環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

長崎平和祈念式典:市長の「平和宣言」と総理大臣の「あいさつ」、スウェーデンの「最新の原発政策」

2011-08-11 22:19:12 | 原発/エネルギー/資源
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 8月9日は戦後66年の「長崎原爆の日」でした。平和公園で行われた平和祈念式典での田上富久・長崎市長の「平和宣言」と総理大臣の「あいさつ」から、「エネルギー政策の転換に関する部分」に注目し、将来の議論のための資料として保存しておきます。

長崎市長の平和宣言(全文)
たとえ長期間を要するとしても、より安全なエネルギーを基盤にする社会への転換を図るために、原子力にかわる再生可能エネルギーの開発を進めることが必要です。


総理大臣のあいさつ(全文)
そして、我が国のエネルギー政策についても、白紙からの見直しを進めています。私は、原子力については、これまでの安全確保の規制や体制の在り方について深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ、「原発に依存しない社会」を目指していきます。
 

スウェーデンの「最新の原発政策」

 福島第一原子力発電所の事故を受けて、日本が今後、どのようなエネルギー政策を展開していくか今のところまったく不明ですが、一方、スウェーデンでは、この事故とは関わりなく、事故以前に、将来のエネルギー政策の具体的な方向性が明らかになっています。

 この機会に改めて、スウェーデンの「最新の原発政策」をまとめておきましょう。

 2009年2月5日、ラインフェルト連立政権を支える与党中道右派の4党連合は「環境、競争力および長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策」と題する4党合意文書を発表しました。

 この合意文書の原発関連部分の要点は 「水力と原子力からなる現在の電力供給システム」に今後、第3の柱となるべき再生可能エネルギーを導入していく過程で、電力のほぼ半分近くを供給している既存の原発10基(このうち4基は70年代に運転開始、すでに40年近く稼働している)のいずれかの更新が将来必要になったときに備えて、更新の道を開く用意をすること」でした。

 合意文書には 「原子力利用期間を延長し、最大10基までという現在の限定枠の範囲で既存の原発サイトでのみ更新を許可する。これにより、現在稼働中の原子炉が技術的および経済的寿命に達したときに継続的に新設の炉で置き換えることができるようになる」と書かれています。
 
 スウェーデン国会は2010年6月17日、「2009年2月5日に与党中道右派4党の合意に基づく原発更新法案」賛成174票、反対172票のわずか2票差で可決しました。

 スウェーデンの最初の商業用原子炉は1972年運転開始のオスカーシャム1号機ですから、この原子炉が今後事故なく順調に稼働していけば、運転開始後50年(1980年の国民投票の時には、当時の原発の技術的な寿命は25年と見積もられていた。現在では原発の技術的寿命は60年程度とされている)、つまり更新時期を迎えるのは2020年頃なのです。

 ですから、今回の「部分的な原発政策の修正(変更)」という決定が直ちに原発の新設という行動に移されるわけではありませんし、日本の原子力推進派の人たちが期待するような「原子力ルネサンスだ!」、「地球温暖化対策のために原発を推進」などという考えで、スウェーデンは原発依存を今後さらに高めて行くわけでもなければ、ましてや、「原発を温暖化問題の解決策」として位置づけているわけでもないのです。

 2011年1月7日の朝日新聞の記事「米国 新資源で競争力下がる」の最後に、「ルネサンスとはいえ、米国ではもともと、実際に新設される原発は10基以下と見られており、当面は「延命」 でしのぐところが多そうだとあります。そうであれば、スウェーデンの今回の行動は、「原子力エネルギーに対する世界最先端の考えに基づく現実的な行動」と言えるかも知れません

 世界の原発の歴史を振り返れば、この分野でもスウェーデンの独自性は際立っています。西堂紀一郎/ジョン・グレイ著『原子力の奇跡』(日本工業新聞社 1993年2月発行)によれば「軽水炉技術を独自に開発したのはアメリカ、ソ連、スウェーデンの3カ国である。ドイツ、フランス、日本、そしてイギリス等の先進工業国が軽水炉の導入に当たり、アメリカから技術導入したのに対し、スウェーデンは果敢にも独自開発路線を選び、最初から自分の力で自由世界で唯一アメリカと競合する同じ技術を開発し、商業化に成功した。」と書かれています。つまり、スウェーデンは 「原発先進国」であり、「脱原発先進国」でもあるのです。

