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理念とビジョン:「全文」 「ダイジェスト版」
8月9日は戦後66年の「長崎原爆の日」でした。平和公園で行われた平和祈念式典での田上富久・長崎市長の「平和宣言」と総理大臣の「あいさつ」から、「エネルギー政策の転換に関する部分」に注目し、将来の議論のための資料として保存しておきます。
長崎市長の平和宣言(全文)
たとえ長期間を要するとしても、より安全なエネルギーを基盤にする社会への転換を図るために、原子力にかわる再生可能エネルギーの開発を進めることが必要です。
総理大臣のあいさつ(全文)
そして、我が国のエネルギー政策についても、白紙からの見直しを進めています。私は、原子力については、これまでの安全確保の規制や体制の在り方について深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ、「原発に依存しない社会」を目指していきます。
スウェーデンの「最新の原発政策」
福島第一原子力発電所の事故を受けて、日本が今後、どのようなエネルギー政策を展開していくか今のところまったく不明ですが、一方、スウェーデンでは、この事故とは関わりなく、事故以前に、将来のエネルギー政策の具体的な方向性が明らかになっています。
この機会に改めて、スウェーデンの「最新の原発政策」をまとめておきましょう。
2009年2月5日、ラインフェルト連立政権を支える与党中道右派の4党連合は「環境、競争力および長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策」と題する4党合意文書を発表しました。
この合意文書の原発関連部分の要点は 「水力と原子力からなる現在の電力供給システム」に今後、第3の柱となるべき再生可能エネルギーを導入していく過程で、電力のほぼ半分近くを供給している既存の原発10基(このうち4基は70年代に運転開始、すでに40年近く稼働している)のいずれかの更新が将来必要になったときに備えて、更新の道を開く用意をすること」でした。
合意文書には 「原子力利用期間を延長し、最大10基までという現在の限定枠の範囲で既存の原発サイトでのみ更新を許可する。これにより、現在稼働中の原子炉が技術的および経済的寿命に達したときに継続的に新設の炉で置き換えることができるようになる」と書かれています。
スウェーデン国会は2010年6月17日、「2009年2月5日に与党中道右派4党の合意に基づく原発更新法案」を賛成174票、反対172票のわずか2票差で可決しました。
スウェーデンの最初の商業用原子炉は1972年運転開始のオスカーシャム1号機ですから、この原子炉が今後事故なく順調に稼働していけば、運転開始後50年(1980年の国民投票の時には、当時の原発の技術的な寿命は25年と見積もられていた。現在では原発の技術的寿命は60年程度とされている)、つまり更新時期を迎えるのは2020年頃なのです。
ですから、今回の「部分的な原発政策の修正(変更)」という決定が直ちに原発の新設という行動に移されるわけではありませんし、日本の原子力推進派の人たちが期待するような「原子力ルネサンスだ!」、「地球温暖化対策のために原発を推進」などという考えで、スウェーデンは原発依存を今後さらに高めて行くわけでもなければ、ましてや、「原発を温暖化問題の解決策」として位置づけているわけでもないのです。
2011年1月7日の朝日新聞の記事「米国 新資源で競争力下がる」の最後に、「ルネサンスとはいえ、米国ではもともと、実際に新設される原発は10基以下と見られており、当面は「延命」 でしのぐところが多そうだとあります。そうであれば、スウェーデンの今回の行動は、「原子力エネルギーに対する世界最先端の考えに基づく現実的な行動」と言えるかも知れません
世界の原発の歴史を振り返れば、この分野でもスウェーデンの独自性は際立っています。西堂紀一郎/ジョン・グレイ著『原子力の奇跡』(日本工業新聞社 1993年2月発行)によれば「軽水炉技術を独自に開発したのはアメリカ、ソ連、スウェーデンの3カ国である。ドイツ、フランス、日本、そしてイギリス等の先進工業国が軽水炉の導入に当たり、アメリカから技術導入したのに対し、スウェーデンは果敢にも独自開発路線を選び、最初から自分の力で自由世界で唯一アメリカと競合する同じ技術を開発し、商業化に成功した。」と書かれています。つまり、スウェーデンは 「原発先進国」であり、「脱原発先進国」でもあるのです。
スウェーデンが80年6月に「脱原発」の方針を打ち出してから30年が経過しました。スウェーデンの「エネルギー体系修正のための計画」を構成する「原発の段階的廃止をめざす電力の供給体系の修正計画」は当初の予定通り進んできたとは言い難いものでしたが、 「原発から排出される放射性廃棄物の処分計画」は着実に進んでおり、この分野でもスウェーデンは世界の最先端にあります。
日本の原発推進派も、原発反対あるいは脱原発派もスウェーデンの「原発の廃止の動向」には興味を示します。この観点から見れば、この30年間で稼働していた12基の原子炉のうち2基を廃棄したに過ぎないのですから、「2010年までに12基の原子炉すべてを廃棄する」という1980年の当初の目標からすれば大幅な後退であることは間違いないでしょう。しかし、忘れてはならないことは、「脱原発」という政治決断により投じられた予算と企業の努力により「省エネルギー」や「熱利用の分野」では大きな成果がありました。特に「熱利用の技術開発の分野」ではスウェーデンはまさに世界の最先端にあります。
