■Mr. Fantasy / Traffic (Island / United Artists)
サイケデリックロック期にスティーヴ・ウィンウッドやデイヴ・メイソンがやっていたトラフィックというバンドは、その強い存在感と数々の謎を残していますが、本日ご紹介のアルバムはアメリカでのデビューLPとして、これまた味わい深い1枚になっています。
A-1 Paper Sun
A-2 Dealer
A-3 Coloured Rain
A-4 Hole In My Shoe
A-5 No Face, No Name, No Number
A-6 Heaven Is In Your Mind
B-1 House For Everyone
B-2 Berkshire Poppie
B-3 Giving To You
B-4 Smiling Phases
B-5 Dear Mr. Fantasy
B-6 We're A Fade, You Missed This
ご存じのように、トラフィックはスペンサー・デイビス・グループの天才少年として売り出したスティーヴ・ウィンウッドが、新たな飛躍を求めて脱退後の1967年春に結成したバンドで、メンバーはスティーヴ・ウィンウッド(vo,p.org,g,b,etc)、デイヴ・メイソンン(vo,g,sitar,b,etc)、ジム・キャパルディ(vo.ds,per)、クリス・ウッド(sax,fl,key,etc) という4人組でした。
しかしトラフィックは決してスティーヴ・ウィンウッドのワンマンバンドではなく、ジム・キャパルディはボーカリストとしても確固たる味わいを持っていましたし、なによりも作詞に才能を輝かせていました。またクリス・ウッドの演じるフルートや各種リード楽器がジャズやクラシック、さらには民族音楽の領域にまで踏み込んだ表現を可能にしていたのですから、ソウルフルでハートウォームなボーカルとマルチプレイヤーとしての才能を持ち合わせていたスティーヴ・ウィンウッドも遺憾なく、自らのやりたい道を進むことが出来るはずだったのですが……。
ここにもうひとり、トラフィックには絶対欠かせない存在となったのがデイヴ・メイソンで、とにかく一般ウケするヒット曲を生み出す才能はグループで一番でしたし、既に土着的なアメリカンロックに着目していた先見性は、後の活動を鑑みれば疑う余地もありません。
ところが不思議にもこの人は、他のメンバーとソリが合わなかったのでしょうか、頻繁に出入りを繰り返しながらも、実はトラフィックが成功した貢献者としての地位はガッチリと固めているのです。
実は当時のデイヴ・メイソンは巡業ステージではギターを弾かせてもらえず、ベースをやらされていたり、また実際の生演奏ではジャズを基本にしたアドリブ合戦についていけなかったと言われていますから、本人の行動にも納得は出来るのですが……。
ちなみに、そうしたライプではスティーヴ・ウィンウッドがオルガンやギターで爆発的な演奏を披露し、そのギターの腕前にしても、デイヴ・メイソンよりは上手いという現実は、疑う余地もありません。
しかしレコード制作の現場や実際の売り上げでは、トラフィックの人気を決定づけた大ヒット「Hole In My Shoe」がデイヴ・メイソンの手になるものだったことから、事態は複雑だったのでしょうねぇ。
そして結局、イギリスで最初のアルバムとなった「ミスター・ファンタジー(Island)」が完成発売された1967年12月には、既にバンドから抜けていたというのが真相!? それゆえに翌年初頭に発売された本日ご紹介のアメリカ盤では、ジャケットに3人しか写っていないというわけなのです。
ただし当然ながら、収録された歌と演奏には間違い無くデイヴ・メイソンが参加しており、その構成は前述のイギリス盤を基本にしながら、きっちりシングルヒット曲をメインに据えるという、如何にもアメリカのレコード会社らしい仕様になっていますし、驚いたことにはミックスまでもが随所で微妙に異なり、さらにアメリカ盤特有のカッティングレベルの高さゆえに、なかなかサイケおやじ好みの1枚になっています。
まず冒頭の「Paper Sun」は既に述べたとおり、トラフィックのデビューシングル曲にしてサイケデリックポップスでは極みつきの1曲だと思いますが、デイヴ・メイソンの弾くシタールやバンドが一体となった力強いビートの作り方、また当然ながらソウルフルなスティーヴ・ウィンウッドのボーカルと浮遊感満点のコーラス、さらに各種楽器の混濁した存在感の強さが、見事なロックになっています。もちろん曲メロそのものの親しみ易さと中期ビートルズからの影響は言うまでもないでしょう。
いゃ~、本当に聴く度に幸せになれますねぇ~♪
そして、もうひとつのシングルヒット曲「Hole In My Shoe」が、これまた当時はラガロックと称されたインド~東洋系モードに彩られた王道のサイケデリックポップスで、おそらくはメロトロンで作り出されたであろう不思議な音の壁やシタールの響き、浮遊感溢れるメロディ&コーラスの心地良さは絶品♪♪~♪
ちなみに以上の2曲は、イギリスでは先行シングルとして発売されたことからデビューアルバムには収録されず、また当然ながらそれはモノラルミックスであったものが、このアメリカ盤LPでは立派なリアルステレオミックスが楽しめるのも大きな魅力!