 スウェーデンが80年6月に「脱原発」の方針を打ち出してから30年が経過しました。スウェーデンの「エネルギー体系修正のための計画」を構成する「原発の段階的廃止をめざす電力の供給体系の修正計画」は当初の予定通り進んできたとは言い難いものでしたが、 「原発から排出される放射性廃棄物の処分計画」は着実に進んでおり、この分野でもスウェーデンは世界の最先端にあります。

 日本の原発推進派も、原発反対あるいは脱原発派もスウェーデンの「原発の廃止の動向」には興味を示します。この観点から見れば、この30年間で稼働していた12基の原子炉のうち2基を廃棄したに過ぎないのですから、「2010年までに12基の原子炉すべてを廃棄する」という1980年の当初の目標からすれば大幅な後退であることは間違いないでしょう。しかし、忘れてはならないことは、「脱原発」という政治決断により投じられた予算と企業の努力により「省エネルギー」や「熱利用の分野」では大きな成果がありました。特に「熱利用の技術開発の分野」ではスウェーデンはまさに世界の最先端にあります。


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昨年11月29日の講演「スウェーデンの環境・エネルギー政策:原子力問題の捉え方」の動画配信のお知らせ(2011-01-29)

低炭素社会と原発の役割  再び、原発依存を強化する日本 vs 原発依存を抑制するスウェーデン(2009-10-08)



広島平和祈念式典:広島市長の「平和宣言」、総理大臣の「挨拶」、そして、米国債 初の格下げ

2011-08-07 12:43:01 | 原発/エネルギー/資源
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 昨日のブログで「広島原爆の日」の祈念式典で行われた松井一実・広島市長の「平和宣言」と菅総理大臣の「あいさつ」から、原発に関する部分を紹介しましたが、昨日の朝日新聞の夕刊に「市長の平和宣言」と「総理大臣のあいさつ」全文が掲載されていましたので、将来の議論のための資料として保存しておきます。

 広島市長の平和宣言(全文)
 また、東京電力福島第一原子力発電所の事故も起こり、今なお続いている放射線の脅威は被災者をはじめ、多くの人々を不安に陥れ、原子力発電に対する国民の信頼を根底から崩してしまいました。そして、「核と人類は共存できない」との思いから脱原発を主張する人々、あるいは原子力管理の一層の厳格化とともに再生可能エネルギーの活用を訴える人々がいます。日本政府はこのような現状を真摯に受け止め、国民の理解と信頼を得られるように早急にエネルギー政策を見直し、具体的な対応策を講じていくべきです。

 総理大臣のあいさつ(全文)

 そして、わが国のエネルギー政策についても白紙からの見直しを進めていきます。私は原子力については、これまでの安全神話を深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ、原発に依存しない社会をめざして参ります。今回の事故を人類にとっての新たな教訓と受け止め、そこから学んだことを世界の人々や将来の世代に伝えていくこと、それが我々の責務であると考えています。


 そして、もう一つ、昨日の大きなニュースとして「米国債 初の格下げ」というのがありました。


 この記事によりますと、米国は現在、約14.6兆ドル(約1100兆円)の巨額債務抱えており、米政府の債務削減計画が格付けを維持するには不十分だとして、米国の格付け会社「S&P」は1941年に米国債を「AAA」に格付けし、70年間維持してきたのだそうです。その格付けが1段階下がって 「AA+」となったというのですから、大ニュースというわけです。

 この記事の中央に、主要各国の格付け(S&P)という表がありますが、もう少し詳しい資料がないものかとネット上ですこし調べてみました。そして、見つけた第一商品の「Future24 REPORT」によりますと、最上位「AAA」にランクされているのは、英国、ドイツ、フランス、カナダのほかに、オーストラリア、オランダ、シンガポール、スイス、スウェーデン、香港、ルクセンブルクの7カ国あることがわかりました。ちなみに、最近、国際経済記事にしばしば登場するポルトガルは「BBBマイナス」、ギリシャは「CC」でした。

