■Bass On Top / Paul Chambers (Blue Note)
ジャズ喫茶でのアナログ盤は片面鳴らしが基本ですから、時にはアルバムによってA面が良いか、B面が良いか、なんていう論争もあったほどです。そしてそこから、店のマスターの嗜好や営業方針にまでも話が発展していくのですから、ジャズ者の情熱的なおせっかいは侮れません。もちろんこれは、自分も含めての事です。
さて、その意味で度々ヤリ玉に上がっていたのが本日ご紹介の1枚で、ジャズの歴史では決定的な名盤なんですが……。
問題はA面ド頭、「Yersterdays」の存在でしょう。
録音は1957年7月14日、メンバーはケニー・バレル(g)、ハンク・ジョーンズ(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds) という、夢のようなオールスタアズです。
A-1 Yersterdays
陰鬱なムードを充満させるポール・チェンバースのアルコ弾き! 悪趣味でもあり、エグイ佇まいが如何にも原曲の意図にジャストミートかもしれませんが、ケニー・バレルのポロンというイントロのワンフレーズに続くテーマ部分の重苦しさが、個人的には全くの苦痛です……。
実際、この思いは私だけではなかったようで、満席のジャズ喫茶ではこのアルバムのこの演奏が鳴り出すと、席を立つお客さんが続くほどでした。う~ん、店側の思惑どおりなのか……???
しかしポール・チェンバース以下のバンドはアドリブパートに入るとグイノリの4ビートに転じ、意外にメロディ優先というベースのアドリブがゲロゲロのアルコ弾きでありながら、不思議な快感を呼ぶのですが……。
A-2 You'd Be So Nice To Come Home To
アート・ペッパー(as) やヘレン・メリル(vo) の人気演奏がありますから、その素敵なメロディフェイクや歌い回しが頭にこびりついている分だけ、ここでのバンドにも期待が高く、また、それに見事に応えてくれたトラックです。
アグレッシブで強靭なビートを伴いながらメロディを失わないポール・チェンバースのペースは、テーマのアンサンブルを意欲的にリードし、さらにアドリブへ入っても我が道を行く潔さ! そしてケニー・バレルへアドリブを受け渡す時に移行する4ビートウォーキングの心地良さ♪♪~♪ この瞬間の快感こそがジャズ者の喜びじゃないでしょうか。
もちろんケニー・バレルのギターはソフトな黒っぽさでメロディのあるアドリブに専心し、背後ではアート・テイラーのドラミングが的確なスパイスを効かせていますから、ついに登場するハンク・ジョーンズのピアノに至っては、もう美メロの宝庫♪♪~♪
全くこれがありますから、A面が良いとするファンの声が尊重されるのでした。
テーマアンサンブルに潜む小技の妙技は、流石は名手揃いの証でもあります。
A-3 Chasin' The Bird
チャーリー・パーカーが書いた脱ビバップの洒落たアンサンブル曲ですから、ここでもそのキモがしっかりと活かされたテーマ演奏が最高の聴きものだと思います。とにかく4人がそれぞれの役目を果たしながら、抜群のインタープレイを聴かせてくれますよ。
そしてアドリブパートではポール・チェンバースが強靭なピチカート弾き! さらに弾みまくった4ビートウォーキングがハンク・ジョーンズの絶好調なアドリブを見事にサポートしていきます。
また落ち着いていながらツッコミ鋭いケニー・バレル、安定感抜群のアート・テイラーも、実に良い仕事だと思います。
B-1 Dear Old Stockholm
さてさて、これが再びの人気曲!
