環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

2010年7月掲載のブログ記事

2010-07-31 22:53:09 | 月別記事一覧
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1.2010年7月掲載のブログ記事(2010-07-31)

2.世界最強の 「IT国家」 となったスウェーデン(2010-07-18)

3.「20年前のスウェーデンの経済政策成功の教訓」が、現在の日本の問題解決に有効か!(2010-07-13)

4.支持したい「昨日の朝日の社説」:財政再建と成長 両立へ、新たな道を開こう(2010-07-03) 
 

世界最強の 「IT国家」 となったスウェーデン

2010-07-18 22:41:52 | 経済
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6月27日のブログで、「1990年代初めの不況に対して、日本は景気回復という『一兎』を追ったが一兎をも得ずであった。ドイツ、フランスは財政再建という『一兎』を追い、一兎を得た。スウェーデンは景気回復と財政再建という『二兎』を追い、二兎を得た」と書きました。その対応策として、次の図を示しました。


そして、「1992年から知識集約的産業の成長を倍増させ、産業構造を転換させた。世界最強の『IT国家』をめざし、ストックホルムをして『IT首都』とまで賛美させる産業構造の転換こそ、スウェーデンが景気回復にも財政再建にも成功した鍵なのである。」とする神野直彦さんのご見解を紹介しました。

今日はこの神野さんのお考えを十分に裏付ける最新の調査報告書を紹介しましょう。上の図「スウェーデンの財政再建」の「②IT(情報技術)インフラ整備」に関する項目と関連するところです。ダボス会議の主催団体として有名な世界経済フォーラム(WEF)は2010年3月25日、「経済的、環境的、社会的に持続可能な世界」を創造する有効な手段としてのICT(情報・コミュニケーション技術)の主な役割に焦点を当てた報告書「The Global Information Technology Report 2009-2010」を公表しました。 

この報告書はINSEAD(インシアッド:フランスとシンガポールにキャンパスを有するビジネス・スクール大学院、1957年創立)との協力のもとに、WEFが世界133か国を調査対象とし、「国家の発展過程と競争力」に対するICTのインパクトを同一の指標(68項目)で国別に評価し、ランク付けした最も包括的で、権威ある報告書です。 

この報告書は2001年から毎年1回公表されているICT報告の9回目の報告として公表されたものです。21世紀社会のキーワードである「Sustainability(持続可能性)」に焦点を当てた今回の報告書で総合1位にランクされたのはスウェーデン(スコアーは5.65)で、以下シンガポール、デンマーク、スイス、米国と続きます。日本の順位は21位、スコアーは4.86でした。次の表は30位までの順位を示したものです。



また、次の表は今回の調査でトップ10にランクされた国々が、2001年の第1回調査から今回の第9回調査までに占めた順位を示しています。

さらに、世界経済フォーラムは「The Global Competitiveness Report 2009-2010」を公表しています。この報告によりますと、スウェーデンが4位(スコアは5.51)、日本は8位(スコアは5.37)となっています。



世界競争力調査には、もう一つ別の団体による調査報告があります。スイスのビジネス・スクール経営開発国際研究所(IMD)によるものでスウェーデンは58カ国中6位、日本はなんと27位です。



これらの事実は、スウェーデンが90年代初めの経済危機の際に「財政再建」のために「歳出の削減」と「増税」を行い、「景気の回復」のために経費の中身を「ITインフラ整備」の分野に大きくシフトさせた結果と言えるのではないでしょうか。つまり、スウェーデンは、「増税して、景気回復をした事例などない」というこれまでのエコノミストの定説を打ち破る新しい結果を出したということなのです。

世界最強の「IT国家」となったスウェーデンでは、多くの国で懸念されている「デジタルデバイド」についても予防的な対応が取られていることを付しておきます。



関連記事
2009年 IT活用度ランキング:スウェーデン2位、日本17位(2009-03-28)

年度末にあたって、改めて「IT革命」と「環境問題」(2008-03-27)

IT革命と環境問題⑨ スウェーデンはどうなっているか(2007-04-09)




「20年前のスウェーデンの経済政策成功の教訓」が、現在の日本の問題解決に有効か!

