環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

2010年8月掲載のブログ記事

2010-08-31 11:21:43 | 月別記事一覧
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1.2010年8月掲載のブログ記事(2010-08-31)

2.「原爆資料館で見つけた故パルメ首相のメッセージ」と「閣内の環境相の位置づけの重要性」(2010-08-17)


3.22年前にタイムスリップ  「広島の原爆資料館」と「竹原火力発電所」を訪問(2010-08-14)

4.「21世紀型経済の持続性」が現時点でEUで最も高いと判断されたスウェーデン(2010-08-09)

5.朝日新聞の社説:スウェーデン 立ちすくまないヒントに、を読んで(2010-08-01)


 

「原爆資料館で見つけた故パルメ首相のメッセージ」と「閣内の環境相の位置づけの重要性」

2010-08-17 11:15:13 | 政治/行政/地方分権
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8月14日のブログでは、22年前に当時のスウェーデンのエネルギー・環境大臣一行と広島の原爆資料館と竹原火力発電所を訪問した思い出を紹介しました。
そして、8月15日は第65回の終戦記念日でした。


今日はもう一度、思い出を紹介します。

★原爆資料館で見つけた故パルメ首相の色紙

ダール大臣一行と広島の原爆資料館を訪問した翌年、89年4月4日に、私は再び、原爆資料館を訪問しました。そして、その時に見つけたのが次の写真が示すスウェーデンの故パルメ首相の手書きの色紙でした。



No man or woman on earth can be ? ? (文字が判読不明) on the name of Hiroshima. This must never happen again.
世界の人々は、ヒロシマの名において決して過ちを犯してはならない。このことが決して再び起こってはならない。

Olof Palme
December 8 1981
軍縮と安全保障に関する独立委員会委員長      
オロフ・パルメ氏
昭和56年12月8日来館

写真を撮り損ねたのですが、近くに飾られていた中曽根康弘氏の色紙は私のアルバムのメモによりますと肩書きと名前、つまり「内閣総理大臣 中曽根康弘」とだけだったと書いてありました。

余談ですが、故パルメ首相がヒロシマを訪れたおよそ10年前、1972年6月に「第1回国連人間環境会議」がスウェーデンの首都ストックホルムで開催されました。そのときの新聞記事にスウェーデンの「戦争と環境問題に対する基本認識」の一端を垣間見ることができます。



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社会的な合意形成 ⑤ 環境問題解決の鍵:科学と政治()2007-03-04)

社会的な合意形成 ⑥ 科学者と政治家の役割(2007-03-05) 

再び「科学者」と「政治家」の役割(2007-11-29)


★1990年1月9日の内閣の改造

次の図は、スウェーデンの環境・エネルギー大臣一行がヒロシマを訪問した8ヶ月後に行われた内閣改造の一端を示したものです。


故パルメ首相を引き継いだカールソン首相は、当時スウェーデンが直面していた諸問題に対処するため、内閣の中に全体を統括する「特別グループ」と具体的な問題に取り組む「3つのグループ」を設置し、各閣僚をそれぞれのグループに配置しました。このグループの配置に当時の首相の「環境問題に対する基本認識」が見てとれます。特別グループと3つのグループのすべてにエントリーされているのが「環境相」です。

この内閣改造に伴って、来日中は「環境・エネルギー相」であったビルギッタ・ダールさんは内閣改造後に「環境相」となりました。スウェーデンが直面していた諸問題の対処に設置されたすべてのグループに環境相がかかわっていることに注目して下さい。「日本の環境相の閣内での位置づけの重要性」と「スウェーデンの環境相のそれ」との間には大きな落差があることがわかります。この落差は「環境問題に対する基本認識」の相違に基づくものだと思います。

この内閣改造が1990年、つまり20年前だったことが重要です。20年後の今なお、そして、政権交代がなされても、日本では「強固な縦割り行政」が“継続(持続)し”、問題の解決を妨げています。気候変動への対応のような具体例でも、日本の環境省と経済産業省の間には協力関係が成り立っているようには見えません。  

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今なお低い日本の政治家の「環境問題に対する意識」(2007-09-28)



22年前にタイムスリップ  「広島の原爆資料館」と「竹原火力発電所」を訪問

2010-08-14 22:22:53 | 原発/エネルギー/資源
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広島被曝65年、広島は8月6日、被曝から65年の「原爆の日」を迎えました。平和記念公園で行われた「原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式」(平和記念式)には、潘基文・国連事務総長、米国政府代表としてルース駐日大使、英仏両国からは臨時大使がいずれも初めて参列したそうです。                          
一方、長崎は9日、65回目の65回目の「原爆の日」を迎え、平和公園では長崎市主催の「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が開かれました。こちらの式典には英仏両国が初めて政府代表を送りましたが、米国の駐日大使は参列しなかったとのことです。

