環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

2009年2月および3月のブログ掲載記事

2009-03-31 11:27:28 | 月別記事一覧
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3月のブログ掲載記事

1.2009年2月および3月のブログ掲載記事(2009-03-31)

2009年 IT活用度ランキング:スウェーデン2位、日本17位(2008-03-28)

2.代替フロン(HFC)で新たな問題が発生(2009-03-26)

3.巨大構造物が抱える大問題 都庁舎 780億円大改修(2009-03-25) 

4.アクアライン通行料の値下げは、環境負荷を増大する(2009-03-24) 

5.「エコノミストはもともと将来を予測できない」とエコノミストは言う(2009-03-23)

6.私の疑問に初めて正面から答えた経済学者、中谷さんの最新著「なぜ資本主義は自壊したのか」(2009-03-22)   
 

7.またしてもミスリードをしかねない「スウェーデンの脱原発政策転換」という日本の報道(2009-03-21)

8.斉藤環境大臣が今回の「業界の意見広告」を批判、過去には怪しげな密約や根回しも(20009-03-19)

9.日本は世界トップレベルの低炭素社会? 産業界の判断基準が明らかにされた「意見広告」(2009-03-17)

10.3月15日のトークショー「ぶんぶん通信 NO.1」(2009-03-16) 


2月のブログ掲載記事

1.3月15日(日)の2つの催しもの(2009-02-25) 

2.15年前のウォーラーステインの主張がいよいよ現実に!(2009-02-01)     

2009年 IT活用度ランキング:スウェーデン2位、日本17位

2009-03-28 17:12:12 | IT(情報技術)
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ダボス会議で知られる世界経済フォーラム(WEF)は2009年3月26日、今年で8回目となるIT活用度のランキングの2009年版の調査報告「The Global Information Technology Report 2008-2009」を発表しました。毎日新聞は次のように報じています。



報告書によりますと、トップ10は次のとおりで、北欧5カ国がすべてランクインしています。

1  デンマーク    5.85   
2  スウェーデン   5.84
3  米国       5.68
4  シンガポール   5.67
5  スイス      5.58
6  フィンランド   5.53
7  アイスランド   5.50
8  ノルウェー    5.49
9  オランダ     5.48
10 カナダ      5.41

ちなみに、昨年2008年4月9日に発表された7回目の調査報告では、デンマークが1位、スウェーデン2位、スイス3位、米国4位、韓国9位、日本は19位でした。 

関連記事

IT活用世界ランキング スウェーデン2位、日本14位(2007-03-30)

代替フロン(HFC)で新たな問題が発生

2009-03-26 17:29:33 | 温暖化/オゾン層
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今日は、オゾン層保護の目的で開発された代替フロン(HFC)の大気への漏出が見積もりより多く、日本の温室効果ガスの総排出量を過去に遡って修正し、修正地値を国連気候変動枠組み条約事務局に報告することになった、というニュースを取り上げます。

次の記事をご覧ください。



代替フロン(HFC)はオゾン層破壊物質ではありませんが、強力な温室効果ガスとして知られています。欧州では、2010年までに排出予測量の約1/4に削減する規制があります。

日本では 「フロン回収破壊法」が2002年10月から施行されました。この法律では「特定フロン」と「代替フロン」の使用後の処理が義務付けられていましたが、その対象はカーエアコン、業務用冷蔵庫および空調機にかぎられていました。

●代替フロン放出野放し パソコン用スプレー

平成19年10月1日から「改正フロン回収破壊法」が施行されましたが、パソコン用スプレーはこの法律の対象外です。現在は平成12年(2000年)5月24日成立、平成13年4月1日施行の「グリーン購入法」には同法適合品というカテゴリーがあり、パソコン用スプレーはこのカテゴリーである程度制限されています。

関連記事

緑の福祉国家18 オゾン層の保護への対応①(2007-02-05)

緑の福祉国家19 オゾン層の保護への対応②(2007-02-06)



巨大構造物が抱える大問題  都庁舎 780億円大改修

2009-03-25 18:28:21 | 巨大構造物/都市/住環境
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私が20年前より懸念していた「日本の都市再開発への疑問」がいよいよ現実の大問題となってきました。次の記事をご覧ください。


現在の都庁舎は世界的に有名な建築家、故丹下健三さんの作品です。私が以前から疑問に思っているのは、著名な建築家は一般に建物を設計するのには熱心なのですが、建設された構造物を維持することにはあまり関心がないようです。

●大型施設 維持費もズシリ

●自治体庁舎 どうしてそんなに高くなるの? 維持費は膨大

また、その構造物の建設時や使用時、ましてやその廃棄時にもたらされる環境問題に対してもあまり意識していないように思われます。

●新都庁舎にアスベスト材

企業にとって先行投資は、競争力を確保するために、そして何よりも企業の存続のために、経営上最も重要な意思決定です。目先の判断で誤った方向に先行投資すると、企業経営上致命的なダメージを招くことになるでしょう。
 
●「今日の決断」と「将来の問題」

今日の決断が将来を原則的に決める(2007-04-04)

1993年7月に開業し、2002年9月に閉鎖された屋内スキー場「ザウス」(千葉県船橋市)、94年に全面開業し、2001年2月に倒産した「シーガイア」(宮崎県宮崎市)、92年3月開園し、2003年2月に事実上倒産した「ハウステンボス」(長崎県西彼町=現西海市)に代表されるようなテーマパークは、マスメディアでは、通常、経済的な視点(金の流れ)からしか論じられません。

しかし、巨大構造物は事業者にとっては先行投資による莫大な借金を、金融機関にとっては不良債権を、そして、環境にとっては多大な負荷を生じていることは疑問の余地がありません。全国の大都市につくられたドーム型の多目的施設、都庁をはじめとする自治体の高層庁舎、関空、本州四国連絡橋、東京湾アクアラインなどもその例外ではありません。
 
多くの場合、事業の決定者は後年、その責任を問われることはありません。構造物の経済的寿命は長く、事業決定の最高責任者は通常、高齢者であることが多いので、問題が生じたときには他界していることが少なくないからです。
 
