会および安全委員会の専門委員、文部科学省科学技術審議会専門委員を歴任。福島第一原発の事故について発信するブログは1日40万件を超すアクセスとなり、多くの人の指標となった。」と書かれています。
 
 このアクセス件数が示すように、武田さんのお考えが多くの読者にある種の影響を与えたことは容易に想像できます。私もこの本のタイトルのあまりに“挑発的なネーミング”につられてこの本を購入しました。

 4年前に読んだ本で、武田さんを“信念の原発推進派”と思い込んでいた私は、『エネルギーと原発のウソをすべて話そう』の「はじめに」を読み、武田さん自身が語る原発に対する記述が4年前と大きく異なっていることに気づき、大変な違和感をいだきました。まずは、「はじめに」をご覧いただきましょう。







 上の図の赤で示したところに注目してください。想像するに、この本を手にとった多くの読者は、私とは逆に、福島第一原発事故後のいわゆる原子力ムラの原発推進者とは一線を画す“誠実な原子力科学者”としての期待と信頼を武田さんに感じたと思います。その結果、武田さんのブログに1日40万件を超すアクセスがあったという、私には信じられないような現象が生じたのでしょう。  



 ところで、私は『リサイクル幻想』(文春新書 平成12年10月20日 第1刷発行)以降、武田さんの著書を10冊ぐらい読んできました。その中に、『つくられた環境問題-NHKの環境報道に騙されるな!』(ワック株式会社 2009年6月17日 初版発行)があります。



 この本の目次を見たときに、この本は私が理解した「日本とスウェーデンの環境問題やエネルギー問題」の大筋とかなり異質なものであることを知り、非常に興味を覚えました。

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 この本は「第1章 すべて解決している日本の環境問題」で始まり、 「エピローグ 日本のエネルギーは心配ない」で終わっています。第1章からエピローグまで、快適なテンポで武田さんと日下公人さんのトークが続きます。「マスメディアに問題は多いが、環境問題もエネルギー問題も日本にはまったく問題がないので皆さんご安心を」というのが著者のメッセージなのでしょうか。

 1973年以来、スウェーデンと日本のエネルギー問題、環境問題、労働問題を同時進行でフォローしてきた私は、この本の内容に多くの違和感を持っています。 「日本にはまったく問題がないので皆さんご安心を!」というのが著者のメッセージであるとするなら、このブログで示してきた私のメッセージとは正反対といってもよいでしょう。間違いなく、日本の多くの読者の印象とはかけ離れた見解と言えるのではないでしょうか。

 この本を読んで私は、武田さんを“信念の原発推進者”と判断したのです。武田さんの主張を明らかにするために、この本の「エピローグ 日本のエネルギーは心配ない」の最初のテーマ「エネルギー問題はすべて解決されている」(192~193)を紹介します。





 武田さんはご自身の言葉で「 ほんとうのことを言えば、原子力はエネルギーの中でもっとも安全です。私は実績主義ですが、五十年間、原子炉を動かしてきたという実績から言えることです。原子力は何の危険性もない。いまは、それを言っても無駄だから言わないだけのことです。」
とおっしゃっておられます。

 ところが武田さんは、2011年6月発売の『エネルギーと原発のウソをすべて話そう』の「まえがき」で、「しかし、2006年に原発の耐震指針が改訂されてからは、“原発批判派”になりました。同時に著書やあらゆる機会に、“原子力発電所は地震で壊れるようにできている”との警鐘も鳴らしてきました。」 と書いておられます。

 武田さんが「2006年から“原発批判派”になった」とおっしゃるのなら、3年後の2009年発売の著書のエピローグで「本当のことを言えば、原子力はエネルギーの中でもっとも安全です。・・・・・原子力は何の危険もない。・・・・・」と書いたのは大変な矛盾だと思いますが、いかがでしょうか。武田さんの著書で好んで用いられている「ウソ」という表現は、私たちが日常生活で用いている「うそ」や「嘘」という表現を超えた武田さん独自のニュアンスがこもった表現なのでしょうか?
 

