足摺岬
風強き岬の椿くれなゐに耳のかたちの花びらを持つ
伊邪那岐を追ふ鬼たちの手のごとく椿の枝は海へ伸びをり
老いること許されぬ花またひとつ落ちて椿の森となりたり
森深く椿はつねに乙女子の貌したるまま降り積もりゆく
椿森の暗き小道の果てのはて今生れしごと海はうつくし
生き急ぐ我をしかつてゐるやうに岬の波は激しさを増す
記憶
ひつそりと恋の抜け殻すてにゆく椿の森の花びらの下
置いてきた思ひ出はまだ森の中赤い椿がぽろりと落ちる
ばらばらと赤き椿の落ちる音森はをみなの血の夢の中
汝の罪に時効はないと埋められしものの声する椿の森に
あの森の奥に埋めたるものの上に降り積もりゆく椿の花首