と言うよりも、実はサイケおやじがトラフィックに接したのは完全な後追いで、例のブラインド・フェイスからの遡りでしたから、モノラルバージョンは本当に後で聴いたわけで、つまりはこっちに耳が馴染んでいるというわけです。
もちろんシングルでのモノラルミックスには、如何にも当時らしい力強い混濁感が顕著ですから、それはそれで別な魅力があるのですが……。
しかしサイケデリックロックはスタジオでの詐術も芸の内だと思いますから、せっかくのステレオミックスを楽しまない手はありません。
ですから、このアルバムに収録された各曲の緻密な構成は聴き込むほどに味わい深く、エスニックとスタックスソウルがゴッタ煮となった「Dealer」では強力にドライヴしまくったエレキベースが最高ですし、アル・クーパーもカパーしている「Coloured Rain」のミョウチキリンなゴスペル味、さらに穏やかな中にもソウルフルなスティーヴ・ウィンウッドのボーカルが素晴らしい「No Face, No Name, No Number」が入っているA面は、前述したふたつのヒット曲との流れも絶妙の構成になっています。
いゃ~、本当にたまりませんよ♪♪~♪
そしてそれを締め括るのが、トラフィックの代表的な名曲名演であろう「Heaven Is In Your Mind」です。そのザ・バンド的とも言えるアーシーなグルーヴ感やメロディ展開にアフロ系のビートとサイケデリックが真っ只中の雰囲気を濃厚に表現したコーラスや様々な彩りが混じり合い、さらに後半の熱いギターソロは、まさにニューロック!
ちなみに、このアメリカ盤は最初、この曲名をアルバムタイトルにしていたのですが、直ぐにもうひとつの代表曲から「ミスター・ファンタジー」に変更され、その初回プレス盤はコレクターズアイテムらしいですよ。尤もサイケおやじは、あまり拘りはないのですが……。
そこでB面にレコードをひっくり返せば、こちらは尚更に正統派サイケデリックロック&ポップスの味わいが深く、凝ったイントロや古臭いメロディ展開がモロにサージェント・ペパーズ色の強い「House For Everyone」は、如何にもデイヴ・メイソン! また、その続篇的な「Berkshire Poppie」にはスモール・フェィセズの面々もコーラス参加しているという楽しさが、これまた温故知新の雰囲気を盛り上げています。
さらに「Giving To You」は日活ニューアクションのサントラ音源みたいなジャスロックインストで、ここではクリス・ウッドとジム・キャパルディの演奏力の高さが侮れないと思いますし、当然ながらスティーヴ・ウィンウッドが弾いているであろうギターソロとオルガンも強力ですよ。
そしてお待たせしました!
後にはブラッド・スウェット&ティアーズ=BS&Tも名演を残している「Smiling Phases」が、トラフィックの実に力強い歌と演奏で堪能出来るという喜びは、何度聴いても飽きません。それはBS&Tのバージョンとは異なり、特にアドリブパートがあるわけでもないんてすが、ドタバタしたジム・キャパルディのドラミングとスティーヴ・ウィンウッドの熱血ボーカルが不思議なほどにジャストミート♪♪~♪ 幾分やっつけ仕事のようなコーラスパートが逆に良い感じなのも、そこに深淵な企みがあるんでしょうねぇ~♪
こうして迎えるクライマックスが、トラフィックと言えば、この曲という「Dear Mr. Fantasy」です。おそらくロックファンならば、一度は耳にしたことがあるに違いないミステリアスなメロディにトリップしまくった歌詞!?! もちろんスティーヴ・ウィンウッドの歌とギターは唯一無二の情熱を発散させ、じっくり構えたところから燃え上がっていく演奏展開は、意想外のクールな雰囲気さえ滲ませるという、まさに奇蹟の名演じゃないでしょうか。
アル・クーパーや他にも様々なカパーバージョンが残れされていますが、絶対にこのオリジナルバージョンを超えたものは無いと断言して、後悔しません。
演奏はこの後、ラストのフェードアウトのパートに短い「We're A Fade, You Missed This」が被さっての大団円となりますが、このあたりはビートルズの「リボルバー」っぽい色彩が鮮やかですねぇ~♪
ということで、既に述べたように、イギリス盤デビューアルバムとは異なる選曲とアメリカ盤特有のエッジの効いたカッティングにより、このLPは同じバンドとは思えないイメージさえ感じます。
率直に言えば、このアメリカ盤LPはストレートにロックっぽい仕上がりになっていますし、また逆にイギリス盤仕様のアルバムは幻想的なサイケデリック味が強いというのが、サイケおやじの感想です。もちろんレコードに刻まれた「音」そのものが、アメリカ盤は骨太ですが、イギリス盤は繊細な味わいがあるように思います。
それと聴き捨てならないのがビートルズからの影響で、随所に隠し様も無いメロディやサウンドのキモがテンコ盛り♪♪~♪
結論から言えばトラフィックはセカンドアルバムで、またまたデイヴ・メイソンが復帰し、今度はスワンプロックの英国的な展開を披露するのですから、この時期だけの一瞬にビートルズとの邂逅と別離を演じきったんじゃないでしょうか?
そうした不安定な美学もまた、トラフィックという不思議なバンドの魅力かもしれません。