環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

原子力は21世紀の電源として望ましいのか? 1996年の円卓会議の結末は?

2012-04-20 09:56:32 | 原発/エネルギー/資源
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりを考える会のブログは、ここをクリック
お問い合わせはここをクリック   アーカイブ(公開論文集)      持続可能な国づくりを考える会のホームページ(HP)は、ここをクリック



          
                                                                                   理念とビジョン:「全文」   「ダイジェスト版」




 16年前の1996年9月18日に行われた「第11回原子力政策円卓会議」は、このシリーズの最終回でした。果たして、この円卓会議の結末はどうだったのでしょうか。この会議を終わるに当たってこのシリーズのモデレータを努められた茅陽一さんが、この会議の最後に、特に発言を求めて、このシリーズの反省と今後の展望についてお話になっておられます。

 議事録の全文が公開されていますので、ご興味のある方は直接議事録にアクセスすればよいのですが、茅さんのご発言はかなり、私の発言を意識されておられるようですので、その部分を引用します。

 公開されている議事録をご覧になればおわかりのように、議事録の記述は発言内容がそのまま収録されており、延々と長文が続きます。そこで、読みやすいように、私が公開されている記事録の原文に段落を入れる、改行する、重要な部分を強調するために文字に色をつけるなど、最小限の編集を行いましたことを付記します。

xxxxx

【小沢】そろそろ終わる時間ですので、最後に言いたいことは、ずっとこういう議論を繰 
り返していても、技術論をやっている範囲ではそんなに問題はないわけです。こ
れ、全然変わらないわけです。一番の議論は、何といっても、将来をどう見るか
という基本的な視点があるかないか。
つまり、おそらく原子力を推進する方々は、
このままいけるんだよと、経済拡大が。そういう前提にもし私も立つのだったら、
私も、原子力と化石燃料しかないと思うわけであります。

しかし、もしそうであれば、やはり原子力を推進する方は--ここにエネ研がや
ったものがあります。これを見ると、プルトニウムを使うにしても、どういう前
提をしているかよくわかりませんけれども、もう明らかにエネルギーは不足する
という下のものがあります。石炭を使えば、うまくどうにか必要な分だけおさま
るよと。ところが地球温暖化というような話を考えて、二酸化炭素を増やさない
ように、石炭の量を一定にしちゃうと。100年間一定にすると、もう追いつか
ないよというこういう話なわけであります。

そういうことを考えますと、少なくとも2050年の絵をかいてみようというこ
と、それから、原子力を進めようという方たちは、それでも結構だけども、そ
の場合には、プルトニウム社会の経済がどうなるかという絵をやっぱりかいてい
ただきたい。それを比較すると我々はどういうのが望ましいかということがわか
ると思うのであります。

私自身の原子力に対する考え方は、たとえ原発が100%安全であっても、そし
て原発の廃棄物が100%処理できる、つまり日本の原子力の議論の、私はその
2つで90%ぐらいは占めると思いますけれども、それが仮に完成されたとして
も原子力は無理なんじゃないかなと、個人的にはそう思うわけであります。


【鳥井】 先ほど小沢さんからご指摘があったように、そろそろ時間になっております。ま
だご議論が続くか、続けたいようなご議論が、結構中身の濃いご議論があったと
いうふう考えておりますが、討論のほうはこの辺で終了させていただきたいと思
います。

前回も申し上げましたとおり、本日まで11回にわたる円卓会議でさまざまな議
論をしてまいりました。モデレーターとしましては、本日を一区切りとして、こ
れまでの議論を整理して、円卓会議というか、円卓会議のモデレーターとしてと
いうか、その辺はまだはっきりはしていないわけですが、原子力委員会に対して
提言を行うことを考えております。その議論の整理の中で、円卓会議という名前
を使うかどうかはわかりませんが、今後ともこういう形での、議論の場といいま
すか、国政に対する市民の意見を述べる場という、そういったもののあり方につ
いても検討をしていきたいと考えております。

閉会に当たりまして、モデレーターの茅さんのほうから一言、発言をしたいとい
うふうに伺っておりますので、
では、お願いをいたします。

【茅】 私もモデレーターをやりまして、実はこういう4時間の会議というのはあまりない
んですが、4時間何も口をきかないで座っていたというのは多分ここ10年で初め
てじゃないかと思うんですけれども、その意味で大変欲求不満がたまりましたが、
最後ちょっとだけ言わせていただきます。

といっても、別に中身について言うというよりは、今、鳥井さんのおっしゃいまし
た点でございまして、11回いたしましたが、この先どうするかということにつき
ましては、今盛んに検討いたしております。

いろいろ実は問題がございまして、ここにおいでになった方何人かは、私が発言し
たときにお聞きになったかと思いますが、現在のこの円卓会議のやり方、それにつ
いてはやはり問題がかなりあるように思っております。円卓会議そのものは、今鳥
井さんがおっしゃいましたように、いろいろな方々の声を聞く。そしてそれを原子
力行政に反映する場としてはやはり非常に重要である。こういうことは私も思いま
すし、またそういう意見が大多数であると思っているのですけれども、ただ、現実
にこの形のものをただ続けていくということは物理的にも非常に難しい。例えば事
務局がつぶれてしまうということがございますし、そのほかいろんな問題点がござ
います。

そこで、この点を少し、やはり我々としてはいろいろ検討いたしまして、こういう
ふうに新しく組織直しをしたらどうかという提案を出したいということで、その辺
を今、盛んに議論をモデレーターの間でしております。

私、特に申し上げたかった一つのポイントは、今までいろんな方からご意見を伺っ
たんですが、中にはある程度詰まった議論もあるんですが、残念ながら議論か最後
まで詰め切れなかった。論点が結局十分見えなかったというものが幾つかあります。