 スウェーデンの格付けは「AAA」で、健全であると判断されているようです。


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再掲 古くて新しい問題 「高校野球」と「原発」

2011-08-06 13:25:53 | 原発/エネルギー/資源
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今日、8月6日は「第93回全国高校野球選手権大会の開幕日」です。そして、被爆66年を迎える「広島原爆の日」でもあります。

 午前8時から始まった「広島平和記念式」で、松井一実・広島市長が読み上げた「平和宣言」の中に、原発について、次のような文言が入っていました。

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 また、東京電力福島第一原子力発電所の事故も起こり、今なお続いている放射線の脅威は被災者をはじめ、多くの人々を不安に陥れ、原子力発電に対する国民の信頼を根底から崩してしまいました。そして、「核と人類は共存できない」との思いから脱原発を主張する人々、あるいは原子力管理の一層の厳格化とともに再生可能エネルギーの活用を訴える人々がいます。日本政府はこのような現状を真摯に受け止め、国民の理解と信頼を得られるように早急にエネルギー政策を見直し、具体的な対応策を講じていくべきです。
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 一方、菅総理大臣の「あいさつ」には、原発について、次のような文言が入っていました。

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 そして、わが国のエネルギー政策についても白紙からの見直しを進めていきます。私は原子力については、これまでの安全神話を深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ、原発に依存しない社会をめざして参ります。今回の事故を人類にとっての新たな教訓と受け止め、そこから学んだことを世界の人々や将来の世代に伝えていくこと、それが我々の責務であると考えています。
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 そこで、今日のブログでは、2007年8月7日および8日に掲載した記事を再掲することにしました。当時よりも今日のほうが「私の20年来の主張」をおわかりいただけるだろうと考えたからです。


 古くて新しい問題 「高校野球」と「原発」 ①  2007年8月7日 

 いよいよ、明日8月8日から甲子園球場で第89回全国高校野球選手権大会が始まります。この時期になると、私がいつも思い出すのは古くて新しい問題である「夏の甲子園 高校野球と原発」という話題です。炎天下の高校球児の大活躍に私たちはテレビに釘つけとなり、電力会社は落ち着かない日々を迎えることになります。

 そこで、今日は「高校野球」と「原発」の話題をお届けします。私の手元に、「徹底討論 地球環境」(福武書店 1992年4月)という本があります。



 この本は環境ジャーナリスト石弘之さん(朝日新聞)、岡島成行さん(読売新聞)、原剛さん(毎日新聞)の3人による「地球環境」について討論を収録したものです。3人とも、現在は大学に籍を移し、活躍しています。この本の中に、私の発言が出てきます。その場面(p218~219)をリライトします。

 日本は問題が起こったときに、それをうまくその場で糊塗していく対処療法はうまいが、構造的に問題の根っこを潰していく価値観と方法論はこれだけ公害殺人を犯しても、なお身についていない。この間あるシンポジウムでスウェーデン大使館の環境・科学担当の小沢さんがスウェーデン社会との比較論でそのことに言い及んだ。日本は夏の電力ピーク時に甲子園で高校野球大会があって電力がもうギリギリにきていると騒ぐ。日本ではだから原発をもうひとつつくろうという話になってしまう。
スウェーデンの解決法は簡単だ。高校野球を9月にやればいいじゃないかって言ったんだ。会場のお客さんが僕の顔をにらんでいるから、違うぞ、夏の全国大会は毎日新聞じゃなくて朝日新聞がやっているんだぞって言ったら大笑いになりましたけれどね。僕んとこは寒いときにやっているんだ。クーラーなんかいらないときに(笑)。

 そうそう。ですからすべて供給の論理、電気がいるから原発をつくるんだっていう論理でしょう。われわれ消費者もこの論理にがっちり組み込まれているわけですよ。

 変えればいいというんですよ。暮らし方、ライフスタイルをね。

 われわれ消費者にも責任がある。生活を変えないままに、必要なものだけを要求する。誰だって電力がこの増加率で供給し続けられるとは思っていない。でも、当面は供給の論理のすべてのツケが環境に回されてくる。ですから、こんなバカげた量的な拡大はもうええじゃないか。「いち抜けた」という、脱落の論理が必要なんですよ。
 電力会社も、エネルギー資源の将来、環境へのツケ回しを考えたら、もうこれ以上電力供給は保障できませんと宣言するしかない。あるいは、欧米の1部の消費者と電力会社が面白い協定を結び始めましたが、「夏のピーク時にはエアコンの使用を自粛する代わりに、電気料金を特別割引する」というようなものがある。あるいは、エアコンを簡単に使えないように多額の税金をかけるなり、エアコン電力特別料金を考えるなり工夫がなさすぎますよ。