2010-07-13 10:29:48 | 経済
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7月5日の讀賣新聞の「キャチボール」というコラムで、コラムの執筆者が、菅首相が掲げる「第三の道」に世界が注目しているが、今は「二兎を追っても一兎も得られない」という考えが欧米の主流だと書いておられます。


6月27日のブログで私は、20年前の経済不況でスウェーデンが「二兎を追って二兎を得た」という話を書きました。今日は、そのときに「二兎を追って二兎を得た」スウェーデンの対応を略記しておきます。

経済の門外漢である私が理解しているところでは、財政再建の方法は次の3つしかないというのがエコノミストの定説となっているそうです。



スウェーデンの政策に詳しい経済の専門家は、スウェーデンが20年前にとった不況対策は日本の不況対策とは異なり、「総需要の喚起を重視するケインズ政策」や「総供給量を重視する新古典派政策」ではなく、「資産重視政策」だったと評価しています。スウェーデンは福祉の向上のために、福祉の基盤である「経済」と「環境」を重視したのです。

ここでは、およそ10年前の1999年1月21日付けの日本経済新聞の「経済教室」に掲載された丸尾直美さん(当時日本大学教授)の「国民不安解消、北欧を参考に」の要点を示します。

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●迅速な「公的資金」の投入
 公的資金の迅速かつ大規模な投入などにより、金融危機は1年で終息し、株価はバブル崩壊前に比べても大幅に高くなった(平均株価は90年を100とすると直近で300超)。 
経済成長率は94年から98年までの5年間で平均2.6%に達した。経常収支は黒字となり、財政収支も98年には黒字に転じた模様である。投入した公的資金に関しても、96年6月までに93%が返済されているので、税金の無駄遣いにもなっていない。
 日本は北欧に5~6年遅れて公的資金導入に着手した。

●資産重視の不況対策
 北欧各国の経済政策の基本は、「総需要を操作するケインズ政策」とも「総供給量を重視する新古典派政策」とも異なる。「両者はフロー重視」であるが、北欧は「ストック(資産)重視」の経済であり、その不況対策は有効であった。北欧諸国が「資産重視の先駆的な不況対策」を導入したのは経済学(北欧経済学派)の影響が大きい。

●国民の不安解消、北欧を参考に
 スウェーデンは90年代に、金融再生政策と並行して、社会保障費の削減と両立する形での「医療・介護改革」と「年金改革」を進め、成功した。高齢化に耐えうる「持続可能な年金制度」を整えた。国民の安全性と資産形成の配慮という点で、フロー重視の国にはない制度の重みが観察できる。
 日本でも「不況対策」と「社会保障改革」の時期は重なったが、北欧とは逆に国民の不安を高めるような格好になっている。92年の宮沢内閣以降、政府は公共事業拡大を中心とする「ケインズ政策」を導入する一方、規制緩和と小さな政府によって供給側を強化する「新古典派政策」も志向した。ところが両者の理念の間で揺れたために弊害も露呈した。日本に必要なことは金融不安の解消による「資産市場の安定化」である。 
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以上のような当時の対応策が、20年後の今、日本が直面している問題の解決のヒントになるかどうかは私にはわかりませんが、結果として、スウェーデンは6月27日のブログに示したように、他のEU諸国に比べて、「景気」も「財政」も好調です。2008年9月のリーマンショックからの回復も早く、順調に推移しています。

20年前のスウェーデンの対応の的確さを解説した丸尾直美さん(尚美学園大学客員教授)が2週間前の2010年7月1日の日本経済新聞の同じ欄「経済教室」で、今度は「スウェーデンの年金制度」の解説をされています。

丸尾さんは、「日本はスウェーデンの年金制度をモデルとしてきたが、本稿で紹介したような肝心の特徴がきちんと理解されていない。今後の年金改革議論において留意すべきである」と、この解説記事を結んでいます。 


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支持したい「昨日の朝日の社説」:財政再建と成長 両立へ、新たな道を開こう

2010-07-03 14:13:43 | Weblog
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昨日の朝日新聞の社説は「大恐慌に陥った世界経済の立て直しのため66カ国がロンドンに集まった1933年の世界経済会議。・・・・・」という文章で始まります。そして、「税金を高くすると消費が低迷し、成長を損なうと懸念する声も、あって当然だ。だが、近年の経済指標を分析すると、いちがいにはいえないことがわかる。税金が高く社会保障支出が大きいスウェーデンも、税が安い米国に匹敵する高成長を維持してきた。日本は米国型に近いが、低迷している」という文脈で「スウェーデン」が登場します。昨年9月の民主党政権の発足以降、何かと「スウェーデン」がマスメディアに取り上げられる割合が多くなってきたような気がします。