今日も最後にたまたま小沢さんがおっしゃったことはかなりそれに近いのですけれ
ども、
つまり将来をどう見るか。その中に原子力をどういうふうな姿としてとらえ
るのかということなんですが
、今日も実はそのために前半があったはずなんですけ
れども、途中で方向が変わっちゃいましてその議論は途中になってしまった。前に
もこれ2回ほどやったことがあるんですが、結局そのときも同じになってしまった
んですね。

こういうふうに途中で終わってしまうというのはまことに残念なんで、やはりその
先をやって、今のような問題についてはきちんとした議論をしたい。プルトニウム
の社会というのをどういうふうに考えるのかという小沢さんのご指摘がありまし
たが、
同じように、今度逆に原子力が全くない社会のときには、じゃあどう考える
のか
ということもやらなきゃいけない。そういった議論が始まって、ぶつかり合っ
て、初めて論点が明確になると思うんですが、ぜひ次回以降の新しい、名前はわか
りませんけれども、円卓会議の続きでは、そういうことができるように何とかした
いとは考えております。


そんなことで、我々モデレーターはこのままやることには多分、少なくとも全員は
そうならないと全く思っておりますけれども、いずれにいたしましても、今まで皆
様方、ここには何人か何遍もおいでいただいた方もありますが、大変ご苦労をおか
けいたしました。我々としては、できるだけ皆様方の声を分析いたしまして、少し
でも前向きの提言を今回はしたいと思っております。

ただ、当然のことですけれども、この中には原子力そのものに対して反対の方も賛
成の方もおられますし、その意見を変えるということをこのままでおやりになる方
は、まずおられない。その中で何らかの意味で前向きの提言をするというのは、正
直言って非常に難しいんです。

その意味では、我々としても大変苦労はしているんですけれども、それこそ文殊の
知恵で、これはいい意味にとっていただきたいんですが何とか我々としては努力を
したいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。どうもありがとうござい
ました。


閉 会

【鳥井】 それでは、閉会に当たりまして、委員長代理の伊原さんのほうから一言ごあいさ
つをお願いします。

【伊原】 本日は長時間にわたりまして貴重なご意見、ご議論をいただきましてほんとにあ
りがとうございました。これまでに議論が十分尽くされなかった点を今日はテー
マにさせていただいたわけでございますけれども、たくさんの示唆に富んだご意
見をいただきまして、かなり深い議論にまでいけたと思っているわけでございま
す。

ただいま、モデレーターの鳥井さんと茅さんからご紹介がありましたとおり、こ
の円卓会議も本日で、まず一区切りになると。これまでの議論をモデレーターの
方々が整理してくださるということになっております。また、その中には、会議
を今後どういう形に持っていくかと、そういうことについてのご検討もいただく
わけでございます。

我々原子力委員会といたしましては、これまでご参加いただいた数多くの招へい
者の皆様方に改めて感謝を申し上げますとともに、モデレーターの皆様方にも大
変お世話になったわけでございますが、この議論をさらに整理をしていただきま
して、その会議の議論の反映された、そのご提言の内容を、これからの原子力政
策に的確に反映してまいると、こういうことを約束いたしたいと思います。

本日はまことにありがとうございました。

【鳥井】 それでは、11回並びにこの形の円卓会議をこれで終了させていただきます。
どうも皆さん、ありがとうございました。


--了--

xxxxx


このブログ内の関連記事
『成長の限界』の著者、メドウズ名誉教授に09年の日本国際賞を授与(2009-01-16)

あれから40年 2010年は混乱か?-その4   デニス・メドウズさん vs 茅陽一さん(2009-05-01) 

原子力は21世紀の電源として望ましいのか?  1996年の第11回原子力円卓会議

2012-04-18 11:42:03 | 原発/エネルギー/資源
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりを考える会のブログは、ここをクリック
お問い合わせはここをクリック   アーカイブ(公開論文集)      持続可能な国づくりを考える会のホームページ(HP)は、ここをクリック




          
                                                                                   理念とビジョン:「全文」   「ダイジェスト版」



 昨日のブログでは「1996年の春」にタイムスリップし、社団法人日本ガス協会が発行する『Gas Epoch』誌の1996年春季号(第13号)の特集記事
「賢人が語るエネルギービジョン エネルギーから21世紀を解く」を紹介しました。

 今日はその年の秋に開催された「第11回原子力円卓会議」(1996年9月18日)に討論者として招聘された私が、この円卓会議のために会議事務局に提出した11ページの資料の一部を紹介します。

 まず、この円卓会議の全体像を掴んでいただくために、議事概要をご覧ください。

 私が事務局に提出した11ページの資料の構成は次のようです。

     原子力は21世紀の電源として望ましいのか?

1.原発の論点
2.「2050年」の世界
生物としての制約

技術面からの制約

我々の経験則からの制約

3.持続可能な社会
4.「持続可能な社会」が備えるべき最も基本的な必要条件
5.「持続可能な社会」の実現をめざす行動計画
6.「21世紀の社会」を支えるエネルギー体系
7.私の提案と結論

参考資料
表1 環境問題とは何か?   表2 先進工業国の天然資源の輸入依存率(%)   表3 主要金属資源の可採埋蔵量(1990)   表4 原発と持続可能な社会

図1 環境問題の三要素   図2 環境への人為的負荷   図3 生産と廃棄物の関係   図4 持続可能な社会:エネルギー体系の転換   図5 エネルギー政策の比較   図6 持続可能な社会の方向性    図7複雑な問題への対処の仕方の相違  図8ビジョンを具現化する手段

日本経済新聞 1996年3月18日  2010年、水不足深刻に 国連報告 改善なければ紛争も
朝日新聞   1996年8月7日 廃棄物量横ばい 産廃は2年余で満杯に 93年度

