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練り羊羹を完成「銀二貫」寄進 斜め読み2

2023年03月10日 | 斜読
斜読・日本の作家一覧>  book548 銀二貫 高田郁 幻冬舎 2009

第7章 さらなる試練 
 
半兵衛の寒天は評判が良く、井川屋に注文が増えた。
 松吉は、和助に、嘉平の言葉=真帆との約束の糊でも固める寒天を作りたいと原村での修業を願い出る。霜月、失敗を繰り返す松吉に半兵衛は草割から試せと助言する。天草は、まくさ、おおぶさ、おにくさなどの総称である。松吉は草の割合から見直して試すが失敗を繰り返し、翌年も過ぎてしまう。
 1791年神無月、真帆の住む堀江で寛政の南の大火と呼ばれる火災が発生、87町13000世帯が灰になる。助けに行けず悶々として松吉は、翌朝、戸の隙間に簪を見つける。真帆の簪と気づいた松吉は天満宮に駆けつけ、お広と真帆の後ろ姿を見つけ安堵するも、(失敗続きの心苦しさからか?)声をかけずに手を合わせただけで帰る・・読み手をもどかしくさせるのも高田流筆裁きであろう・・。
 和助は寛政の南の大火のあと、焼け出されたお広と真帆に巾着ごと渡していた・・人情に厚い和助は真帆と松吉のことも気になったのであろう。この話は第8章に続く・・。
 松吉は真帆との約束を果たそうと原村に出かけ、腰の強い寒天づくりを試すが上手くいかない。1792年、24歳になった松吉は失敗続きに、自分には寒天づくりの才がないと沈み込む・・高田氏は次々と読み手をハラハラさせる・・。
 卯月、雲仙岳の噴火に続き、皐月には寛政の北の大火と呼ばれる船場、天満、中之島、天神橋に火の手があがり、89町10500世帯を焼き尽くす。井川屋だけは奇跡的に焼けなかったが、天満宮が焼け落ち、和助74歳と善次郎59歳は生気をなくす。
 
第8章 結実ひとつ 
 半兵衛は鴨肉の隠し包丁からヒントを得て心太に釘で穴を開けて凍らせると縮まない方法を考案する。松吉は、天付きで突いた心太に雪をかぶせて凍らせると芯が守られ、弾力のある糸寒天ができることを発見し、雪がなくても氷を削って雪にする方法も提案する。・・松吉は糸寒天の製造法を確立したのである・・。
 糸寒天をかかえた松吉は、三十石船で天満八軒に戻るとき、その船で羊羹を食べた老女から、餡だけならどんなに蒸しても固まらないのでつなぎに粉を入れることを知らされる。小豆と砂糖を練り上げた餡を寒天でつなぐとどうなるか、松吉は新たな課題に興奮する。
 松吉の考案した糸寒天を味見した和助と善次郎は大喜びする・・新たな商いが見えたようだ。
 和助は顔なじみになったお広の団子屋へ松吉を連れて行く。おてつ=真帆は美しい女性になっていて、松吉と目を合わせ二人だけに通じる挨拶をする・・和助は二人の先行きに手を貸そうとしているようで、和助の人情の厚さはよく分かったが、松吉に歯がゆく感じる。高田氏はまだまだと結末を長引かせる・・。


第9章 迷い道 
 和助は暑さが本格的になるころ、松吉が考案した糸寒天を煮固め、賽の目に切り、甘く煮た小豆をあしらい、黒蜜を回しかけ、「虫養い」として顧客に無料で振る舞い評判になって寒天がよく売れた。
 酷暑になったころ虫養いを真似た涼養いを出す店が続出し、井川屋の糸寒天は飛ぶように売れた。翌年も次の年もよく売れ、井川屋は息を吹き返した。
 蒸し羊羹はつなぎに粉や米を使うので足が早いが、糸寒天をつなぎに使えれば一ヶ月は持ち、きれいな色艶になるはずと松吉は餡と寒天をきれいに混ぜようと何度も試すが、ことごとく失敗する。29歳になった松吉は真帆24歳を抱きしめたいと思っているが、失敗続きの自分が情けなく、真帆に逢う資格はないと思い込んでしまう・・高田さん、もう二人をなんとかしてあげてとつぶやきたくなる・・。
 話は前後するが、松吉は、仇討ちの場で斬り殺されるところを和助に救われ、天神橋で真帆に逢い、その父嘉平に寒天の世界を広げてもらい、半兵衛との出会いで糸寒天が生まれた。その偶然はすべて天の配剤と思う・・真帆との約束を成功させる偶然、真帆と仲を成就させる天の配剤が気になる・・。
 文月、和助と善次郎はようやく銀二貫が貯まり天満宮に納めようと話す。そこへ半兵衛が訪れ、美濃志摩屋の跡を継いだ孝三が丹後の天草を抑えてしまったので寒天場を閉めなければならない、新たな天草探しには日にちと銭がかかると話す。和助は寄進の銀二貫を迷うことなく半兵衛に渡す。善次郎も頷く。
 和助も善次郎も半兵衛も迷いなく自分の生き方を通しているのに、松吉は餡と寒天を練り上げた羊羹の先行きも見えず、真帆との恋も見えてこない・・迷い道をさまよう松吉。高田氏は松吉を追い込み、どんでん返しを描きたいようだ・・。


