7月4日(土):
261ページ 所要時間 4:30 図書館
著者 佐藤優 55歳(1960生まれ) 作家。元外務官僚(ロシア)。
斎藤環 53歳(1961生まれ) 精神科医。
本書の値打ちは、週刊金曜日という批判精神の非常に高い雑誌による対談がもとになっていて、5月出版という内容の新しさにある。今の今、世間で騒がれている人や事物、世間を騒がしている人や事物について、信頼度の高い二人の評者が、歯に衣着せず本音で論じている。
本書の多岐にわたる内容をまとめるのは不可能だが、記憶に残る印象的なやり取りはたくさんあった。たとえば、
AKBが国際社会では児童ポルノと同一視されTPPに引っ掛かる恐れがあると指摘。
百田某、曽野某らインチキ連中が見事なまでに一蹴され、小林よしのり(大林わるのり)も佐藤優の前から逃げ出したようだ。
AKBを誉めて、村上春樹を叩く宇野常寛のこすっからさを指摘。
村上春樹と河合隼雄の深い関係に疑義が投げられ、
宮崎駿の「風立ちぬ」について、宮崎自身がやたらエクスキューズ(言い訳)ばかりしている。重慶爆撃をした96式陸上攻撃機を登場させる無神経さを指摘。「ふやけたファシズム」として強烈なダメ出しが行われている。宮崎駿を「本当に官僚と似た体質がある」と批判。
大正期の生命主義、宮沢賢治、田中智学の国柱会に注目し、危険性を指摘。etc.
全体として、佐藤優の分厚い教養と確かな基準が光ってしまい、斎藤環はやや受け身にならざるを得ない感じだった。まあ、これはある意味仕方のないことだろう。あの佐高信ですら佐藤優に対しては対等足りえないのだ。対談で佐藤優の向うを張れるのは立花隆と池上彰ぐらいではないか。池上彰については、佐藤優自身が高く評価している。
佐藤優の本はこれまでにかなり読んできたので、再見の部分もかなりあって内容的には理解しやすかった。
・「風立ちぬ」について:
佐藤 教養の水準が低ければ感動しますよ。
斎藤 私は普通に感動したくちですが。
佐藤 歴史知識がなければ感動します。どこか知らない国の話だと思って観てればいいんですから。要するに、映画を観る人が、どういう知識を持っていて、どれぐらい映画に対して、マイナスの情報を蓄積してるかに依るわけなんですよ。/それこそ、かつて本多勝一さんが言ったように、無意識のうちにどちら側の視座に置くかっていうことです。旧軍が出てきた場合、あるいは、飛行機っていうものが出てきた場合、これを観てる圧倒的大多数の人は「爆撃する側」なんですよ。/略/逆に、「爆撃される」という意識はないでしょう。視座の違いだと思うんですよ。/略/
斎藤 うーん。ただ、映画を観たあとに高揚感はないと思うんですけど、どうでしょう?
佐藤 いや、「じわっとした感動」という形で高揚感よりもより悪質なものがあります。「じわっとした感動」には、少なくとも免責作用があると思う。
斎藤 免責……。加害者としてのわれわれ自身が、免責された気になってしまうという問題でしょうか。
佐藤 そういうことです。 177~178ページ
・佐藤 免罪するとか、しないとかいうよりも、宮崎駿は知識人だからこういう作品が出てくるんだと思うんです。いくら封印しようとしたって、日本の中では、京都学派的なものは手を替え品を替え必ず出てきます。205ページ
・佐藤:
斎藤氏は、ヤンキー政治家がファシズムを展開することはできないと考える。私は、霞ヶ関(官界)で「自分は極めて有能だが、それが組織によって正当に評価されていない」という不満を持つ、能力は低いがヤル気のある官僚がヤンキー政治に利用価値を見だすと、日本でもファシズムが成立すると考えている。その受け皿となる政治的愚連隊もすでに存在している。260ページ
目次: はじめに 斎藤環
第一章 AKB最終原論:橋下批判とパラレル/アベノミクスも宗教/避けられた三位一体/「私のことは嫌いでも……」の解釈/前田敦子は“悪魔”である!?/前田敦子=マリア!?/西洋社会との壁/死生観はどこに/ほか
第二章 『つくる』の解釈に色彩を持たせる:核となる灰田の物/『つくる』の並行世界/クロは雪女的役割/名古屋を舞台にするということ/アカの自己啓発セミナー/ほか
第三章 『風立ちぬ』の「ふやけたファシズム」:百田尚樹とは位相が違う/堀越二郎の縁戚者に映画を見せた/スタジオジブリと零戦の構造/九六式陸攻をなぜ描いたのか/宮崎駿の矛盾の総決算/ほか
第四章 日本にヒトラーは来ない:日本でファシズムが起きるとしたら……/北朝鮮のファシズム/ITがファシズムの障壁に/オタクはファシズムに吞み込まれない/ヤンキーもファシズムに吞み込まれない/ファシズムより恐ろしいもの
あとがき 佐藤優
また書けたら書きます。寝ます。