このことについては、私の本『21世紀も人間は動物である 持続可能な社会への挑戦 日本vsスウェーデン』(新評論、1996年7月)でも指摘しましたが、2005年になって「無駄な公共事業の具体的事例」として関西経済圏の巨大構造物がマスメディアで批判されはじめました。

●関空離陸、湾岸開発促す 

それでは、2003年に完成した東京駅周辺、汐留、品川駅周辺、六本木周辺の高層ビルなどはどうなるのでしょうか。これらの巨大構造物は少子・高齢化などの将来の社会状況の変化とは無関係に存在しつづけます。
 
●これが汐留15万人都市

こうした建造物の経済的寿命は40~50年あるいはそれ以上ですから、事故が起こったり、エネルギー(とくに電力)不足になったり、あるいは意図的に廃止されないかぎりは、2050年あるいはそれ以降も稼働しつづけ、その間、それらの機能を維持するために大量の資源・エネルギー、水の供給を要求し、環境負荷を与えつづけることになります。そして、最後は廃棄物化します。次の図は私が20年前から抱き続けてきた「巨大構造物に対する懸念」をまとめたものです。
 

●巨大構造物の将来 その具体例を軍艦島にみる

●軍艦島 風化する20世紀建築の「祖型」


2000年末に、ヒートアイランド現象に歯止めをかけるため、東京都は、「東京都自然保護条例」を改正して、都内で新規着工するビルの屋上緑化を義務づけることを決め、屋上を緑化するビルに対しては容積率をアップする「ボーナス」を決めたという報道がありました。また、2003年1月11日付の朝日新聞に掲載された全面広告「新春座談会 人と資産の都心回帰」では建築家の故黒川紀章さんが「たとえば屋上に緑を植えた場合、容積率を上乗せするとか、インセンティブが必要」などと発言しています。
 
これらの決定や発言は「ヒートアイランド現象に歯止めをかける」という本来の目的と、その目的を達成する一つの手段と考えられる「屋上緑化」が意図的に逆転させられていて、「屋上緑化の推進」が目的化してしまっています。

これまでの日本は、目先のコストはたいへん気にするが、社会全体のコストにはあまり関心がなかったようです。これから2030年ごろにかけて、巨大構造物(老朽化した原発の立て替え、あるいはその廃棄処分を含めて)から次々に発生する膨大な社会コストに、日本は追い立てられることになると思います。


関連記事

年度末に当たって、改めて「日本の都市再開発への疑問」(2008-03-27)
 
            

アクアラインの通行料値下げは、環境負荷を増大する

2009-03-24 20:48:40 | 温暖化/オゾン層
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麻生政権の景気回復対策が小さな一歩を踏み出しました。次の記事をご覧ください。


●高速値下げ「特需を逃がすな」、ETC好調、企画練る観光地

およそ510兆円ほどまでに膨張した日本のGDPを「持続的経済成長」のためにさらに拡大するには、その構成要素である政府の支出(公共事業)、企業の設備投資、貿易、民間住宅投資、そしてなんといってもGDPのおよそ60%を占める個人消費を拡大する必要があります。政府の支出、企業の設備投資、貿易、民間住宅投資は限界にぶつかっているので、「景気回復には個人消費の拡大」しかない、というのがエコノミストや評論家の多くの一致した主張となっているようです。したがって、個人消費の拡大のためのさまざまな提案がなされています。
 
たとえば、「景気回復のために国民の消費行動を活発化するには、本州四国連絡橋や東京湾アクアラインの交通料金を無料にしろ、そうすれば、消費活動は活発になる」という類の提案をする人がいます。この提案がまずは上記の記事のように現実になったのです。
 
この種の提案は、景気回復のために「個人消費を拡大する」という1点では有効ですが、それに必然的にともなう資源・エネルギー・環境問題はまったく考慮されていませんので、環境負荷を増やすことは間違いないでしょう。

このブログでもこれまでに何度も述べてきたように、環境問題が現代の大量生産・大量消費・大量廃棄の生活によって引き起こされていることは明らかだからです。そして、大量消費を推し進めているのは、大量生産をしている企業であり、それらの製品を消費している消費者であることも明らかです。
 
今日の市場経済社会では、商品やサービスを組織的・計画的に運営し、販売しているのは企業で、消費者は市場にあふれる商品やサービス群のなかから、個人の必要や要求に基づき、商品やサービスを選択し、購入しているにすぎません。企業は徹底的な市場調査を行ない、消費者の形にあらわれていない欲望まで見つけ出し、それを商品化(ちょっと言いすぎかもしれませんが、自動車ナビやETCなど)しています。このように、先進工業国では、企業(製造業、サービス業など)が環境問題に最も大きな役割を演じていることは明らかです。

次の図をご覧ください。皆さんにもお馴染み「家庭でできる10の温暖化対策」で、私が常々「ほとんど実効性がない。日本の温暖化対策をミスリードする」と主張してきたものです。今日のテーマは「できるところから始める」というあまりにナイーブな市民の「エコ」の努力を一瞬にして無効にしてしまうでしょう。


今回の政府の決断は、「家庭のエコ」がいかに無力であり、景気回復のための「有料道路の通行料無料化」という20世紀型発想が環境負荷を高めることを知るよいきっかけとなるでしょう。この決断がたとえ初期の目的である「景気回復」に有意に貢献したとしても環境負荷は高まりますし、まったく景気回復に貢献しなかったとしても、環境負荷は高まるのです。スウェーデンの経験からすれば、運輸部門のCO2の削減は現行の化石燃料で動いている車両を中心とする交通システムではきわめて困難なのです。

それにしても、この国の政治家、政策担当者、中央・地方行政そして市民の「温暖化に対する認識」は一体どうなっているのでしょう。世界第2位の経済大国で、「環境立国の実現」を標榜している日本のこの現状はあきれるばかりです。

このことは国の対策に整合性がなく、その場しのぎの対策しかないことを示しています。これでは、これから策定しようとしている「日本版グリーン・ニューディール」の実現性も危ぶまれそうです。


                 

