中田浩・柳沢・新井場が歩む新たな道
スターたちが彩った華やかな合同引退試合
元川悦子
2015年7月6日 12:05
多くの関係者が花を添える
中田浩(前列左から2人目)、柳沢(前列右)、新井場(前列左)の引退試合に三浦知(右から2人目)らそうそうたる面々が一堂に会した【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
梅雨本番を思わせる大雨にもかかわらず、カシマスタジアムに2万人超の大観衆を集めて行われた5日の中田浩二・柳沢敦・新井場徹の合同引退試合。鹿島アントラーズOBの秋田豊、名良橋晃、日本サッカー界の看板的存在の三浦知良、中山雅史らそうそうたる面々が一堂に会するとあって、会場は凄まじい熱気に包まれた。キックオフ前には、鹿島に1996年加入の柳沢・平瀬智行、池内智彦の同期3人、同98年加入の中田・小笠原満男・本山雅史・曽ヶ端準・山口武士・中村祥朗の同期6人のトークショーが実施され、現在国内でリハビリ中の内田篤人も来場するなど、多くの関係者が3人の節目に花を添えた。
試合の方は、鹿島にゆかりのある選手たちで構成される「ANTLERS LEGENDS」と、3人が日本代表や他クラブなどで関わった選手で構成される「KAY FRIENDS」が90分勝負に挑む形を取った。過去の引退試合では主役が両チームに入ってプレーするのが恒例だったが、今回は「鹿島の選手として最後まで戦いたい」という3人の希望から前者のみに参戦した。
先発メンバーは、「ANTLERS LEGENDS」がGK佐藤洋平、DF(右から)名良橋、秋田、奥野僚右、新井場、ボランチ・本田泰人、中田、右MF鬼木達、左MF増田忠俊、FW柳沢、平瀬の4−4−2。対する「KAY FRIENDS」はGK武田博行、DF(右から)田中誠、鈴木秀人、木場昌雄、右アウトサイド山田暢久、左アウトサイド波戸康弘、MF戸田和幸、名波、三浦淳寛、FW三浦知・中山という3−5−2。現役の中村俊輔や小野伸二はベンチスタートとなった。キャプテンマークはそれぞれ柳沢と三浦知がつけた。
柳沢が先制弾、新井場もドリブルで魅せる
ゴールラッシュの口火を切ったのは柳沢(赤)。先制点をマークし、相手からも祝福される【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
かつて10冠を超えるタイトルを手にした中田・柳沢、07〜09年の3連覇の原動力となった新井場らしく、勝利に強くこだわる姿勢が試合冒頭から色濃く感じられた。ゴールラッシュの幕開けとなったのは、前半17分の柳沢の先制点。左サイドを駆け上がった新井場のシュートをGK武田がはじくと、こぼれ球に鋭く反応。右足ボレーを決めたのだ。鹿島トップチームのコーチに転身して半年が経過し、運動量や動きのキレはやや鈍ったものの、ゴール前のポジショニングや動き出しの速さ、チャンスメークのうまさといった柳沢の特徴は依然として健在だった。
だが、対戦相手も負けていない。30分には三浦知が華麗な直接FK弾でスタジアムを沸かせる。「俊輔も伸二もいないうちに蹴っておこう」とリラックスして振りぬいた一撃がネットに突き刺さり、本人も苦笑い。柳沢に「決めちゃってごめんね」と土下座するパフォーマンスも見せた。「カズさんはお祭り男というか、こういう時には必ず決めてくる」と新井場も感心するばかりだった。
鹿島の2点目は前半39分にその新井場が挙げる。スタンドから「点を取ってくれ」を繰り返し煽られた男は、約80メートルの弾丸ドリブルで6人抜きから右足を一閃。スタンドの大歓声に応えた。彼は中田、小野、稲本潤一らと同じ79年生まれの黄金世代でありながら、日本代表歴はフィリップ・トルシエ時代の候補止まり。鹿島には9年間在籍し、力強くチームを支えたが、他2人に比べるとキャリア的には地味な印象があった。けれどもこの日は、持ち前の明るさと関西ノリで完全に主役として君臨していた。「こうやって自分が引退試合に呼んでもらえたことだけで幸せ。高校3年だった97年7月5日の浦和レッズ戦でプロデビューを飾り、15年7月5日に引退試合をするというのは運命的なものを感じる」と感慨深げにコメントしていた。
中田もゴールを決めて満面の笑み
PKを決めて中田もゴール。仲間たちから胴上げされ、満面の笑みを浮かべた【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
