もう観たのは、一か月ほど前のことだ。
観た直後、疑問が湧いたのだ。
なぜ、今、この物語なんだ?
舞台は開拓時代の北海道、
人食い熊が現れ村人を食い殺し、
その熊を退治するためにマタギが雇われて・・・。
ひどく大雑把にいうと、そんな物語だ。
なぜ、今、そんな特殊な設定の新作をやるのか。
それがずっと引っかかっていた。
先日、出演者だった友人に話を聞いて、疑問が解けた。
根底にあったのは、昨年の東日本大震災だった。
ちょうど公演中に、彼らは大地震に襲われた。
おかげで1ステージ休演という事態になってしまった。
さらに計画停電のため、いつ舞台が休演になるかわからない、
そんな状況を強いられたという。
この異常事態を経験して、
作家は自然の脅威あるいは自然に対する無力さを描きたい、
そう思ったのだそうだ。
しかし、震災をそのまま描きたくはない。
そこであの物語だ。
人間の手には負えない自然が、
人食い熊に象徴されたのだろう。
ちなみに人食い熊の話は、
実際にあった話だそうだ。
その事実を元に物語を作り上げた。
当日配られた、ごあいさつの類にもそんなことは書いてなかった。
(僕が見落としただけかもしれないが)
あえて書かないのが彼らの美学か。
物語を紡ぐ人間は、
自分が受けた衝撃をストレートに物語にするのではなく、
その要素を抽出し、別の形で描くことの妙を、
今回、作劇の背景を聞き、あらためて芝居の内容を思い出し、
しみじみ痛感した。