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8月9日は戦後66年の「長崎原爆の日」でした。平和公園で行われた平和祈念式典での田上富久・長崎市長の「平和宣言」と総理大臣の「あいさつ」から、「エネルギー政策の転換に関する部分」に注目し、将来の議論のための資料として保存しておきます。
長崎市長の平和宣言(全文)
たとえ長期間を要するとしても、より安全なエネルギーを基盤にする社会への転換を図るために、原子力にかわる再生可能エネルギーの開発を進めることが必要です。
総理大臣のあいさつ(全文)
そして、我が国のエネルギー政策についても、白紙からの見直しを進めています。私は、原子力については、これまでの安全確保の規制や体制の在り方について深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ、「原発に依存しない社会」を目指していきます。
スウェーデンの「最新の原発政策」
福島第一原子力発電所の事故を受けて、日本が今後、どのようなエネルギー政策を展開していくか今のところまったく不明ですが、一方、スウェーデンでは、この事故とは関わりなく、事故以前に、将来のエネルギー政策の具体的な方向性が明らかになっています。
この機会に改めて、スウェーデンの「最新の原発政策」をまとめておきましょう。
2009年2月5日、ラインフェルト連立政権を支える与党中道右派の4党連合は「環境、競争力および長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策」と題する4党合意文書を発表しました。
この合意文書の原発関連部分の要点は 「水力と原子力からなる現在の電力供給システム」に今後、第3の柱となるべき再生可能エネルギーを導入していく過程で、電力のほぼ半分近くを供給している既存の原発10基(このうち4基は70年代に運転開始、すでに40年近く稼働している)のいずれかの更新が将来必要になったときに備えて、更新の道を開く用意をすること」でした。
合意文書には 「原子力利用期間を延長し、最大10基までという現在の限定枠の範囲で既存の原発サイトでのみ更新を許可する。これにより、現在稼働中の原子炉が技術的および経済的寿命に達したときに継続的に新設の炉で置き換えることができるようになる」と書かれています。
スウェーデン国会は2010年6月17日、「2009年2月5日に与党中道右派4党の合意に基づく原発更新法案」を賛成174票、反対172票のわずか2票差で可決しました。
スウェーデンの最初の商業用原子炉は1972年運転開始のオスカーシャム1号機ですから、この原子炉が今後事故なく順調に稼働していけば、運転開始後50年(1980年の国民投票の時には、当時の原発の技術的な寿命は25年と見積もられていた。現在では原発の技術的寿命は60年程度とされている)、つまり更新時期を迎えるのは2020年頃なのです。
ですから、今回の「部分的な原発政策の修正(変更)」という決定が直ちに原発の新設という行動に移されるわけではありませんし、日本の原子力推進派の人たちが期待するような「原子力ルネサンスだ!」、「地球温暖化対策のために原発を推進」などという考えで、スウェーデンは原発依存を今後さらに高めて行くわけでもなければ、ましてや、「原発を温暖化問題の解決策」として位置づけているわけでもないのです。
2011年1月7日の朝日新聞の記事「米国 新資源で競争力下がる」の最後に、「ルネサンスとはいえ、米国ではもともと、実際に新設される原発は10基以下と見られており、当面は「延命」 でしのぐところが多そうだとあります。そうであれば、スウェーデンの今回の行動は、「原子力エネルギーに対する世界最先端の考えに基づく現実的な行動」と言えるかも知れません
世界の原発の歴史を振り返れば、この分野でもスウェーデンの独自性は際立っています。西堂紀一郎/ジョン・グレイ著『原子力の奇跡』(日本工業新聞社 1993年2月発行)によれば「軽水炉技術を独自に開発したのはアメリカ、ソ連、スウェーデンの3カ国である。ドイツ、フランス、日本、そしてイギリス等の先進工業国が軽水炉の導入に当たり、アメリカから技術導入したのに対し、スウェーデンは果敢にも独自開発路線を選び、最初から自分の力で自由世界で唯一アメリカと競合する同じ技術を開発し、商業化に成功した。」と書かれています。つまり、スウェーデンは 「原発先進国」であり、「脱原発先進国」でもあるのです。
スウェーデンが80年6月に「脱原発」の方針を打ち出してから30年が経過しました。スウェーデンの「エネルギー体系修正のための計画」を構成する「原発の段階的廃止をめざす電力の供給体系の修正計画」は当初の予定通り進んできたとは言い難いものでしたが、 「原発から排出される放射性廃棄物の処分計画」は着実に進んでおり、この分野でもスウェーデンは世界の最先端にあります。
日本の原発推進派も、原発反対あるいは脱原発派もスウェーデンの「原発の廃止の動向」には興味を示します。この観点から見れば、この30年間で稼働していた12基の原子炉のうち2基を廃棄したに過ぎないのですから、「2010年までに12基の原子炉すべてを廃棄する」という1980年の当初の目標からすれば大幅な後退であることは間違いないでしょう。しかし、忘れてはならないことは、「脱原発」という政治決断により投じられた予算と企業の努力により「省エネルギー」や「熱利用の分野」では大きな成果がありました。特に「熱利用の技術開発の分野」ではスウェーデンはまさに世界の最先端にあります。
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