「エコノミストはもともと将来を予測できない」、とエコノミストが言う

2009-03-23 10:51:17 | 経済
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昨日のブログで、中谷 巌さんの「資本主義はなぜ自壊したのか」を取り上げました。これを書きながら思い出したのが、日本の経済界・経済学界の「認識」とエコノミストへの「妄信的な過度の期待」でした。今日はおよそ10年前の2つのエピソードを紹介しましょう。

最初は2000年10月、若井和憲さん(岐阜大学工学部教授)からいただいた電子メールです。そこに書かれていたことは工学部の教授と経済学を専攻する大学院生の対話です。私には日本の根本的な問題点を示唆しているように思えますし、また、若井さんのご了解も得ておりますので、ここでも掲載します。

―――――――――― 
数年前、文系でトップクラスの国立大の経済学専攻の博士課程の学生が、新しいエネルギー資源について私の研究室のホームページに、質問をしてきました。彼に「経済学者は持続的発展をとめて日本はどこまで経済活動を縮退させても持ちこたえられるか」という方向の研究をし、日本・世界の将来を見通すようにしなくてはいけないのではないか、それができるのは経済界ではなく経済学者ではないか、それができなければ経済学者の意味がないのではないか、と逆に質問しました。

その彼の答えは、「確かにそう思う。だが、経済学界では持続的発展を背景にした理論展開をしなければ、誰からもつまはじきにされる。自分も教授がそういう立場でしか認めないので、博士論文はそういうことで準備している。持続的発展を切り捨てる立場は、就職にジャーナリストを選ぶつもりだが、その後の活動でやっていきたい」とのことでした。

アメリカおよびそれに追従する日本は、すべての生産活動がフル加速の状態で進んでおり、止まることができない。つまりアクセルを緩めて定速走行になれない。日本は、フル加速を続けるために次々と新製品を生みだし、古い製品をごみにする資源輸入国だから、どうしても付加価値をつけてそういう生産を続ける構造になってしまっているというのが私の考えで、それをとめる方向を経済学者は見いださないかぎり、経済学者の責任は果たせないという次第です。破綻あるのみと。経済学は数学だということも言われているのですから、このまま発展すれば、ネズミ講と同じことだということは知っているはずですね。
――――――――――――

私も若井さんのお考えに同感です。昨日のブログ「私の疑問に初めて正面から答えた経済学者 中谷巌さんの最新著『資本主義はなぜ自壊したのか』」を読んでいただいた後、お読みいただくとことの本質がおわかりいただけると思います。

この大学院生は中谷さんが教授をされていた大学の院生でしたから、当時の中谷さんの影響を強く受けたことでしょう。彼は当時の状況下で「博士論文」を書き、その後、希望のジャーナリストとなって、現在、「持続的発展」を切り捨てる活動を続けているのでしょうか。お目にかかる機会があれば、ぜひ、お話をしてみたいと思います。

この機会にもう一つ、ぜひとも追加しておきたいことがあります。それはマスメディアから日常の経済動向について発言を求められる機会が多い「エコノミスト」と称される専門家のグループについてです

10年前のことでいささか古い話ですが、当時テレビ番組にも登場していたメリルリンチ証券チーフエコノミストのイェスパー・コールさんが、「論争 東洋経済」(1999年11月号)で、 「エコノミスト」の定義を次のようにあざやかに述べていました。日頃、マスメディアを通じて提供される「エコノミストの議論」に疑問を抱いてきた私にはまさに目からウロコが落ちるような感がありましたし、「10年経った今でもまったく新鮮だ」と思える発言です。

―――――――――
エコノミストが将来を予測できるという思い込は、20世紀末における最大の神話の一つといってよい。 (中略)  しかしこれだけは肝に銘じておこう。
 
昨日の予想がなぜはずれたかを、明日説明できる者――これがエコノミストの正確な定義である。エコノミストは、一国の経済動向や成長の原因を後から検証することはできる。しかし、何が景気回復や富の拡大の引き金になるか予測することは、彼らにとってもともと不可能なことである。
――――――――――

イェスパー・コール 『金融社会主義の終焉は間近』 p165~172の最初のページ

この定義は彼の論文の冒頭に出てきます。私は、イェスパー・コールさんの「エコノミスト」に対する定義は今でも正しいと思います。しかし、これに続く彼の論文の内容はどうでしょうか。2008年9月から現在までの世界の、そして日本の経済状況を見ますと、まさにこの定義通り、つまり、彼の論文は「エコノミストには将来を予測できない」という彼の仮説をみごとに証明してみせたのです。

「エコノミスト」の定義で始まった彼の論文の内容は10年後の今改めて読み直してみると、私には10年後の世界の現状を、そして日本の現状をまったく示唆していなかったように思います。


彼が属していたメリルリンチ証券は、今、世界同時金融危機の嵐の真っただ中にあります。かれらはこれから数年の世界の経済状況をどのように考えているのでしょうか。その予想が当たるかどうかは期待しませんが、どのようなメッセージを日本社会に発しているのか、聞いてみたい気はします。

ちなみに、今日閲覧したウィキペディアには、次のように書かれていました。

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メリルリンチ(Merrill Lynch & Co., Inc.)とは元米国三大投資銀行の一つで、国際的に幅広く展開をしていた金融機関であった。銀行業を始めとし、世界37カ国・地域に展開していた。現在ではバンク・オブ・アメリカに吸収されている。2008年9月15日、バンク・オブ・アメリカに1株29ドル、総額500億ドルで買収されると発表。2009年1月1日、バンク・オブ・アメリカによる買収が完了した。
----------


さて、今日の結論です。今日は『論争 東洋経済』(1999年11月号)に目から鱗の「エコノミストの定義」を書いて下さった、当時のメリルリンチ証券チーフエコノミストのイェスパー・コールさんをご紹介しました。先日、この定義を一層明らかにしてくれる“名言:経済学者が10人集まると11通りの処方箋があるを雑誌『週刊エコノミスト』(2009年2月3日号)に見つけましたので、ご覧ください。これでは、エコノミストが将来を予測できないのは当然すぎるほど当然ではありませんか。この神話は21世紀の今、2010年にもまだ生き続けているように思います。




