京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『東京藝大仏さま研究室』

2023年01月04日 | KIMURAの読書ノート

『東京藝大仏さま研究室』
樹原アンミツ 作 集英社 2020年

 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

さて、新春最初に皆さまに読んで頂きたい本は日本芸術界の最高峰、東京藝術大学が舞台のこの作品です。「仏さま研究室」とはふざけた、あくまでも物語としての名称の研究室に思えますが、何と実在します。正式名称を「東京藝術大学研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室」と言います。そしてこの研究室、どうも学部生では知らない学生もいるようで、学生個々がそれぞれのきっかけにより、この研究室の存在を知るようです。とまぁ、このようなことがまずこの作品のプロローグで主人公の1人まひるが語ってくれています。全編学生が物語を進行してくれていますので、とにかく語り口調が今どきです。学生が放つ言葉はなんて軽くてあっけらかんとして素直なのだろうと笑いながらページをめくれます。あの崇高な仏像についてもそれは同様。例えば、この研究室が出来た背景を彼女はこんな風に伝えます。「(廃仏毀釈のあった時代に)むしろ、行け行けドンドンの西欧近代主義よりも、日本の古美術には崇高な精神性があるのではないか――そう考えた創立者らは、~略~ ときの政府に対して日本の古美術の現状調査と保存を訴えた。~略~ 当時にそんな言葉はないが、『文化財保護』ルーツも、つまりはこの東京藝大にあるわけだ。――このあたりの詳しい話は、研究室に入ってから牛頭先生の講義で教わった。あ、そうか、自分は文化財保護に関係しているんだ、と気づいたのはそのときだ(遅い)。(p11、12)」

第1章から第4章までは修士2年生が1年間を通し制作していく「仏像模刻」が、それぞれの季節それぞれの学生の葛藤や悩みを交えながら、一連の流れとして手順が分かるように描写されています。あくまでも青春群像劇なのですが、仏像を保存すること、修復すること、そして伝統を受け継ぐことというのはどういうことなのか、そしてその技術などが分かりやすく丁寧に語られており、丁度新年を迎え寺社にお参りをしたばかりのこの時期にはとりわけ親近感をそして臨場感も抱ける作品ではないかと思います。

私自身昨年年明けより「お散歩」と称してあちこちの寺社を巡る機会が多い1年でした。その時に「修復中」や「〇〇年修復完了」という掲示を目にすることがありました。この作品を読んで、修復の過程を初めて想像することが出来、また、文化財による保護や修復が国ではなく、専門家ではありますが民間人から始まったということに感慨を覚えると共に、日本という国が文化や芸術に対して過去においても軽視していたということに憂いを感じてもしまうのでした。文化庁がこの春京都に移転してきますが、移転そのもので安心することなく本来の業務に徹して欲しいと切に願ってしまいました。

さて、本年の私の目標。2021年に郵研社より刊行された『猫の本棚』(高野一江・編著)に掲載されている299冊を「コンプリート」と行きたいところですが、さすがにビックマウスにはなれないので、可能な限り読んでいき、何冊読むことができたかを年末に報告したいと思います。猫本も私にとってはライフワークですので、新たな出逢いにわくわくしています。皆様にとってもこの1年、素敵な本との出逢いがありますように。

=====文責 木村綾子

 


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