この11ページの資料から、p1~2およびp7~8を抜粋します。





 なお、この円卓会議に「招へい者が提出した資料」および「円卓会議の議事録の全文」をネット上で読むことができます。

原子力政策円卓会議(第11回)招へい者の方から提出のあった資料等

原子力政策円卓会議(第11回)議事録



 今日ここに紹介した内容は16年前の「原子力政策円卓会議」で、私が提起した「原子力は21世紀の電源として望ましいか」という議論の一端です。昨年3月11日に発生した東京電力福島第一原発の過酷事故後1年経過した現在でも、原子力エネルギーに対する私の考え方は、細かいことは別にして基本的には変わりません。

 原発が経済的な電源かどうか、安全性が確保されているかどうか、夏場の電力が足りるかどうかなどという周辺的な情報の比較を行うことによって「原子力エネルギーの優位性」を見つけようとするのではなく、もっと「原子力エネルギーに対する本質的な議論」を進める必要があります。現在進行中の「新原子力政策大綱」策定会議の主題として、私が16年前の原子力政策円卓会議で提起した「原子力は21世紀の電源として望ましいか」という命題を、最新のデータを用いて選ばれた分野の異なる専門家の間で真剣な議論を発展させ、市民にわかりやすい結論を導き出して欲しいと願っています。

このブログ内の関連記事
原発を考える ⑤ エネルギーの議論は「入口の議論」だけでなく「出口の議論」も同時に行う(2007-04-14)

 21世紀の原発の議論は、20世紀の原発議論と違って、原発の分野だけでいくら議論しても解決策はみつからないでしょう。要は、原発問題は他のエネルギー源と共にエネルギー全体の中で、資源問題や環境問題、経済のあり方、社会のあり方など、「21世紀の安心と安全な国づくり」 の問題として、国際的には「持続可能な社会」 の構築という21世紀前半の国のビジョンとのかかわりで議論すべきだと思います。




賢人たちが語るエネルギービジョン  エネルギーから21世紀を解く

2012-04-17 11:31:40 | 原発/エネルギー/資源
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりを考える会のブログは、ここをクリック
お問い合わせはここをクリック   アーカイブ(公開論文集)      持続可能な国づくりを考える会のホームページ(HP)は、ここをクリック




          
                                                                                   理念とビジョン:「全文」   「ダイジェスト版」



 昨日のブログでは、2000年までタイムスリップしました。今日はさらに4年タイムスリップし、1996年の春にさかのぼってみます。

 社団法人日本ガス協会が発行する『Gas Epoch』というカラフルな雑誌があります。創刊4年目の1996年春季号(第13号)で、「賢人が語るエネルギービジョン エネルギーから21世紀を解く」という特集が組まれました。この特集の意図するところが「編集室」と題するコラムに記されていますので、次の図をご覧ください。この図の左に目を移しますと,編集顧問として,茅陽一さん大宅映子さんのお二人の名前があるのに興味を引かれます。

 次の図はこの雑誌の目次です。


この図を拡大するには、ここをクリック




上の図を拡大するには,ここをクリック


 この雑誌に“賢人”と称されて登場するのは9人です。おもしろいのは、この9人の“賢人”の中になぜか私が含まれていることです。昨日のブログ記事と同様に、私がこの特集記事に登場した経緯は定かではないのですが、今から15年前に「エネルギー問題」に対して私がどんな考えを持っていたかを思い出すよい機会ですので、他の8人の賢者の経歴とそれぞれのお考えと共に、当時の私の考えをお知らせして、皆さんのお役に立てばと考えています。


賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く①
エネルギー政策の基本は常に供給確保にある
●石油代替エネルギーの開発が課題となる
●成熟社会に相応しいエネルギーミックスを
●急がず慌てず地道に取り組もう
生田豊朗(いくたとよあき) 1925年神奈川県生まれ。
東京大学経済学部卒業。
通商産業省、科学技術庁などを経て、現在(財)日本エネルギー経済研究所理事長。
世界エネルギー会議(WEC)会長の他、総合エネルギー調査会など各種政府委員会や審議会の委員を歴任。
『エネルギーの窓から』「エネルギーの指定席」など著書多数。

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く②
持続可能な国際エネルギー/ベストミックスを志向して
●目先の変化が永続するという神話の打破を
●地球環境問題と持続可能な発展
●持続可能な発展のためのエネルギー
深海博明(ふかみひろあき) 1935年東京生まれ。
慶應義塾大学経済学部卒業。同博士課程修了
慶応大学経済学部教授。
国際経済学、資源・エネルギー・環境経済学を専攻し、原子力委員会、石炭鉱業審議会、サマータイム制度懇談会などの各種委員会を努めて活躍中。
『資源・エネルギーこれからこうなる』『現代世界の構造』など著書多数。

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く③
暮らしの根っこを見つめ直して、意識改革を
●人間は地球にやさしい存在ではない
●地球の許容量とどう折り合うのか
●日本は地球の恩恵を最大に受けている
●モノやカネでない楽しさの追求
大宅映子(おおやえいこ) 1941年東京都生まれ。
国際基督教大学社会科学科卒業。
税制調査会委員、衆議院議員選挙区画定審議会委員、行政改革委員会委員などを務め、東京証券取引所の理事も務める。
テレビ番組『あまから問答』などでも活躍。
『どう輝いて生きるか』『だから女は面白い』『私の雑草教育』など著書多数。

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く④
トランス・アジア天然ガスパイプライン建設に向けて
●コージェネレーションの一層の普及が肝心
●天然ガスパイプラインは必要な社会資本だ
●中国や韓国などに遅れをとらぬように
平田 賢(ひらたまさる) 1931年東京都生まれ。
東京大学工学部卒業。
芝浦工業大学システム工学部教授。東京大学名誉教授。
日本機械学会会長。日本コージェネレーション研究会会長。広域天然ガスパイプライン研究会座長など多数の要職を歴任。
専門は熱、熱力学、熱流体工学、エネルギーシステム論。著書、論文多数。

