『肉弾』川﨑秋子(角川書店)
前作の『颶風の王』にすでに萌芽はあった。人は食べなければ、死んでしまう。口に運ぶ物は、植物であったり、動物であったりするけれども、すべて元は生きていたものだ。自分が生きるためには、ほかの命を奪わなければならない。この小説は、究極といってもいいほどの、命のやり取りが描かれる。目を背けたくなるほどの残酷さ、すさまじさで、それは読者の面前に投げだされる。
本の装丁から察しがつくけれども、小説に登場するのは犬。しかも元飼い犬たちだ。飼い主とどんな生活があったのか、そしてなぜ今の境遇にあるのかが克明につづられ、人物造形をするように、犬造形がなされていく。いっぽうで主人公は、人生に半ば失敗してしまった若者。立ち直らせるきっかけにしようと、ワンマンな父が狩猟目的でその息子を北海道に連れていく。
(注意!以下さらにストーリーを書いています)
北海道の開放的な大自然を舞台に物語は急展開する。父とともに遭遇した羆との命のやりとり。心の傷を背負った同士、犬たちと若者の命のやりとり、そして犬・羆・若者が入り乱れての命のやりとり。壮絶な闘いが繰り広げられ、その戦闘描写には戦慄を覚える。
テーマが重く、悪寒が走るシーンがたびたび出てくる。しかも現実離れした漫画チックなところもあって、どうなんだと思う部分もある。でも読ませる。人間もたかだか一個の生き物であり、自然の一部であるということを改めて認識させられる、おそるべき小説だ。内容が内容なだけに嫌悪感をもつ人はいるだろうけど、誰しもが避けては通れない現実であり、目を覆って通過できない真実が詰まっている。
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