環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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動物福祉:日本とスウェーデンの対応の相違

2011-02-17 19:14:34 | 農業/林業/漁業/食品
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(財団法人)地球・人間環境フォーラムの機関誌『グローバルネット』の最新号(2011年2月号 243号)に、ジャーナリストの吉田光宏さんが「動物福祉に沿う自然の中の飼育~ストレスなくし『命の尊厳』守る」という記事を寄稿しています。この記事は「動物福祉」の国際的な大きな流れと歴史的側面を解説し、最近のEUや国際機関の動向を紹介しています。そのポイントは次の通りです。

①効率優先の工業的畜産がBSE(牛海綿状脳症)を引き起こしたことなどを反省し、家畜の健康維持には動物の福祉が必要という考えからEU(欧州連合)は2006年から「動物福祉5カ年行動計画」を開始し、より快適な飼育環境の整備などを加盟国に求めるなど、確実に動物福祉の取り組みは前進している。
②コーデックス委員会(FAO/WHO合同の国際食品規格員会)は、有機畜産物のガイドラインに動物福祉遵守を盛り込んでいる。

まずは、ご自身でこの記事を読んでみて下さい。

「よろず効果」が創る持続可能な社会
新時代の牛放牧で日本を救おう!
動物福祉に沿う自然の中の飼育~ストレスなくし「命の尊厳」守る
ジャーナリスト 吉田光宏


さて、日本の状況は?、そして、スウェーデンの状況は?

★日本の状況

次の記事は2007年6月22日の朝日新聞に掲載されたものです。現状は「日本の乳牛の半数がいる北海道。尾を短くする『断尾』は、効率優先を象徴する光景だ。尾の付け根から約20センチのところに輪ゴムをはめて約1ヶ月、尾が腐って落ちるのを待つ」いうショッキングな描写から記事は始まります。

★スウェーデンの状況

22年前の1988年に改正された「動物保護法」(1998年、「動物福祉法」に改称)はすでに、ペットだけでなく、家畜の飼養・管理に関する配慮がうたわれています。

スウェーデンは95年1月1日にEUに加盟しました。当時、EUは「動物福祉」に今ほど熱心ではありませんでしたので、次のブログのような状況が生ずることになりました。

このブログ内の関連記事
初めてのトラックバック-その2:家畜の飼養(2007-01-06)

ネット上の関連記事
●スエーデンにおける動物実験の規制

●スウェーデン動物福祉法(The Animal Welfare Act, The Animal Welfare Ordinance)


動物福祉の分野でEUの先を歩んでいたスウェーデンは2001年4月、「動物倫理対策プログラム」を発表し、動物福祉を専門に担当する行政機関の設置を検討しました。その結果、2004年に農業省の行政機関として世界初の「動物福祉庁」(Animal Welfare Agency)が設置されました。

ネット上の関連記事
●Swedish Animal Welfare Agency: Building a governmental authority based on public demands for improved animal welfare

●Hästinventering i Degerfors kommun

日本と違って、スウェーデンは国内外の問題に迅速に対応するために絶えず行政機関の刷新を行なっていますので、行政省や行政庁の廃統合や名称の変更が容易に行われます。2007年、「動物福祉庁」はなくなり、動物福祉庁の所管事項は再び農業庁(Swedish Board of Agriculture)に移管されました。また、以前、動物福祉庁などの行政機関が属していた伝統的な「農業省(Ministry of Agriculture)」は2011年1月1日から英訳名を「Ministry for Rural Affairs」と改称しています。

●The Ministry of Agriculture has become the Ministry for Rural Affairs
The Ministry of Agriculture changed its name to the Ministry for Rural Affairs on January 1, 2011. The website will be updated regularly.