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く⑤
持続的発展に貢献する原子力開発利用の課題
●非炭素燃料への転換が必要
●炭酸ガスを放出しないエネルギー技術
●増殖炉の開発は必要 実用技術の確立を
近藤駿介(こんどうしゅんすけ) 1942年札幌生まれ。
東京大学工学部原子力工学科卒業。工学博士。
東京大学工学部教授。
原子力委員会専門委員、日本原子力学会理事など多数の役職を持ち、原子炉システム工学、原子炉安全工学などの分野で活躍中。
『エネルギィア』『私はなぜ原子力を選択するのか』など著書多数

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く⑥
二十一世紀の車社会を展望する
●二十一世紀も増加する運輸エネルギー
●低公害車の開発と普及が急務となる
●電気自動車はバッテリーの進歩が鍵
●天然ガス自動車はトラックやバスに向く
茅 陽一(かやよういち) 1934年東京都生まれ。
東京大学工学部電気工学科卒業。
慶應義塾大学教授、東京大学名誉教授。
ローマクラブ会員などの国際的活動、産業構造審議会環境部会長などの政府関係活動などを精力的に努める。
電気学会平成七年度功績賞などの受賞も多数。
エネルギー・環境を対象とするシステム工学が専門で、著書も多い。


賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く⑦
二十一世紀の環境とエネルギー問題を考える
●人類の歴史の中で自然の尊さは変わらない
●今日の決断と将来の問題
●持続可能な社会は落ち着いた社会だ
●持続可能な社会を支える新エネルギー体系を
小沢徳太郎(おざわとくたろう) 
環境・エネルギー教育創造・普及研究所代表。
1973年スウェーデン大使館に入館し、科学技術部で環境保護オブザーバー(環境・エネルギー担当)として活躍した。
現在、環境問題ジェネラリストとして講演や執筆活動で忙しい毎日を過ごす。
『いま、環境・エネルギー問題を考える』などの著書もある。




この図を拡大するには,ここをクリック

賢人たちが語るエネルギービジョン
エネルギーから21世紀を解く⑧
対談・木元教子vs柏木孝夫
エネルギー・環境問題は地球規模で考えよう
●エネルギー使用は増加。省エネルギーが不可欠です
●ごみ発電などの未利用エネルギーの活用
●二十一世紀に期待するエネルギー新技術
●エネルギー教育が大切。もっと議論が必要です。
●エネルギーの利用効率を上げることも大切
宇宙太陽発電など期待する技術は盛り沢山 二十一世紀は全員参加型エネルギー社会です
柏木孝夫(かしわぎ たかお) 1946年東京都生まれ。
東京工業大学卒業。
通産省、環境庁など各種エネルギー関係委員会で活躍中。
国連IPPC日本代表。
日本機械学会評議員など学会関連の仕事も多い。

エネルギー教育が大切ですね。賢いエネルギーの使い方を実践しましょう
木元教子(きもと のりこ)  北海道苫小牧生まれ。評論家。
立教大学卒業後、東京放送(TBS)入社。退社後、教育、女性、エネルギー、政治、など広い分野で評論、放送、講演活動を行っている。各審議会委員なども歴任。
『子離れ親離れのすすめ』『わたしの人生、今が一番』など著書多数。


 私を除く8人の方々が政府の様々な審議会委員を歴任し、それなりに政府の政策への影響力を持っているのに対し、残念ながら私はそうではありませんでした。インターネットの普及拡大につれて、この16年間にエネルギーや環境問題に対する情報量は飛躍的に増大しましたが、議論の内容にはあまり進展がないように思います。今回の私のメッセージはただ一つ、
「21世紀は持続可能な社会を構築するために、それに相応しいエネルギー体系をつくる」 
ということです。





新長計

2012-04-16 18:05:32 | 原発/エネルギー/資源
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりを考える会のブログは、ここをクリック
お問い合わせはここをクリック   アーカイブ(公開論文集)      持続可能な国づくりを考える会のホームページ(HP)は、ここをクリック




          
                                                                                   理念とビジョン:「全文」   「ダイジェスト版」



 表題に掲げた“新長計”と言う言葉をご存じですか。日本の原子力問題の議論を長らくフォローして来た方にはお馴染みでしょうが、昨年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故後に「原発(原子力発電)」に興味をお持ちになった方々には馴染みの薄い言葉だと思います。

 新長計とは「新原子力開発利用長期計画」の略称で、その「第1回の原子力開発利用長期計画」が1956年に策定されました。5年後の61年に「第1回の長期計画」が改訂され、以後およそ5年ごとに改訂されてきました。

 2000年11月24日に原子力委員会で8回目の改正が決定された後、閣議で決定されました。2005年10月からは「原子力開発利用長期計画」は「原子力大綱」と名称を改め、現在に至っています。

 2010年12月より、原子力委員会に設置された「新大綱策定会議」において、2011年12月決定の予定で「新原子力政策大綱」の策定に関する議論が進められていましたが、2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一発電所の事故を受け、その議論が中断していました。原子力委員会は2011年9月27日に検討の議論を再開し、今後1年を目途に新しい原子力政策大綱をとりまとめるとしています

 そこで、今日は2000年9月9日にタイムスリップします。この日は2000年11月24日の原子力委員会で「原子力開発利用会議の8回目の改正」が決定する前に「新長計を問う」(市民と長計策定会議メンバーとの討論会)と題して、NPO法人原子力資料情報室が主催する催しが中央大学駿河台記念館で開催されたからです。

 なにぶんにも12年前のことですので、どういう経緯で私がこの討論会の討論者を引き受けたのか定かではないのですが、たまたま古い資料を整理しておりましたら当時の配付資料(22ページ)が出てきましたので、ご紹介します。討論会自体は大変盛況だったと記憶しています。次の図をご覧ください。



 現時点で振り返るとこの12年間のある時期に、この討論会の討論者の森嶌さんは中央環境審議会会長であられ、近藤さんは原子力委員会委員長(現在も)、そして、鈴木さんは原子力安全委員会委員長の要職についておられました。