私の疑問に初めて正面から答えた経済学者、中谷巌さんの最新著「資本主義はなぜ自壊したのか」

2009-03-22 17:39:53 | 経済
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2008年9月以降、経済関係の週刊誌には、世界や日本経済・金融危機に関する特集記事がこれでも、これでもかと掲載され、ますます読者を不安にさらしています。また、21世紀の日本経済や科学技術を論ずる雑誌や書物も溢れています。これらの著者の多くは評論家あり、自然科学系あるいは社会科学系の大学教授あり、エコノミストあり、ジャーナリストありと多彩ではありますが、これらの著者に共通していることは、工業化社会の経済の将来を左右する最も重要な要因である「資源・エネルギー問題」や「環境問題」の視点がまったくといってよいほど、欠落していることです。このことは、今なお経済学の基本的な枠組みが生産の基本的要素として 「資本」、「労働」および「土地」あるいは「技術」を掲げていることからも明らかです。

21世紀の経済や技術を論ずる経済学者やエコノミストの議論もこの枠組みを超えるものではありません。大学で講じられている経営学は企業や組織を学問の対象とし、「戦略論」「組織風土論」、「知識創造論」、「リーダーシップ論」、「ゲーム論」などを展開してきましたが、いまなお、企業活動に必然的に伴う「資源・エネルギー・環境問題」に十分踏み込んでいません。

経済関係の書物でも、特に、将来の経済の方向性を議論しているもの、具体的には「21世紀」を冠した書物で、 「資源・エネルギー問題や環境問題」に基礎を置いてない経済議論は絵に書いた餅のようなもので、バーチャル・リアリティの世界です。書物だけではありません。テレビの討論番組も、著名なエコノミストや一流経営コンサルタントによる経済に関する高価な有料セミナーも・・・・・・

★20年来の疑問に、ついにまともな答えが見つかった

何はともあれ、まずは次の図をご覧ください。
 
私が長らく日本の主流の経済学者に求めていた疑問  「経済成長はいつまで持続可能なのか」に対する答えがこれです。まさか、あの中谷さんからこの答えをいただくとは夢にも思いませんでした。さらに次のような記述があります。

●なぜ資本主義は環境を破壊するのか①

●なぜ資本主義は環境を破壊するのか②
 

中谷さんは、私がこの20年間、私の著書で、雑誌で、講演会で、そして、このブログで問い続けてきた「経済」と「環境」の関係について、疑問の余地がないほど、はっきりとお書きになっておられます。けれども、それは文字面だけのことです。本文に環境問題に対する本質的な議論がなく、中谷さんのご著書の「まえがき」に登場する識者のうち日常的に環境問題を論じておられるのは安田喜憲さんと末吉竹二郎さんのお二人だけで、安田さんは考古学者でご専攻が環境考古学です末吉さんは国連環境計画(UNEP)の特別顧問で環境問題と金融の関係で積極的に発言されておられますが、議論の範囲が限られています。

関連記事

私の環境論14 環境問題は経済の「目的外の結果の蓄積」(2007-01-24)

私の環境論 「経済危機と環境問題」①岩井克人・東大経済学部教授(2008-10-17)

私の環境論 「経済危機と環境問題」②行天豊雄・元大蔵省財務官(2008-10-18)

私の環境論 「経済危機と環境問題」のとりあえずのまとめ(2008-11-29)

★「パラダイムの転換」とはいうけれど

私の「スウェーデンに学ぶ持続可能な社会」(朝日選書792)の「第5章 経済成長はいつまで持続可能なのか」(p137~162)の最初の節を紹介します。中谷さんの基本認識を意識しながら読んでいただくとわかりやすいと思います。

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20世紀の政治・経済分野の基本テーマは「市場経済主義(資本主義)」か「社会主義」かでした。21世紀前半社会の基本テーマが、グローバル化に基づく「市場経済主義のあり方」であることに異論をはさむ社会科学者はほとんどいないでしょう。21世紀の社会は、過去・現在の延長線上にありますが、現在をそのまま延長・拡大した(フォアキャストした)方向にはあり得ないことは、これまで議論してきたように、「資源・エネルギー・環境問題」から明らかです。 

ヨーロッパには、ドイツ、フランス、英国、北欧諸国という、所得水準が高く、資本主義のあり方がまったく異なる国々が共存しています。これらの国々は福祉への取り組みも異なりますが、EUを構成する主要国として米国とは異なる道を模索しています。この現象は「米国型の市場原理主義」と「ヨーロッパ型の福祉国家路線」の対立のようにも見えます。そして、日本は米国に追従しているように見えます。
 
20世紀から21世紀への移行期にあたって、社会科学系の学者や研究者は「パラダイムの転換」という言葉を好んで用います。しかし、日本の政治や社会に大きな影響力を持つ社会科学系の学者の考え方の枠組みには、「資源・エネルギー・環境問題に関する十分な概念」が埋め込まれていないため、パラダイムの転換については、「20世紀型経済成長」の延長線上の議論に終始しています。このことは、小渕恵三内閣のときに組織された経済戦略会議の提言の背景にある歴史的認識にもあらわれています。

ここでとりあげた「経済戦略会議の歴史的認識」は、社会科学系の学者や研究者には説得力のある意見と映るかもしれません。しかし、「経済の持続的拡大」の延長上にある、古い考えではないでしょうか。ここに示された歴史的認識は大問題です。 

★中谷さんの「資本主義はなぜ自壊したのか」への反響 
                 
ネット上にはそれぞれの立場からの賛否両論が渦巻いています。経済の門外漢である私は、中谷さんのような経済学者が「環境問題」を十分意識したという点で評価をしているのですが、ネット上の評価は必ずしもそうではありません。特に、12月発売直後の反応は中谷さんが考え方を改めたという点で読者の方々にさまざまな戸惑いがあったようです。

中谷さんが、開放経済とは言い難い「ブータン」や「キューバ」に関心を寄せたのは意外でしたが、開放経済である北欧諸国に興味を感じ、「なぜ北欧経済は活気を呈しているのか」と題した節で、「そこで我々がまず参考にしなければいけないのは、アメリカ流の新自由主義とは対極にある北欧の国々のあり方である」とおっしゃっているのが新鮮で、印象的でした竹中さんとは正反対です。