前半は「KAY FREINDS」で途中出場した福西崇史が2点目を奪って2−2で終了。後半に突入する。鹿島側に興梠慎三や田代有三ら、対戦相手側に中村や小野、中澤佑二と現役選手が次々と姿を現す中、やはり注目されたのは中田がいつ点を取るか。興梠が3点目を挙げ、3−2となった後半23分、「KAY FREINDS」の久保竜彦がPKゲット。次の瞬間、中田がとっさにユニホームを着替えて蹴りに行ったが、長年の盟友・曽ヶ端準に防がれてしまう。再び鹿島側に戻った中田にはこれ以外にも数多くのチャンスが巡ってきたが、どうしても1点を決めきれない。
スタンドからも叱咤(しった)激励の意味を込めたブーイングが何度か起きた後半39分、柳沢が半ば強引にペナルティーエリア内で倒れこみ、PKをゲットする。主審もバニシングスプレーで「KOJI」と書いて、中田のゴールを熱望した。ここまで舞台が整ったら、もう決めるしかない。背番号6をつけた男は左足を振りぬき、ようやくゴール。仲間たちから胴上げされ、満面の笑みを浮かべていた。「いろんな邪魔が入って点を取るのに時間がかかったけれど、90分間フル出場できてよかった」と本人も冗談交じりに安堵(あんど)感を吐露していた。最終的にはマルキーニョスも1点を追加し、鹿島側が5−2で圧勝。3人の引退を華々しく飾った。
地方クラブを運営する新井場
新井場は今年から出身地・枚方にホームを置く関西リーグ1部・FCティアモ枚方の代表に就任。スポンサー集めなどに取り組んでいる【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
試合後のセレモニーではそれぞれがあいさつ。まず新井場は、公私ともに親交の深かった大岩剛から「どこへ行ってもこれだけ愛されるのはイバちゃんのキャラクター。人を惹きつける魅力を持っている」と賞賛された。彼はガンバ大阪でユースを含めて10年、鹿島で9年、セレッソ大阪で2年過ごしたが、どこでも確固たる存在感を示していた。この日の凄まじいタッチライン際のアップダウンを見ても、まだ現役でやれたはずだが、本人はいち早く、次の人生をスタートさせている。
その一歩として、新井場は今年から出身地・大阪府枚方(ひらかた)市にホームを置く関西リーグ1部・FCティアモ枚方の代表に就任。スポンサー集めなどに精力的に取り組んでいる。地元の小クラブを地道に育てていくというのは、日本サッカー界への恩返しにつながるはずだ。攻撃的サイドバックとしてインパクトを残してきた男の果敢な挑戦の行方が楽しみだ。
クラブを支えつつ経営を学ぶ中田
中田浩二は将来のJリーグチェアマンを目指して、経営を学ぶという【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
中田は先輩・名良橋から「浩二には鹿島以外のユニホームは似合わないと思った。現役の選手たちも背中を見続けているから、常勝軍団復活のためにチームを引っ張ってほしい」と激励の言葉を贈られた。
彼は今年から鹿島CRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)に就任し、身近なところからクラブを支える側に回っている。同期の小笠原は「改めて浩二たちと一緒にプレーして、アントラーズは優勝しないといけないチームだと再認識した。そういう意味で今季第1ステージの結果(8位)は恥ずかしい。今のチームは彼らの全盛期のようにサッカーがまだ分かっていない」と鹿島の現状に苦言を呈していたが、苦しむ仲間たちを陰から支えるのが中田の重要な仕事である。
加えて、彼はJリーグが今季から立命館大学と共同で立ち上げた「JHC教育・研修コース」の受講生となり、将来のJリーグチェアマンを目指して、経営を学ぶという。
「ヨーロッパには(ミシェル・)プラティニや(フランツ・)ベッケンバウアーみたいに選手から経営者に転身した人もいる。自分が経験したものを現場だけでなく、事業・経営という立場から役立てていけるようにしたい」と本人も意気込みを新たにしていた。
指導者としての道を歩む柳沢
鹿島でコーチを務める柳沢。鋭い感性を持つ点取屋を育てることができるか【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