 次の図は会場で配布された22ページの資料集に収められた私のプレゼンテーションの要旨(7ページおよび8ページ)で、12年前のものではありますが、この12年間の日本の原子力関連の議論の推移に加えて、昨年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故以降の混乱した議論の方向性を見た時に、今後の議論の道筋を定める考え方として十分役に立つものだと思っています。



上の図の最後に記した「1996年頃まで頻繁に使われていた『核燃料リサイクル』という言葉はどこへ行ったのか?(小沢vs鈴木 1996年9月18日)の第11回原子力円卓会議」はここをクリックしてください。


 ご参考までに、この22ページの配付資料の内容を記しておきます。原子力委員会の活動はすべて“原子力推進”が前提になっているわけですから、とりわけ、p3~p6に掲載されている長期計画策定会議・分科会メンバーのリストをご覧になると、どのような方々がこれまで “原子力エネルギー推進のために関わってきたか” がおわかりいただけるでしょう。

p1 今月の話題 長期計画見直しが始まる  

p2 資料 原子力長期計画変遷

p3 長期計画策定会議・分科会メンバー
    長期計画策定会議構成員
    長期計画策定会議第一分科会構成委員(国民・社会と原子力)

p4 長期計画策定会議第二分科会構成委員(エネルギーとしての原子力利用)
    長期計画策定会議第三分科会構成委員(高速増殖炉関連技術の将来展開)

p5 長期計画策定会議第四分科会構成員(未来を拓く先端的研究開発)
    長期計画策定会議第五分科会構成員(国民生活に貢献する放射線利用)

p6 長期計画策定会議第六分科会構成員(新しい視点に立った国際的展開)                                                      六分科会の検討事項

 p7~p8 新長計を問う(市民と長計策定会議メンバーとの討論会) 環境問題スペシャリスト 小沢徳太郎

p9 毎日新聞 2000年5月31日 社説 「環境の世紀」 

p10 主要国の65歳以上人口の割合の推移、総人口の推移と予測、日本社会の今、“輸入概念”による環境対

p11 本質的な議論をしよう、日本の環境行政:最大の矛盾、持続可能な社会の概念、福祉社会を超えた「持続可能な社会」  

p12 なぜ、「持続可能な開発/社会」の構築なのか?、2050年までの主な制約要因、2050年の世界のマクロ指標、
     持続可能な社会:理念から行動へ

p13 持続可能な経済社会を構築する産業活動の方向性、持続可能な生産の条件、持続可能な経済/経済の持続的発展  

p14 21世紀の電源としての原発の論点、原発と持続可能な社会、「原発」に対するブルントラント報告の見解、地球温暖化
     対策:その大前提

p15 「合意形成」めぐり議論(原子力eye 1999年7月号から) 原子力推進国の方針へ(電気新聞1999年5月20日)
          
     以下省略
 p16 原子力長期計画の主な変更内容 他 
 p17 核燃料の流れ 
 p18 深刻なプルトニウム余剰 プルトニウム政策の転換が急務だ 
 p19 プルトニウム管理状況(kg、毎年末現在) 
 p20 日本のプルトニウム(実績と計画) 
 p21 崩壊 核燃料サイクルの輪 動かぬ「もんじゅ」に500億円 累積欠損1兆6000億円(朝日新聞 1999年12年16日) 
 p22 六カ所核燃料サイクル施設の概要(1999年12月末現在) 





「定期点検中の原発の再稼働」を巡るおびただしい提言合戦の中から一つだけ

2012-04-09 18:08:40 | 原発/エネルギー/資源
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりを考える会のブログは、ここをクリック
お問い合わせはここをクリック   アーカイブ(公開論文集)      持続可能な国づくりを考える会のホームページ(HP)は、ここをクリック




          
                                                                                   理念とビジョン:「全文」   「ダイジェスト版」



 今日の朝日新聞の朝刊の一面トップは「大飯 来週にも安全宣言 政権 再稼働基準を決定」で、リードの部分は「野田政権は6日、定期検査で停止中の原発を再稼働させる条件となる安全対策の暫定基準を決めた。来週中にも関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町、計236万キロワット)の安全を宣言。電力の需給見通しなどを踏まえて再稼働の妥当性も判断した上で、枝野幸男経済産業省が地元を訪れて同意を求める。」となっています。
 

 グーグルに「原発再稼働を求める提言」と入れて検索をかけると、約633,000件がヒット、「原発再稼働中止を求める提言」と入れると、約525,000件がヒットします。あまりのヒット数の多さに深入りを避け、次の小さな記事だけを一つ考えてみましょう。

 この記事に出てくる「エネルギー・原子力政策懇談会」という団体に興味が湧きましたので、ネット上で検索してみました。

エネルギー・原子力政策懇談会

提言:福島からの再出発と日本の将来を支えるエネルギー政策のあり方

 この14項目を盛り込んだ提言の「前文に」中に、次のような記述があります。

xxxxx
エネルギー・原子力政策懇談会有志一同・発起人代表
同会会長 有馬 朗人

 「エネルギー・原子力政策懇談会」は、昨年3 月11 日の東日本大震災以降、我が国のエネルギー政策とりわけ原子力政策の混迷の中であるべき政策の方向を求めて、民間の学者や産業界の心ある人々が参集し検討を重ねてきたものである。(いわば民間エネルギー臨調)この間、福島第一原子力発電所事故の検証、放射線汚染の実状と対策、エネルギー安全保障、地球温暖化問題への影響、原子力安全規制のグローバルスタンダード化等をそれぞれの専門家を交え議論を重ねてきた。

・・・・・・・・・(略)

 資源の乏しい我が国にとって、国民生活の安定と安全の確保、産業の競争力維持のためにはエネルギーの安定供給は極めて重要な課題である。また、地球温暖化対策や環境問題についても、これまで世界をリードしてきた我が国としては背を向けることはできない。一時の感情論に流されることなく、科学的知見に基づき、あらゆる側面から冷静な議論が必要である

