OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

バリー・ハリスの師弟クインテット

2009-01-04 11:41:14 | Jazz

Newer Than New / Barry Harris (Riverside)

頑固な人とは付き合いにくいし、特に仕事に関係していたりすると難儀させられることも度々というのは、一般社会の常識だと思います。

しかし自分も多分に頑固というか、要領が悪くて融通がききにくい人間というサイケおやじにしてみれば、そういう一徹な人には敬意を表する気持ちもあるのです。

例えば本日の主役たるバリー・ハリスはモダンジャズの名人ピアニストでありながら、地元のデトロイトから出ようとせず、それでもニューヨークで活動しはじめても頑なにビバップに拘ったスタイルゆえに人気が高いひとりでしょう。

しかしその音楽性は奥深く、まろやかでエッジの効いたピアノタッチからは、魔法にようにジャズ者をシビレさせるメロディが放出されるのです。その品格も絶品ですねぇ~♪

さて、このアルバムは珍しくもホーン入りのクインテットによるハードバップの快作で、タイトルどおりに実力派の若手を起用しています。

録音は1961年9月28日、メンバーはロニー・ヒリヤー(tp)、チャールズ・マクファーソン(as)、バリー・ハリス(p)、アーニー・ファーロゥ(b)、クリフォード・ジャーヴィス(ds) というシブイ面々ながら、その真摯な演奏姿勢は素晴らしいですよ。

A-1 Mucho Dinero
 一瞬、「コーヒールンバ」を思わせる出だしの雰囲気から、これはもう楽しすぎるラテンジャズの素敵な演奏が始まります。テーマメロディのウキウキ感もさることながら、ラテンビートを活かしきったバリー・ハリスのアドリブの旨みは流石ですねぇ~~♪
 続くロニー・ヒリヤーの遠慮がちなところや、チャールズ・マクファーソンのオズオズとしたところ等々、場慣れしていないところが逆に新鮮という言い訳も出来ますが、こういうライトタッチの演奏も1961年という時期を考慮すれば結果オーライかもしれません。
 そういえばチャーリー・パーカーもラテン系を好んで演じていましたから、ビバップ一筋派のこのメンツにしても、十分に面目は保っているんでしょうね。素直に聴いて楽しい仕上がりだと思います。
 
A-2 Easy To Love
 そして場面は一転、歌物スタンダードのバードバップ的解釈の極みつき!
 ほどよく凝ったテーマのアンサンブルから強烈なパーカーフレーズをブレイクで使い、そのまま熱いアドリブに突入していくチャールズ・マクファーソンの勢いは、全く憎めません。ガンガンに煽るクリフォード・ジャーヴィスのドラミングも良いですねぇ~~♪
 またロニー・ヒリヤーのトランペットが実に真摯に真っ向勝負です。幾分柔らかめの音色とフレーズは微妙に気弱なところが私の好みでもあります。
 そしてバリー・ハリスが、もうこれ以上ないという最高のアドリブを聞かせてくれますよっ! 全く時間が短いのが残念至極としか言えませんねぇ~。
 しかし痛快なラストのバンドアンサンブルが全てを許してくれるでしょう。

A-3 Burgundy
 これまたラテンビートを入れたソフトパップな作風は、バリー・ハリスのオリジナルですから、その中心にはしっかりとビバップの魂が鎮座しています。そしてミディアムテンポで繰り広げられるバリー・ハリスのアドリブは、まさに至芸! その穏やかな歌心とピアノタッチはトミー・フラナガンあたりに通じるものですが、もう少し鋭いエッジの効き具合がバリー・ハリスの真骨頂だと思います。
 それとここではロニー・ヒリヤーが自らの資質にジャストミートの好演です。実はこの人はチャールズ・ミンガスのバンドでも活躍したほどエグイ音楽性を持っていたりするのですが、本来はここで聞かせてくれるような歌心優先のソフト派が本質じゃないかと思います。
 しかしチャールズ・マクファーソンの押さえ気味のところは、些か空回りしていて、ちょっと勿体ない感じですが、まあいいか……。

A-4 The Last One
 ようやくバリー・ハリスらしいビバップ丸出しのオリジナル曲で、その凝ったバンドアンサンブルにはチャーリー・パーカーが思わずニンマリするであろう仕掛けが憎めません。
 ですからアドリブ先発のチャールズ・マクファーソンがなかなかにハッスルしていますよ♪♪ クリフォード・ジャーヴィスのドラミングもバタバタと潔くないところが結果オーライでしょうねぇ♪ 地味ながら強靭な4ビートウォーキングを響かせるアーニー・ファーロウもシブイです。
 そしてロニー・ヒリヤーのミュートトランペットからバリー・ハリスのハートウォームなピアノへと続く演奏は、まさにモダンジャズの王道だと思います。