●Ministry for Rural Affairs: To strengthen trust in the future and growth throughout the country


さて、BSE(牛海綿状脳症)についても、スウェーデンの予防対策は見事です。

このブログ内の関連記事
緑の福祉国家54 持続可能な農業・林業④ BSE(牛海綿状脳症)への対応(2007-05-24)

1989年から2010年までのBSEの発生状況はスウェーデンでは1例のみ(2006年)であるのに対し、日本は36例となっています。


また、スウェーデンは1986年に動物の飼料へ抗生物質の添加をヨーロッパで最初に禁止しました。この禁止が後にEUの禁止につながったのです。

このブログ内の関連記事
緑の福祉国家52 持続可能な農業・林業② 抗生物質の使用禁止、家畜の飼養管理(2007-05-22)



販売期限まじかのコンビニの弁当などの処分の是非

2009-05-06 13:12:24 | 農業/林業/漁業/食品
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今日の朝日新聞が販売期限まじかのコンビニ弁当や総菜の値引き処分の問題点を一面トップで報じています。

ここに報じられている問題は、現在のコンビニ業界の経営システムから生じているのものですが、単なる経営システムの問題に止まらず、環境問題にまで発展していることに気がつかなければなりません。その意味で、石破農水相や野田消費者行政推進担当相の発言も妥当性があると思います。

これらの問題を理解し、解決策を考えるには、既存の法体系のもとで目の前の現象面への対応をするのではなく、下の図に示したようなシステマッティクな理解とアプローチが必要だと思います。




混迷する日本⑱ 消費者の視点に立つ食品政策の必要性

2008-02-03 18:16:22 | 農業/林業/漁業/食品
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1月31日の各紙が「日本たばこ産業(JT)子会社のジェイティフーズが中国の食品会社が製造した冷凍ギョーザを食べた千葉県と兵庫県の3家族計10人が下痢やおう吐などの中毒症状を訴えて入院した」と報じました。輸入元のジェイティフーズをはじめ、スーパー、食品会社が当該製品の自主回収を始めました。冷凍ギョーザから「メタミドホス」という有機リン系農薬成分が検出され、いつの時点で製品に入ったのか、様々な調査が開始されました。

この事件(事故?)で、またいつものように、日本の食品行政の不備が指摘されつつあります。再発防止のために、日本の食糧自給率の向上の必要性や輸入食品の検査体制の不備、食品関連法の限界をはじめとして様々な問題点がこれから明らかになってくると思います。そして、どのような制度を設計すれば、このような問題の発生を最小限に食い止められるかということが議論されることになるでしょう。

このニュースを知って、すぐ思い出したのは今から20年以上前のスウェーデンの行動計画でした。スウェーデンの食糧自給率とともに、その行動計画の概要を紹介しましょう。

★食糧自給率

スウェーデンの食糧自給率は高く、主要産物は ほぼ100%を上回っています。穀物や豚肉は輸出もしていますが、野菜・果物・油脂の自給率は気候の関係で低い状況にあります。ご参考までに、2002年のスウェーデンの食糧自給率を日本の農林水産省の「食料自給表」からまとめてみました。

穀物自給率ほぼ120%(1961年:112%、2003年:122%)を誇る農業に関しても、スウェーデンは80年代後半から90年代にかけて、持続可能性を強く意識した政策を次々に打ち出しました。


★1985年の「食糧生産一貫政策ガイドライン」

スウェーデンの家庭が食品に対して支出する総額の50%以上が、スウェーデン国内の農業生産にかかわっているという調査報告を受けて、政府は「食糧生産一貫政策のガイドライン案」を国会に上程しました。1985年、国会はこれを承認しました。 

このガイドラインでは、「農業を食品原料の供給源である」と明確に位置づけ、これまでの農業政策に修正を加え、スウェーデン国内で生産される最終食品の質だけではなく、家畜への配慮、環境への配慮を優先する政策が、その第一歩を踏み出したのです。 

ガイドラインのなかで初めて、食糧生産の場となる「環境」と食糧生産の源となる「資源」に対する目標を掲げました。その要点は、農業と食品生産のためには、良好な環境が必要であると同時に、スウェーデンの天然資源を長期的にしかも計画的に管理していく必要があるというものでした。


