今のコロナ禍に陥ってから1年以上の時間が経過したが、アントンKがいつも鑑賞しているクラシック音楽業界にも感染症の影響はいまだ大きい。音楽ファンとして一番困るのは、海外音楽家たちの演奏が途絶え、聴きたい演奏が聴けなくなることではないか。特にアントンKの昨今の鑑賞目的は、演奏ありき、それも実演ありきであり、本番のその瞬間に生まれ消えていく真の音楽に触れることだ。百も承知の名曲の数々を、なぜ敢えてホールに足を運び、生演奏にこだわって聴くのかという意味がそこにある。
以前にも書いていると思うが、クラシック音楽を鑑賞する最大の魅力は、演奏行為にあると考えている。同じ楽曲でも、違う演奏家によって表現は様々で、光の当て方が相違して、まるで別の音楽に響く。ここにいつも言う新しい発見があり、音楽のもっている大きさと深さを感じることが出来るのだ。そこに気が付くと、自分では演奏など出来もしないのに、この楽曲をあの演奏家が演奏したら良いのでは?とか妄想し時間がいくらあっても足りなくなってしまうのだ。
久々のマーラーの演奏会。マーラーの交響曲は大掛かりな楽曲が多く、舞台上も三密を保てないという理由からか、今まで極端にプログラムから外されてきた。しかしここへきて、感染症との向き合い方も徹底され実績も積み、徐々に緩和の方向が見えてきたようで何よりだ。とは言っても、今回はマーラーでも一番小さい第4番である。マーラー初心者には、まず第4からと大昔言われた思い出があるが、こうして今聴き返しても、小さくともマーラーはマーラーであり、アントンKにとっては懐かしさが込み上げてきた。この第4で一番好きな3楽章は、ここだけ取り出してよく昔は聴いたもの。大きく広がる安らぎの世界と、不安で嘆きにも聴こえる世界がどこか心にハマっていた。第2楽章で登場する調性の異なるVnは、ソロコンマスの崔氏がユーモラスに演奏し、細部まできっちり歌い上げた演奏表現は相変わらず素晴らしく、彼の消えそうなくらい小さなグリッサンドを聴いたとき、正しくマーラーの音楽であることを実感できた。この第4では終楽章でソプラノ独唱が加わるが、この砂川涼子氏がまた素晴らしい歌唱だったことも記しておく。
ちょうど2年前、新日本フィルでマーラーの第2「復活」を聴いた。あの時は指揮者が音楽監督の上岡敏之氏であり、終演後カーテンコールが続き何度も呼び出されていたことを思い出す。いつか再び熱狂して終える演奏会に立ち会いたいものだ。今は信じて待つしかないのだが・・・
新日本フィルハーモニー交響曲楽団 ジェイド定期演奏会
モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K219 「トルコ風」
マーラー 交響曲第4番 ト長調
指揮 尾高 忠明
Vn 山根 一仁
Sp 砂川 涼子
コンマス 崔 文洙
2021年4月8日 サントリーホール