・・・・・・・・・(略)

 このような状況の中で、我が国のエネルギー政策について、われわれはあえて政府に速やかなる政策検討、決定を促しこの政策空白を回避するとともに、真に必要な政策論議を求めたい。このため、特に緊急を要する諸点につき、懇談会有志が意見をまとめ下記提言するものである。
xxxxx

 上の赤字の部分をご覧ください。日本を代表するような学者や経営者などの識者が集まっている会がそれぞれの専門家を招いて議論を重ねて来た結果が、「また、地球温暖化対策や環境問題についても、これまで世界をリードしてきた我が国としては背を向けることはできない。」とありますというのでは、あまりに事実の理解がお粗末です。日本はほんとうに、地球温暖化対策や環境問題でこれまで世界をリードしてきたのでしょうか。このような認識では、後に続く14項目の提言の意味合いが薄れるのではないでしょうか。

このブログ内の関連記事
原発を考える ⑤ エネルギーの議論は「入口の議論」だけでなく「出口の議論」も同時に行う(2007-04-14)

●大和総研 経営戦略研究レポート CSR(企業の社会的責任)とSRI(社会的責任投資)  日本は環境先進国なのか? 2008年3月10日
要約 世界銀行が2007年10月に公表した温暖化対策を評価した報告書において、日本は70カ国中62位、先進国では最下位という衝撃的な結果が示された。洞爺湖サミットで環境立国日本を標榜し、世界のリーダーシップをとるのであれば、日本は環境先進国、という思い込みを捨てて積極的かつ大胆な温暖化対策を早急に進める必要がある。

毎日新聞に掲載された「地球を考える会のフォーラム」(広告)に対する私のコメント(2009-11-06)

日経の「社長100人&500社アンケート」に示された日本企業のトップの環境認識(2010-10ー17)





改めて驚かされる「原発立地環境」の相違、欧米と日本 そして スウェーデン

2012-04-08 18:50:12 | 原発/エネルギー/資源
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりを考える会のブログは、ここをクリック
お問い合わせはここをクリック   アーカイブ(公開論文集)      持続可能な国づくりを考える会のホームページ(HP)は、ここをクリック




          
                                                                                   理念とビジョン:「全文」   「ダイジェスト版」


 グーグルに「原発と地震」と入れて検索しますと、およそ49,000,000件がヒットします。今後もこの件数は日に日に増加することでしょう。ここまで情報の数が増えてくると、何が重要で、何が末梢的な周辺情報なのかを見極めるだけでくたびれてしまい、なかなか求める情報にたどり着くことが難しくなってきます。

 日本の状況をなるべくありのままに理解するためにこのブログでは、日本の状況をスウェーデンの事例と比較としながら考えています。長年、日本とスウェーデンを同時進行でウオッチしてきた結果、私がおそらく間違いないだろうという結論に達したことはスウェーデンは「予防志向の国」(政策の国)であり、日本は「治療志向の国」(対策の国)だということです。

 このことは両国を比較したときにほとんどすべての分野で観察されることです。昨年3月11日の東京電力福島第1原発事故以来この1年間、マスメディアやネットを賑わしている原発関連のニュースや議論も例外ではありません。このブログでも折に触れ、私の環境論の下で、両国の原発に対する私の考え方を記してきました。3月27日のブログ「25年前に原発格納容器のベント用にフィルターを設置した国と、“安全神話”でいまだ設置ゼロの国」もその具体例の一つです。

 今日は「原発問題の安全性」を考える上での大前提となる「原発の立地環境」の大きな相違を確認しておきましょう。次の図をご覧ください。

  この図は1903年から2001年までのおよそ100年間にマグニチュード7以上の大地震が起きた場所(赤い部分)に2001年現在の原発(原子力発電所)の位置(黒丸)をプロットした非常にわかりやすい図で朝日新聞に掲載されたものです。この図を提供された茂木清夫さんは地震予知連絡会会長を務めたかたでした。

 私はスウェーデンの原発の位置とカリフォルニア州の原発の位置を示すために、この図に「青のサークル」(スウェーデンの原発の位置)と「赤のサークル」(カリフォルニア州の原発の位置)加えました。欧米の原発のほとんどが大地震の発生地帯から離れて立地しているのに対し、日本の原発はまさに大地震発生地帯に立地しています。もちろん、スウェーデンの原発も過去100年の大地震発生地帯から相当離れていることがわかります。

 次の図は米国50州(面積:約9372万km2 人口:3億1500人)の位置関係を示す図です。

 一番左の中央部にカリフォルニア州があります。カリフォルニア州の面積は約42万km2で日本の面積(約37万km2)の約1.1倍です。地震発生地帯にあるカリフォルニア州には原発が2カ所(サンオレフレ原発とディアブロキャニオン原発)あります。それぞれの原発には2基ずつ原子炉があり、計4基が稼働しています。ですから、日本の原発立地はカリフォルニア州に54基の原子炉が立地しているようなイメージです。スウェーデンの面積は約45万km2ですから、日本の面積の1.2倍、そこに、2005年5月31日以降、3カ所の原発で計10基の原子炉が立地しています。ですから、簡単に言えばカリフォルニア州の面積に10基の原子炉が立地しているというイメージですね。

 このような原発立地環境の事実関係を知った上で、スウェーデンと日本の間には「予防志向の国」「治療志向の国」の考え方の相違があることを考えますと、安全神話の下で進められてきた日本の原発の置かれた状況がスウェーデンとの比較だけではなく、国際的に見てもいかに厳しいものかがおわかりいただけるでしょう。

このブログの関連記事
日高義樹のワシントン・リポート2010-02-14: 次世代エネルギーの主役は太陽? 原子力?(2010-02-17) 



