胎児期の花芽は枝にねむりゐる春を待つ樹は風に吹かれて
灰色の分厚きコート脱ぎ捨てつ春の陽が声をかけてくるる日
洋風の家にはミモザが似合ふらしここもあそこも銀葉が揺る
公園の芝生を進む乳母車かたはらの児はほろほろ歩く
海よりの風かと思ふ公園にミモザの枝のざはめきたてば
ミモザの黄見れば浮き立つわが心大久野島へタイムスリップ
思ひ出は突然沸ひてしまふらし古びし蓋を押し上ぐるまで
春の日にはじけてゐたり丘の上に二十歳のわたしとみんなの笑顔
多島海ゆ吹き来る風に揺れやまぬ丘のミモザは黄の臨月
新大阪駅の階段駆け上る海からの風に誘はれて さあ
ただ島の姿見たさにはるばると忠海に来つ日帰りの旅
忠盛の領地でありしゆかりゆゑ忠海とふ町の名前は
大久野島はひやうたん島に似てゐたり瀬戸内海にぽつかり浮かぶ
毒ガスの島と言はれし時ありき今はウサギのゐる休暇村
絶対の機密であるから毒ガスの島はかつては地図より消され
「毒ガスで・・」老人はひそと語りたり海辺を走る呉線の中
ゆつくりと閉じる瞼に海の青ふたたびの島も思ひ出となり
五個組の最後に残る白皿をポリゴミ容器の中に捨てたり
夕焼けの端切れだけが見える家たまには丘の上まで行かうか
ねえミモザおまえは知つてゐるだらう人には見せぬ私の気持ち
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