そうすけは競争社会に負けたから中流から下流に堕ちるのではない。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるのだ。
だがそうすけは永遠に堕ちることはないだろう。なぜなら、そうすけの心は可憐であり脆弱である。それは愚か者であるが堕ちぬくには弱すぎる。
そうすけは結局は、処女を刺殺せず、自殺せず、スポーツに道を求め、権力を担ぎ出そうとする。だが空虚な自分を殺し、内なる自分を求め、自分自身の力を信じるためには、そうすけは正しく堕ちきることが必要なのだ。
堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し救い出さねばならない。
政治による救いなどは上面だけの愚にもつかないものである。
坂口安吾「堕落論」より