★1986年の「農業および野菜の新しい生産形態に関する研究プログラム」

1986年春、国会は政府の「農業および野菜の新しい生産形態に関する研究プログラム」を承認しました。このプログラムでは、食品の原材料を提供する農業生産の改善に重点が置かれました。加えて、食品の原料となる農産物の生産から消費者に至る、フード・チェーンのすべてをカバーする研究も開始されました。食品生産の関係者にとっては、消費者に良質の食品を供給するために、それぞれの責任を分担することが要求されます。

農家は、人間、家畜および環境に危険性のある物質を生産に使用しないように注意を払わなければなりませんし、食品加工業者は食品の品質を保証するような生産活動を行なわなければなりません。

同時に、輸送会社や流通会社も、それぞれの責任を分担しなければなりません。公的な行政機関、研究者、消費者もこの計画に積極的に参加し、安全な食品を供給するために、それぞれの関係者がどのようなことに留意したらよいのかを示すことができれば、なおよいでしょう。



このような行動計画が国会の承認のもとに20年以上前に行われていたことに驚かされます。まさに、予防志向の国と治療志向の国の差と言ってもよいでしょう。悪意のある行為に対してはどのような制度も十分とは言えませんが、人間の行動が常識的なものであれば、制度の充実で食品関連の事故は最小限に抑えることが可能です。






それぞれのマークをクリックすると、リアルタイムのランキングが表示されます。お楽しみください。


      



初めてのトラックバック-その2:家畜の飼養

2007-01-06 22:26:39 | 農業/林業/漁業/食品
このトラックバックには、EU加盟の是非についての世論調査の結果のほかに、つぎのような興味深いテーマも含まれていました。

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例えばBelgian Blueという肉牛種。

スウェーデンでは、牛を筋肉モリモリにする
やり方が非人道的であるとして、この肉牛の輸入が禁止されていたのだが、
EU加入の3年後、1998年にこの禁止を撤廃するよう命令されている。
例えば鶏の飼育小屋。スウェーデンの鶏は、他のEU諸国の鶏に比べると
かなり優雅な住まいに暮らしているらしい。
しかし、EU全体にスウェーデン方式が導入されるのは早くても2012年。 
今のところ、非人道的な飼育を理由に、他国からの鶏肉輸入を禁止すること
はできない。
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この件について、関連情報を提供しておきましょう。

私の本「スウェーデンに学ぶ持続可能な社会 安心と安全の国づくりとは何か」(朝日選書792 2006年2月)のp257からの抜粋です。

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1986年からは、成長促進用に飼料に添加する抗生物質の使用を禁止しました。これは、EUの「成長促進の目的での抗生物質使用禁止」を先導することになりました。88年7月1日から施行された「動物保護法」は、ペットの保護という観点だけでなく、家畜の飼養管理という観点からも興味深いものなので、簡単に紹介しておきましょう。

動物保護法は1944年の「動物愛護法」を現状に合うように全面的に見直したものです。この法律の基本的な考え方は、「動物は本来持っている自然行動を考慮した環境で飼育されなければならない」というものです。動物の飼育で大切なことは、「動物が健康で安心して生きていけるような環境を整えること」です。さらに、この法律では、家畜の飼養管理にも、つぎのような点で注意が払われています。

①牛は放牧すること
②ケージ内の採卵鶏の羽数を減ずること
③繁殖用の母豚が自由に歩き回れるような十分なスペースを与え、寝床、餌場、排泄場所を別々にすること
④動物の飼育に要するさまざまな技術は動物の必要に適合するものであって、その逆であってはならないこと
⑤と畜は可能なかぎり動物に苦痛を与えないように行なうこと
⑥将来、家畜に異変を起こさせるおそれがある遺伝子工学の応用、成長ホルモンの使用を禁止することができる権限を政府に与えること