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1989年福島県舘岩村で転出者に調査=生まれ育った家の記憶が原風景として記憶されていた

2017年02月05日 | studywork

1989「転出者の記憶にみる伝統的住居のイメージ」福島県舘岩村前沢・水引集落における事例研究 日本建築学会関東支部研究発表会 /1990.3

1 はじめに
 「三つ子の魂、百まで」の諺もあるように、生まれ育った住環境のなかで小さいころに身につけた生活の仕方や考え方は家の記憶とともに長く残り、原風景、原体験としてその後の家の作り方や住まい方に反映されると考えられる。
 とりわけ、すぐれた自然環境の中で長い年月を経て育まれてきた地域的な住文化としての伝統的な住居の作り方、住み方には先人の知恵と技術の堆積があり、子どもは両親や祖父母、近所の人々から生活の仕方や考え方を学習するとき、同時に空間と作り方の文化としての価値をも学習しよう。
 すなわち、伝統的住居の文化としての価値もその作り方や住み方とともに学習され、その後の家の作り方や住み方に反映されること、言い換えれば地域的な住文化が伝統的住居を通して発展的に継承されることが仮説される。そしてこのことは、伝統的住居の喪失が地域的な伝統と文化の解体につながることをも意味する。 
 ・・略・・ 本報告は、伝統的住居を通した住文化の発展的継承の仕組みを解明しようとする引き続きの研究の一稿であり、同前沢・水引集落の転出者が伝統的住居をどのように記憶し、評価しているかの検討により、伝統的住居がどのように学習され、転出者がどのような原風景をイメージするかを明らかにすることを目的とする。
 ・・略・・

2 家の記憶
 転出者に家がどのように記憶されているかを直接的にみる方法として、実家の間取図を描いてもらう方法がある。表現力に差異があるものの、記憶図の有効回答として12例を得た。1987年の前沢・水引集落における間取り調査で得た間取り現況図と対照できるもの10例について、現況と記憶を対照させると以下となる。(図に6例掲載)
 <MA15>土間空間の曲がり部分がザシキに向かって右側となる形式のひとつ。ザシキ庭側の板間、オメエ内の板間、シタエンとトオリマの間の板間、土間空間にある元ウマヤ・便所などの細部の表現はされていないが、ヘヤ・ザシキ・チュウモン・オメエ・シタエン・ナガシ・トオリマ(土間)の相対的な位置関係は正確である。転出者にとって、家が間取りの型として認識されていることがうかがえる。
 ・・以下略・・
 現況図に対する記憶図の傾向を整理すると、
①全体に単純な矩形平面に簡略化されるが、土間空間である曲がり部分は特徴的に認識されていること、
②方位に対する認識はなく入り口となる土間空間を下にザシキなどの床上空間を上にする表現が大半であり、設問に忖した参考図の影響も考えられるが、間取りの認識が入り口を中心としてとらえられていること、
③各部屋の大きさは正確ではないが、部屋名称の相対的な位置関係は正しく表現されており、間取りが型として認識されていること、
④各部屋内部の床仕上げによる区分(畳・板・土間)は意識されておらず、間仕切りによる単位空間が部屋として認識されていること、
⑤ウワエンまたはオメエ、およびシタエンに囲炉裏を表現する例が多く、冬期の囲炉裏が暖房、ならびに団らんの中心として位置づいていたこと、
⑥浴室・便所を表現する例が多く、生活上の重要性が認識されていること、
⑦土間空間が総じて小さく、また内部の間仕切りが表現されない例が多く、生活上の位置づけが低くとらえられていることを、特徴としてあげることができる。

 以上にみた転出者の家の記憶から、伝統的住居が曲がりをもつ特徴的な形式、相対的な位置づけをもつヘヤ・ザシキ・ウワエンまたはオメエ・シタエン・スイジバの床上空間、ウワエンまたはオメエ・シタエンの囲炉裏、浴室・便所、そして土間空間によって概念的にとらえられていることが分かる。

3 家の評価

 次に転出者が伝統的住居をどのように評価しているかを、以下の設問によって考察する。
 ・・略・・ 以上から、
①伝統的住居の特徴である茅屋根、曲屋の外観、ヘヤ・ザシキ・チュウモン・ウワエンまたはオメエ・シタエン・スイジバの間取りが転出者にとっても歴史的遺産として高く評価されていること、
②なかでもザシキ・ウワエンまたはオメエ・シタエンが家の中心的空間として位置づいていること、
③伝統を尊重しつつ発展的な改善が志向されること、
④便所・浴室・台所・収納の機能性の向上が期待されていることが得られた。


4 家のイメージ

 ・・略・・
 
住居が家族の暮しとともに家としてイメージされること、背景としての自然環境と人々の強いつながり、生活拠点としての伝統的住居がふるさととしてのイメージを形作っていることが分かる。

5 おわりに

 以上の考察を整理すると、生まれ育った家が
①伝統的な住み方を反映したヘヤ・ザシキ・チュウモン・ウワエンまたはオメエ・シタエン・スイジバの間取りの型としてとらえられていること、
②個人の生活より家族の和の空間として認識されていること、
③家の歴史的価値への評価は高く、現代的な住み方の発展に対し保全的な改善が期待されていること、
④また、自然環境を背景とした大勢の人々のつながりのなかに家が位置づいていることが得られた。
 すでに長い人で30年を経て故郷の顔ぶれも変わり、また都会の生活に慣れているにもかかわらず、家がその歴史的価値とともに鮮明に記憶され、背景としての自然環境と大勢の人々と一体的にとらえられていることは、環境として伝統的な住文化が重要であることを示唆する。

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