このブログ内の関連記事
ついに、あの中谷さんも、竹中さんも「北欧の成長戦略に学べ」 と ???(2010-01-05)



私は中谷さんの「資本主義はなぜ自壊したのか」を読んだ後に、週刊朝日の「改革が日本の不幸にした」(2009年1月23日号)、文藝春秋の「竹中平蔵君、僕は間違えた」(2009年3月号)を読みました。他の経済学者が中谷さんの著書をどのように読んだのか興味があったのですが、3月14日付けの朝日新聞に9人の経済学者や社会学者のコメントを紹介した記事が掲載されました。

●週刊朝日 「改革が日本を不幸にした」(2009年1月23日号)

●毎日新聞「文化」 中谷巌さん(2009年3月9日)

●朝日新聞 資本主義はどこへ 「成長」 竹中平蔵さん(2009-03-09)             

●松岡正剛の千夜千冊 1285夜 中谷巌著『資本主義はなぜ自壊したのか』 日本再生への提言


★私の結論


中谷さんがおっしゃるように、環境問題は世界のほぼ全域に広がった、市場経済社会を揺るがす「21世紀最大の問題」と位置づけられますが、主流の経済学者やエコノミストの多くには、そのような認識はほとんどないようです。これまでの経済学は人間と人間の「貨幣による関係」を扱い、貨幣に換算できない関係を無視してきました。経済学の枠組みのなかに、経済活動の本質である「資源・エネルギー・環境問題」の基本的概念が十分にインプットされていないからです。

こうした、いまとなっては間違った前提に基づき、 「持続的な経済成長」というビジョンから抜け出すことのできない経済学者やエコノミストの言説を無批判に受け入れるのではなく、「資源・環境・エネルギー問題」に配慮した、自然科学者の明るくはない未来予測に、耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

次の図は「経済大国」日本と「福祉国家」スウェーデンの「環境問題」に対する社会的な位置づけの相違を表しています。人間社会には「政治システム」「社会システム」「経済システム」があり、それらのバランスが大切なのですが、日本では常に「経済システム」を優先する傾向があります。人間社会は自然に支えられて成り立っています。日本とスウェーデンの「環境問題に対する位置づけの相違」にご注目ください。


日本は「環境問題」を人間社会に生じるさまざまな問題の一つと考えています。ですから、環境問題よりも、目の前の景気回復や格差のような経済・社会問題のほうを重視しがちです。一方、スウェーデンは人間社会を支える自然に「環境問題」という大問題が生じていると考えます。両国が考える「環境問題」の位置と大きさをご確認ください。スウェーデンでは、ここに掲げたような日本の経済・社会問題はほとんどないか、あるいは解決済みと言ってよいでしょう。

スウェーデンが考える「持続可能な開発」とは社会の開発であって、日本が考える経済の開発、発展あるいは成長ではありません。


またしても、ミスリードしかねない「スウェーデンの脱原発政策転換」という日本の報道

2009-03-21 19:04:03 | 原発/エネルギー/資源
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まずは、次4つの新聞記事をご覧ください。


●スウェーデン『脱原発』を転換へ(産経新聞)

●スウェーデン、脱原発転換(朝日新聞)

●原発回帰の欧州 スウェーデン廃棄政策撤回(毎日新聞)

これらはいずれも、2009年2月6日あるいは2月7日(毎日新聞)付けの全国紙に掲載されたものです。
 
これらの記事を、ここ数年のマスメディアが報じる海外や日本の原発の動向を意識しながら素直に読む と「やはり、スウェーデンも『温暖化対策』のために原発の廃棄を諦めて、原発再開に転換したのか」と考えてしまうでしょう。ネット上には似たような記事があふれ、いわゆる「原発推進派の期待」と「脱原発派の失望」が渦巻いています。そうではないのです。

さる2月6日、スウェーデン政府の首相府は、これらの報道の源となったと考えられるラインフェルト連立政権を支える与党中道右派(保守党、自由党、中央党およびキリスト教民主党)の2月5日付の4党合意文書 「A sustainable energy and climate policy for the environment, competitiveness and long-term stability(環境、競争力および長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策)」を公表しました。

この合意文書の原発関連部分の要点は、「原子力と水力からなる現在の電力システム」に今後、第3の柱となるべき再生可能エネルギーを導入していく過程で、電力のほぼ半分近くを供給している既存の原発10基(このうち4基は70年代に運転開始、すでに40年近く稼働している)のいずれかの更新が将来必要になったときに備えて更新の道を開く用意をするというだけのことなのです。

基本合意書には次のように書かれています。

----------
原子力の利用期間を延長し、最大10基までという現在の限定枠で既存の原発サイトでの更新を許可する。これにより、現在稼働中の原子炉が技術的および経済的寿命に達したときに継続的に新設の炉で置き換えることができるようになる。
----------
  
ですから、原発への依存を今後さらに高めていくわけでもありませんし、ましてや原発を温暖化問題の解決策として位置づけたわけでもありません。

このスウェーデンの「原発の老朽化の更新の問題」は、たとえ原発事故が起こらず、安全に運転されていても、これから20年間の「日本の原発推進政策」で間違いなく再現される大問題です。ですから、スウェーデンの連立政権の合意文書は、「地球温暖化対策のために原発推進を!」 などという日本のお粗末な原発推進議論はもうやめた方がよいことを示唆していると思います。

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原発を考える⑫(最終回) 私の素朴な疑問(2007-04-23)



★2月5日付けの4党合意文書「環境・競争力・長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策」の内容(前文のみ)

スウェーデン連立政権の党指導者は今日、長期的な持続可能なエネルギー・気候政策で合意に達した。この合意は気候変動問題に関する科学協議会、連立与党の気候委員会およびエネルギーと気候問題に関する政府と市民、企業部門との対話から得られた情報に基づくものである。最近、EUが承認した気候およびエネルギー・パッケージがスウェーデンの政策の基礎となっている。

