2月13日俳優座スタジオで、ガストン・サルヴァトーレ作「スターリン」を見た(演出:落合真奈美)。
一つの戯曲を3人の演出家が、それぞれ違う役者たちと上演するという変わった試み。
しかも今回、出演者の数も3人、7人、5人と、それぞれ違う!
その中の、7人のヴァージョンを見た。
1952年末から1953年初頭。
モスクワから32キロ離れた独裁者の別荘。
別荘は24時間1200人が警備にあたっている。
齢70を越える老スターリンはいまだ意気軒昂。権力の妄執に囚われている。
折しもモスクワで老ユダヤ人役者サーゲリがリア王を演じている。
リア王で自分を揶揄していると勘ぐったスターリンはサーゲリを別荘に呼びつける。
片やリア王を演じてサーゲリの真意を突き止めようとするスターリン。
片や道化となって逆にスターリンの虚像と実像を暴くサーゲリ。
独裁国家だったチリからドイツに亡命した作者が、独裁者とはなにかを問う渾身の劇が始まる(チラシより)。
開演前に用語解説の資料が配られた。まるで劇団チョコレートケーキ(笑)
スターリンというのが実は「鋼鉄の人」という意味の異名で、本名はヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・ジュガシヴィリだというのでびっくり。
予備知識を頭に入れて、いざ観劇。
<1幕>
舞台には、黒っぽい硬い枠が高くそびえて斜めに並んでいる。
その奥に大きなひじ掛け椅子、その後ろには黒電話の載った机、その背後にさらに暖炉らしきもの。
下にチロチロ燃える火が見える。
「にがい道化」と、いきなりシェイクスピアの引用から始まる。
ユダヤ人の老俳優(巻島泰一)と独裁者スターリン(島英臣)が、「リア王」の中のセリフを次々と口にする。
この劇中劇のセリフが古めかしくて独特。私の知っている誰の訳とも違う。
たぶん今回の翻訳・ドラマトゥルク担当の酒寄進一氏がドイツ語の原作を訳したものだろう。
スターリン「リア王は政治劇だ」「シェイクスピアはリアの過去を書いていない。リアは権力を手にするために何をしてきたか。
きっと・・・。グロスター家の話はリアのかつての姿だ」
サーゲリ「ではリアは(二人の兄弟の)どっちでしょう・・・エドマンドですね」
このように、スターリンは「リア王」の内容を熟知しており、彼の「リア王」論はちょっと変わっているが、なかなか興味深い。
夜中なのに、上で金づちの音がする。
スターリンは夜眠れず、「起きているのが自分だけでないと思いたいがために」こんな時間に改築の仕事をさせているのだった。
サーゲリの一人息子ユーリも劇団関係の仕事をしていて、一時逮捕されたが、釈放されたという。
スターリンには息子が2人と娘が1人いる。長男はドイツの強制収容所で死んだ。
サーゲリとスターリンには共通点が多い。
二人共、貧しい家に生まれ、神学校に入ったが途中で辞めた。
だがサーゲリはユダヤ人。そこが大きな違いだ。
彼はユダヤ人仲間の俳優が暗殺されたと聞いて驚く。
実は彼は、学校時代、迫害を恐れてキリスト教に改宗していた。
だがユダヤ教徒でなくなっても、ユダヤ人であることに変わりはない。
<2幕>
スターリンは疑心に駆られ、政敵ばかりか側近も次々と粛清して来た。
そのため晩年は怯える日々。眠れぬ夜が続く。
彼はソビエト国内の全ユダヤ人をロシア極東へ強制移住ないし虐殺する準備を始める。
暗転の後、サーゲリは縦縞の囚人服を着て手錠をかけられている。
スターリンが彼の姿を見て驚き、けしからん、と言って手錠の鍵を取って来ようとするが見つからず、済まない、と謝る。
「今世間で流行っているジョークを言ってくれ。私を一回笑わせるごとに、ユダヤ人を一人許すことにする」
こうしてサーゲリは懸命にジョークを言い、4回くらいうまくいくが、最後のジョークは笑えなかった。
それは「私についてのジョークを言ってくれ」とスターリンが言い出したからだ・・・。
スターリンは薄い笑みを浮かべて言う。
「君に悲しい知らせがある。君の息子は・・の監獄に移され、〇〇日、心不全で死んだ」
サーゲリ「噓だ!嘘だと言ってくれ!」
彼はショックのあまりよろめく。
そして「リア王」の最後のセリフを言い始める。
「・・・鏡をくれ。
息でおもてが曇るかかすむかすれば
ああ、そうなら、生きている。・・
羽根が震えた。生きている!もしそうなら、
今日までなめてきた辛い思いの数々が
すべて一度に償われる。・・・
可哀想に、俺の阿呆が絞め殺された!もう、もう、命は
ない!
犬にも、馬にも、ネズミにも命がある。それなのに
なぜお前は息をしない?、もう戻っては来ない、
二度と、二度と、二度と、二度と、二度と!
・・頼む、このボタンをはずしてくれ。ありがとう。
これが見えるか?見ろ、この顔、見ろ、この唇、・・・」(ここは正確ではなく、松岡訳からの引用)
こうして彼は倒れる。幕。
いやあ驚きました。
途中までは面白かったのに、最後がいけない。
天才・沙翁の創作した、胸が締めつけられるようなセリフを使えば、観客の心をつかみ、泣かせることができると思ったのか。
これってまさに、「人のふんどしで相撲を取る」ってことじゃないですか!?