これらの一連の報道や関連の特集番組を見た後、私は20年以上前に、スウェーデンのエネルギー・環境大臣一行に随行して、広島を訪問したことを思い出しました。さっそくアルバムを取り出して、確認してみました。今日は当時へタイムスリップします。

1988年4月12日から18日まで、ビルギッタ・ダール環境エネルギー大臣一行が日本を訪問しました。4月16日の午前中に広島平和記念公園内にある原爆資料館を訪問し、当時の川本義隆館長から説明を受けました。






午後は、当時の日本の石炭火力の分野で最先端技術を誇っていた電源開発株式会社(現在のJ-POWER)の竹原石炭火力発電所を訪問しました。写真は当時完成したばかりの貯炭施設です。



この訪問期間中に、ダール大臣はいくつかの日本のメディアのインタビューを受けました。
その中から讀賣新聞、朝日新聞および毎日新聞のインタビュー記事を紹介します。今年2010年を最終期限とした 「当時のスウェーデン政府の脱原発政策」の一端を垣間見ることができるでしょう。

讀賣新聞 1988年4月19日の記事

朝日新聞 1988年4月19日の記事

毎日新聞 1988年4月19日の記事 


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判断基準の相違②: 「将来の電源」としての原発(2009-08-12)

2008年の温室効果ガス排出量:スウェーデンは90年比11.7%減、日本は7.4%増(CO2)+α(2009-12-19)



「21世紀型経済の持続性」が現時点でEU内で最も高いと判断されたスウェーデン

2010-08-09 20:02:07 | 持続可能な開発・社会/バックキャスト
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8月1日の朝日新聞の社説の「菅直人首相が、スウェーデンの名をよく口にする。目標に掲げる『強い経済、強い財政、強い社会保障』を実現した国としてだ。この北欧の国は、日本のモデルになるのだろうか」という問いかけに対する、私の個人的な回答は「21世紀に日本が進むべき方向を知るモデルになり得る」というものでした。


その1週間後の8月7日付けの日本経済新聞は、欧州の独立系シンクタンク「欧州政策センター(EPC)」が今年6月16日に公表したEU加盟27カ国の「中長期的な経済持続可能性」のランキングを、次のように報じています。


この記事の出典は「European Economic Sustainability Index June 2010 By Fabian Zuleeg」で、EU加盟27カ国のランキングと判定は次のとおりです。


この調査に用いられた6つの分野の判断基準は「20世紀型経済の持続可能性」を検証する判断基準であっても、「21世紀型経済の持続可能性」を検証する判断基準ではありません。ですから、今日は、この調査の判定結果をもうすこし広く、私の専門分野である「資源・エネルギー・環境の視点」を加味して、「21世紀型経済の持続可能性」を考えてみましょう。「私の環境論」では、2010年1月18日のブログで書きましたように「経済活動と環境問題の関係」を次のように考えています。

端的に言えば、環境問題は経済活動の「目的外の結果」の蓄積である。つまり、現在私たちが直面している「地球規模の環境問題」の主因は、人間の意志でコントロールできない自然現象を除けば、人為的な経済活動(企業による生産・流通・販売活動および消費者による消費活動)である。

これが「私の環境論」の基本認識の一つで、多くの日本の環境問題の学者や専門家、政策担当者、環境NPO、そして、企業人との認識と表現方法を異にする点なのです。
 

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この10年、ほとんどかわらなかった「環境問題」に対する大学生の基本認識(2010-01-14)

この10年、ほとんど変わらなかった「環境問題」に対する行政の基本認識(2010-01-15)

この10年、ほとんど変わらなかった「環境問題」に対する企業の基本認識(2010-01-16)

この10年、ほとんど変わらなかった「環境問題」に対する一般市民の基本認識(2010-01-17)

「私の環境論」、後期13回の講義を受けると、90%の大学生の考えがこう変わった!(2010-02-08)



欧州政策センター(EPC)の評価は、その判断基準(6分野のデータから算出した指数)に環境問題への視点をまったく考慮に入れていない国際エコノミストの「中長期的な経済持続可能性」に対する評価結果です。この評価結果に、私のブログですでに紹介した次のような環境分野の評価を加えてみます。

★緑の福祉国家2 なぜスウェーデンに注目するのか:国家の持続可能性ランキング1位はスウェーデン(2007-01-12)

★混迷する日本⑬ ダボス会議から 国別環境対策ランキング スウェーデン 2位、日本 21位(2008-01―27)