この合意はエネルギー市場の参入者に対する長期的なルールの条件を整備すると共に、気候分野におけるスウェーデン政府の野心的な目標を明確にし、現在進行中の気候変動に関する新たな国際合意に向けた会議(註:2009年12月にデンマークの首都で開催される予定の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議、COP15までの準備会議)の交渉でスウェーデンの強いリーダーシップを容易にするためのものである。今回の合意が国民、そして、ビジネス・セクターから幅広い支援が得られるものと確信している。

スウェーデンのビジネス・セクターや消費者にはエネルギーが安定的に供給されなければならない。そのためにはエネルギー事業者に長期的なルールと安定した条件を提供する必要がある。頻繁なルールの変更はエネルギー供給の不安定化を招き、先行投資の意欲を損ない、電力料金の上昇を伴って、気候変動に必要な適応に失敗することになる。

このような状況に鑑み、政府は広範な支持が得られるエネルギー・気候政策を検討してきた。今回の合意に基づいて、政府はスウェーデンの将来の気候・エネルギー政策に関する議論に参加する反対意見を募集している。


以上はこの合意文書のいわば「前文」に相当する部分で、本文はここから始まるのですが、このブログでは、「本文の見出し」だけを掲げておきます。

1.3本の柱
   目標
2.長期優先順位
3.供給
    暖房
    交通システム
    電力
    ビジョン
3.1 化石エネルギー
3.2 再生可能なエネルギー
3.3 原子力
3.4 その他の事項
4.1 さらなるエネルギーの有効利用
4.2 効率の良い市場
5.政策手段
6.研究、開発、実証
7.進捗状況の調査



今日のこの記事に関する詳細な報告がアーカイブ内にあります。

★「原発の段階的廃止」を堅持する社民党 

今回の合意文書の目新しいところは、前社民党政権下で法的に禁止されていた「既存の原発の更新」を限定条件付きで可能にする道を開こうとしていることです。当然のことながら、現在、野党である社民党は今回の合意文書で示された政権与党の「既存の原発の更新」の姿勢を批判しています。

このような状況を考えますと、今年になって突如浮上したスウェーデン国内の原発論争は、2010年9月の第3日曜日(19日)に予定されている総選挙まで続くかもしれません。総選挙の1年前、つまり今年の9月頃から選挙運動が始まるからです。

そして、今年7月1日から、スウェーデンはEUの議長国となり、12月にデンマークの首都コペンハーゲンで開催される予定のCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)に臨むことになります。  


関連記事

スウェーデンの「脱原発政策の歩み」⑯ 1980年の「原子力に対する国民投票」(2007-11-14)

スウェーデンの「脱原発政策の歩み」⑰ 国民投票の結果を踏まえた1980年の「国会決議」(2007-11-15)

原発論議の再燃(1)-老朽化した原発を更新すべきか? (佐藤吉宗さんのブログから)

原発論議の再燃(2)-中央党の妥協(佐藤吉宗さんのブログから)

原発論議の再燃(3)-誇張されすぎ(?)(佐藤吉宗さんのブログから)

●反原発講座 「スェーデンが原発新設」報道の真相 佐藤吉宗



★20年前もミスリードした日本のマスメディア

今回のマスメディアの報道を見て、私が思い出したのが20年前の似たような報道でした。1988年年6月9日の朝日新聞の記事はAP電を引用した後、ニュースの背景を解説しています。構造的には今回の報道と似ていると思います。

当時も他社が似たような趣旨の報道をしておりました。そこで、これらの報道記事に違和感を持った私が当時の朝日新聞の論壇に投稿したのが次の図です。

大変興味深かったのは、この記事にすぐ反応を示したのは、私の予想に反して脱原発の活動グループではなく、当時、原子力の研究開発を所管していた科学技術庁でした。そして、私は科学技術庁に出向いて「スウェーデン政府のエネルギー政策の包括的な行動計画」をスタッフの方々に講義をすることになりました。
 
関連記事

20年前の日本の原発論争: スウェーデンの「脱原発政策」への関心(2007-10-19)

槌田敦さんが理解するスウェーデンの原発事情(2007-10-20)

なぜ、スウェーデンの原発政策に「誤解、曲解」が生ずるのだろう(2007-10-22)



20年前の「スウェーデン政府のエネルギー政策の包括的な行動計画」(社民党単独政権)と去る2月5日の「連立与党の合意文書」(保守党を中心とする中道右派の連立政権)が20年という長い時間の経過があったにもかかわらず、国際社会の変化に対応しながら、福祉国家を支えるエネルギー政策の議論を継承していることがおわかりいただけたでしょうか




★エネルギー政策の将来を理解するカギは政治の中にある

1989年4月、日本原子力産業会議(JAIF、現在の社団法人日本原子力産業協会の前身。日本原子力産業協会は2006年4月1日に発足)の第22回年次大会にゲスト・スピーカーとして招かれ、原子力推進の立場から講演したストックホルム大学の物理学教授 T.R.イャールホルムさんはその講演の中で、スウェーデンの「国会決議」の重みを次のように表現していました。
 
----------
●スウェーデンのエネルギー政策の将来を理解するカギは政策の中にあるのではなく、政治の中にある。我々にとって民主主義は、どんなエネルギー政策よりも重要である。 

●2010年までにすべての原子炉を廃棄するという「国会決議」がある限り、我々は法にしたがい、あたかも最後の原子炉を2009年12月31日までに廃棄するよう計画を立てることになる。

●しかし、このようなことは起こらないであろう。代替供給策がないというエネルギー技術の現状を考え合せると、私の結論は、原子力は廃棄されないであろうということだ。        
----------

私は20年前に日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)で聞いたこの言葉に、議会制民主主義に基づくスウェーデンの「行動原理の神髄」を見たような気がしました。

今回の連立政権与党の合意文書に示された政策は法的な変更をともないますので、国会の承認が必要となります。しかし、たとえ、国会の承認が予定通りなされたとしても、日本の、あるいは世界の原発推進派が期待しているような具体的な変化は来年9月19日の総選挙までには起こらないと思います。