B-1 Anthropology
 A面では些か物分かりの良かったバリー・ハリスも、やはり本領を発揮出来るは、こういうパーカー&ガレスピーが作った正調ビバップ曲でしょう。ここではそうしたファンの願いを見事に叶えた熱演を聞かせてくれます。
 クリフォード・ジャーヴィスの熱いドラミングが、まず最高ですねぇ~。その熱血に煽られてブッ飛ばし気味のテーマ合奏から、チャールズ・マクファーソンがチャーリー・パーカー直系の意地を聞かせてくれますが、何故か部分的にりー・コニッツみたいな浮遊感が漂うのは「新しさ」といういうことでしょうか。ちょっと不思議な……。
 しかし続くロニー・ヒリヤーがミュートで直線的に突っ込んでいくのは快感ですし、ドラムスとベースの馬力も素晴らしいと思います。
 そしてバリー・ハリスがお家芸というか、ビバップの真っ只中というパウエル派の面目躍如! リズム隊のイノセントなグルーヴも本当に凄いと思います。
 
B-2 I Didn't Know What Time It Was
 スタンダード曲を素材に各人が歌心を披露したハードバップ演奏で、泣きメロ追及のチャールズ・マクファーソンと弱気なロニー・ヒリヤーのコントラスト、ソフトな伴奏のバリー・ハリスという目論見がズバリと成功しているようです。
 実際、溜息まじりのトランペットが憎めないここでのロニー・ヒリヤーが、私は大好きですし、煮え切らなさが気分はロンリーなチャールズ・マクファーソン、さらにシブイ歌心がジンワリと心に沁みてくるバリー・ハリスというアドリブは、短いながらも充実しています。
 ラストで聞かせるバリー・ハリスの小技もニクイですねぇ~♪

B-3 Make Haste
 バリー・ハリスが書いた正統派ビバップ曲で、1961年の録音からすれば古臭いわけですが、こういうものこそが今でも不滅と感じる名演です。
 そして、まずはチャールズ・マクファーソンのビバップど真中のアドリブが実に痛快です。コルトレーンやドルフィーなんか、どこ吹く風ですよっ! するとロニー・ヒリヤーまでもがディジー・ガレスピーに敬意を表したミュートで迫ってきます。
 さらにバリー・ハリスが、もうたまらないほどにパウエル派の真髄を披露してくれます。あぁ、これが不滅のモダンジャズなんでしょうねぇ~~♪ 基本に忠実なベースとドラムスの自己主張も流石というか、実はこのバンドの4人はバリー・ハリスの直弟子だったと言われていますから、さもありなんの纏まりなのでした。

B-4 Nightingale
 隠れ人気の歌物スタンダード曲を粋なハードバップにした、これも名演で、ここでの主役はロニー・ヒリヤーのミュートトランペット♪ クリフォード・ジャーヴィスのブラシを主体としたテンションの高いドラミングも冴えていますし、チャールズ・マクファーソンのアルトサックスも存分に泣いていますが、ロニー・ヒリヤーの内気な片思いには胸キュンですよ。
 そしてバリー・ハリスの最高に上手い伴奏とハートウォームな歌心の妙にはシビレがとまりません! これもハードバップの素敵なところでしょうねぇ~♪ そうしたモダンジャズの魅力が地味ながらも凝縮されていると思います。

ということで、ピアノトリオ物ばかりが人気のバリー・ハリスの諸作中では忘れられたアルバムかもしれません。また共演者にしても、例えばチャールズ・マクファーソンやロニー・ヒリヤーはチャールズ・ミンガス(b)、アーニー・ファーロゥはテリー・ギブス(vib)、そしてクリフォード・ジャーヴィスはフレディ・ハバード(tp) やサン・ラのオーケストラというように、どちからかと言えばド派手な人達との活動が有名なわけですが、実はバリー・ハリスという極めて正統派からの薫陶を受けていたという、まさにルーツ的な1枚だと思います。

そしてバリー・ハリスの頑固な情熱にジンワリと心が温まるんですよねぇ~~♪ 若い者を率いての物分かりの良さと譲れない立場のバランスが絶妙だと思います。ちなみにサイケおやじは常になんとか物分かりの良さを演じているだけですから、そこを軽く見られて貧乏籤に繋がる事が度々……。

閑話休題。

結論として、出来栄えは真っ当な演奏ばかりですから、モダンジャズへ入門したばかりのファンには向かないでしょう。しかし一通り名盤・人気盤を聴いた後になって、ある日、このアルバムに遭遇した時には、忽ち虜になるんじゃないでしょうか。

実際、私はこれをジャズ喫茶で聴いてシビレたの、三十代の事でした。

意味不明のジャケットデザインの印象も決して良くありませんが、私の先輩コレクター諸氏も愛聴しているという隠れ人気盤になっているようです。

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