★温暖化対策実行ランキング:スウェーデン 1位、日本 42位(2007-12-09)


こうすることによって、「経済の中長期的な持続性」および「環境問題への対応」の両分野から見て、スウェーデンがEU加盟27カ国の中で「経済と環境」のバランスが最もよくとれている国であり、 「21世紀型経済の持続可能性」ランキングでもトップにランクされることは明らかでしょう。米国や日本、それに中国やインドに代表される新興国やそれに続く途上国と比べても、その優位性はかわらないでしょう。

このことは8月1日のブログにも掲載した次の図が示す「経済成長」と「CO2排出量」のデカップリングが何よりの裏付けといえるでしょう。左の図は日本の場合ですが、京都議定書の基準年である1990年以降両者の関係は見事なまでのカップリングを示しています。このことは景気回復のために高い経済成長(GDPの成長)を設定すれば、CO2排出量も増加する可能性があることを示唆しています。




次の図は京都議定書の基準年である1990年から2008年までのスウェーデンの温室効果ガスの排出量の推移を示しています。2008年、スウェーデンは6400万トンの温室効果ガスを排出しました。これは、2007年に比べて220万トンの削減で、1990年比11.7%の削減となります。ちなみに、スウェーデンの国民1人当たりの温室効果ガスの排出量はOECD加盟国の中で最も少ない状況にあります。



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希望の船出から11年-経済も、福祉も、環境も・・・・・


これまでに、何回もくり返して来ましたように、「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)には「社会的側面」、「経済的側面」および「環境的側面」の3つの側面があります。今日のブログでは、緑の福祉国家の「経済的側面と環境的側面のかかわり」を検証しました。

21世紀前半のビジョンとして、「緑の福祉国家」を掲げたスウェーデンは、2008年9月のリーマンショックからも早急に回復し、その目標年次である2020~2025年をめざして今のところ比較的順調に歩を進めているように見えます。


朝日新聞の社説:スウェーデン 立ちすくまないヒントに、を読んで

2010-08-01 17:20:05 | 政治/行政/地方分権
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「菅直人首相が、スウェーデンの名をよく口にする。目標に掲げる『強い経済、強い財政、強い社会保障』を実現した国としてだ。この北欧の国は、日本のモデルになるのだろうか」という書き出しで始まる今朝(8月1日)の朝日新聞の社説「スウェーデン 立ちすくまないヒントに」を読みました。

発行部数およそ800万部と言われている大新聞が、社説のテーマとして、人口930万人の小国「スウェーデン」をこの時機に取り上げたのはタイムリーだと思います。内容的にも特に違和感はありませんが、 「理想郷」という言葉が2回も出てきたのには少々驚きました。社説の筆者はほんとうにスウェーデンを「理想郷」と考えていたのでしょうか。この発想は20世紀の考えをかなり引きずっているように思います。そのように考えると、1980年代末までの多くの論調がそうであったように、「理想郷」の裏だとか、「理想郷」の光と影というような論調が必ず出てきます。現に、10日前の朝日新聞の「声」の欄に「スウェーデンは理想郷ではない」と題する投書が掲載されました。

80年代に入ってスウェーデン社会は徐々に変質し、特に1995年のEU加盟後は、スウェーデンは欧州の「特殊な国」から「小国ではあるが、無視できない“普通の国”」に変身してきました。欧州の「無視できない普通の国」という視点で、スウェーデンの様々な状況を分析すれば、今まで見逃してきた「新しいスウェーデン」を見ることができるでしょうし、その中に日本社会の改善のヒントになることを多く発見することになるでしょう。社説の執筆者のお考えの中で、まったく異論はなく、私もその通りだと思うのは、次の2点です。

●スウェーデンから学ぶべきは、高福祉高負担の仕組みそのもの以上に、難しい政策選択を可能にする政治のあり方ではないだろうか。

●人口1千万弱の国の高福祉高負担を日本にそのまま持ち込むのは難しいかもしれない。だが、政治への信頼感確保のいくつかのヒントなら、スウェーデンにある。

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つい最近のことですが、北岡孝義さんという方の『スウェーデンはなぜ強いのか 国家と企業の戦略を探る』(PHP新書681 2010年8月3日 第1版第1刷)という魅力的なタイトルの本に出会い、読んでみました。北岡さんは、この最新著の「終章 スウェーデンから何を学ぶか」を次のように結んでいます。


朝日新聞の社説は市場経済社会が直面する21世紀最大の問題である「環境・エネルギー問題」への対応にまったく触れていませんし、北岡さんの著書もこの点にはほとんど触れておりません。