私たちが当面注目すべきは、これから総選挙までのおよそ1年半にどのような議論やキャンペーンが行われるか、そして、総選挙の結果がどうなるかだと思います。

もともとスウェーデン人の自国の原発に対する技術的信頼度は日本よりも高く、たとえば、1980年の国民投票でも、過半数(58.0%)の人々は原発容認に投票していたのです。 国民投票後、継続的に行われているスウェーデンの世論調査が示していることは現在に至るまで常に原発容認派は60~65%程度を占めているという事実です。ですから、「原発容認が過半数を占めた」という程度ではまだ不十分ですが、80%程度を占めたということになりますと、日本の原発推進派が期待するような方向性が見えてくるのかもしれません。


 

斎藤環境大臣が今回の「業界の意見広告」を批判、過去には密約や怪しげな根回しも

2009-03-19 21:44:21 | 温暖化/オゾン層
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一昨日ご紹介した日本の温暖化対策に対する産業界の「意見広告」 に対して、今日の朝日新聞夕刊は、斎藤環境大臣が批判をしたと報じました。 


この機会に、日本の産業界や行政がこれまで社会に対してどのような行動をとってきたかを見ておきましょう。今回の産業界の意見広告が今に始まったことではなく、これまでの産業界や行政の行動の上になりたっていることがおわかりいただけるでしょう。

2004年
●地球を守るために私たちは行動します。環境税はいりません。

2005年
●官房長官:京都議定書 6%削減達成は「可能性は高い」 vs 首相 「決して容易ではない」

●経産省、根回しメール 業界団体に「環境税反対を」

2007年
●経産・環境省 環境税など意見対立 温暖化対策で合同審議会

●環境税構想 経産次官が酷評  「環境税、単なる啓蒙ではない」

●環境税バトル 甘利経産相も参戦

●温室ガス削減 「義務的目標に」 同友会代表幹事

2008年
●議定書の裏に密約 

●外交弱める内部対立
 削減目標設定理想か実績か
 欧米連携締め出し懸念
 国内議論、今こそ深く



マスメディアが報じた上記のような温暖化問題に対するさまざまなレベルの問題点は、日本の国際的な立場を極めて脆弱にしています。また、国内での行動の前提である「情報の共有化」あるい「社会的合意形成」の上でも支障をきたしています。常に世界の動きに振り回されている感がある現在の日本で最も欠けているものはほとんどの分野で「共通認識」が乏しく、「社会的な合意形成」がなされていないということでしょう。翻って、920万の小国スウェーデンが国際的に存在感があり、EUをリードできるのは国民の間で多くの分野で社会的合意形成がなされており、「政治的な意思」と「国民の意識」が同じ方向性を持っているからです。

日本は世界トップレベルの低炭素社会?  経済界の判断基準が明らかにされた「意見広告」

2009-03-17 14:01:17 | 温暖化/オゾン層
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今朝の朝日新聞を開きましたら、日本の経済界の「意見広告」(全面広告)が飛び込んできました。大変おどろきました。おそらく、他の全国紙にも同じ全面広告が打ってあるのでしょう。



まず、「日本は世界トップレベルの低炭素社会です」とあります。これまで、経済界がそして、かなりの評論家や識者、それにかなりの政治家や政策担当者が執拗にマスメディアを通じて主張してきた内容です。幸いなことに、今回の意見広告は経済界がそのように考える判断基準を明確に図示しています。広告の左側にレイアウトされた5つの棒グラフ

GDPあたりのCO2排出量
■電力を火力発電で1KWh作るのに必要なエネルギー指数比較
■セメントの中間製品(クリンカ)を1トン作るのに必要なエネルギーの指数比較
■石油製品を1kℓ作るのに必要なエネルギー指数比較
■鉄1トンを作るのに必要なエネルギー指数比較

がそれです。いずれも、原単位(GDP、1KWh、1トン、1kℓ)という相対的な数字で表現されています。広告の左下に名を連ねている58団体は日本の経済システムに組み込まれており、日本の21世紀社会の方向性を決める政治力を持っています。そして、大変興味深いことはこれらの団体の多くが環境自主行動計画の未達成業界と重なり合っていることです。

さて、この意見広告のメッセージは明らかに国民をミスリードし、事態をますます混迷させるものですが、この意見広告の唯一の功績は経済界の「気候変動問題に対する判断基準」が「私の環境論」が主張する温室効果ガスの「総量規制」ではなく、 「原単位の向上」に基づいていることを経済界自ら明らかにしたことです。この発想は20世紀の発想そのもので、21世紀には不適切なものです。

次の図は日本の技術者が理解していた「1996年当時の省エネの概念」です。今回の意見広告で明らかにされた「経済界の省エネに関する判断基準」を見ますと、経済界の考え方や認識が13年経った現在でも今なおほとんど変わっていないことを示しています。


京都議定書は日本に90年比で-6%の温室効果ガスの「総量の削減」を求めています。しかし、日本の経済界が行ってきた努力は、この目標の達成には全く効果はありませんでした。目標を達成するという努力をしなかったからです。本来なら、「総排出量の削減」という目標が設定され、その目標を達成する手段として「効率化」別の言葉でいえば「原単位の向上」があるのです。
 
「原単位の向上」という経済界の懸命の努力にもかかわらず、日本のエネルギー消費量も温室効果ガス排出量も減少するどころか逆に増え続けているのです。特に最新の温室効果ガスの排出量(2007年)は過去最高、つまり、日本の歴史上最悪を記録したのです。このことは次の2つの図を見れば明らかです。






それにしても、この意見広告の最大のメッセージと考えられる「考えてみませんか? 私たちみんなの負担額。」は国民への偽装メッセージではないでしょうか。

日本の温室効果ガスの排出は産業部門(もう少し正確に言えば 15%程度の家庭部門以外の企業活動に関する部分)が最大であるにもかかわらず、経済界が努力したのは「原単位の向上」であり、温室効果ガスの総排出量の削減ではありませんでした。ですから、当然のことではありますが、一生懸命原単位を向上させたにもかかわらず、日本の現実は結果としてエネルギー消費の増加にに寄与するという、望まない現象が生ずることになったのです。

これ以上の説明は必要ないでしょう。次の関連記事をご覧ください。


関連記事

日本はほんとうに「省エネ」国家なのか? 評価基準の見直しを!(2007-03-17) 