海図なき21世紀のグローバル市場経済の荒波に「スウェーデン・モデル」は有効か 持続可能な社会へむけて

2012-04-06 14:40:55 | 持続可能な開発・社会/バックキャスト
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりを考える会のブログは、ここをクリック
お問い合わせはここをクリック   アーカイブ(公開論文集)      持続可能な国づくりを考える会のホームページ(HP)は、ここをクリック




          
                                                                                   理念とビジョン:「全文」   「ダイジェスト版」



 今年2月1日にノルディック出版社からレグランド塚口淑子編「スウェーデン・モデル」有効か 持続可能な社会へむけてというタイトルの本が出版されました。

 私のこのブログでも、これまでに「スウェーデンの経済パフォーマンスが好調であること」を書いてきましたが、この本の「第2章 スウェーデンの経済と経済政策―経済・福祉・環境の共生」のはじめにで、経済学者の丸尾直美さんは次のように述べておられます。
xxxxx
はじめに
スウェーデンをはじめとする北欧諸国は、福祉と環境を重視し公的資金をこれらの分野に多く割くという意味では「大きな政府」の小さな国である。それでいて、「小さな政府」の大きな国のアメリカに並ぶ、あるいはそれ以上の成果を経済面でも挙げている。福祉と環境面では、スウェーデンをはじめとする北欧諸国のほうがはるかに成績が良い。
 こうした事実を説明する一つの解釈は、アメリカ型と北欧型の二つの経済成長方式があるとの論である。それは規制緩和と企業活動の自由化で、利潤と投資を増やして企業を中心に経済成長し、その成果のおこぼれ(trickle down)で国民が豊かになるというアメリカ型経済成長と、福祉・分配・環境主導の北欧型成長方式である。
                          ―中略―

 スウェーデンのよい政策を日本で紹介しても、小さい国だからできたが、日本のような大国では無理だといわれたものである。しかし、スウェーデンで成功した政策が10~20年遅れで日本でも導入されることが多い。スウェーデンは小さい国だからこそよく見えるので、合理的な政策がとれるのである。スウェーデンはいわば「社会科学の実験工場」だと自覚してスウェーデンの良き政策から日本ももっと真剣に学ぶべきである。
xxxxxx

このブログ内の関連記事
ついに、あの中谷さんも、竹中さんも「北欧の成長戦略に学べ」と ???(2010-01-05)


 ところで、私は編者の求めに応じて、「第4章 環境問題への対応は 『フォアキャスト』か、『バックキャスト』か」を執筆しました。そして、人類の歴史の中で初めて直面する「2つの大問題」というタイトルのもとで次のように書きました。
xxxxx
 21世紀の半ば(2050年頃)までに、私たちは数百万年の人類の歴史の中で初めて直面する二つの大問題を否応なしに経験することになるであろう。どちらの大問題も、私たちの社会をこれからも持続させることができるかどうか、次の世代に「安心で安全な社会」を引き渡すことができるかどうかに、深くかかわっている。
 一つは日本でも関心の高い「少子・高齢化問題」である。これは「人間社会の安心」を保障する年金、医療保険、介護保険、雇用保険などで構成される「社会保障制度の持続性」にかかわる問題である。つまり、人間社会の安心と安全が保障されるかどうか、という意味において「社会の持続性」にかかわる大問題なのである。しかし、この問題は基本的には国内問題である。
 もう一つはいうまでもなく、「環境問題」である。これは「人類を含めた生態系全体の安全」を保障する「環境の持続性」にかかわる、さらに大きな大問題なので、すべての経済活動の大前提として常に考慮しなければならない。
 環境問題の根本には経済活動が原因としてあるわけだから、この問題を解決するための具体的な行動は経済的に見れば「経済規模の拡大から適正化」への大転換であり、社会的に見れば20世紀の「持続不可能な社会(大量生産・大量消費・大量廃棄の社会)」から21世紀の「持続可能な社会(資源・エネルギーの量をできるだけ抑えた社会)」への大転換を意味する。
 先進工業国がさらなる経済規模の拡大を追求し、新興国(中国やインドなど)や途上国がそれに追従するという20世紀型の経済成長の延長では経済規模は全体としてさらに拡大し、地球規模で環境が悪化するにとどまらず、これから2050年までの40年間に人類の生存基盤さえ危うくすることになるであろう。
 この二つの大問題は私たちが、今まさに「人類史上初めての大転換期」に立たされていることを示している。
xxxxx


 そして、この章の「おわりに」を次のように結びました。

xxxxx
 21世紀のグローバルな市場経済の荒波を、先頭を切って進むスウェーデン丸は「精巧なコンパス」(科学者の合意)と「強力なエンジン」(政治主導の政府)を搭載した新造船で、「最新の海図」(自然科学的な知見)をたよりに、みごとな「操船術」(「社会科学的な知見」と「社会的な合意形成」に支えられた実現のための政策)を駆使して、2025年頃に、最終目的地である「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)をめざしている。
 現在は、国際的に20世紀の「経済規模の拡大」から21世紀の「環境に十分配慮した経済規模の適正化」への大転換期なので、判断基準の変更によって、20世紀の経済大国(具体的には日本を含めたG8の国々)が、様々な分野で相対的に国際ランキングの順位を落とす現象がみられるようになってきた.
 2000年以降に公表された様々な分野の国際ランキングをみると、21世紀の社会を模索するようなデータ(少子・高齢化、年金・医療保険・雇用保険などの社会保障や労働環境を含めた福祉、教育、ITなどの先端技術、環境・エネルギー分野など)の国際ランキングでは、スカンジナビア3か国(ノルウェー、スウェーデンおよびデンマーク)にフィンランドやアイスランドを加えた北欧5か国の活躍が目立つ.たとえば、2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発の過酷事故後に再浮上した「日本国内の電力市場の自由化問題」がある。この問題でも、10年以上先を行く北欧諸国の経験は日本のこれからの議論に大いに役立つ情報を提供できるであろう。