第10章 興起の時 
 松吉が餡を探し求めているところで風邪気味のお広に会う。松吉の気落ちした顔を見てお広は松吉と店に戻り、真帆=おてつに餡を分けるように話す。おてつから餡をもらった松吉は、井川屋に戻り糸寒天とおてつにもらった餡を練るがまたも失敗し、そのまま高熱で失神する。
 元気になった松吉がお広に餡の礼を言いに行くと、おてつに縁談話があるがどう思うか聞かれる。松吉は他人が口を挟むことではないと自分に言い聞かせ、おてつを大事にしてくれる縁談であればいい、と言いおいて店を飛び出す。その帰りに天神橋で真帆に逢うが、松吉は気持ちを言い出せない。おてつ=真帆は「松吉、私、ほんまは・・」と言い、立ち去る・・高田さん、もう何とかしてよ!・・。
 松吉は和助の勧めで苗村藩を訪ね、母の墓参りをし、仇討ち買いで銀二貫を受け取った建部玄武の後日談を知るが割愛する。
 大坂に戻った松吉は無性に真帆に逢いたくなりお広の団子屋へ行く。お広は先のない病で寝込んでいて、松吉が声をかけると松吉と真帆を見ながら「よう似合っている」「おてつ、もうええよ」と言い、こと切れる。泣き崩れる真帆を松吉は抱きしめる。
 お広の葬儀を済ませ松吉たちが店に戻ると、半兵衛が現れて南伊豆の天草を買う手はずを整えたと報告する。半兵衛は帰りしな、松吉に同じ失敗を繰り返すのは根本に問題がある、自分で餡を作るように助言する。松吉は失敗しても何度でも立ち上がると決意する。
 ・・少し長い展開だったっけれどネタが全部出そろった。高田氏はどんな結末にするのか・・。


最終章 銀二貫 
 井川屋が懇意にし梅吉が養子に行った山城屋の夫人が松吉に、お前はおてつが好き、おてつはお前が好きなのに歯がゆいと話す。それを聞き松吉はようやく気持ちが全開したようで、団子屋に飛び込み真帆を抱きしめ、私といっしょに生きとくれやす、何もかも愛おしいと呻くように言う・・ところが高田氏はまだめでたしめでたしにはしない・・。
 松吉は和助に婚礼の許しを願うが、婚礼は天満宮への寄進が済んでからと言う・・驚く和助、善次郎の顔が想像できよう・・。
 松吉は真帆に苗村の小豆を渡し餡作りを頼む。真帆の手で晒し餡ができる。松吉は糸寒天を千切り煮溶かして晒し餡を加え、砂糖を加え、火にかけて混ぜ、冷めるまで重箱に入れて待つ。夜明けごろ、餡と寒天が見事に混ざり合った世にも美しい羊羹ができあがった・・ついに松吉は嘉平の願い=真帆との約束、半兵衛の期待に応え練り羊羹を完成させたのである。
 松吉は、和助、善次郎に寒天の可能性を広げたい一心で嘉平の言った腰の強い寒天を作りたかっただけと話し、製法を公にしたいと言い、真帆も賛同する。和助は菓子店の大店桜花堂へ向かう。練り羊羹を食べた桜花堂は目を見張る。それから3年、練り羊羹の製法を広く伝えたため井川屋は大坂中で知られ、糸寒天の注文が殺到する。
 1800年睦月、和助が天満宮に銀二貫を寄進して、松吉33歳、真帆27歳がようやく祝言を上げる。仇討ち買いから22年、銀二貫で助けられた鶴之輔は松吉として成長し、試行錯誤を重ねて糸寒天に続き練り羊羹を考案した。和助82歳は善次郎67歳に銀二貫でええ買い物をしたとつぶやき、幕となる。


 あれやこれやの出来事が、塩辛い味、甘い味、酸っぱい味で彩られ、ときには大いに喜びあい、ときには悲しみで落ち込み、嫌がらせ、脅しもあれば、助け合い、人情の厚さも描かれ、一息する間もなく次へ次へと展開していく。大坂商人和助の心意気、人情を織り込み、松吉が失敗を何度も繰り返し、最後に真帆と力を重ねて練り羊羹を完成させる展開に、いい気分で読み終えた。 
(2023.3)
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