スタン・ゲッツ(ts) やマイルス・デイビス(tp) が決定的な名演を発表している哀愁のメロディですし、ポール・チェンバースにしても、既にマイルス・デイビスのバンドでは秀逸なレコーディングを残しているわけですから、ここでの再演にも期待が膨らんで当然でしょう。
そして特筆すべきは、迫力ある録音によるベースサウンドの凄さでしょう。実際、前述したマイルス・デイビスのコロムビアセッションと比べて聴けば、それが納得されるんじゃないでしょうか。ここでは些か歪みも強い音作りながら、重量感とグイノリの快感がまさにジャズ! ヴァン・ゲルダーの真骨頂かもしれません。
肝心の演奏はマイルス・デイビスのバージョンと似たようなアレンジを基本に、あくまでもリズムセクションとしての面白さ、さらにはメンバー個々の名人芸が存分に楽しめます。
それはケニー・バレルの素直なメロディフェイクが冴えるテーマ演奏から、ポール・チェンバースの歌心満点というベースソロ、バンドアンサンブルをがっちり固めるアート・テイラーのドラミングに加えて、ハンク・ジョーンズの小粋にスイングしたピアノの気持ちよさ♪♪~♪
もちろんこのトラックがあればこそ、B面が良い! というのも納得されますねぇ~♪
B-2 The Theme
マイルス・デイビスのバンドテーマとしてお馴染みのリフ曲ですが、おそらくは実際のステージでもポール・チェンバースが主役を務めていた場面もあったと思われます。ここでは代名詞的なワザというアルコ弾きによるアドリブが実にエグイです!
好き嫌いは別にして、やはりハードバップ全盛期の名場面なのかもしれません。
それはケニー・バレルの手慣れたようでテンションの高いギター、パワー満点のブラシで煽るアート・テイラー、ジェントルでファンキーなハンク・ジョーンズのピアノという名人芸の連続へと発展し、タイトに纏まった大団円と進むのでした。
B-3 Confessin'
これも小粋なメロディが素敵なスタンダード曲を、ポール・チェンバースが本気でスイングしたペースで縦横無尽に弾きまくった大名演!
そしてハンク・ジョーンズが、これまた最高なんですねぇ~♪ テーマメロディよりもアドリブフレーズの方が歌っているというか、流石だと思います。全く短い演奏なのが、残念無念ですよ。
ということで、冒頭のAかBの論争について、個人的にはその日の気分かもしれないと、些か逃げた結論を出しておきますが、現在ではCDがありますから、自由自在にプログラミングして楽しむのが正解かもしれません。
ただしアルバム全編を通して聴くと、A面ド頭に置かれた「Yersterdays」の存在感が、何故か圧倒的なんですねぇ~。個人的には全く好きではない演奏なんですが、これが出ないと物足りないのは確かです。
う~ん、プロデューサーのアルフレッド・ライオン、恐るべし! やはりオリジナルアルバムの曲順は尊重しなければなりませんねぇ……。
ベイシーの Dickie's Dream 演奏盤の情報ありがとうございます。早速ネットで検索してどんなアルバムか確認しました。一見すると年代順に曲を並べた編集盤に見えますが違ったんですね。その内に入手したいと思います。
余りブルーノートは聴くことは無いのですが何故かこのアルバムは時々聴きます、しかも A-1 Yersterdays のみ繰り返し。私、評判の悪いアルコが好きなんです。
多分、クラシックのチェロ無伴奏協奏曲なんかが好きなので違和感が無い為だと思います。
ご無沙汰しているうちに、当地ミネソタは-30℃の極寒になってしまいました。
私はB面の出だしの「Dear Old Stockholm」のケニー・バレルのテーマ弾きが好きでした。
「Yesterdays」は重過ぎるような…笑
コメント感謝です。
チェロの無伴奏では、あの名作ジャズ映画「真夏の夜のジャズ」が印象的です。
個人的には好きな楽器なんですが、どうもコントラバスでは……(苦笑)。
ベイシーのアルバムは、どれもノリが痛快ですから、楽しめると思いますよ。
極寒の国から、ありがとうございます。
そういう場所ではハートウォームな演奏が好まれるのでしょうか? それとも北欧メロディが合っているのでしょうか?
とにかくジンワリと温まるものが第一かと♪♪~♪
CDならばプログラミングにて解消なんでしょうが、アナログではやはりどうしても邪魔(?)なんですね。
他の曲だけ楽しめばいいのでしょうが、その存在がテンション下げるのです(笑)。
たとえばシルヴァーの『BLOWIN' THE BLUES AWAY』でしたら、“問題曲”は最後ですからまだしも、アルバムの冒頭ですからその存在感もいやが上にも大きいのです。
コメント感謝です。
やはり「A-1」は鬼門ですか……。
でも、これが無いとアルバム全体の重みというか、存在感がイマイチ足りないような気もしています。
人気傑作盤なのは違いないところなんですが、何時までもついてまわる宿命ということで(苦笑)。