実にけしからん。
ずるいし、あまりにも虫が良すぎる。
役者では、何と言ってもスターリン役の島英臣の張りのある声が素晴らしい。
演出については、後ろにうごめく何人もの人たちは、むしろ邪魔だった。
一つの戯曲を3人の演出家が、それぞれ違う役者たちと上演するという変わった試み。
しかも今回、出演者の数も3人、7人、5人と、それぞれ違う!
その中の、7人のヴァージョンを見た。
1952年末から1953年初頭。
モスクワから32キロ離れた独裁者の別荘。
別荘は24時間1200人が警備にあたっている。
齢70を越える老スターリンはいまだ意気軒昂。権力の妄執に囚われている。
折しもモスクワで老ユダヤ人役者サーゲリがリア王を演じている。
リア王で自分を揶揄していると勘ぐったスターリンはサーゲリを別荘に呼びつける。
片やリア王を演じてサーゲリの真意を突き止めようとするスターリン。
片や道化となって逆にスターリンの虚像と実像を暴くサーゲリ。
独裁国家だったチリからドイツに亡命した作者が、独裁者とはなにかを問う渾身の劇が始まる(チラシより)。
開演前に用語解説の資料が配られた。まるで劇団チョコレートケーキ(笑)
スターリンというのが実は「鋼鉄の人」という意味の異名で、本名はヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・ジュガシヴィリだというのでびっくり。
予備知識を頭に入れて、いざ観劇。
<1幕>
舞台には、黒っぽい硬い枠が高くそびえて斜めに並んでいる。
その奥に大きなひじ掛け椅子、その後ろには黒電話の載った机、その背後にさらに暖炉らしきもの。
下にチロチロ燃える火が見える。
「にがい道化」と、いきなりシェイクスピアの引用から始まる。
ユダヤ人の老俳優(巻島泰一)と独裁者スターリン(島英臣)が、「リア王」の中のセリフを次々と口にする。
この劇中劇のセリフが古めかしくて独特。私の知っている誰の訳とも違う。
たぶん今回の翻訳・ドラマトゥルク担当の酒寄進一氏がドイツ語の原作を訳したものだろう。
スターリン「リア王は政治劇だ」「シェイクスピアはリアの過去を書いていない。リアは権力を手にするために何をしてきたか。
きっと・・・。グロスター家の話はリアのかつての姿だ」
サーゲリ「ではリアは(二人の兄弟の)どっちでしょう・・・エドマンドですね」
このように、スターリンは「リア王」の内容を熟知しており、彼の「リア王」論はちょっと変わっているが、なかなか興味深い。
夜中なのに、上で金づちの音がする。
スターリンは夜眠れず、「起きているのが自分だけでないと思いたいがために」こんな時間に改築の仕事をさせているのだった。
サーゲリの一人息子ユーリも劇団関係の仕事をしていて、一時逮捕されたが、釈放されたという。
スターリンには息子が2人と娘が1人いる。長男はドイツの強制収容所で死んだ。
サーゲリとスターリンには共通点が多い。
二人共、貧しい家に生まれ、神学校に入ったが途中で辞めた。
だがサーゲリはユダヤ人。そこが大きな違いだ。
彼はユダヤ人仲間の俳優が暗殺されたと聞いて驚く。
実は彼は、学校時代、迫害を恐れてキリスト教に改宗していた。
だがユダヤ教徒でなくなっても、ユダヤ人であることに変わりはない。
<2幕>
スターリンは疑心に駆られ、政敵ばかりか側近も次々と粛清して来た。
そのため晩年は怯える日々。眠れぬ夜が続く。
彼はソビエト国内の全ユダヤ人をロシア極東へ強制移住ないし虐殺する準備を始める。
暗転の後、サーゲリは縦縞の囚人服を着て手錠をかけられている。
スターリンが彼の姿を見て驚き、けしからん、と言って手錠の鍵を取って来ようとするが見つからず、済まない、と謝る。
「今世間で流行っているジョークを言ってくれ。私を一回笑わせるごとに、ユダヤ人を一人許すことにする」
こうしてサーゲリは懸命にジョークを言い、4回くらいうまくいくが、最後のジョークは笑えなかった。
それは「私についてのジョークを言ってくれ」とスターリンが言い出したからだ・・・。
スターリンは薄い笑みを浮かべて言う。
「君に悲しい知らせがある。君の息子は・・の監獄に移され、〇〇日、心不全で死んだ」
サーゲリ「噓だ!嘘だと言ってくれ!」
彼はショックのあまりよろめく。
そして「リア王」の最後のセリフを言い始める。
「・・・鏡をくれ。
息でおもてが曇るかかすむかすれば
ああ、そうなら、生きている。・・
羽根が震えた。生きている!もしそうなら、
今日までなめてきた辛い思いの数々が
すべて一度に償われる。・・・
可哀想に、俺の阿呆が絞め殺された!もう、もう、命は
ない!
犬にも、馬にも、ネズミにも命がある。それなのに
なぜお前は息をしない?、もう戻っては来ない、
二度と、二度と、二度と、二度と、二度と!
・・頼む、このボタンをはずしてくれ。ありがとう。
これが見えるか?見ろ、この顔、見ろ、この唇、・・・」(ここは正確ではなく、松岡訳からの引用)
こうして彼は倒れる。幕。
いやあ驚きました。
途中までは面白かったのに、最後がいけない。
天才・沙翁の創作した、胸が締めつけられるようなセリフを使えば、観客の心をつかみ、泣かせることができると思ったのか。
これってまさに、「人のふんどしで相撲を取る」ってことじゃないですか!?
実にけしからん。
ずるいし、あまりにも虫が良すぎる。
役者では、何と言ってもスターリン役の島英臣の張りのある声が素晴らしい。
演出については、後ろにうごめく何人もの人たちは、むしろ邪魔だった。
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