風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

青梅で春の嵐/又三郎と遭遇するのこと

2008-02-26 23:47:39 | コラムなこむら返し
Wind_matasaburho 日和も春めいて、のんびりと青梅の茅葺きのギャラリーで過ごしていた。そこでは、新作オリジナルひな人形展とかいう企画をやっていた。オリジナル作品もいいが、ひな人形はやはり伝統的なものの方が、優るようだ。祖母から母へ、さらに娘へと伝えられたひな人形は、ひそかにこの国の古代の風習、それこそ家長がおんなだった時代を、王朝文化の装いに偽装しながら、伝えているのではないだろうか? と言うのが、昔からボクが抱いていた幻想だった。つまり、母なるクニ、母や姉妹の霊的な力で政治(まつりごと)が束ねられていた時代への郷愁だ??それは、母系制と呼ばれるものと等しいだろう。

 ギャラリーとなった場所は、築150年の茅葺民家だ。すこし小高いところに建っており、遠目から見ても一段と異彩を放っている。いや、その茅で葺かれた屋根の方が、風景にも、里にも合っていたはずなのだが、隣近所は山小屋風だったり、新建材で建てられた家ばかりになり、タイムスリップしたかのようにそこだけ、切り取られたように異彩を放っているのだ。

 オーナーの方が、ここを買ったという20年前、その頃まではまだ東京にもかろうじて茅葺き、藁葺きの民家は残っていたかも知れない。そう言う、ボク自身が一時、農家暮らしを憧れていたこともあって、そのような物件を探して八王子の奥、高尾、五日市などを探索したことがある。結局たどりついた八王子市堀之内にも当時は、野猿街道沿いに大きな藁葺き民家があった。東京にも里山のたたずまいを残す場所は、まだまだあったのだ。

 ギャラリー付近を散策し、おしゃれなカフェで昼食などとシャレているうちに急に外気が冷えてきて気候がおかしくなってきた。と見る間に小雨が降ってくる。ボクらは、まだパン釜のあるパン工房と、養鶏場に寄ってタマゴを買う予定があった。そうこうしているうちに、雨はみぞれ混じりとなり、さらに風が激しくなってきた。

 風は逆巻くように吹き荒れて来て、畑の土ぼこりを空高く舞い上げる。それが、雪にまじって車のフロント・ウィンドゥに吹き付け、ワイパーのあとが真っ黒になるほどだった。しかし、奇妙なことに空は青空だった。天気雪とでも言いたくなるような按配なのだ。そこで帰ることにしたのだが(パンと、タマゴはしっかりと買ってきた)途中、黒い布が電線にひっかかって道にまで垂れている場所があった。
 黒い長い布は、強風にあおられてどこかから吹き飛ばされて、電線にひっかかったのだろうが、旗のようにはためくさまはちょっと異様だった。

 どっどど どどうど どどうど どどう、
 青いくるみも吹きとばせ
 すっぱいくゎりんもふきとばせ
 どっどど どどうど どどうど どどう


 9月1日ではなかったが、ハンドルを握りながら「風の又三郎」のオノマトペを思わず口ずさんでいた。

 帰ってきてみれば、その風は全国的な春の嵐をもたらした平年より9日遅れの「春一番」だったと言うことだった。春一番が吹いたあと風は北風に変わり、冷たい寒気を広範囲にもたらしたと……。

 うん、たしかにあれは「又三郎」ではなかったのだろうか? 南からやってきた赤毛の「転校生」又三郎ではなかったろうか? なにしろ、青空が見えているのに雪が舞い、かと思うと空一面が土ぼこりにおおわれて太陽をおおいかくし、と、それは奇妙な劇的な展開だったから……。

(写真2)すばやく撮った又三郎の学生服の片鱗? 電線にひっかかってうなりをあげていました。