昨日の社説はこれから5~10年後の日本の政治・経済の行く末を考えるのに非常に示唆的だと思いますので、全文を保存しておきましょう。

●財政再建と成長 両立へ、新たな道を開こう 2010年7月2日

社説の冒頭に登場する「1930年代の世界大恐慌」と後半に登場する「スウェーデン」、この2つの結びつきが描き出す「目に浮かぶような光景」をスウェーデンの政治・経済に詳しい岡沢憲芙さんが1991年の著書『スウェーデンの挑戦』で次のように紹介しておられます。

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スウェーデン神話はイギリスでも強かったようである。1930年代の世界は権威主義体制への傾斜を示していた。面倒な手順など省略して経済成長を効率的に達成し、社会的安定を回復するには手っ取り早い方法かもしれない。そうした潮流の中でスウェーデンは例外的存在であった。

奇妙なことであるが、虚偽と嫌悪、敵意と残忍性、無知と無関心が支配していた当時の世界の風潮とは逆に、スウェーデンでは楽天的なムードが散見できた。扇動的でも、ヒステリックでもなく、革命的でも華麗でもなかった。トーンを抑えた控え目な改良主義に過ぎなかった。

それでも、時代のムードからすれば、貴重な存在であった。38年の『ロンドン・エコノミスト』の特別記事で、スウェーデンは「絶望の海に浮かぶ希望の島」と表現されたという。

岡沢憲芙著 『スウェーデンの挑戦』(岩波新書177 1991年7月19日第1刷発行 p13)
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さらに、財政学がご専門の神野直彦さんは、岡沢さんの記述を引用しながら、2001年の著書『「希望の島」への改革 分権型社会をつくる』と同年の『二兎を得る経済学 景気回復と財政再建』で、スウェーデンと日本を対比させて考察し、スウェーデンの考え方とその行動を次のように評価しておられます。

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20世紀から21世紀にかけての世紀転換期に生じている大不況のもとで、日本は「競争社会」を目指しさえすれば、景気が回復すると盲信し、国民経済ばかりか財政も破綻させている。まさに日本は、世紀転換期の大不況という「絶望の海」に浮かぶ「絶望の島」にたとえることができる。しかし、この世紀転換期の大不況という「絶望の海」には、「絶望の島」だけではなく、「希望の島」も浮かんでいる。「絶望の海に浮かぶ希望の島」、そのモデルをスウェーデンに見いだすことができる。
 
世界恐慌から脱出しようとしていた1930年代にも、世界的潮流に対して例外的な存在だったスウェーデンを、『ロンドン・エコノミスト』が「絶望の海に浮かぶ希望の島」と賛美したことを、早稲田大学の岡沢憲芙教授が紹介している(岡沢憲芙『スウェーデンの挑戦』 岩波書店 1991年)。この賛美の言葉は、今も昔も変わりなく妥当する。

(神野直彦著 『「希望の島」への改革 分権型社会をつくる』 NHKブックス906 2001年1月25日 第1刷発行 p13)
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かつて世界恐慌に喘ぐ1930年代に、ロンドン「エコノミスト」誌はスウェーデンが世界恐慌の波に飲み込まれなかったことを見て取り、スウェーデンを世界恐慌という「絶望の海」に浮かぶ「希望の島」だと誉め称えた。それをもじって表現すれば、20世紀から21世紀への世紀転換期に生じる、大不況という「絶望の海」に浮かぶ「希望の島」として、スウェーデンを称えることができる。

しかし、悲しいかな20世紀から21世紀の世紀転換期の大不況という「絶望の海」には、スウェーデンという「希望の島」の対極に、日本という「絶望の島」も浮かんでいるのである。

(神野直彦著 『二兎を得る経済学 景気回復と財政再建』 講談社+α新書 2001年8月20日 第1刷発行 p48)
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このような現状から判断すると私も、昨日の朝日新聞の社説「財政再建と成長 両立へ、新たな道を開こう」の実現に、スウェーデンの教訓(解決方法)が生かせることを切に望みます。