咲とその夫

 定年退職後、「咲」と共に第二の人生を謳歌しながら、趣味のグラウンド・ゴルフに没頭。
 週末にちょこっと競馬も。
 

夜の戦士・・・池波正太郎

2010-02-10 23:00:00 | レビュー
 池波正太郎小説の中で、忍びの者が主人公となって、戦国の武将が登場する長編忍者小説はどれをとっても実に面白く、戦国時代についつい引き込まれてしまう楽しさがある。

 主人公の忍びを通して、さまざまな戦国武将の生き様とその時代の大きなうねりを垣間見ることができ、いつもながらの精緻な描写で読む人の心を捉えて離さないところに作者の意気込みが伝わる。

 最初の忍者小説は、信州松代藩のお家騒動を背景に、隠居の身である真田信之(真田昌幸の長男で幸村の実兄)が、酒井忠清との虚々実々の闘い。主人公幕府隠密の堀平五郎の命運は・・・・・・・・。といった内容で、第42回直木賞受賞作の短編。


 次に発表したのが“夜の戦士”。
 これは、丸子笹之助という甲賀忍びが主人公、時代背景は、1559年、武田晴信が号を信玄と称した頃から、三方ヶ原の闘いの翌年1573年、信玄が亡くなるまでの15年間である。

 
 「信玄暗殺の密命を帯びて甲斐に赴く。途中、常陸の鹿島に剣名の高い塚原ト伝を訪ね、剣の教えを請い、その推挙を得て武田家に仕えることに成功する。

 上杉謙信との川中島での開戦前夜、笹之助に課せられた任務を知りつつ、それを許す信玄。その包容力と偉大さに感動した笹之助の背後に強力な甲賀忍びの群れが忍び寄った。笹之助は、忍びの掟に背き、信玄のために身命を賭して働くことを心に誓った。」(本文抜粋)



(夜の戦士(上))


(夜の戦士(下))


 本編では、笹之助を通して武田信玄という後世にまで名を残した偉大な戦国武将の生き様が克明に描かれており、作者なりの解釈の信玄像ではあるが、歴史の一端を垣間見ることができる。偉大なる信玄の跡継ぎを育てられなかったことで、後年武田家は滅びることとなるもの悲しさもある。

 信長にしても、秀吉にしても同じような運命を辿っており、これら英雄の生き様をしっかりと見てきた家康は、徳川家が永遠に続くようにと、周到にさまざまな策を凝らした結果、徳川家は300年もの間、天下の中心となった。


 作者池波正太郎の長編忍者小説は、1559年から1624年の66年間の群雄割拠の戦国時代から、徳川幕府の安定期に入るまでの時代の大きなうねりが舞台となっている。すなわち、その時代こそ忍びの者が最も重宝され、活躍することができた時代であったからかな。


 この66年間とは、太平洋戦争で日本が敗戦して今日までの期間であるが、それと比較してもいかにあの時代は、生きることにどれだけの力を要していたか比べものにならないように思う・・・・・・・戦後、日本人らしさが失われつつある今日、それを思うと戦国武将は何と言うだろう。


 その後作者が、発表した順に記すと

 “忍者丹波大介”は、甲賀忍び大介を通して、秀吉没後から豊臣家が滅びるまで。

 “蝶の戦記”は、甲賀忍び於蝶を通して、謙信を描きながら信長が覇権を握るまで。

 “火の国の城”は、忍者丹波大介の続編で、清正を描きながら家康の陰謀に立ち向かい、豊臣家が滅びるまで。

 “忍びの風”は、甲賀忍び於蝶が信長暗殺を謀るが・・・・・秀吉が台頭するまで。

 “忍びの女”は、甲賀忍び小たまを通して、関が原以後の正則を克明に描きながら、幕府の謀略により滅び行くまで。

 “忍びの旗”は、甲賀忍び上田源五郎を通して、信玄没後から正則没後の最も長い期間の戦国武将の生き様と忍びの者の死闘。


 このほかに忍びの者を草の者といって描かれた長編小説“真田太平記”があるが、こちらは、昌幸が主人公でとてつもなく面白い。



 池波正太郎の小説は、どの一編を取り上げても本当に面白く、次々と読み漁っている状態・・・・・・・“鬼平”も(夫)

コメント
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