慶応義塾大学アート・センター内に創設された 「 西脇順三郎アーカイヴ 」 は、今年1月20日からその資料閲覧が開始されました。今年は西脇の没後30年に当たり、またアーカイヴ開設記念として今、 「 没後30年 西脇順三郎 大いなる伝統 」 と題して資料展が今月24日 ( 金 ) まで開催中です。アーカイヴは西脇研究の第一人者である新倉俊一氏の研究資料がセンターに寄贈され、この資料が母体になって創設されたということです。直筆原稿もあるそうです。写真の左は展覧会カタログ、右はポストカード。
日本の現代詩を切り開いたフロンティアとしての西脇。熟成されたワインのような古典的ニュアンスを持つ詩集 『 旅人かへらず 』 の詩人。 『 超現実主義詩論 』 で独特の言葉使いで読者を刺激・鼓舞・扇動したアジテーター西脇。晩年まで 「 ギリシア語と漢語 」 の比較研究に没頭する謹厳な学者にして、絵画に色彩のエロチシズムを隠匿するペインター西脇。 「 ああ、なんちゅうムラサキの瓢箪 」 詩人であるか!
西脇順三郎は個人的憂愁と悲しみを、 「 人類 」 的な永遠の哀憐に変容させてくれたように思います。だからつまらない現実が少し面白く感じ、憂鬱な現実にも少々耐えられるのである。詩のその一節、
花の色はうつりにけりなというが
そんなにくやむことはない
ウキヨエなども保存がよくって
版からすりたてのほやほやの
ように見えるのはねだんが
おそろしく高いが本当は
色彩感の哀愁性は
古ぼけた色調にある
昔本の表紙をセージ色にしたが
それが色あせるとなんとも
美しいセージの夢をみる
すべて古いものの哀れさには
無常のはてしない永遠への
あこがれがひそんでいる
だが摘草の女は
タンポポのように笑った
アイアイ! ( 詩集 『 壤歌 』 より抜粋 )
またこの詩集の 「 あとがき 」 で西脇は書いています。 「 人間が地球という一つの天体の上に生活している以上宇宙という一つの永遠の世界の中に生活していることになる。そうしたことは人間にはどうしようもない宿命であって陶淵明のいう窮達である。 ( 中略 ) 永遠の世界にくらべれば人間の世界などは瞬間的にすぎない。そうした運命に服さなければならない人間の存在それ自身は最高の哀愁である 」 と。