そして、柳沢は尊敬する中山から「右足、左足、ヘディング。パスも出せてドリブルもできる。全てがパーフェクトな選手だった。僕は強い刺激を受けて、常にあなたを見てきました」と最大級の賛辞を贈られた。中山は06年ドイツワールドカップ・クロアチア戦でのシュートミスにもあえて触れ「あのアウトサイド、分かります。01年イタリア戦でのアウトサイドの強烈なシュートがあったから、あそこでアウトサイドで行ったのかなと。アウトで狙うことが、ヤナギにとっては正確にゴールを捉えることになるのかと。その選択は間違っていなかった。ただ、技術が未熟だった。そう思ったからこそ、(彼は現役を)長くやれたんだと思います」とFWらしい洞察力で後輩をフォローした。
「今までは周りから気を使われている感覚だったけれど、これでまた1つステップを上がれる」と柳沢もスッキリした表情を見せたが、自身の苦い過去を指導の糧にしていくことが今の彼には重要だ。「ヤナギさんみたいに動き出しが速く、回数の多いFWは今まで見たことがない。その鋭い感覚を人に伝えるのは難しいと思うけど、頑張ってほしい」と中村もエールを送っていたが、柳沢コーチには鋭い感性を持った点取屋をぜひとも育ててほしいものだ。
三者三様の形で日本サッカー界に貢献
目指す方向は異なるものの、3人はそれぞれの形で日本サッカー界を支えていく【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
Jリーグ入りを目指す地域の小クラブ運営、Jリーグ全体の経営を考えられる人材、指導者と新井場、中田、柳沢の目指す方向はそれぞれ異なる。しかし、彼らが鹿島、そして日本サッカー界に尽力し、支え続けていく事実は変わらない。
特に小笠原が強調した通り、常勝軍団復活は彼らにとっても至上命題。今季第1ステージの結果はOB3人にとっても納得がいかないはずだ。現役の昌子源も「自分たちがしっかりやらなければいけないとこの引退試合を見て痛感させられました」と自戒の念を込めて語っていた。この1日が新世代の鹿島にとっての大きなターニングポイントになるのか否か。それを彼らも注視し続けていくに違いない。
引退試合の様子と引退後の三人の道を綴る元川女史である。
臨場感溢れる試合の経緯は悦ちゃんならではのもの。
また、三人の進路は三様であり興味深い。
鹿島にて、経営を学ぶ中田浩二、指導者への道を歩む柳沢敦に対して、新井場は地方クラブの運営に奔走しておるとのこと。
それぞれの道にて成功を収めて欲しい。
その門出として、この引退試合が成功したのは良い門出であったと思う。
サッカー界に新たな人材が誕生した。
今後が楽しみである。
スターたちが彩った華やかな合同引退試合
元川悦子
2015年7月6日 12:05
多くの関係者が花を添える
中田浩(前列左から2人目)、柳沢(前列右)、新井場(前列左)の引退試合に三浦知(右から2人目)らそうそうたる面々が一堂に会した【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
梅雨本番を思わせる大雨にもかかわらず、カシマスタジアムに2万人超の大観衆を集めて行われた5日の中田浩二・柳沢敦・新井場徹の合同引退試合。鹿島アントラーズOBの秋田豊、名良橋晃、日本サッカー界の看板的存在の三浦知良、中山雅史らそうそうたる面々が一堂に会するとあって、会場は凄まじい熱気に包まれた。キックオフ前には、鹿島に1996年加入の柳沢・平瀬智行、池内智彦の同期3人、同98年加入の中田・小笠原満男・本山雅史・曽ヶ端準・山口武士・中村祥朗の同期6人のトークショーが実施され、現在国内でリハビリ中の内田篤人も来場するなど、多くの関係者が3人の節目に花を添えた。
試合の方は、鹿島にゆかりのある選手たちで構成される「ANTLERS LEGENDS」と、3人が日本代表や他クラブなどで関わった選手で構成される「KAY FRIENDS」が90分勝負に挑む形を取った。過去の引退試合では主役が両チームに入ってプレーするのが恒例だったが、今回は「鹿島の選手として最後まで戦いたい」という3人の希望から前者のみに参戦した。
先発メンバーは、「ANTLERS LEGENDS」がGK佐藤洋平、DF(右から)名良橋、秋田、奥野僚右、新井場、ボランチ・本田泰人、中田、右MF鬼木達、左MF増田忠俊、FW柳沢、平瀬の4−4−2。対する「KAY FRIENDS」はGK武田博行、DF(右から)田中誠、鈴木秀人、木場昌雄、右アウトサイド山田暢久、左アウトサイド波戸康弘、MF戸田和幸、名波、三浦淳寛、FW三浦知・中山という3−5−2。現役の中村俊輔や小野伸二はベンチスタートとなった。キャプテンマークはそれぞれ柳沢と三浦知がつけた。
柳沢が先制弾、新井場もドリブルで魅せる
ゴールラッシュの口火を切ったのは柳沢(赤)。先制点をマークし、相手からも祝福される【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