日本の温暖化対策:経産省 vs 環境省、 日本経団連 vs 経済同友会(2007-10-17)
 

不十分な日本の「省エネルギー」という概念、正しくは「エネルギー効率の改善」という概念だ!(2007-11-26)

 あの時の決定が「日本の地球温暖化対策」を悪化させた(2007-02-26)

温室ガス効果ガス「総量規制で」(2007-07-29)

3月19日に経産省が発表した「CO2 排出量の試算」 対策費20年度までに全体で約52兆円(2008-03-20)

日本の経済界の環境自主行動計画、その成果は(2009-01-07)



経済界の総意とも言える「日本は世界のトップレベルの低炭素社会です」、(そして、いま、さらに向上の努力をしています)という「意見広告」が事実であれば、日本はどうして、「今日の化石賞」などという不名誉な賞を繰り返し受賞するなど国際社会の評価が芳しくないのでしょうか。

関連記事

今なお低い日本の政治家の「環境問題に対する意識」(2007-09-28)

前途多難な日本の温暖化対策(2008-01-06)

2008年 COP14で日本が「今日の化石賞」を受賞(2008-12-05)

日本がなぜ、「今日の化石賞」を受けるのか? 経済成長、エネルギー消費、CO2の整合性なき政策(2008-12-07)

ドイツとポーランドが「今日の化石賞」受賞(2008-12-11)

3月15日のトークショー 「ぶんぶん通信 No.1」 から

2009-03-16 10:24:08 | Weblog
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すでに、お知らせしましたように、3月15日(日)の同じ時間帯に2つの催しものがありました。

一つは私もスペシャル・サポーターとしてかかわっている「持続可能な国づくりの会<緑と福祉の国・日本>」の学習会です。講師は元駐スウェーデン大使であられた藤井 威さん、講演のタイトルは「スウェーデン型社会という解答」です。講演の概要はこの持続可能な国造りの会の事務局ブログでお知らせすることになっています。

もう一つは長編ドキュメンタリー映画「六か所村ラプソディ」の監督、鎌仲ひとみさんと私のトークセッション。 180名の定員に対して参加者は228名と盛況でした。トークセッションの前後に2回、制作過程から生まれたビデオレター「ぶんぶん通信 No.1」(上映時間 およそ1時間)が上映されました。このビデオレターには昨年のスウェーデンの状況が挿入されていましたが、日本の現状と映し出されたスウェーデンの状況の間に大きな落差を感じた方が多かったのではないでしょうか。このトークショーの内容や評価は主催者や参加者にお任せしましょう。

●ネット上のブログから①

●ネット上のブログから②

●ネット上のブログから③

●ネット上のブログから④



皆さんへのメッセージ

①私は、スウェーデン大使館科学技術部で1973年から95年までの22年間、「環境・エネルギー問題、労働環境問題」を担当してきました。

②これからお話しすることは、スウェーデンと日本の「環境・エネルギー問題」を同時進行でウオッチしてきた私が理解した95年以降のスウェーデンの現状についてです。

③したがって、別の方が「別の判断基準」で両国を分析すれば、「別の姿を描くこと」も可能でしょう。

私の話を批判的にお聞きいただき、「日本の環境・エネルギー問題への対応」を真剣に考えていただきたいと願っています。私たちのために、私たちに続く子供や孫のために、そして、願わくば将来世代のために・・・・・

今回は講演会ではなく、トークショーですので、司会者の林さんと鎌仲さん、私が話をしている間、背景のスクリーンに24枚のスライドが映し出されました。そこで、その中からスウェーデン社会と日本の社会の相違を理解するのに役立ちそうな普遍性の高いスライド16枚を紹介します。



●フロンティア国家 スウェーデン

●長期単独政権:日本 vs スウェーデン
進化してきた福祉国家②社民党の44年にわたる長期単独政権(2007-08-14)

●「治療志向の国」と「予防志向の国」

●社会的心理構造:日本 vs スウェーデン

●個人と社会のあり方:スウェーデン、米国、日本

●環境政策の策定プロセス

●スウェーデンの行動原理

●「スウェーデン」と「日本」 政策・対策の行動原理が正反対とも言える3つの点

●科学者と政治家の役割
第1回国連人間環境会議

●スウェーデンの地方分権:その理念
日本の地方分権:医療の広域化(2007-09-04)

●国と自治体の力関係
なぜ、先進的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう⑩ 地方分権:国と地方の役割分担(2007-08-27)  

●環境問題の社会的な位置づけの相違 

●スウェーデンの原発政策を転換した本

●「環境・エネルギー問題」を考えるときの視点



2008年秋に顕在化した世界同時経済不況の捉え方

「スウェーデン版グリーン・ニューディール」(スウェーデンがそう呼んでいるのではなく、日本の状況を見ながら私が勝手にそう呼んだだけのことです)は、米国や日本のグリーン・ニューディールとは違って、2008年秋に顕在化した「世界同時経済不況」への緊急対策として策定されたものではありません。スウェーデンは世界経済システムに組み込まれた「開放経済の小国」ですので、他の先進工業国と同様に、現在、世界同時経済不況の嵐の中にあり、これまで好調な経済パフォーマンスを示していた経済指標が悪化し始めています。

「緑の福祉国家」については、このブログの「緑の福祉国家1.ガイダンス」~「緑の福祉国家63」をご覧ください。

緑の福祉国家1.ガイダンス(2007-01-11)

緑の福祉国家63(最終回) 改めて、緑の福祉国家の概念を(2007-06-02)




これらのスライドは、まず私のブログを理解するときの参考になるでしょうし、マスメディアが思い出したように伝える断片的でフローなスウェーデンに関する情報の背景を理解するときに、他の方が書いたスウェーデンに関する書籍やデータを理解するときの背景資料としても役立つでしょう。

関連記事
またしても、ミスリードしかねない「スウェーデンの脱原発政策転換」という日本の報道(2009-03-21)


そして、何よりも日本の問題を考えるとき、日本の何が問題なのかを見つける手がかりとなるでしょう