そして、今年になってもう一冊『新聞・テレビは「データ」でウソをつく 政府とメデイアのデータ・トリックを見破る方法』(日本文芸社 2013年2月1日 第1刷発行)が追加されました。

 

 冒頭に書きましたように、私は武田さんの最新のエネルギー分野のお考えに興味を持ち、理解しようと思い、関連の著書を読んで来ました。エネルギーの中でも、特にご専門としている原子力(原発)に対するお考えに注目してきました。この本では原発を議論の対象にしておりませんが、「はじめに」で原発に触れておられますので、「はじめに」をご覧いただきましょう。




 2011年3月11日の東日本大震災以降に武田さんの『エネルギーと原発のウソをすべて話そう』を読み、次に『新聞・テレビは「データ」でウソをつく 政府とメディアのデータ・トリックを見破る方法』を読んだ方々の多くは、何の疑問も持たずにある種の納得感を得て、日本の現状および将来に相当の危機感を抱くことになったかもしれません。

 しかし、私はこの本の前に2009年の『つくられた環境問題-の環境報道に騙されるな!』を読んでおり、この中で「本当のことを言えば、原子力はエネルギーの中でもっとも安全です。・・・・・原子力は何の危険もない。・・・・・あと百年間も原子炉を動かしていったら、自然と安全だということがわかります。」という記述から、私は武田さんが、東日本大震災が起こるまで「原発は安全である」と主張しておられたのだと考えます。そうだとすれば、武田さんも「原発は安全である」とほぼ日本人全員が信じていたという誤った認識形成に積極的に荷担していたということになるのではないでしょうか。東日本大震災以降、いわゆる原子力ムラの原発推進者の発言が比較的静かになっている中で、武田さんの発言だけが異彩を放っています。


 武田さんと言えば、2007年に『環境問題はなぜウソがまかり通るか』、『環境問題はなぜウソがまかり通るのか 2』、2008年には『環境問題はなぜウソがまかり通るのか 3』を立て続けに発表しました。「ウソ」という一般人の興味を引く言葉を著書のタイトルに加えることによって、一般読者の関心を引きつけたことは確かだと思います。

 私は武田さんの著書『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』というタイトルに触発されて2007年にこの本を購入しました。そして、このブログでも過去に3回取り上げました。

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 マスメディアに加えて最近ではソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などネット上には立場を異にする様々な発言者による種々雑多な情報があふれています。私たちはこれらのメディアによって発せられる多彩な情報を取捨選択し、優先順位を付けて、「私たちの望ましい未来社会の構築のために有効活用できる力を養う」という大変困難な状況に置かれていることに改めて気づかなければなりません。









「ESDの10年」の最終年2014年に向けて、6年前の私の懸念が、今明らかに

2013-06-12 11:50:09 | 持続可能な開発・社会/バックキャスト
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「ESDの10年」の最終年2014年まで残すところ1年足らずとなりました。国内外の経済的な激変の中で突然、「ESDの10年」と言われても何のことやらわからない方が多いかもしれません。

 「ESDの10年」とは「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)の10年」のことで、2002年に日本が国際社会に向けて提案し、採択されたプロジェクトです。私は2007年9月27日のブログ「「持続可能な開発」の概念⑤ 日本が国連に提案した「持続可能な開発のための教育(ESD)」の行く末は?」で、とりあげ、次のように書きました。

XXXXX
 1992年のリオの地球サミットから10年後の2002年に、南アフリカのヨハネスブルクで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD。環境・開発サミット)」で、日本は「持続可能な開発のための教育(ESD)」を提案しました。この提案は採択され、2005年から2014年までの10年間、国連が中心となって推進されることになっています。