かつて10冠を超えるタイトルを手にした中田・柳沢、07〜09年の3連覇の原動力となった新井場らしく、勝利に強くこだわる姿勢が試合冒頭から色濃く感じられた。ゴールラッシュの幕開けとなったのは、前半17分の柳沢の先制点。左サイドを駆け上がった新井場のシュートをGK武田がはじくと、こぼれ球に鋭く反応。右足ボレーを決めたのだ。鹿島トップチームのコーチに転身して半年が経過し、運動量や動きのキレはやや鈍ったものの、ゴール前のポジショニングや動き出しの速さ、チャンスメークのうまさといった柳沢の特徴は依然として健在だった。
だが、対戦相手も負けていない。30分には三浦知が華麗な直接FK弾でスタジアムを沸かせる。「俊輔も伸二もいないうちに蹴っておこう」とリラックスして振りぬいた一撃がネットに突き刺さり、本人も苦笑い。柳沢に「決めちゃってごめんね」と土下座するパフォーマンスも見せた。「カズさんはお祭り男というか、こういう時には必ず決めてくる」と新井場も感心するばかりだった。
鹿島の2点目は前半39分にその新井場が挙げる。スタンドから「点を取ってくれ」を繰り返し煽られた男は、約80メートルの弾丸ドリブルで6人抜きから右足を一閃。スタンドの大歓声に応えた。彼は中田、小野、稲本潤一らと同じ79年生まれの黄金世代でありながら、日本代表歴はフィリップ・トルシエ時代の候補止まり。鹿島には9年間在籍し、力強くチームを支えたが、他2人に比べるとキャリア的には地味な印象があった。けれどもこの日は、持ち前の明るさと関西ノリで完全に主役として君臨していた。「こうやって自分が引退試合に呼んでもらえたことだけで幸せ。高校3年だった97年7月5日の浦和レッズ戦でプロデビューを飾り、15年7月5日に引退試合をするというのは運命的なものを感じる」と感慨深げにコメントしていた。
中田もゴールを決めて満面の笑み
PKを決めて中田もゴール。仲間たちから胴上げされ、満面の笑みを浮かべた【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
前半は「KAY FREINDS」で途中出場した福西崇史が2点目を奪って2−2で終了。後半に突入する。鹿島側に興梠慎三や田代有三ら、対戦相手側に中村や小野、中澤佑二と現役選手が次々と姿を現す中、やはり注目されたのは中田がいつ点を取るか。興梠が3点目を挙げ、3−2となった後半23分、「KAY FREINDS」の久保竜彦がPKゲット。次の瞬間、中田がとっさにユニホームを着替えて蹴りに行ったが、長年の盟友・曽ヶ端準に防がれてしまう。再び鹿島側に戻った中田にはこれ以外にも数多くのチャンスが巡ってきたが、どうしても1点を決めきれない。
スタンドからも叱咤(しった)激励の意味を込めたブーイングが何度か起きた後半39分、柳沢が半ば強引にペナルティーエリア内で倒れこみ、PKをゲットする。主審もバニシングスプレーで「KOJI」と書いて、中田のゴールを熱望した。ここまで舞台が整ったら、もう決めるしかない。背番号6をつけた男は左足を振りぬき、ようやくゴール。仲間たちから胴上げされ、満面の笑みを浮かべていた。「いろんな邪魔が入って点を取るのに時間がかかったけれど、90分間フル出場できてよかった」と本人も冗談交じりに安堵(あんど)感を吐露していた。最終的にはマルキーニョスも1点を追加し、鹿島側が5−2で圧勝。3人の引退を華々しく飾った。
地方クラブを運営する新井場
新井場は今年から出身地・枚方にホームを置く関西リーグ1部・FCティアモ枚方の代表に就任。スポンサー集めなどに取り組んでいる【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
試合後のセレモニーではそれぞれがあいさつ。まず新井場は、公私ともに親交の深かった大岩剛から「どこへ行ってもこれだけ愛されるのはイバちゃんのキャラクター。人を惹きつける魅力を持っている」と賞賛された。彼はガンバ大阪でユースを含めて10年、鹿島で9年、セレッソ大阪で2年過ごしたが、どこでも確固たる存在感を示していた。この日の凄まじいタッチライン際のアップダウンを見ても、まだ現役でやれたはずだが、本人はいち早く、次の人生をスタートさせている。
その一歩として、新井場は今年から出身地・大阪府枚方(ひらかた)市にホームを置く関西リーグ1部・FCティアモ枚方の代表に就任。スポンサー集めなどに精力的に取り組んでいる。地元の小クラブを地道に育てていくというのは、日本サッカー界への恩返しにつながるはずだ。攻撃的サイドバックとしてインパクトを残してきた男の果敢な挑戦の行方が楽しみだ。