岡島 それは必要ですね。

 石油だって有限なんですから、いかに二酸化炭素の効果的吸収法が確立したって資源は着実に減っていくわけです。

岡島 なくなってしまいますね。

 このような状況は15年経った現在でもほとんど変わっていません。2月17日のブログ「経済、エネルギー、環境の関係」 に電力の推移を示す図がありますので、ご覧ください。電力は確実に増加しています。2005年の発受電電力量は過去最高を記録しました。

 夏の甲子園と原発の関係で特に重要なのは、高校野球の会期(今年の場合は8月8日から22日までの15日間)中のそれぞれの日が記録する「最大電力」と「供給力」の関係です。東京電力(株)はこの関係を大変わかりやすい 「TEPCO でんき予報」 で公表しています。この「でんき予報」は高校野球の会期を含めて7月9日(月)~ 9月7日(金)の期間中、予想される電力の需給概況について毎朝情報を提供しています。

 今年は特に、7月16日に起きた新潟県中越沖地震によって東京電力柏崎刈羽原発にかなりの損傷が認められ、原子炉7基がすべて停止していますので、これまでになく電力の送受電には困難が伴うものと思います。



古くて新しい問題 「高校野球」と「原発」②  2007年8月8日

 今日8月8日は、第89回全国高校野球選手権大会の開幕日です。15日間にわたる熱戦が期待されます。

 昨日のブログで、 「夏の電力ピーク時と高校野球」の問題について私が15年以上前に考えていたことを紹介しました。現状を変えずに、電力会社だけでこの問題に対応するのであれば発電設備を増設することになりますが、主催者である日本高校野球連盟と朝日新聞社が社会全体の問題としてこの問題の解決策を考えれば、電力ピーク時を避けて開催することも可能ではないかと考えたのです。

 試みに、1990年から2007年までの18年間の開幕日を調べてみますと、8月6日が3回、8月7日が2回、8月8日が12回、8月10日が1回(1992年)でした。1992年の開幕日が8月10日となったのは、8月8日がバルセロナ・オリンピック閉会日とぶつかったために開幕日を2日遅らせたからなのだそうです。

 ついでに、1970年から今年2007年までの38年間の開幕日と会期を調べてみると、8月6日が3回、8月7日が5回、8月8日が26回、8月9日が2回、8月10日が1回と8月11日がそれぞれ1回ずつでした。このことは「開幕日が8月8日で会期は15日」が原則となっているものと想像できます。

 それでは、来年の第90回大会の開幕日はいつなのでしょうか。次の記事によれば開幕日は2008年8月2日、会期は2日延長して17日だそうです。開幕日を前倒ししたのは北京五輪と開幕日が重なるからだそうです。


 このことは、90年にもおよぶ伝統の「夏の甲子園」も主催者の話し合いで開幕日の変更が可能であることを意味しています。

 昨日と今日、私が敢えて「夏の電力ピークと高校野球」の問題を取り上げたのは、国民に共通する問題については技術による解決だけではなく、制度や仕組みを変更することによって問題を解決できる可能性があることをお伝えしたかったからです。

 すべての資本主義国の中心的課題である「経済成長の必要性」と「地球の有限性」との間には20世紀には想定されていなかった21世紀の大問題「経済活動の適正化」 が存在します。気候変動(日本では地球温暖化)をコントロールするために、「経済成長」を各国間で分かち合わなければならなくなったとき、何よりも重要な手段は「技術」ではなく経済的、政治的にどう対処すべきかということです。

 私たちが直面している地球温暖化をはじめとする地球規模の環境問題は、その国の伝統行事の変更さえ迫るものなのです。