 持続可能性という概念は、環境だけでなく、貧困、人口、健康、食料の確保、民主主義、人権、平和、文化的多様性などを含む広範囲な問題を含む概念です。はたして日本は、この概念を十分理解して自ら提案した「持続可能な開発のための教育」の成果を上げることができるでしょうか。大いに疑問があります。XXXXX


 私のこの懸念に対する回答が、図らずもおよそ1ヶ月前(2013年5月15日)の参院予算委員会で明らかになりました。質問に立った谷合正明委員(公明党)と安倍総理大臣との質疑応答からです。


2013年5月15日 参議院予算委員会

谷合(たにあい)正明(まさあき)議員(公明党)の総理への質問
 公明党の谷合正明です。総理、連日の集中審議大変お疲れ様です。

 私もいただきました10分でですね、まず、質問させていただきますのは、これまでですね、わが国が国際社会でイニシアチブを発揮してまいりました「ESDの取り組み」、また「人間の安全保障の取り組み」について伺いたいと思います。

 来年の11月にですね、名古屋、岡山市におきまして、「ESD(国連持続可能な開発のための教育)の10年」が最終年を迎えることを受けまして、ESDに関するユネスコ世界会議が開催されます。「ESDの10年」というのは、2002年ヨハネスブルグ・サミットにおきまして当時の小泉総理が提案したもので、持続可能な開発のために、何と言いましても教育がきわめて重要であるというものであります。 で実は、岡山の京山地区では、1人の100歩より、100人の1歩を合い言葉に、公民館を拠点とした地域密着型の環境教育活動などが展開されています。また、被災地でも、東日本大震災の経験や教訓をESD推進に生かす試みもあります。

 このポストESDをにらみましてですね、日本が独自の取り組みというのを積極的に、今後、国際社会にアピールする必要もあると考えています。

 しかしですね、そうした一部自治体で積極的に行われているんですが、「ESDという言葉」自体がほとんど国民に浸透していないというのが実情であります。わが国がサミットにおいてこのESDを提案した時に、安倍総理は当時官房副長官として実際に現地に行かれて、このESDの実現に尽力されたというふうに承知をしております。

 そこで、質問いたします。
 来年のESD世界会議におきまして、名古屋、また岡山会合におきましては関係閣僚の出席を要請するとともに、総理のリーダーシップのもと、広報、啓発等、国民の関心を高めるなど、これまで以上に政府一丸の取り組みをすべきであると考えておりますが、総理の同会議成功に向けた決意を伺いたいと思います。


安倍総理大臣の答弁
 今、委員が、谷合委員がご指摘になったように、確かに2002年、ヨハネスブルグ・サミットに私もですね、同行しておりまして、「EDSの10年」という提案を会場で聞いておりました。

 そのときにはですね、確かに報道もされたわけでございますが、残念ながら現在では認識が高いとは言えない状況を、残念なことだと思います。

 「持続可能な開発のための教育の10年」はわが国が提唱して、国連総会決議が採択されたものでありますが、その最終年となる来年わが国で開催される名古屋市、岡山市で開催される世界会議に向けて今後とも引き続き政府をあげて、周知・普及活動にしっかりと取り組んでいく考えでございます。

 来年の世界会議ではこの10年間を総括をし、その先の取り組みの進め方について議論を行う予定でございます。会議を主催するわが国として指導的な役割を果たせるように、関係大臣の出席も含め、しっかりとした対応をしてまいります。


谷合委員の答弁
 動きをですね、ぜひ加速化していただきたいと思います。

 人間の安全保障について伺います。

               以下 省略


 経済成長を力強く語り、総理就任後海外歴訪を精力的にこなしてきた安倍総理の答は、一転してこの件では、私の6年前の想定どおり、紋切り型で期待できないものでした。テレビに映し出された安倍総理は答弁書を読みながらの答弁でした。来年11月に名古屋と岡山で開催されるという「EDS世界会議」では、日本からの報告よりも海外からの報告や提案に期待せざるを得ません。

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名古屋市の関連HP
名古屋市:持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議の開催(最終更新日:2013年6月5日)