ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

2021-12-09 13:15:33 | オペラ
11月24日新国立劇場オペラハウスで、ワーグナー作曲のオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を見た(指揮:大野和士、オケ:都響、演出:イエンス=
ダニエル・ヘルツォーク)。



独語上演、日本語と英語の字幕付き。
ワーグナーの作品では唯一の喜劇。神話や伝説から離れ、中世ニュルンベルクの市民を主役にしている。マイスタージンガーとは職人の親方であると共に
歌の作法にも通じている者のこと。ザックスは実在の人物(音楽の友社「名曲ガイドシリーズ「歌劇」より)。
評者にとって今年最大のイベント。5時間半のオペラ(この日は結局5時間50分かかった)。第1幕への前奏曲は有名だが全曲上演は珍しいそうで、
生で聴いたのは人生初!

騎士ヴァルターは金細工師の親方ボーグナーの娘エーファに一目惚れする。ヴァルターは、エーファが翌日の歌合戦で勝利者の花嫁となることを知り、自分も
参加しようとするが、歌合戦の資格試験に落第する。靴屋の親方ザックスだけは彼の歌の自由な精神と才能を認める。やもめのザックスも密かにエーファに想いを
寄せていたが、若い二人のために身を引く決心をする。ザックスの教えによって、ヴァルターはライバルのベックメッサ―を退け見事歌合戦で優勝する。一同は
ザックスを讃える(チラシより)。

<第1幕>舞台上で合唱する女性たち。終わると我々観客に背を向けて聴いていた人々(現代の服装の男女)が立ち上がって拍手。枠構造のようだ。
ヴァルターやエーファが出て来て物語が始まっても黒服のスタッフたちが動き回っていて、やや煩わしい。
ヴァルターに話しかけられ、エーファも彼に好意を抱く。
ドイツの徒弟制度は歌のマイスターでも同様で、マイスターになるには一人の師について何年もかかる由。誰に習ったか、どの学校で勉強したかが重要。
また歌と詩(詞)にはたくさんの規則があり、それらをすべてクリアしなければ試験に合格できない。試験では7つ以上ミスをしたら不合格。
審査員で記録係のベックメッサーは、エーファとの結婚を目論んでおり(つまり恋敵)、ヴァルターがミスするたびにボードに✖をつけてゆく。
ヴァルターは誰にも習ったことがなく、規則も知らなかったため、試験に落ちてしまう。
字幕が日本語と英語なので、つい両方を見比べてしまう。日本語の方は、時々非常に親切。

<第2幕>靴屋ザックスの仕事場にエーファがやって来る。彼女はザックスに、ヴァルターがマイスターになれる可能性を聞くが、見込みはないと言われ、
ヴァルターと駆け落ちしようとする。だが二人は、なぜかその後も二階にいて下の人々を見たり、そこにあるいろんな道具を触ったりしている。
この辺の演出の意図が分からない。

<第3幕>この3幕への前奏曲が素晴らしい。ワーグナーはこの曲を、独立して演奏できるように書き直すことをしなかったため、第1幕への前奏曲のように
演奏会でたびたび演奏されるということがないという。だから、こんなにいい曲なのに、めったに聴くことができないわけだ。実に惜しい。

歌合戦の当日、ヴァルターはザックスに教えられて自分の歌をマイスタージンガーの様式で完成させる。ザックスは若い二人が似合いのカップルであることを
認め、エーファを諦める。歌合戦が始まり、ベックメッサーが歌うが散々な失敗に終わる。次にザックスによって紹介されたヴァルターが歌い、一同を魅了する。
ヴァルターは優勝とエーファを勝ち取る。
驚いたのはザックスが若いエーファに向かって想いをぶちまけるシーン。本棚の本を床に次々と投げてうっぷんを晴らし、「男日照りの娘が『結婚して』などと
私をからかう・・」とまで言う。ここの訳はいささか踏み込み過ぎなのかも知れない(原文を知らないのでわかりません)。
だが、しまいには「私は『トリスタンとイゾルデ』のマルケ王のような幸福は望まない」と言う。その時流れるのは、もちろん『トリスタン・・・』の曲!
ザックス役のT.J. マイヤーが素晴らしい。
敵役ベックメッサーも面白い。うまく造形された敵役は、小説にしろオペラにしろ話を先に運んでいくために必要不可欠な存在だが、このオペラにとっても
同様だ。コミカルに演じるA・エレートがまたうまい。当たり役として世界中からオファーが絶えないのもうなずける。
他にダーヴィット役の伊藤達人も声がいい。

今回の公演は、8月に東京文化会館で上演されるはずだったものと同じプロダクションで、評者は元々そちらに行くはずだったが、コロナ禍のため中止となったのだった。
その時のチラシがこれ。


今回、日本語の字幕の情報量が、なぜか英語のより圧倒的に多い!実に親切に、分かりやすいように補って訳してくれている。たぶん別のソースから訳しているのだろう。
特にラストでドイツ、ドイツといちいち国名を挙げて強調するのが引っかかったが(英語の方にはない)、ヒトラーがこの曲を大好きだったことと関係があるのだろう。
演出家は今回のラストで思い切ったことをするために、わざとこういう訳を使ったのだろうか。
ラストで恋人たちは、結婚の条件であるはずのマイスター制度を否定するかのように、親方の肖像を破って出ていく。つまり、まるで駆け落ちなのだ。
伝統を全否定する必要があるのかと戸惑ったが、この幕切れはナチスとの関わりが問題視されてきたという。それを聞いてなるほどと思った。

2幕までは意外と地味で驚いたが、3幕がよかった。前奏曲も素晴らしいし、その後の音楽も心に沁みる。白眉はもちろん、ヴァルターが歌合戦で披露する
「朝は薔薇色に輝いて・・・」という歌。

かつてアマチュアオケでヴィオラを弾いていた頃、この曲の前奏曲を弾いたことがある。ラスト近くでヴィオラパートにメチャ難しい箇所があった。16分音符で
速くて、しかもきらめく管楽器の陰に隠れて客席からはほとんど聞こえない、という代物。汗をかきつつ練習した日々を懐かしく思い出した。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「叔母との旅」 | トップ | 「鷗外の怪談」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

オペラ」カテゴリの最新記事