クラブを支えつつ経営を学ぶ中田
中田浩二は将来のJリーグチェアマンを目指して、経営を学ぶという【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
中田は先輩・名良橋から「浩二には鹿島以外のユニホームは似合わないと思った。現役の選手たちも背中を見続けているから、常勝軍団復活のためにチームを引っ張ってほしい」と激励の言葉を贈られた。
彼は今年から鹿島CRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)に就任し、身近なところからクラブを支える側に回っている。同期の小笠原は「改めて浩二たちと一緒にプレーして、アントラーズは優勝しないといけないチームだと再認識した。そういう意味で今季第1ステージの結果(8位)は恥ずかしい。今のチームは彼らの全盛期のようにサッカーがまだ分かっていない」と鹿島の現状に苦言を呈していたが、苦しむ仲間たちを陰から支えるのが中田の重要な仕事である。
加えて、彼はJリーグが今季から立命館大学と共同で立ち上げた「JHC教育・研修コース」の受講生となり、将来のJリーグチェアマンを目指して、経営を学ぶという。
「ヨーロッパには(ミシェル・)プラティニや(フランツ・)ベッケンバウアーみたいに選手から経営者に転身した人もいる。自分が経験したものを現場だけでなく、事業・経営という立場から役立てていけるようにしたい」と本人も意気込みを新たにしていた。
指導者としての道を歩む柳沢
鹿島でコーチを務める柳沢。鋭い感性を持つ点取屋を育てることができるか【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
そして、柳沢は尊敬する中山から「右足、左足、ヘディング。パスも出せてドリブルもできる。全てがパーフェクトな選手だった。僕は強い刺激を受けて、常にあなたを見てきました」と最大級の賛辞を贈られた。中山は06年ドイツワールドカップ・クロアチア戦でのシュートミスにもあえて触れ「あのアウトサイド、分かります。01年イタリア戦でのアウトサイドの強烈なシュートがあったから、あそこでアウトサイドで行ったのかなと。アウトで狙うことが、ヤナギにとっては正確にゴールを捉えることになるのかと。その選択は間違っていなかった。ただ、技術が未熟だった。そう思ったからこそ、(彼は現役を)長くやれたんだと思います」とFWらしい洞察力で後輩をフォローした。
「今までは周りから気を使われている感覚だったけれど、これでまた1つステップを上がれる」と柳沢もスッキリした表情を見せたが、自身の苦い過去を指導の糧にしていくことが今の彼には重要だ。「ヤナギさんみたいに動き出しが速く、回数の多いFWは今まで見たことがない。その鋭い感覚を人に伝えるのは難しいと思うけど、頑張ってほしい」と中村もエールを送っていたが、柳沢コーチには鋭い感性を持った点取屋をぜひとも育ててほしいものだ。
三者三様の形で日本サッカー界に貢献
目指す方向は異なるものの、3人はそれぞれの形で日本サッカー界を支えていく【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
Jリーグ入りを目指す地域の小クラブ運営、Jリーグ全体の経営を考えられる人材、指導者と新井場、中田、柳沢の目指す方向はそれぞれ異なる。しかし、彼らが鹿島、そして日本サッカー界に尽力し、支え続けていく事実は変わらない。
特に小笠原が強調した通り、常勝軍団復活は彼らにとっても至上命題。今季第1ステージの結果はOB3人にとっても納得がいかないはずだ。現役の昌子源も「自分たちがしっかりやらなければいけないとこの引退試合を見て痛感させられました」と自戒の念を込めて語っていた。この1日が新世代の鹿島にとっての大きなターニングポイントになるのか否か。それを彼らも注視し続けていくに違いない。
引退試合の様子と引退後の三人の道を綴る元川女史である。
臨場感溢れる試合の経緯は悦ちゃんならではのもの。
また、三人の進路は三様であり興味深い。
鹿島にて、経営を学ぶ中田浩二、指導者への道を歩む柳沢敦に対して、新井場は地方クラブの運営に奔走しておるとのこと。
それぞれの道にて成功を収めて欲しい。
その門出として、この引退試合が成功したのは良い門出であったと思う。
サッカー界に新たな人材が誕生した。
今後が楽しみである。