北岡さんの記述(上の赤網をかけた部分)を証明しているのが次の図です。96年にスウェーデンが掲げた「緑の福祉国家への転換政策」の進捗状況の一端を示しています。過去36年間の日本とスウェーデンの「GDPとCO2の排出量の推移の関係」は、日本が見事なまでのカップリング(相関性)を示しているのに対して、スウェーデンの「経済成長(GDP成長)と温室効果ガス(GHG)の排出量の関係」は97年以降、見事なデカップリング(相関性の分離)を示しています。

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2008年の温室効果ガス排出量:スウェーデンは90年比11.7%減、日本は7.4%増(CO2)+α(2009-12-19)

 「希望の船出」から11年、経済も、福祉も、環境も


私のこのブログのタイトルは、「経済」「福祉(社会)」「環境」、不安の根っこは同じだ! 、「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだですから、「政治への信頼感の確保」という点では、お二人と共通しています。

そこで、日本とスウェーデンの現在と将来に対する私の考えをまとめておきます。私は日本の多くの識者がまったくと言ってよいほどフォローしてこなかったスウェーデンの「環境問題・エネルギー問題に対する考え方」や「その政策」を1973年の「第1回国連人間環境会議」(スウェーデンの首都ストックホルムで開催)以来、およそ40年にわたって日本と同時進行でフォローしてきました。両国の間には、21世紀最大の問題であるはずの「環境問題に対する認識や行動」に20年以上の開きがあるといっても過言ではないでしょう。


次の図は、私の環境論から見たスウェーデンと日本の環境問題の社会的な位置づけの相違を示したものです。

スウェーデンは環境問題を、人間社会を支えている「自然」に生じた大問題(図の右下)と考えてきました。ですから、人間を大切にする「福祉国家」のままでは、環境問題には耐えられないことに気づいたのです。そこで、人間を大切にする「福祉国家」を、人間と環境の両方を大切にする「緑の福祉国家」へ転換していこうとしています。
 
一方、日本では、環境問題は人間社会に起こる数多くの困った問題の一つとして理解されてきたので、つねに環境問題よりも「図の左中に例示した社会・経済問題」のほうが優先されてきました。スウェーデンでは、ここに例示した日本の経済・社会問題はほとんど問題にならないか、すでに解決ずみといってよいでしょう。両国は「あべこべの国」だからです。


次の図はスウェーデンと日本の「21世紀前半社会のビジョン」の相違を示したものです。

1996年9月にスウェーデンは、20世紀の「福祉国家」を21世紀の「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)へ転換していく壮大なビジョンを掲げました。スウェーデンの「緑の福祉国家」には

 ①「社会的側面」 ②「経済的側面」 ③「環境的側面」

の3つの側面があります。スウェーデンは福祉国家を実現したことによって、これら3つの側面のうち、「社会的側面」と「経済的側面」はすでに満たしているといってよいでしょう。しかし、今後も時代の変化に合わせて、これまでの社会的・経済的な制度の統廃合、新設などの、さらなる制度変革が必要になることはいうまでもありません。>朝日新聞の社説も、北岡さんのご著書も、私の考え方からすると主として「緑の福祉国家」の社会的・経済的側面をフォローしたものです。

残されたもう一つの環境的側面については、この分野で世界の最先端を行くスウェーデンもまだ十分ではありません。20世紀後半に表面化した環境問題が、福祉国家の持続性を阻むからです。そこで、21世紀前半のビジョンである「緑の福祉国家の実現」には、環境的側面に政治的力点が置かれることになります。

日本のビジョンは小泉政権以前も、そして小泉政権を引き継いだ安倍政権、福田政権、麻生政権も「持続的な経済成長」を掲げ、昨年の民主党による政権交代後もこの流れは変わっていません。

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そして、次の図は、朝日の社説の冒頭に書かれている「この北欧の国は、日本のモデルになるのだろうか」という問いかけに対する「私の個人的な回答」です。この見解は「私の環境論」に基づくものです。


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スウェーデンと日本は、一見対極にあるように見えますが、それは「20世紀後半の現実社会」への対応の相違によるものです。60年代に表面化した「高齢化の急激な波」がスウェーデンの「高齢者福祉」を進展させ、世界が注目する「新公的年金制度」を生みだし、80年代に表面化した「地球規模の環境問題」が20世紀の「福祉国家」を21世紀の「緑の福祉国家」への転換を決めたのです。一方、日本はこの間、難しいことはほとんど先延ばしにしてきました。このことは10月1日に行われた菅首相の「所信表明演説」の「はじめに」 で明らかにされています。