・・・・・・・・(中略)・・・・・

 気候変動に象徴される21世紀最大の問題である「環境問題」への対応は、個々の環境問題の現象面に技術で対応するのではなく、拡大し続ける経済活動の規模を適正化して新しい社会を築くことである.めざすべき社会は日本で提唱されている「低炭素社会」ではなく、「低エネルギー社会」、さらには「エコロジカルに持続可能な社会」である。
 大阪万博からおよそ40年、北欧の国々が再び、私たちに続く21世紀後半の「まだ見ぬ世代が住む人間社会の明るい未来」のための舵取りを担うことになったのは、単なる偶然なのだろうか・・・・・ 
xxxxx


 私たちがいま直面している「環境問題」に対する最も重要な判断基準は、「社会全体のエネルギー消費量を削減できるかどうかにかかっている」ということになります。「環境問題の根本的な原因は経済活動にある」「21世紀の経済成長はエネルギー・資源の消費を抑えて達成されなければならない」、これらの事実は「環境問題について私たちがみな共通に持つべき認識」のはずですが、残念ながら、日本ではまだ十分には共有されていません。

 フォアキャストする日本の政策決定にかかわる人々の「本音」としての危機意識およびそれに必然的に伴うはずの適切で有効な対応は、致命的といってもいいほど遅れているといわざるをえません。バックキャストするスウェーデンは、理想主義の国ではなく、理念に基づいた長期ビジョンを掲げ、行動する現実主義(プラグマティズム)の国なのです。

このブログ内の関連記事
私の環境論14 環境問題は経済の「目的外の結果の蓄積」(2007-01-24)

フォアキャストする日本、バックキャストするスウェーデン① 「未来社会」の構想(2007-07-20)

フォアキャストする日本、バックキャストするスウェーデン② フォアキャストvsバックキャスト(2007-07-21) 

フォアキャストする日本、バックキャストするスウェーデン③ 21世紀はバックキャストが有効(2007-07-22)


 この本のタイトルにある「持続可能な社会」には

①社会的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
②経済的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
③環境的側面(環境を大切にする社会であるための必要条件)

の3つの側面があります。スウェーデンは福祉国家を実現したことによって、これら3つの側面のうち、「人間を大切にする社会であるための必要条件」つまり「社会的側面」と「経済的側面」はすでに満たしているといってよいでしょう。しかし、今後も時代の変化に合わせて、これまでの社会的・経済的な制度の統廃合、新設などの、さらなる制度変革が必要になることはいうまでもありません。

 この本は第1章から第10章までの10章で構成されています。10章のうち、私が担当した第4章を除いた各章が①社会的側面あるいは経済的側面の最新の情報を提供しています。90年半ば以降、スウェーデンの社会的側面および経済的側面が新たな展開をしていることに注目してください。

このブログ内の関連記事
緑の福祉国家3 スウェーデンが考える「持続可能な社会」(2007-01-13)

21世紀のモデル探し-スウェーデンは21世紀のモデルたり得るだろうか-(2010-10-31) 




  

改めて、日本の「効率化」とは・・・・・

2012-04-01 21:35:30 | 経済
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりを考える会のブログは、ここをクリック
お問い合わせはここをクリック   アーカイブ(公開論文集)      持続可能な国づくりを考える会のホームページ(HP)は、ここをクリック




          
                                                                                   理念とビジョン:「全文」   「ダイジェスト版」


 4年前の2008年3月28日のブログで、次のような趣旨のことを書きました。

xxxxx
 日本の年度末にあたって、21世紀の日本の環境問題を考えるときに、私たちが把握しておかなければならない日本特有の主な条件を挙げておきます。それは日本経済が制約を受ける社会的・地理的条件です。大変不思議なのは、このような前提を忘れた議論ばかりが行われていることです。

★日本経済が制約を受ける地理的・社会的条件
★日本の「効率論」で忘れてはならない大前提
★「経済成長一辺倒」の20世紀、「21世紀の方向性」が見えない日本

 日本は今、まさに20世紀の価値観とは異なる21世紀社会への転換期を迎え、その方向性が見えず苦悩しているところです。 
xxxxx



 今日、4月1日は日本の年度初めです。そこで、今日は上記の3つの論点のうち、「日本の『効率論』で忘れてはならない大前提」を再掲します。昨年3月11日に起こった「東日本大震災」から1年経って、この大前提が見事に証明されたと考えられるからです。

xxxxx
 日本の企業人、エコノミスト、政策担当者の多くはこれまで日本の経済パフォーマンスを語るとき、「効率の良さ」を挙げてきましたが、これには次のような大前提があることを忘れてはなりません。

①平穏時あるいは予想される範囲の近未来しか想定していないこと。あらかじめ準備していたことを遂行する時には、日本の官僚機構、企業、学校などの既存の組織はきわめて有効に働くが、事前に想定された範囲を超える出来事(大事故や大きな自然災害など)が起こるとシステムが機能しなくなる。

②常に健康な成人を想定していること。社会を構成するのは老若男女である。それぞれに健康なものもいれば、そうでないものもいる。日本の制度は健康な成人に焦点を当てた「強者の論理」に基づくものである。
 
 これらの前提に立てば、生産、物流コストをぎりぎりまで切り詰め、「効率化」を図ることが可能となりますが、安定した社会やインフラの整備、自由な企業活動を保障するとともに、国民の健康、生活、財産の安全を確保するには、さらにコストがかかるはずです。社会全体のコストを考えることが重要です。
xxxxx

 皆さんはどうお考えですか。


このブログ内の関連記事
私の環境論15 「日本の環境問題」を考えるときの基本条件(2007-01-25)

格差社会が広がる日本、効率性と公平性を達している北欧(2007-03-22)

日本の国づくりの議論を混乱させる2つの指標 「国民負担率」と「環境効率」(2007-03-16)

不十分な日本の「省エネルギー」という概念、正しくは「エネルギー効率の改善」という概念だ!(2007-11-26)