何もかも放り投げて、どっかでひとり和みたい気分ですが、現実はそうもいきませんから、せめて好きな音楽や映画を楽しむのが、私の生き方なんでしょうか……。
ちょっと答えの出ない自問自答です。
ということで、本日は――
■But Not Really / Les McCann Ltd. (Limelight)
レス・マッキャンを最初に聴いたのはロパータ・フラック(vo,p) との共演盤でしたから、私はしばらくの間、この人の事をピアノブルースかソウル畑の歌手だと思い込んでいました。
実際、ファンキーなピアノと真っ黒なボーカルの魅力は絶大♪
しかも昭和のジャズ喫茶では、ほとんど無視状態というか、ラムゼイ・ルイス(p) よりも鳴る確立は、グッと低かったと思います。
ところがそんなある日、先輩コレクター氏から聞かせていただいたのが、このアルバムでした。そして忽ち仰天瞠目! 正統派4ビートで真っ黒にスイングする素晴らしいピアノトリオが、そこにあったのです。
録音は1964年12月、メンバーはレス・マッキャン(p)、ビクター・ガスキン(b)、ポール・ハンフリー(ds) というトリオながら、Ltd. という会社組織みたいなバンド名にしているところに、リーダーの拘りが感じられますね――
A-1 But Not Really
いきなり粘っこくてダークな雰囲気のノリがたまりません。呻くようなピアノ響き、グイノリのベースにシャープなドラムス! うっ、これはっ!?
聴けば誰だって、我国の山本剛を連想させられるでしょう♪ 実際、この演奏に演歌味をつけたら、モロですよ♪
ですからここでの演奏も小気味良くスイングしてグルーヴィな展開へ! トリオの一体感も申し分なく、中盤でレス・マッキャンが聞かせる無伴奏のアドリブは強烈なゴスペル風味となってベースとドラムスを呼び込み、さあ、それから後は一気に盛り上がるという美味しさです♪
A-2 A Little Three-Four
ジワッとくる控えめなフレーズからグッと盛り上げていくテーマ部分の上手さには、忽ち惹きつけられます♪ 基本はワルツテンポなんですが、この真っ黒に粘った世界は、まさにレス・マッキャンの真骨頂かもしれません。
蠢くベースの熱さもたまらず、グイグイと盛り上がる演奏には絶句ですねぇ♪ イヤラしさがたっぷりというピアノフレーズの楽しさは不滅だと思います。
A-3 Our Delight
有名なビバップ曲を軽く小粋に弾いてしまうレス・マッキャンは、逆もまた真なりというスイング感が満点♪ ギシギシに軋むビクター・ガスキンの4ビートウォーキングも実に良い感じです。
このあたりはジュニア・マンスにも通じる魅力ですが、正統派ハードバップの味わいはレス・マッキャンの方が強いという意外性で、結果オーライでしょう。
A-4 Sweetie
原曲は良く知らないのですが、かなりスタンダードな味わいが強い演奏になっています。まあ、カクテル系でしょうか。緩やかなスイング感には、なんとも和みます♪
しかしアドリブパートに入ると一転してファンキーな雰囲気が漂い、ちょうどエロル・ガーナーがボビー・ティモンズしたような感じです。小粋なピアノタッチの妙も素晴らしく、ジワジワと演奏全体を盛り上げていく手法も冴えていますから、これが嫌いなジャズ者はいないでしょうねぇ~~♪ 思わず身体が揺れてしまうのでした。
B-1 We're On The Move Now
最初からガンガンに飛ばしていくレス・マッキャンのオリジナルで、こういうアップテンポの直線ノリは、純粋ハードバップとは明らかに一線を隔したものだと感じます。クセの無いホレス・パーランというか、ブレーキの壊れたホレス・シルバーというか……♪
とにかくゴキゲン大会なんですが、ポール・ハンフリーのドラミングも冴えていますし、こういう節操の無さがレス・マッキャンの魅力でしょうか? 私は好きです、と愛の告白♪
B-2 Jack V. Schwartz
前曲の雰囲気をそのまんま持ち込んだ、これもレス・マッキャンのオリジナルですが、ブレイクとストップタイムの上手い使い方なんかニクイほどです。
もちろんアドリブフレーズはファンキー節がテンコ盛り! 低音域の執拗な使い方にはケレン味も強く、ポール・ハンフリーのゴスペルドラミングに正統派モダンジャズど真ん中というビクター・ガスキンの4ビートウォーキングがバッチリ合った快演だと思います。
B-3 Little Freak
これもレス・マッキャンのオリジナルで、当時流行していたジャズロック系ヒット曲を良いとこ取りしたようなリズムパターンとメロディが、なんとも憎めません♪
こういう分かり易さが、我国でのレス・マッキャン低評価の一因かもしれません。
B-4 Yours Is My Heart Alone
オーラスはフランク・シナトラの名唱で有名なスタンダード曲で、レス・マッキャンの思わせぶりなスローの解釈が最高です。まあ、端的に言えば、クサイ芝居がギリギリかもしれませんが……。
それでもレス・マッキャン本人はボーカルも巧みな人ですから、こういう歌物が本来得意なピアニストかもしれません。こういうシブイ有名曲ばかりのスタンダード集を望んでいるファンが、案外多いのではないでしょうか。
ということで、一聴して気に入った私は直ぐにこのアルバムを探したのですが、かなりのレア盤だったのでしょうか、なかなか状態の良いブツには巡り会えませんでした。もちろん件の先輩コレクター氏にお願いしてカセットコピーを頂いたのは言うまでもありません♪
それが数年前に我国で紙ジャケット仕様のCDとして再発されたのですから、長生きはするもんです。速攻でゲットして、今日まで愛聴しています。リマスターも良好♪
こういうピアノトリオの味わいは虜になると抜け出せませんが、山本剛が好きな皆様ならば、きっとこの気持ちはご理解いただけるものと思います。
ちなみにレス・マッキャンはピアノトリオ作品をかなり出していますが、我国では真っ当に扱われているとは、到底言えません。あぁ、紙ジャケット仕様でリマスターがバッチリのCD再発をしてくれませんかねぇ~。
こういう気持ちはメーカーさんや評論家の先生方に届くでしょうか……。そう思いつつ、本日はプログ書きました。